クリニックや医療法人で必要となる医療機器は高額なものが多く、購入によって大きな負担が発生するケースが珍しくありません。
その上固定資産の取得価額は、購入した年に全額を費用計上するのではなく、耐用年数に応じて減価償却が必要です。
支出額のわりには利益に与える影響が小さいために、医療機器の購入によってキャッシュフローの悪化や税負担の増大が起こるケースは多くみられます。
このような課題の解消または軽減効果が期待できるのが、医療機器の特別償却制度です。
今回は医療機器の特別償却制度について詳しく解説します。
医療機器の導入については以下の記事でも解説していますので、ぜひご覧ください。
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CONTENTS
医療機器の特別償却制度とは
はじめに医療機器の特別償却制度について、概要や手続きなど基本的な事項を紹介します。
医療機器の特別償却制度の概要
医療機器の特別償却制度とは、一定の要件を満たす医療機器を取得した際、通常の償却に追加して割増償却ができる制度です。
特別償却制度を活用することで、医療機器を取得した事業年度に計上できる減価償却費が大きくなります。
医療機器を含め、固定資産は取得した年に全額を費用として計上できるわけではありません。
耐用年数に応じて取得価額を按分して費用計上するという減価償却が必要となります。
医療機器は高額なものが多く、購入した年の負担がかなり大きくなります。
にもかかわらず費用計上できる金額は一部であるため、医療機器の購入が原因で赤字になってしまうケースもあります。
医療機器の購入によってキャッシュが小さくなる上に、所得に基づく税金の支払いも必要となるのです。
医療機器の特別償却制度を活用すれば、医療機器を購入した事業年度に計上できる減価償却費が大きくなるため、その分利益が小さくなります。
結果として購入した年に発生する法人税や所得税を抑える効果を得られます。
なお、特別償却制度を活用しても、トータルで発生する減価償却費は変わりません。
初年度の税負担は抑えられますが、翌事業年度以降に発生する減価償却費は初年度の先取り分だけ小さくなります。
特別償却制度は費用の前倒し制度といえるでしょう。
特別償却制度の対象になる医療機器
特別償却制度の対象になる医療機器は大きく3種類に分けられます。
一口に特別償却制度の対象とまとめてしまうと、計算や対応を誤ってしまう恐れがあるため注意が必要です。
それぞれの種類ごとに、対象となる設備の要件や償却割合を詳しく紹介します。
高額な医療用機器に係る特別償却制度
高額な医療用機器に係る特別償却制度の適用対象となるのは、以下すべての要件を満たす医療機器です。
- ・取得価額が500万円以上
- ・高度な医療の提供に資するものまたは医薬品医療機器等法の指定を受けて2年以内のもの
2つ目の要件については、該当するか事前にしっかり確認する必要があります。
償却割合は取得価額の12%です。
医師及びその他の医療従事者の労働時間短縮に資する機器等の特別償却制度
医師及びその他の医療従事者の労働時間短縮に資する機器等の特別償却制度を利用するためには、以下3つの要件を満たす必要があります。
- ・取得価額が30万円以上
- ・医師および医療従事者の勤務時間短縮に資する機器
- ・医師勤務時間短縮計画に基づいて取得した機器
医師勤務時間短縮計画は、都道府県の医療勤務環境改善支援センターの確認を受ける必要があります。
償却割合は取得価額の15%です。
地域医療構想の実現のための病床再編等の促進のための特別償却制度
病床の再編等を目的に取得または建設をした病院用または診療所用の建物および建物附属設備を対象とする制度です。
厳密には医療機器に関する制度ではありませんが、医療機器の特別償却制度の一種として扱われています。
償却割合は取得価額の8%です。
医療機器等の特別償却制度を使うための手続き
医療機器等の特別償却制度の適用は、青色申告であることが必須要件です。
青色申告承認申請書を提出していない場合、いかなる場合でも医療機器等の特別償却制度を利用できません。
青色申告でない場合、すぐに青色申告にするための手続きを行いましょう。
