クリニックを閉院(廃業)する場合の費用と手続きの流れを解説!

2023.01.17

クリニックを閉院(廃業)するためには、さまざまな手続きが必要です。
手続きに不備や漏れがあると閉院が上手く進まない恐れがあるため、閉院の流れについて事前に知っておく必要があります。

今回はクリニックの閉院について、流れや発生する費用、押さえたいポイントを解説します。

 

なお個人クリニックでは、閉院するのでなく別の医師が運営を引き継ぐ事業承継も多くとられる手段です。
クリニックの事業承継については以下の記事で詳しく解説しています。

 

CONTENTS

クリニックが閉院となる理由

クリニックが閉院となる理由について、多くみられるのが以下の3点です。

後継者がいない

クリニックに限らず、経営者の高齢化や人材不足という課題を抱えている事業者は珍しくありません。

後継者がいないためにクリニックを閉院するのはよくあるケースです。

経営難により存続が困難となった

個人経営のクリニックは小規模なケースが多く、診療圏内の人口や状況による影響を受けやすい傾向にあります。
更に近年は人口減少により、売上の維持や向上に苦戦するクリニックが増えています。
また新型コロナウイルスの流行も、個人経営クリニックに大きなダメージを与えました。

勤務医へ転職する

クリニックの経営では、診療以外にもやるべき作業が多く存在します。
一概にはいえませんが、仕事が忙しいためにプライベートの時間がとれない開業医は多くみられます。

そのため仕事とプライベートを両立し上手くバランスを取れるよう、クリニックを閉院・勤務医へ転職する医師も多く存在します。

 

前提として、クリニックの閉院は決して悪いわけではありません。
クリニックの存続が難しい・勤務医へ転職をしたいなどの理由があれば、早めに閉院の準備を進めましょう。

クリニック閉院の流れ

クリニックの閉院に向けてやるべき作業は多く存在するため、事前に閉院までの流れの確認が欠かせません。
この章ではクリニック閉院の流れや、必要な作業の具体例を紹介します。

閉院までのスケジュールを計画、各種作業を実施

まず最初に、クリニックを閉院するためのスケジュール計画が必要です。

必要となる手続きとして、以下の内容が挙げられます。

 

スタッフや患者への対応

まずはクリニックの閉院について周知が必要です。
そのうえで、患者に対しては他院の紹介や引き継ぎ業務、スタッフに対しては社会保険関連の対応や退職金の支払いなどを行います。

 

医療機器や備品の処分

医療機器や備品、医薬品などの処分も必要です。
医療機器・備品の処分方法として、廃棄の他に業者による買い取りや引き取りといった選択肢もあります。医療機器によっては廃棄にともない証明書の取得が必要です。

医薬品については可能であれば返品、そうでなければ所定の方法やルールに従って各自で廃棄する必要があります。

 

建物の原状回復や取り壊し

事業承継を行わず完全に閉院する場合、建物の原状回復や取り壊しが必要です。

 

各種書類の提出

廃業時には税務署・都道府県・年金事務所などさまざまな機関へ所定の書類を提出する必要があります。クリニックならではの書類も複数存在するため、必要書類について必ず確認しましょう。書類の具体例は後述します。

 

残債の清算

借入金やリース契約期間の残りなどがある場合、クリニック閉院までに残債の清算が必要です。

各種申請書や届出書の提出

前述のように、各種書類の提出も必要です。
クリニックの閉院に際して必要となる申請書・届出書を紹介します。

 

<クリニックならではの必要書類>

保険医療機関廃止届

提出先:厚生局
提出期限:遅滞なく(明確な期限は設定されていないものの、閉院にともない早急な提出が求められるという意味です)

 

生活保護法指定医療機関廃止届

提出先:福祉事務所
提出期限:遅滞なく

 

医師会退会届

提出先:医師会
提出期限:遅滞なく

 

資格喪失届

提出先:医師国民健康保険組合
提出期限:遅滞なく

 

診療所廃止届 または開設者死亡(失そう)届

提出先:保健所
提出期限:10日以內

 

エックス線廃止届

提出先:保健所
提出期限:10日以內

※廃棄証明書の添付が必要です

 

麻薬施用者業務廃止届

提出先:都道府県
提出期限:15日以內

 

<税務関連の必要書類>

個人事業廃止届

提出先:税務署
提出期限:遅滞なく

 

個人事業廃止届

提出先:都道府県税事務所
提出期限:遅滞なく

 

