
医療機関の開業方法は、自分で1から立ち上げる新規開業と、既存の医療機関を承継する承継開業の2種類に分けられます。
新規開業と承継開業は全く違う性質で、開業の流れも大きく異なります。
それぞれ異なるメリット・デメリットをもつため、どちらが良いと一概にはいえません。
納得のいく開業のためには自分に合う開業方法を選ぶことが大切です。
今回は新規開業と承継開業それぞれのメリット・デメリットの比較や、どちらを選ぶかの判断基準の例を紹介します。
クリニックの事業承継の流れについては以下の記事をご覧ください。
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CONTENTS
医療機関を新規開業するメリット・デメリット

医療機関を新規開業するメリットは自由度が高い点です。
1から医療機関を作り上げるため、自分の理想や考えを反映できます。
一方で、承継開業に比べて手間やコストがかかる点や、黒字化までに時間がかかる点がデメリットです。
新規開業のメリット
医療機関を新規開業するメリットを4つ紹介します。
好きな場所で開業できる
新規開業の大きなメリットの1つが、好きな場所で開業できることです。
エリア・診療圏・テナントといった開業場所に関する要素すべてを自分で決められます。
開業場所はこだわりが出やすいポイントの1つのため、場所を吟味したいと考える人には新規開業が適しているでしょう。
内装や設備などを好きに決められる
新規開業であれば居抜き(不動産や内装設備のみ引き継ぐ方法)の場合を除き、内装や設備も1から作ることになります。
そのためレイアウトや導入する設備・医療機器などを自分の好きに決められます。
こだわりを反映できるだけでなく、提供するサービスや医療に合う設備を確実に選べるという点でも魅力です。
理想に合う人材や業者を選べる
提供する医療の内容・サービスは、一緒に仕事をするスタッフや取引先となる業者によっても左右されます。
新規開業であれば人材や業者も経営者である自分が決めるため、理想に合う人を選べます。
自身の理念を反映できる
最も大きなメリットといえるのが、自身の理念を反映できる点です。
前述した開業場所や設備といった物理的な要素だけでなく、コンセプトや事業計画も1からすべて自分で考えます。
あらゆる事項を自分で決めるため、開業する医療機関は自身の理念が強く反映されたものになるでしょう。
新規開業のデメリット
続いて、新規開業のデメリットを4つ紹介します。
高額の初期費用がかかる
新規開業の大きなデメリットの1つが、高額の初期費用がかかる点です。
新規開業では物件の初期費用、内装工事費、医療機器・備品の購入など高額の支出が多く発生します。
初期費用の額は診療科目や物件の種類等によって大きく異なりますが、合計で数千万円かかるケースも珍しくありません。
黒字化までに時間がかかる
新規開業からしばらくの間は、安定した収益を得られない一方でランニングコストは発生するため赤字状態が続きます。
特に医療機関は初期費用が高額な上に診療日から診療報酬等の支払日までに間が空くため、黒字化までに時間がかかりやすいです。
黒字化までに最低でも数ヵ月、場合によっては数年かかる恐れもあります。
開業直後の収支予測がしにくい
新規開業の場合、開業直後の収支の予測が非常に難しいです。
事前に診療圏調査を行うとはいえ、来院の頻度やニーズの正確な把握はできません。
そもそも集患が上手くいくかも未知数なため、収支、特に収益の見通しが立てにくいといえます。
開業までに手間やコストがかかる
新規開業のメリットを一言でまとめると「1から医療機関を作り上げるため自由度が高い」です。
しかし1から医療機関を作り上げるとは、自由度の高さというメリットだけでなく、全てを自分でやる必要があるというデメリットもあります。
承継開業よりもやるべきことが多い分、開業までにどうしても手間やコストがかかる方法です。
医療機関を承継開業するメリット・デメリット

