
クリニックの売却価格はさまざまな要素によって左右されるため、明確な相場はありません。
ただし、クリニックに限らずM&Aにおける売却価格の目安を計算する方法は存在します。
納得のいく売却を実現させるためには、M&Aによる売却価格の考え方について知っておく必要があるでしょう。
また売却成立後の税務申告を不備なく行うため、売却によって発生する税金についても確認が必要です。
今回はクリニックの売却価格の考え方や、クリニックの売却によって発生する税金について解説します。
医療法人の売却については以下の記事をご覧ください。
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クリニックの売却方法

クリニックの売却方法は事業譲渡と居抜きの2種類です。
それぞれのやり方やメリット・デメリットについて詳しく解説します。
事業譲渡
事業譲渡とは事業を構成する権利義務の全部または一部を譲渡する方法です。
クリニックの事業譲渡で譲渡対象となる権利義務の例を紹介します。
- ・クリニックの名称
- ・クリニックが保有する物件や賃借権
- ・医療機器
- ・各種什器備品
- ・取引先との契約
- ・スタッフとの雇用契約
- ・患者のカルテ情報
もう1つの売却方法である居抜きと比較したメリットは以下の2つです。
- ・クリニックをそのまま継続できる
- ・従業員の雇用を確保できる
デメリットとして以下の2つが挙げられます。
- ・居抜きに比べて必要な手続きが多く時間がかかる
- ・すべての権利義務をそのまま自動的に引き継げるわけではない
- (第三者との契約は相手方の合意が必須、不動産は名義変更の登記が必要等)
事業譲渡はなるべく現状に近い形でクリニックを引き継ぎたい場合に適した方法です。
居抜き
居抜きは営業に使用している物件をそのまま買い手に譲渡(売却)する方法です。
譲渡対象になるのは不動産や内装設備など一部の有形資産のみです。事業を構成する権利義務は譲渡対象になりません。
居抜きの主なメリットは以下の2つです。
- ・譲渡対象の資産が限られているため手続きが容易
- ・事業譲渡では買い手が見つからない物件でも、居抜きであれば買い手がつく可能性がある
居抜きのデメリットとして以下の2つが挙げられます。
- ・事業を引き継ぐことはできない
- ・事業譲渡に比べると売却価格が安価になりやすい
居抜きによる売却は、事業の買い手が見つからない場合や、移転・廃業などの場合に適した手法です。
クリニックの売却価格の相場と考え方

