
医療機関で作成する書類は多岐にわたりますが、書類の種類によって保存期間が異なります。
書類ごとの保存期間を正しく押さえなければ保存期間の経過前に処分してしまい、トラブルになる恐れがあるため注意しましょう。
今回は医療機関で作成する書類について、保存期間別に解説します。
医療機関の書類および書類保存期間に関するよくある質問も取り上げているので、ぜひ最後までご覧ください。
医療機関で特に重要性の高いカルテについては以下の記事で詳しく解説しています。
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CONTENTS
医療機関の書類保存期間一覧

医療機関で作成する書類の保存期間は5年・3年・2年の3パターンに大別できます。
保存期間ごとに該当する書類を紹介します。
保存期間5年の書類
まずは保存期間5年の書類です。
- 診療録(カルテ)
- カルテの保存期間は医師法や歯科医師法で5年と定められています。電子カルテの保存期間も同じく5年です。
- 助産録
- 助産録とは助産師が分娩の介助をした時に作成する、助産に関する事項を助産に関する事項を記載した書類です。
- 保健師助産師看護師法の第42条で助産録の保存期間は5年と定められています。
- 救急救命処置録
- 保存期間の根拠となるのは救急救命士法の第46条です。
- 記載の日から5年間の保存が義務付けられています。
- 一定の様式の診療録(保険医)
- 根拠条文は保険医療機関及び保険医療養担当規則第22条です。
- 様式第一号またはこれに準ずる様式での作成も義務付けられています。
- エックス線装置等の測定結果記録
- 放射線障害が発生するおそれのある場所の測定結果記録
- いずれも医療法施行規則第30条が根拠となります。
- 埋葬許可証、火葬許可証
- 保存期間の根拠となるのは医療関係の法律ではなく、「墓地、埋葬等に関する法律」です。
保存期間3年の書類
続いて、保存期間が3年と定められている書類を紹介します。
- 歯科衛生士による記録
- 歯科衛生士法施行規則の第18条で定められています。
- 調剤済み処方せん
- 薬剤師法第27条で定められている内容です。
- 調剤済みとなった日から3年間の保存が義務付けられています。
- 調剤録
- 薬剤師法や保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則で、調剤薬は最終記入日から3年間の保存が義務付けられています。
- 療養の給付に関する処方せんの保存期間も同じく3年です。
- 療養の給付の担当に関する帳簿、書類その他の記録
- 保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則第6条が根拠となります。
- なお、同規則の第5条で、ほかの調剤録と区別して整備することが義務付けられています。
保存期間2年の書類
保存期間2年の書類は比較的重要性が低く数も多いため、根拠条文のみを紹介します。
- 病院、診療所又は歯科技工所で行われた歯科技工に係る指示書
- 歯科技工士法第18条
- 病院日誌、各科診療日誌、処方せん、手術記録、検査所見記録、エックス線写真、看護記録、紹介状
- いずれも保存期間は医療法で定められていますが、根拠となる条文は書類の作成者によって異なります
- 入院患者および外来患者の数を明らかにする帳簿
- 病院で作成が義務付けられている書類です。根拠条文は医療法第21条です。
- 退院患者に係る入院期間中の診療経過の要約
- 地域医療支援病院と特定機能病院で作成されます。根拠は医療法、条文は作成者により異なります。
- エックス線装置等の使用時間に関する帳簿、診療用放射線照射装置等の入手に関する帳簿
- いずれも医療法施行規則第30条の23
以下は特定機能病院のみ作成が義務付けられている書類です。
いずれも医療法第22条で保存期間2年と定められています。
- ・従業者数を明らかにする帳簿
- ・高度の医療の提供の実績
- ・高度の医療技術の開発及び評価の実績
- ・高度の医療の研修の実績
- ・閲覧実績
- ・紹介患者に対する医療提供の実績
- ・入院患者、外来患者、調剤の数
- ・安全管理・院内感染対策の体制の確保の状況
会計帳簿
会計帳簿の保存期間は業界・業種に関係なく、事業者の形態や確定申告の方法に応じて一律で定められています。
個人事業主(個人クリニック)の場合
- 青色申告
- 帳簿、貸借対照表や損益計算書等の決算関係書類、現金預金取引等関係書類:7年
- その他の書類(請求書、見積書、契約書等):5年
- 白色申告
- 収入金額や必要経費を記載した法定帳簿:7年
- 任意帳簿および各種書類:5年
医療法人の場合
法人の帳簿書類の保存期間は、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間です。
青色申告・白色申告どちらも同じ保存期間が適用されます。
ただし青色申告で以下いずれかに該当する場合の保存期間は10年間となります。
- ・青色申告書を提出した事業年度で欠損金額が生じた事業年度
- ・青色申告書を提出しなかった事業年度で災害損失金額が生じた事業年度
医療機関の書類および書類保存期間に関するよくある質問

医療機関の書類および書類保存期間に関するよくある質問4つを紹介します。
書類はどのように保存すれば良い?