<社会保険関連の必要書類>

運用事業所全喪届

提出先:年金事務所
提出期限:5日以內

 

被保険者資格喪失届

提出先:年金事務所
提出期限:5日以內

 

確定保険料申告書

提出先:労働基準監督署
提出期限:50日以內

 

なお、診療科目や対応範囲、都道府県によって必要書類および提出期限が異なるケースもあります。自身のケースについて必ずご確認ください。

クリニックの閉院に要するコスト

クリニックの閉院で発生するコストとして、以下が挙げられます。

建物の原状回復や取り壊し費用

テナント利用の場合は原状回復、土地のみ借りていた場合は建物の取り壊しが必要です。

解体費用の相場は坪単価5~15万円、スケルトン戻しよりも事務所仕様戻しの方が高額になります。

また、規模が大きいほど坪単価も高額になる傾向です。

医療機器・器具備品・医薬品の処分費用

大型機器や器具備品の処分には大きな費用がかかるケースがあります。

医薬品の処分については取り扱いにも十分注意する必要があり、場合によっては専門業者への委託が必要です。

医療機器の廃棄費用の目安として、東京都医師会は1キロあたり300~350円という目安を提示しています。

しかし、実際の処分費用は依頼する業者や選択できる廃棄方法の種類によって大きく異なります。

スタッフに支払う退職金

退職金の相場は、基本給の2分の1×勤続年数です。

スタッフの人数や勤続年数によっては退職金の合計が高額になる可能性があるため、日頃から退職金の積立をしておきましょう。

手続きの委託費用や報酬

閉院手続きは複雑かつ専門知識が必要な場面も多いため、専門家に委託するケースもみられます。その際は委託費用や報酬の支払いも必要です。

手続きの委託費用や報酬の相場として、10~20万円がひとつの目安となります。

クリニックの規模や状況、依頼先によって費用が異なるため、必ず見積もりをとりましょう。

残債があれば閉院時に清算

借入金・ローン・リースの契約期間残りなどがあれば清算の必要があります。

費用ごとの大まかな相場を紹介しましたが、閉院に要するコストの合計額は診療科目や規模、設備などによって異なります。

そのため一概にはいえませんが、閉院に要するコストが合計1,000万円を超えるケースも少なくありません。

クリニック閉院時の注意点

クリニックの閉院では、必要な作業を漏れなく行うこと以外にも注意したいポイントが存在します。クリニック閉院時の注意点について詳しく解説します。

スタッフ・患者への通達は遅くても3か月前までに

クリニックで働くスタッフや通院する患者へは、クリニック閉院についてなるべく早く通達しましょう。遅くても3か月前までには伝える必要があります。

閉院にともない、スタッフは新しい勤務先を探さなければなりません。
転職活動ではやるべき作業が多く、短期間でスムーズに終わるとは限りません。転職活動のための十分な期間を確保するためには、遅くても閉院の3ヶ月前には伝える必要があります。

患者も、ほかの医療機関を探すための時間が求められます。
定期的な通院・治療が必要な患者の場合、他の医療機関への紹介や引き継ぎも必要です。

スタッフと同様に、遅くても閉院の3ヶ月前までには伝えましょう。

スタッフ・患者より優先度は下がりますが、取引先にも早めに知らせるのが理想です。
必要に応じて契約解除の手続きや、未収金の回収などを行います。

閉院後もデータの保管が必要

クリニック閉院後も、一部のデータは一定期間の保管が義務付けられています。
保管が必要なデータの代表例は以下のとおりです。

 

カルテ

医師法第24条2項において、診療に関する事項を記録したカルテは5年の保存が義務付けられています。

 

レントゲンフィルム

保険医療機関及び保険医療養担当規則第9条で、療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録は3年の保存が義務付けられています。
なお、レントゲンを撮影した日ではなく当該患者の診療が終わった日から3年の保存が必要です。

 

紹介した保管期限はあくまで最短であり、トラブルに備えてより長く保管するケースも多くみられます。いずれにせよ、閉院したからといってデータを処分しないよう注意が必要です。

まとめ

クリニックの閉院に向けて必要な作業は数多く存在します。
厳格なルールが定められている手続きも多く、ちょっとした不備や漏れが大きなトラブルにつながる恐れもあります。

クリニックの閉院をスムーズに進めるため、閉院を検討・実行する際は事前にクリニック閉院についてしっかり理解を深めましょう。


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吉岡 伸晃

記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士

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