医療法人の経費には何が含まれる?個人事業主との違いも解説

2022.11.22

医療機関の経営者が適正な経営を続けるうえで、「経費」は避けて通れないテーマです。

一般的に、計上できる経費が多いほど税制面でのメリットは大きくなります。

本記事では、医療法人における経費の扱いにについて解説します。

医療法人の経営者だけでなく、個人事業主(開業医)で法人成りを考えている方も是非参考にしてください。

 

経費の基礎知識と節税対策については、下記の記事で詳しく解説しています。こちらもぜひご覧ください。

 

CONTENTS

そもそも経費とは?​

経費とは、「経常費用」の略語です。

経常費用とは、「企業が事業を行うのに使用するお金」のことを指します。

例えば、医師が医薬品を用いて治療を行う場合、医薬品にかかるお金が経常費用(以下「経費」)となります。

製造業なら、生産に必要な機械や装置・水道光熱費などが経費にあたります。

「企業が売上を得るために出費するお金=経費」とイメージすれば分かりやすいでしょう。

費用のうち経費になるのかどうかを判断するには、「その費用が事業に関係していることを客観的に証明できるか」が大きなポイントになります。

事業と関係のない費用は原則的に算入できません。

経費は節税対策において非常に重要な要素です。

税金は売上全体にかかるわけではなく、経費を含む諸々の金額を引いた金額にかかります。

つまり、経費が大きいほど税負担は減ることになります。

医療法人の経費はどこまで含まれる?​

続いては、医療法人において経費になる項目、ならない項目を具体的に解説します。

代表的な経費

医療法人における代表的な経費は以下です。

・医薬品費(投薬用薬品・外用薬品など)
・診療材料費(酸素・カテーテル・縫合糸など)
・外注費(検査や給食の委託など)
・人件費(給与・ボーナス・退職金など)
・法定福利費(社会保険料など)
・福利厚生費(慰安旅行・社宅費用・免許取得費用・健康診断費用など)
・設備関係費(医療機器リース代・保守料金など)
・車両関係費(救急車や検診車の費用・燃料など)
・通信費(電話やインターネット料金など)
・接待交際費(会食代・お土産費など)
・水道光熱費
・交通費
・地代家賃(土地や建物の賃貸料など)

・医師会費

・医師賠償責任保険料

メインの経費は医薬品費と診療材料費でしょう。

また、人件費や地代家賃も金額が大きくなりやすいです。

減価償却される経費

経費の中には、一度に経費として計上されるのではなく、減価償却されるものがあります。
減価償却とは、「時間経過とともに資産の価値が減っていく場合がある」という考え方です。

たとえば、高額な医療用機器を取得した費用などが減価償却に該当します。

この費用は経費計上できますが、取得した年度に一括で算入されるのではなく、耐用年数にわたり経費として算入するケースが多いです。

条件によって経費になるケース​

条件によって経費として含められる費用と含められない費用があります。

例えば、福利厚生の慰安旅行代です。

福利厚生費は基本的に全て経費計上できますが、慰安旅行の場合は以下の条件を満たす必要があります。

・滞在期間が4泊5日以内(国内旅行の場合。海外旅行は目的地の滞在日数による)
・参加する従業員が全体の50%以上

上記の条件を満たした場合でも、日程が不明確だったり1人あたりの負担費用が異様に高額だったりすると認められないケースがあるため注意が必要です。

経費にならない出費​

経費にならない費用は以下です。

・税金(住民税や所得税など)
・罰金や科料
・損害賠償(故意や重大過失によるもの)
・不当に高額な役員報酬

・子どもの学費


これらが全てではありませんが、経費にできるかどうか判断に迷う場合は税理士などの専門家に確認しましょう。

経費における医療法人と個人事業主の違い​

法人は基本的に事業に徹した人格であり、医療法人を経営する医師とは別の人格として見なされます。そのため、法人の費用全般は基本的に経費と見なされるのが一般的です。

個人事業主の場合、法人のように個人と人格が切り離されていないため、私的な費用と事業の費用との境界線が明確ではありません。
法人と個人で人格が切り離されているわけではなく、あくまで個人格しか存在しないからです。

そのため、経費に計上できるかどうかの見極めは法人より厳しくなります。

つまり、医療法人の方が個人事業主よりも経費として見なされる範囲が広いということです。

経費の範囲が広いということは、節税のメリットも法人の方が大きいということになります。

範囲の違いを示す具体的な例を見てみましょう。

医療法人の方が優遇されている経費

退職金
個人事業主の場合は「退職」の概念がないため、退職金を支給して経費にすることはできませんが、医療法人は適正な金額であれば計上できます。

さらに、退職金を受け取る個人には税率が優遇された退職所得控除があります。


生命保険料

個人事業主は家事関連費と見なされ経費にすることはできません。(生命保険料控除はあり)
医療法人では保険料の全額か一部を経費にできます。

退職金と生命保険料を用いた節税については、下記の記事もご参照ください。

個人事業主の方が優遇されている経費

経費の面では個人事業主より医療法人の方が優遇されていますが、必ずしもそうでないケースもあります。

具体的には下記です。

人間ドック

高額などの理由によって福利厚生として認められなかった場合、個人事業主であれば所得税の対象となるだけで済みます。

法人の場合、法人税の対象となった上に個人所得税の対象にもなる恐れもあります。

接待交際費

個人事業主の場合、事業に関するものであれば原則上限なく経費扱いできます。

一方医療法人の場合、以下の制限がかかります。

・年間800万円まで

(出資金1億円以下の医療法人および基金拠出型医療法人で「純資産から当期利益を引いた額の6割」が1億円以下の法人)
・5割まで(上記以外の大規模の法人)

しかし、これを理由に法人成りを見送る必要はないでしょう。

現在個人事業主である開業医の方は、経費面だけでなく、総合的な観点から法人成りの検討をすることが大切です。

医療法人化のメリット・デメリットについては、以下の記事で詳しく解説しています。

まとめ​

このように、医療法人が支払う費用の多くは経費扱いになるため、個人事業主と比較して節税効果が高くなります。

経費面でなく、医療法人化にはこの他にも様々なメリットがあります。
開業医の方は、自院の現在の経営状況と専門家からのアドバイスも踏まえつつ医療法人成りを検討しましょう。


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吉岡 伸晃

記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士

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