課税売上高とは?計算方法と95%ルールについて解説!

2024.08.27

課税売上高とは、消費税の計算や事業者の課税義務判定において欠かせない重要な指標です。

本記事では、課税売上高の基本的な仕組みや計算方法、課税事業者となる条件や注意点をわかりやすく解説します。

 

さらに、インボイス制度への対応や免税事業者としての選択肢も詳しく紹介。事業運営における税務対応の基礎をしっかり押さえ、今後の計画に役立ててください!

 

消費税の節税テクニックについては以下の記事をご覧ください。

 

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CONTENTS

課税売上高とは

課税売上高とは、消費税の課税対象となる取引の売上金額と免税売上の合計額です。

消費税の納付額の計算や各種判定等、課税売上高を用いる場面は多数存在します。

課税売上高の計算方法

課税売上高の計算方法は以下の通りです。

 

課税売上高=消費税の課税対象となる取引の売上高+免税売上金額-返品、値引き、割り戻し等の合計額

 

課税売上高は消費税を除いた額で判断するのが一般的です。

ただし免税事業者の売り上げには消費税相当額が含まれていないため、消費税を含む額がそのまま課税売上高となります。

 

課税事業者と免税事業者それぞれの場合における課税売上高の計算例を紹介します。

今回使う例は以下の通りです。

  • ・消費税の課税対象となる取引の売上高:税込2,200万円
  • ・売上に適用されている税率:すべて10%(軽減税率適用の取引なし)
  • ・免税売上金額:800万円
  • ・返品、値引き、割り戻し等の合計額:税込550万円

まずは課税事業者の課税売上高の計算例です。課税売上高は消費税を除いた額で判断するのが一般的であるため、税抜の金額を計算する必要があります。

売上に適用されている税率はすべて10%のため、各項目の税抜金額は以下のようになります。

  • ・消費税の課税対象となる取引の売上高:税抜2,000万円
  • ・返品、値引き、割り戻し等の合計額:税抜500万円

今回の例において、課税事業者の場合の計算結果は以下の通りです。

2,000万円+800万円(免税売上)-500万円=2,300万円

 

続いて免税事業者の課税売上高の計算例を紹介します。

免税事業者には消費税相当額という概念がないため、税込金額をそのまま使います。

計算結果は以下の通りです。

2,200万円+800万円-550万円=2,450万円

課税売上高の計算に含めない取引

売上のうち、非課税取引と不課税取引は課税売上高の計算に含めません。

 

非課税取引とは、消費に負担を求めるという消費税の性質がなじまない等の理由から、例外的に消費税の課税対象外と定められている取引です。

非課税取引に該当するものとして、以下の例が挙げられます。

  • ・土地の譲渡や貸付
  • ・有価証券等の譲渡
  • ・支払手形や小切手等、支払手段の譲渡
  • ・商品券やプリペイドカード等の物品切手等の譲渡
  • ・国等が行う一定の事務に係る役務の提供
  • ・外国為替業務に係る役務の提供
  • ・社会保険医療の給付等
  • ・学校教育
  • ・教科用図書の譲渡
  • ・住宅の貸付

不課税取引は、消費税の課税対象にあたらない取引のことです。

消費税は日本国内で事業者が事業として対価を得て行う取引に課されます。この要件を満たさない取引は不課税取引に該当し、消費税が課されません。

不課税取引に該当するものとして、以下の例が挙げられます。

  • ・給与や賃金
  • ・国外取引
  • ・寄附金、祝金、見舞金、国や自治体からの補助金や助成金等
  • ・無償による贈与
  • ・出資に対する配当
  • ・保険金や共済金
  • ・心身または財産についての損害発生に伴う損害賠償金

非課税取引は消費税の課税対象となる性質を持つものの、社会政策的配慮から例外的に消費税を課さないと定められた取引です。

一方で不課税取引は、そもそも消費税の課税対象にあたらない取引が該当します。

課税売上高の計算が求められる3つの理由

課税事業者としての対象になると、消費税の負担というデメリットが生じます。
一方で、課税事業者には簡易課税制度の適用や、仕入税額控除といったメリットを享受できる場面もあります。

課税対象者かどうか判定するため

課税売上高は、消費税の納税義務が発生する事業者を判定するための基準として用いられます。基準期間または特定期間において課税売上高が1,000万円を超えた場合、事業者は消費税を納税する義務を負います。