医療機器等の特別償却制度を使うためには、所定の書類を用意し、各都道府県の健康福祉部に提出して申請を行う必要があります。
申請に必要となる書類は以下のとおりです。
- ・確認願
所定の様式が用意されています。 - ・機器の仕様等を示す書類
パンフレットなどが該当します。 - ・添付書類
対象となる機器によって必要な添付書類が変わるため、詳細は公式サイトを確認するかお問い合わせください。
都道府県による確認後、ケースによっては地域医療構想調整会議での説明が必要です。
医療機器等の特別償却制度のメリット・デメリット
医療機器等の特別償却制度を利用するメリットとデメリットそれぞれを解説します。
メリット
制度を利用する大きなメリットが、税負担の軽減およびキャッシュフローの改善です。
前述したように、医療機器を含む固定資産は購入した年に全額を費用計上できるわけではありません。
その上、医療機器は必要性がありながらも高額なケースが多いです。
そのため医療機器の購入によってキャッシュフローの悪化と税負担の増大、両方が発生する可能性があります。
特別償却制度によって購入した年に計上できる減価償却費が大きくなれば利益が抑えられるため、税負担の軽減とキャッシュフロー改善につながります。
金融機関からの評価向上が期待できる点も大きなメリットです。
金融機関は固定資産よりも流動資産の比率が高い事業者を評価します。
特別償却制度を活用し早めに費用化をすれば、その分固定資産比率が下がるため、金融機関による評価の向上につながるでしょう。
早めの費用化は将来の費用負担軽減にもつながります。
現時点では黒字ながらも将来的に赤字または多額の費用発生が見込まれる場合、早めに費用化をし、将来の費用を抑えるのが効果的です。
デメリット
医療機器等の特別償却制度のデメリットとして以下の2つが挙げられます。
- ・過去にさかのぼっての適用はできない
- ・申請に際して必要な書類が多く複雑
さかのぼっての適用ができないため購入した年に手続きする必要がありますが、申請に際して必要な書類が多い上に複雑です。
購入する医療機器の内容やケースによって必要書類や対応に違いが大きい点もデメリットといえるでしょう。
医療機器の特別償却制度を利用する際のポイント
医療機器の特別償却制度を利用したいと考える場合、まずは必要な手続きや対象設備についてしっかり確認することが大切です。
特別償却制度を利用できる前提で考えてしまうと、対象設備でない・手続きに漏れがあって申請できないなどの事態が起こる恐れがあります。
それを防ぐには、制度について十分理解することが大切です。
メリット、デメリットの両方を把握した上で利用する価値があるか検討する必要もあります。
医療機器の特別償却制度は、購入した年のキャッシュフロー改善と税負担の軽減が最大のメリットです。
前項で解説した通り、トータルで支払う税金は制度の利用有無にかかわらず変わらないため、キャッシュ面で特に問題がない場合、わざわざ利用するメリットは大きくありません。
メリットがそれほどないのに、複雑かつ面倒な手続きをするのは無駄な労力といえます。
メリット・デメリットを理解した上で、本当に利用するべきか検討しましょう。
医療機器の特別償却制度は複雑な制度であり、対象となる医療機器の把握すら容易ではありません。
制度の利用を検討している場合は、クリニックや医療法人など、医療分野に精通している専門家のアドバイスを受けるのが安心でしょう。
まとめ
医療機器の特別償却制度は、医療機器を購入した年のキャッシュフロー改善や税負担軽減の効果が期待できる制度です。
上手く活用すればクリニックや医療法人の設備投資にかかる負担の軽減につながります。
一方で、必要な書類が多い・手続きが複雑といったデメリットもあります。
複雑な制度であるため、理解すること自体難しい・当事者のみで正しく対応できるとは限らないともいえるでしょう。
医療機器の特別償却制度の検討に際して、医療分野に詳しい税理士などのアドバイスを受けることをおすすめします。
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記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士