クリニックを医療法人化するためには、複雑な手続きが必要です。
長期間を要する作業であり、費用もかかります。
医療法人化を考えている方は、必要な情報をいち早く入手してスムーズに準備を進めましょう。
この記事では、クリニックを医療法人化するための手続きを分かりやすく解説します。
医療法人化後に必要な手続きについては、下記の記事で詳しく解説しています。こちらも是非ご覧ください。
CONTENTS
医療法人化に必要な要件
個人経営のクリニックを医療法人化するには、必要な要件をクリアしなければなりません。
医療法人化の具体的な手続きを行う前に、要件を満たしているか確認しましょう。
人的要件
医療法人には、原則下記の人員の設置が定められています。
・理事(3名以上)
・監事(1人以上)
・社員(3名以上)
原則、医療法人には役員として、理事3人以上及び監事1人以上を置く必要があります。
e-Govポータル「医療法第46条の5第1項」
それぞれの役割は下記の通りです。
理事: 理事会にて意思決定する権限があり、事実上の職務執行淵源を持つ
監事: 医療法人の業務監査等を行う
社員: 社員総会において重要事項を決議する権限を持つ
人的資産の要件は、永続性と非営利性を実現する趣旨で設けられています。
資産要件
医療法人を設立するためには、業務に必要な資産を有する必要があります。
医療法人の業務を行うに必要な資産を有すること
e-Govポータル「医療法第41条第1項」
主な財産は、下記の2種類に分類できます。
・基本財産
・普通財産
基本財産とは、不動産や運営基金等の重要な財産です。
普通財産とは、基本財産以外の資産を指します。
基本財産にあたる医療法人の施設は、法人所有または一定の条件をクリアする賃貸借であれば、医療法人の設立要件を満たします。
同じく基本財産である運転資金は、初年度の年間支出予算2か月分相当に見合う資産を用意しなければなりません。
医療報酬を請求し実際に支払われるまでに、2か月ほどの期間を要するためです。
これら基本財産と、その他の医療法人業務に必要なすべての資産(普通財産)を拠出し有することが、医療法人化の要件です。
その他要件
クリニックの医療法人化には人的要件、資産要件の他にも下記の要件を満たす必要があります。
・土地建物の賃貸借契約や、リース契約を法人に引き継ぐ
・定款または寄附行為を作成すること
・都道府県知事の認可を受けること
・設立登記を行うこと
医療法人化に必要な手続き
必要書類の準備
まず、必要な書類を収集します。
必要書類には、クリニック開業時にすでに作成済みのものと、医療法人化にあたり新しく必要なものがあるため注意が必要です。
クリニック開業時に作成済みのもの
医療法人化に必要であり、クリニック開業時に作成済みのものとして、以下の書類が挙げられます。
- ・医療法人の役員・社員になる人の印鑑証明書および履歴書
- ・医師免許証の写し
- ・クリニックの開業時に作成・提出した開設届
- ・クリニックの図面等
- ・リース関係の契約書
- ・不動産物件の謄本や賃貸借契約書
- ・借入がある場合、借入の契約書や返済予定表
- ・工事請負契約書や領収書等、負債の根拠となる書類
また、クリニックの開業時に作成する書類ではありませんが、現行クリニックに関係する以下の書類も必要です。
- ・過去2年間の収支実績表
- ・確定申告書
医療法人化にあたり新しく必要なもの
医療法人化にあたり、以下の書類を作成する必要があります。
- ・医療法人設立の認可申請書
- ・医療法人の定款
- ・法人設立者の経歴書
医療法人の場合、現クリニックの院長が該当します - ・役員の就任承諾書
- ・2~3年の事業計画書
- ・医療法人設立総会の議事録
- ・財産目録および予算書
- ・社員および役員の名簿
- ・負債及びリース引継ぎ承認書
現行クリニックの負債やリースを医療法人が引き継ぐことについて、債権者・契約の相手方が承認していることを示す書類です。
現行クリニックや設立する医療法人によって別の書類が必要になるケースもあるため、事前にご確認ください。
必要書類の作成
次に、用意した必要書類を作成します。
中でも最も補正の多い書類は「負債及びリース引継ぎ承認書」です。
個人事業の時期からきちんと領収書等の書類を保管しておかなければ、負債の引継ぎが難しくなります。
クリニックから医療法人化を考えている方は、個人事業のうちから準備しておくことがあるため、情報収集は絶えず行いましょう。
