医院継承やM&Aでカルテの引き継ぎはどうする?注意点を解説

2024.11.22

医院承継やM&Aでは患者のカルテも引き継ぎ対象になります。

カルテは患者の個人情報が記載された資料です。

そのため、個人情報保護法に反するのではないかと疑問に思う人もいるでしょう。

 

結論として、医院承継やM&Aにおけるカルテの引き継ぎは違法ではありません。

ただし個人情報である以上、取り扱いには厳重な注意が必要です。

 

今回は医院承継・M&Aにおけるカルテ引き継ぎについて詳しく解説します。

 

クリニックや医療法人の承継については以下の記事をご覧ください。

 

 

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CONTENTS

医院承継・M&Aのカルテ引き継ぎは違法?

カルテは患者の個人情報が記載された資料であり、個人情報保護法に則った管理や扱いをする必要があります。

しかし、医院承継やM&Aにおけるカルテ情報の引き継ぎは個人情報保護法違反にはなりません

まずは医院承継やM&Aにおけるカルテ引き継ぎについて、法的な面から詳しく解説します。

【前提】個人情報保護法とは

個人情報保護法(個人情報の保護に関する法律)とは、個人情報の適正な取り扱いや保護に関する法律です。

個人情報とは特定の個人を識別できる情報全般を指します。

単体では個人の特定ができない情報でも、複数の情報と組み合わせることで個人の識別ができる場合は個人情報になり得ます。

医療機関が保有する患者の身体データも、個人情報に該当するデータの1つです。

個人情報保護法第27条では「第三者提供の制限」として以下の定めがあります。

「個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。」

出典:e-Gov|個人情報の保護に関する法律(第27条)

つまり、本人の同意なく第三者に個人データを提供する行為は、原則として個人情報保護法違反になるのです。

患者のカルテを第三者に提供する行為も、本来は事前に患者本人の同意を得る必要があります。

医院承継・M&Aのカルテ引き継ぎは違法にならない

前節で紹介したように、カルテを第三者に提供するためには事前に患者本人の同意を得る必要があります。

しかし、医院承継やM&Aにおけるカルテの引き継ぎは、事前に患者本人の同意を得ていなくても違法行為になりません

 

医院承継やM&Aでのカルテ引き継ぎが違法にならない旨の根拠は、個人情報保護法第27条5項2号です。

個人情報保護法第27条では最初に「次に掲げる事項の場合を除き、個人データを第三者に提供してはならない」と定めています。

そして、以降の文では例外的に個人データを第三者に提供しても良いケースが列挙されています。

第27条5項2号の文は以下の通りです。

「第5項

次に掲げる場合において、当該個人データの提供を受ける者は、前各項の規定の適用については、第三者に該当しないものとする。

(略)

二号 合併その他の事由による事業の承継に伴って個人データが提供される場合

(以降略)」

出典:e-Gov|個人情報の保護に関する法律(第27条5項2号)

 

合併等による事業承継における承継者は、そもそも第三者とはみなされません。個人データの新たな管理者であり、個人データを保有する事業者そのものとなります。

医院承継やM&Aによるカルテの引き継ぎも同様に、個人情報保護法に反しない行為として認められます。

カルテ引き継ぎができるのは医院承継・M&Aによる利用のみ

患者本人の同意なくカルテの引き継ぎができるのは、医院承継やM&Aで承継者に引き継ぐ場合のみです。

その他の理由による無断でのカルテ引き継ぎは個人情報保護法違反になります。

たとえば、以下のような行為は個人情報保護法に反するため厳禁です。

  • ・個人クリニックの責任者である医師が亡くなり、クリニックとは無関係の遺族がカルテを引き継いで管理する
  • ・業務上必要のない医師にカルテを見せる、共有する

医院承継・M&Aのカルテ引き継ぎの注意点

医院承継・M&Aにおけるカルテ引き継ぎは違法ではないとはいえ、個人情報である以上扱いには厳重な注意が必要です。

医院承継・M&Aのカルテ引き継ぎで注意するべき点を、売り手側・買い手側それぞれ2つずつ紹介します。

【売り手側】患者への同意取り付けを行う

売り手側(承継元)の医療機関では、医院承継やM&Aに伴うカルテ引き継ぎについて患者への同意取り付けを行うのが安心です。

 

前述のように、医院承継やM&Aによるカルテ引き継ぎは違法行為ではありません。

法的には患者の同意なく承継先へカルテを引き継ぐことが可能です。

 