課税売上高の計算を誤ると、納税義務がないのに消費税を納めてしまう可能性があります。そのため、正確な計算が不可欠です。
課税売上高が1,000万円を超える場合、確実に納税義務が発生します。

また、誤って納税義務のない事業者が消費税を納めないよう、課税売上高が重要な判断材料となっています。

簡易課税制度の適用可否を確認するため

簡易課税制度は、消費税の計算を簡略化するための制度です。通常の原則課税方式では計算が複雑で負担が大きくなる場合がありますが、簡易課税方式を利用すれば計算の負担を軽減できます。 簡易課税制度を利用するためには以下の条件を満たす必要があります:
  1. 1. 基準期間における課税売上高が5,000万円以下であること。
  2. 2. 「消費税簡易課税制度選択届出書」を事前に提出していること。
このように、簡易課税制度の適用の可否を判断するためにも、正確な課税売上高の算出が必要となります。

仕入税額控除を正しく計算するため

仕入れに対して売上が少ない場合、納めた消費税が還付されることがあります。具体的には、売上時に預かった消費税額よりも、仕入れ時に支払った消費税額が多い場合に、その超過分が還付されます。

特に輸出業では、消費税が国内取引に限られるため、国内で仕入れた商品を海外に販売しても消費税を受け取ることができません。この場合、課税売上高を正確に計算することで、還付される超過分の金額を把握できます。
課税売上高の計算は還付金額の確認においても重要です。

仕入税額控除とは?

仕入税額控除とは、「課税売上にかかる消費税額から、課税仕入れにかかった消費税額を差し引くこと」が認められる制度のことを指します。

課税売上げの消費税額から課税仕入れの消費税額を差し引くこと

消費税の納税額は、原則として売上時に預かった消費税額から、仕入れや経費などで支払った消費税額を差し引いて計算します。

この仕入税額控除は、消費者が支払った消費税と事業者が仕入れ時に負担した消費税の二重課税を防ぎ、仕入時に支払った消費税分を納税額から差し引くことで適切な消費税額の申告と納付を行うための仕組みです。

仕入税額控除の適用条件とは?

インボイス制度導入後、仕入税額控除の適用を受けるためには一定の要件が設けられています。具体的には、適格請求書(インボイス)の発行および保存が必要です。これを満たしていない場合、原則として仕入税額控除の適用は認められません。 ただし、以下の例外が存在します:
  1. 少額特例:課税仕入れにかかる支払対価が1万円未満の場合、インボイスがなくても、帳簿に必要事項を記載し保存することで控除が認められます。
  2. 交付困難取引:請求書の交付を受けることが困難な場合も、帳簿保存のみで控除が可能です。
少額特例の対象となるのは、基準期間における課税売上高が1億円以下、または特定期間における課税売上高が5,000万円以下の中小事業者に限定されます。

95%ルールとは

「95%ルール」は、課税売上高が5億円以下で、課税売上割合が95%以上の場合に適用される仕組みです。この条件を満たす事業者は、仕入や経費にかかった消費税を全額控除できる点が特徴です。この基準から、「95%ルール」と呼ばれています。

仕入れに係る消費税の全額控除ができない場合の計算方法

課税売上高が5億円を超える場合、または課税売上割合が95%に満たない場合には、仕入れにかかる消費税をすべて控除することはできません。この場合、課税売上に対応する部分の消費税のみが控除対象となります。

売上にかかる消費税から控除する税額を算出する方法には、以下の2種類があります。

個別対応方式

個別対応方式とは、仕入や経費にかかる消費税を3つの区分に分類し、所定の計算式に基づいて控除税額を算出する方法です。

仕入税額を次の3つに区分します:

  1. 1. 課税売上専用の仕入にかかる消費税額
  2. 2. 非課税売上専用の仕入にかかる消費税額
  3. 3. 課税売上と非課税売上の両方に関連する仕入にかかる消費税額

控除税額の計算式は以下の通りです: 控除税額 = ① + (③ × 課税売上割合)

一括比例配分方式

一括比例配分方式は、仕入税額の区分が行われていない場合に適用される計算方法です。個別対応方式を用いない場合にこの方式が選ばれます。

 

控除税額の計算式は以下の通りです:

控除税額 = 課税仕入等にかかる消費税額 × 課税売上割合

 

この方式を選択した場合には、2年間は継続して適用する必要があり、その間は個別対応方式へ変更することができません。

個別対応方式と一括比例配分方式のどちらが有利?