設立総会の開催
続いて、設立総会の開催です。
設立総会は、実務上、総会議事録を作成すれば済みます。
ただ、社員や役員が集まって設立議事録内容を確認しておくと、今後のスケジュール調整がスムーズに進みます。
時間がない方や必要性が感じられない方は、議事録作成で問題ありません。
医療法人の申請
続いて、医療法人の申請を行います。
最初に仮申請を行い、各都道府県の事前協議によって内容が完成した後で本申請に入るのが一般的な流れです。
仮申請しなければ、本申請もできないため、必ず仮申請を行うようにしてください。
仮申請時には必要書類一式が必要です。
また、都道府県との事前協議で修正が完了し、本申請を行う際は、様々な関係者から捺印してもらう必要があります。
提出には期限があるため、書類の準備や、関係者とのスケジュール調整は漏れなく対応しましょう。
医療法人の認可
必要書類が本申請で受付されると、医療審議会から調査審議を受けます。
この審議の結果「認可に特に問題なし」と判断されれば、医療法人設立認可許可書が送付されます。
医療法人の登記
医療法人の認可がおりただけでは、医療法人は設立されません。
設立認可後に、設立登記が必要です。
また、正式に医療法人として登記された後で登記事項に変更がある場合は変更登記が必要です。
その他手続き
登記すれば医療法人は設立されますが、その後も様々な手続きが必要です。
具体的には下記の通りです。
・医療法人としての開設届と個人クリニックの廃止届
・金融機関の法人口座開設
・構成局へ保険医療機関指定申請
・各自治体と結んでいた公費負担医療に関する契約を再契約
・税務署へ必要書類の提出
クリニックとは違い、法人化することで契約や税金の内容も変わります。
自治体ごとに必要な書類と期日を調べて、漏れなく提出しましょう。
医療法人化のスケジュール
医療法人の設立は、着手してから認可がおりるまで約6か月かかります。
その上、法人登記や社会保険手続き等、認可がおりた後で必要な手続きも多数あります。
医療法人設立の着手から運営のために必要な手続きのすべてが完了するまでには、10ヶ月程度かかるケースも珍しくありません。
長期的な計画が必要なため、事前にスケジュール感を想定しておきましょう。
医療法人の申請はいつでも出来るわけではなく、各都道府県によってスケジュールが設定されています。
都道府県ごとに違いはありますが、ほとんどの場合年二回のサイクルで、医療法人化の手続きが可能です。
例えば令和4年度の東京都の場合は、下記のようにスケジュールが設定されています。
出所:(令和4年度)東京都福祉保健局より BIZARQ会計事務所作成
申請書は丁寧に作成することが重要ですが、スケジュール感も把握しながら進めることが必須です。
万が一スケジュールを誤ってしまった場合、半年ほど計画が先送りになることもあります。
都道府県によっては説明会を設けているところもあるため、積極的に活用しましょう。
医療法人化にかかる費用
医療法人を設立するためには、一定の費用がかかります。
作成書類が多く、煩雑な作業もあるため、ほとんどの場合はプロの税理士や司法書士等に任せることになるでしょう。
依頼先や事業の規模によってかかる費用も変わりますが、ここでは目安を紹介します。
医療法人設立認可申請: 600,000円~
医療法人の登記完了届: 85,000円~
保健所へ開設手続き関係: 200,000円~
厚生局へ保険医療機関関係書類提出の手続き: 100,000円~
この他に、印紙代や交通費、通信費、従業員の社会保険手続き等も発生します。
一括で対応依頼する場合、700,000円~1,000,000円が相場です。
まとめ
このように、クリニックの医療法人化するためには非常に難しい手続きが必要です。
ご自身ですべて行うことが難しい場合は、プロへ相談することをお勧めします。
ご自身の環境や、予算、スケジュールを適切に見積り、医療法人化を成功させましょう。
医療法人やクリニックの税務相談・節税対策は
BIZARQにお任せください。
全国オンライン対応・ご相談は無料です。
医療法人やクリニックの
税務相談・節税対策は
BIZARQにお任せください。
全国オンライン対応・
ご相談は無料です。
記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士