書類の主な保存方法として以下の3つが挙げられます。
電子化して保存
物理的なスペースが不要な点や、書類の検索が可能な点などがメリットです。
書類を電子化して保存する場合は電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。
文書保管サービスの活用
セキュリティ体制の整った外部施設に書類を預けるサービスを活用する方法もあります。
紙のまま保存したいものの普段は使用しない等の理由から置き場所に悩んでいる書類を保管する方法として最適です。
自院で紙の状態で保存
自院内で紙の状態で保存する場合は、種類や事業年度別に整理した上で保存するのが良いでしょう。
物理的な損傷リスクを抑えるため、文書保管用のキャビネットを使うのが安心です。
書類を保存期間の経過前に処分するとどうなる?
書類保存期間の経過前に書類を処分してしまうと罰則を科せられる恐れがあります。
罰則の内容は根拠となる法律によって異なるため個々に確認が必要です。
例えば医師が作成するカルテの保存期間は医師法第24条が根拠ですが、同法の第33条の3で罰則について以下のように定められています。
「次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
一 第六条第三項、第十八条、第二十条、第二十一条、第二十二条第一項又は第二十四条の規定に違反した者
以下省略」
書類保存期間の経過後はどうすれば良い?
書類保存期間の経過後に書類をどのように扱うかの明確なルールはありません。
一般的な選択肢として以下の2つが挙げられます。
・溶解処理サービス等を利用し細心の注意を払った上で処分する
・書類保存期間の経過後もしばらくは保存を続ける
医療機関で作成する書類は個人情報が多く記載された機密文書のため、専門業者に処分を委託するのが一般的です。
溶解処理サービスの利用や業者へシュレッダー作業を委託、書類を焼却施設へ持ち込んで処分する等の方法が挙げられます。
ただし実際のところ、保存期間が経過した後も書類を保存し続ける医療機関が多くみられます。
特に紙カルテは20年、電子カルテは永久保存が一般的です。
法律上カルテの保存期間は5年ですが、医療事故による損害賠償請求の消滅時効は20年と定められています。
書類保存期間を経過したからといって処分してしまうと、損害賠償請求を受けた時に対応できない事態が起こり得ます。
このような有事への備えとして、医療機関の書類は保存期間経過後も処分せずにいるのが理想です。
電子データとして保存する方法は?
紙の書類を電子化してデータとして保存するためには、法律に則った適切な対応を行う必要があります。
電子保存の可否や要件は書類によって異なるため個々に確認が必要です。
医療機関は扱う情報の性質上、書類の電子化についても厳しい規定が多く定められています。
詳しくは厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」をご確認ください。
まとめ
医療機関で作成する書類は多岐にわたりますが、書類によって根拠となる法律および条文が全く異なります。
正しい書類保存期間を把握するため各書類の根拠条文を確認するのが理想です。
今回載せた書類保存期間の一覧を参考に、必要に応じて該当する法律の条文をご確認ください。
医療機関で作成する書類を適切に扱うためには、保存期間だけでなく、書類の保存方法や処分時の注意点についても確認が必要です。
少しでも気になる点や疑問があれば、自己判断で処分しようとせず、該当の書類の扱いについてしっかり調べましょう。
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記事監修
BIZARQ株式会社代表公認会計士