クリニックの売却価格の考え方として、今回は事業譲渡による売却の場合を解説します。
前提として、売却価格はクリニックによって異なるため明確な相場はありません。
ただし、大まかな売却価格を計算する方法は存在します。
そのため売却価格の計算式に則って大まかな金額を計算し、計算した売却価格を1つの目安・基準とするのが一般的です。
今回はクリニックの売却価格の計算方法を3つ紹介します。
時価純資産価額法
売却価格を計算する最も一般的な方法として、時価純資産価額法が挙げられます。
時価純資産価額法による計算式は以下の通りです。
- 時価純資産(資産-負債)+直近3~5年分の営業利益
時価純資産価額法は財務諸表の数値だけで計算できるため、専門知識がない人でも売却価格を把握しやすい点がメリットです。
ただし過去の実績および現状に重きを置いており、将来性が反映されにくい点に注意する必要があります。
以上の理由により、時価純資産価額法は大まかな売却価格を計算したい場合に適した方法といえるでしょう。
なおM&Aにおいて企業価値を算定する際、潜在的な収益力である営業権(のれん)が非常に重要な要素となります。
のれん代の算出方法に決まったやり方はありません。売却対象の状況や仲介会社の考え方などによって異なります。
前述の計算式の通り、時価純資産価額法では直近3~5年分の営業利益をそのままのれん代として用います。
のれん代の計算方法が非常に簡便的である点からも、時価純資産価額法で求められる売却価格はあくまでも概算といえるでしょう。
類似業種比準法
類似業種比準法とは、類似する業種や事業の売却事例を参考に売却価格を決める方法です。
実際にM&Aが成立した事例の情報を用いるため、算定する売却価格に強い説得力をもたせられます。
ただし、類似する売却事例を探し出すのは容易ではありません。
特にクリニックは売却事例自体が少なく、ましてや類似した事例を探すのは非常に困難です。
そのためクリニックの売却価格を算定する方法として類似業種比準法を用いるケースは少ないといえます。
DCF法
DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)とは、将来見込まれるキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を算出する方法です。
DCF法により企業価値を算定するには、将来のキャッシュフローと割引率を決定する必要があります。
割引率の方は加重平均資本コスト(資金調達のコスト)を用いるのが一般的です。
将来見込まれるキャッシュフローは事業計画や設備投資計画に基づいて計算します。
DCF法は将来性に重きを置くため、現状ではなく将来性に優れた計算が可能です。
しかし主観が入りやすい上に専門知識が必要なため、非常に難易度が高いといえます。そのため、DCF法は自身で売却価格の目安を計算する方法には適していません。
DCF法による計算をする場合は専門家に依頼するのが一般的です。
【参考】クリニックの売却価格を左右する要素
クリニックの売却価格を左右する要素として以下の例が挙げられます。
- ・クリニックの立地
- ・クリニックの規模
- ・通院患者の数
- ・知名度や評判の高さ
- ・診療科目
- ・スタッフの継続雇用の可否
- ・保有する医療機器の種類、年代、状態
このように、正確な売却価格を計算するにはさまざまな要素の考慮が必要です。
クリニック売却にかかる税金

個人クリニックの売却にかかる税金は事業譲渡・居抜きどちらの場合も同じで、売却によって発生した利益に所得税および住民税がかかります。
ただし、譲渡する資産の種類によって所得区分が異なるため、課税所得の計算方法が異なる点に注意が必要です。
譲渡する資産の種類ごとの所得区分および計算方法を紹介します。
土地・建物|譲渡所得(分離課税)
クリニックの土地や建物の売却によって発生する所得は譲渡所得(分離課税)に該当します。
分離課税とは文字通りほかの所得と分離して計算を行う方法です。
クリニックに限らず、土地や建物を売ったときの譲渡所得に対する税金はほかの所得と分離して計算することが定められています。
譲渡所得の計算方法は以下の通りです。
- 譲渡所得=土地や建物の売却価格-(取得費+譲渡費用)
取得費とは土地や建物の購入価格、譲渡費用とは仲介手数料や売買契約書に貼付する印紙代などが該当します。
分離課税に該当する譲渡所得が存在する場合は、確定申告に際して申告書第三表(分離課税用)の作成および提出が必要です。
棚卸資産・減価償却資産|事業所得
棚卸資産や減価償却資産の売却による利益は事業所得に該当します。
資産の売却によって得た収益をほかの事業売上と合算し、通常通り事業所得を計算しましょう。
その他の資産|譲渡所得(総合課税)
不動産や棚卸資産、減価償却資産以外の資産の譲渡によって発生した収益は譲渡所得(総合課税)となります。
その他の資産に該当するものとして、クリニックの純資産価額と売却価額の差額であるのれん代が該当します。
不動産と同じ譲渡所得ではあるものの、ほかの所得と合算する総合課税である点に注意が必要です。
まとめ
クリニックの売却価格はさまざまな要素によって左右されるため、明確な相場は存在しません。
大まかな売却価格を計算する際には時価純資産価額法を用いるのが一般的です。
売却価格の計算方法はほかにも複数ありますが、いずれも異なるメリット・デメリットをもち、適した場面にも違いがあります。
個人クリニックの売却によって発生する税金は所得税と住民税です。
譲渡する資産の種類によって所得区分が異なり所得や税額の計算方法に違いがある点に注意する必要があります。
納得のいくクリニック売却を行い、適切な税務申告をするためには、専門家のサポートを受けるのが安心です。
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記事監修
BIZARQ株式会社代表公認会計士