医療機関を承継開業するメリットとして、開業にかかる費用や手間を抑えられる点が挙げられます。
既に運営している医療機関を引き継ぐため見通しが立てやすい点もメリットです。
デメリットを一言でまとめると「自由度が低い」です。
クリニック開業に対する理想やこだわりがある人には不向きな方法といえます。
承継開業のメリット
承継開業のメリットを4つ紹介します。
初期費用を抑えられる
承継開業の場合、物件の初期費用・内装工事費・医療機器の購入費などがかかりません。
修繕や買い替えなどが必要な可能性はあるものの、1からすべて揃える場合よりは安価に済みます。
そのため新規開業に比べて開業費用を大幅に抑えられる可能性が高いです。
収支の見通しを立てやすい
承継開業は既存の医療機関を引き継ぐ方法ため、開業前の段階から患者数や来院ニーズなどのデータが蓄積されています。
本来は開業しなければ把握できない情報も事前に確認できるため、収支の見通しを立てやすいといえるでしょう。
開業にかかる手間や時間を抑えられる
承継開業であれば、新規開業の場合に発生する作業のうち以下の工程を省略できます。
- ・開業エリアや物件の選定
- ・内装工事
- ・医療機器や什器備品の選定、購入
- ・スタッフの採用および研修
- ・ホームページ等のPR施策
前院長との打ち合わせや事業計画の策定など最低限の作業は必要ですが、新規開業に比べて開業までの工程が少なく済みます。
患者やスタッフを引き継げる
医院承継をすれば、患者やスタッフを引き継いで開業できます。
1から集患をする必要がないため、開業直後の時点からある程度の収益が見込めるでしょう。
また、開業に向けてスタッフの採用活動や研修を行う必要もなく、手間を大幅に抑えられます。
承継開業のデメリット
続いて、承継開業のデメリットを4つ紹介します。
前院長の診療方針の考慮が必要
個人クリニックの場合、患者さんがクリニックを選ぶ理由に院長の診療方針が深く関わっているケースも多いです。
特に長く通っている患者さんほど、院長や従業員に対する強い結びつきを感じています。
医院承継によって院長が変わり診療方針も変化すれば、そのクリニックを選ぶ理由がなくなり、患者さんが離れてしまう恐れもあります。
患者さんが離れてしまうのを避けるには前院長の診療方針を考慮する必要があるため、自身の理念を反映させにくいといえるでしょう。
修繕費の負担が発生する可能性がある
「承継開業の場合は物件の初期費用や設備・医療機器等の購入が不要なため、開業費用が安く済む」と紹介しました。
しかし建物や設備の老朽化が進んでいる場合は、修繕や買い替えが必要になる可能性があります。
限られた案件から選択が必要
承継開業は限られた売却案件の中から選択が必要であり、自分の希望をすべて満たす案件が存在するとは限りません。
エリアや診療科目によっては、そもそも選べるほどの売却案件が存在しないケースもあります。
設備や間取りなどの自由度が低い
承継開業では有形資産をそのままの形で引き継ぐのが一般的です。
そのため設備や間取りなどの自由度が低く、理想のレイアウトにするのは難しいといえます。
新規開業と承継開業のどちらを選ぶべき?

新規開業と承継開業はそれぞれ全く異なるメリット・デメリットをもつため、どちらが知良いと一概にはいえません。
大切なのは、自分の考えや希望に合う開業方法を選ぶことです。
新規開業がおすすめのケースと承継開業がおすすめのケースの具体例を紹介します。
新規開業がおすすめのケース
- ・診療方針や理念が明確である
- ・自分の理想通りのクリニックを作り上げたい
- ・こだわりが強い
- ・自分のペースや考えで開業準備を進めていきたい
- ・開業したいエリアや提供する医療が特殊で似たような医療機関が少ない
- (売却案件が少ないのが明らか)
承継開業がおすすめのケース
- ・開業にかかる手間やコストを抑えたい
- ・開業後の売上や収支に対する不安が強い
- ・細かな希望やこだわりがあるわけではない
- ・集患の不安をなくしたい
- ・開業予定のエリアや診療科目について売却案件が多いと考えられる
まとめ
新規開業は医療機関を1から作り上げるため、自由度が高く自分の理念を強く反映させることができる方法です。
一方で収支の見通しが立てにくく、手間・コストがかかる等のデメリットがあります。
承継開業は開業にかかる手間やコストを抑えることができる点や、開業直後からある程度の収益を見込める点がメリットです。
ただし限られた案件から選択が必要であり自由度が低いため、理想と乖離してしまう恐れもあります。
このように新規開業と承継開業は異なるメリット・デメリットをもつため、どちらが良いと一概にはいえません。
クリニック開業についての希望やこだわりを明確にした上で新規開業と承継開業を比較し、自分に適した方法を選びましょう。
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記事監修
BIZARQ株式会社代表公認会計士