ただし、実務的には医院承継の告知とあわせてカルテ情報の引き継ぎを行う旨も知らせるのが良いでしょう。

カルテは患者の身体データを含め、個人情報が細かく記載された資料です。

医院承継やM&Aが理由とはいえ、初対面の人物が無断でカルテを見ることを不安・不快に思うケースも珍しくありません。

承継後の医師やスタッフに対する不信感が募る恐れや、クリニックが築いてきた信頼関係が失われる恐れもあります。

 

カルテ引き継ぎについて事前に知らせておくだけでも、承継後のトラブルのリスクを抑える効果が期待できます。

【売り手側】最低保存期間を共有する

売り手側から買い手側に対して、カルテの最低保存期間を共有することを忘れないようにしましょう。

 

カルテ情報は最後の診療日から5年間の保存義務があります。

最低保存期間を共有せずに引き継いでしまうと、買い手側にかかるカルテ管理の負担が重くなってしまいます。

特に紙カルテは管理に手間がかかる上にスペースの確保も必要です。

効率的かつ適切なカルテ管理ができるよう、引き継ぎに際して保存期間を伝えておくのが理想です。

【買い手側】利用目的の範囲外でカルテ情報を利用するのは厳禁

カルテ引き継ぎで買い手側が注意するべきポイントの1つがカルテを利用する範囲です。

 

医院承継やM&Aにおけるカルテ引き継ぎが違法ではないとはいえ、カルテが重大な個人情報であることには変わりません。

事業承継によって引き継いだ個人データを目的の範囲を超えて利用した場合、個人情報保護法に反します。

たとえば業務に関係ない職員やスタッフがカルテを閲覧する行為は、カルテの利用目的に沿っているとはいえません。

 

カルテを目的の範囲を超えて利用した場合、患者から利用停止の要求や告訴を起こされる恐れがあります。

引き継いだカルテは、診療や経営などの事業に必要な範囲のみの利用を徹底しましょう。

【買い手側】初診時の丁寧な説明を心がける

医院承継やM&A完了後の最初の診察ではカルテ情報を引き継いでいる旨を丁寧に説明しましょう。

医院承継やM&Aに伴うカルテ引き継ぎに問題がないとはいえ、患者から見れば「知らない人にカルテ情報が渡った」状態といえます。

 

相手が医療従事者やスタッフであっても、初対面の人が自身の個人データを把握していることに対して抵抗感を覚えるのは自然です。

「【売り手側】患者への同意取り付けを行う」でも紹介したように、対応によっては信頼関係に影響する恐れもあります。

 

カルテ引き継ぎについて承継前の医師から説明が済んでいる場合でも、承継後の最初の診察で改めて説明するのが安心です。

医院承継・M&Aを機に電子カルテを導入するのもおすすめ

紙のカルテを使っている場合、医院承継やM&Aを機に電子カルテの導入を検討するのも良いでしょう。

実際、紙カルテを使用していた医療機関が医院承継やM&Aのタイミングで電子カルテに移行するケースが多くみられます。

電子カルテとは、カルテを電子情報として記録・管理するシステムです。

電子カルテの導入をおすすめできる理由として以下の5つが挙げられます。

  • ・カルテの作成や閲覧、必要な情報を探す等の作業を効率化できる
  • ・問診の内容および結果や処方薬などのシステムを連携させて一元管理できるようになる
  • ・紙カルテを保管するためのスペースが不要になる
  • ・カルテの書き間違いや紛失といったミスのリスクを抑えられる
  • ・他の医療機関との共有が必要になった場合も情報提供がしやすい

このように電子カルテには多くのメリットが存在する一方で、移行作業や慣れるまでに時間がかかる等のデメリットがあります。

また導入時にまとまった初期費用がかかる上、運用コストも紙に比べて高額になりやすいです。

このような理由から、途中で電子カルテに切り替えるのは難しいと考える人もいます。

 

しかし、デメリットもあるものの医院承継やM&Aは電子カルテへの切り替えに適したタイミングといえます。

必ずしも電子カルテにするべきとは限りませんが、一度検討する時間を設けることをおすすめします。

まとめ

カルテは患者の個人データが記載された資料であり、通常はカルテを第三者に提供する前に患者の同意が必要です。

しかし、医院承継やM&Aにおけるカルテ引き継ぎは個人情報保護法に反しません。

事前に患者本人の同意を得なくても問題なくカルテの引き継ぎが可能です。


ただし、カルテが重大な個人データであることには変わりません。

そのため、法的な問題がないとはいえカルテ引き継ぎについて患者に説明し、同意取り付けを行うのが安心です。

また、カルテの扱いについても厳重注意が必須といえます。


医院承継やM&Aを行う際は、カルテの扱いに関する注意点をしっかり押さえましょう。

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吉岡 伸晃

記事監修
BIZARQ株式会社代表公認会計士

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