「個別対応方式」と「一括比例配分方式」のうち、通常は個別対応方式を選択する方が有利になるケースが多いです。しかし、どちらが適切かは事業内容や状況により異なるため、事前にシミュレーションを行うことが推奨されます。

なお、個別対応方式を適用するには、仕入にかかる消費税額を売上の種類ごとに区分できる体制を整える必要があります。この区分ができない場合、個別対応方式は利用できません。また、一括比例配分方式を選択後は2年間変更できない点にも注意が必要です。

消費税を納税する事業者の要件

課税事業者となるか否かは、基準期間における課税売上高等で判断されます。

では、具体的に課税売上高がどの程度を超えると消費税を支払う義務が生じるのでしょうか。

以下では、課税売上高に基づく要件と、その他の条件で課税事業者となる場合を詳しく解説します。

課税売上高が1,000万円を超える場合

課税事業者として消費税を納める条件は、基準期間または特定期間において課税売上高が1,000万円を超えていることです。
なお、特定期間の給与支払い額でも判定可能ですが、本稿では課税売上高を基準とした要件に絞って説明します。基準期間および特定期間の定義は以下の通りです。

基準期間

基準期間は、個人事業主の場合、前々年(1月1日~12月31日)を指し、法人の場合は前々事業年度が該当します。
例えば、2023年(令和5年)の課税売上高が1,000万円を超えた個人事業主は、2025年(令和7年)から課税事業者となります。

特定期間

特定期間は、個人事業主であれば前年の1月1日~6月30日を指し、法人の場合は前事業年度開始の日以後の6か月間を指します。この期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合も課税事業者に該当します。

課税事業者届出書を提出した場合

課税売上高が1,000万円に満たない場合でも、「消費税課税事業者選択届出書」を提出することで、自ら課税事業者になることが可能です。この手続きは、多額の設備投資を予定している場合など、消費税の還付を受けるために選択されることがあります。
どの事業者でも提出可能であり、理由を問わず任意で課税事業者になれます。

適格請求書発行事業者に登録している場合

インボイス制度の導入に伴い、適格請求書(インボイス)を発行する事業者として登録すると、課税売上高の金額に関係なく消費税の納税義務が生じます。
免税事業者であっても、適格請求書発行事業者への登録を行うことで課税事業者となるため、登録を行ったすべての事業者に消費税の納付義務が発生します。

課税事業者になる際の2つの注意点

免税事業者から課税事業者に変更する際には、以下の2点に特に注意する必要があります。

消費税の納税義務が生じる

課税事業者になると、消費税の納税義務が発生します。毎年納税を行う必要があるため、売上に含まれる消費税分を事業資金と区別して管理することが重要です。

資金繰りの中で消費税が混在し、他の用途に流用されてしまうと、納付期限に間に合わなくなるリスクがあります。納税時期を確認し、余裕をもって準備を進めましょう。

経費処理が煩雑化する可能性

課税事業者となると、消費税の申告が必要になり、事務作業が増加します。特に、標準税率10%と軽減税率8%を区別する必要があり、経理業務が煩雑になりがちです。

ただし、「簡易課税制度」を選択すれば、消費税の計算が比較的簡単になります。課税事業者となる際には、一般課税方式と簡易課税制度のどちらが適しているかを検討しておくことが重要です。それぞれの違いについては、次のセクションで詳しく説明します。

一般課税方式と簡易課税方式の違い

課税事業者が納付する消費税額は、原則として「預かった消費税額」から「仕入等で支払った消費税額」を差し引いた金額で計算します。この方法を「一般課税方式」と呼びます。

ただし、仕入先などに支払った消費税額を正確に把握し、納税額を算出することは事務負担が大きいため、中小企業などには「簡易課税制度」を選択するという選択肢もあります。

簡易課税制度の仕組み

簡易課税制度では、売上にかかる消費税額に「みなし仕入率」を掛けることで、納税額を簡略に算出します。適用を希望する場合は、「消費税簡易課税制度選択届出書」を課税期間開始日の前日までに提出する必要があります。

 

注意点:簡易課税を選択した場合、2年間は変更ができません。

簡易課税方式の「みなし仕入率」

事業区分に応じた「みなし仕入率」は以下の通りです:

事業区分

みなし仕入率

第1種事業:卸売業

90%

第2種事業:小売業など

80%

第3種事業:製造業など

70%

第4種事業:その他の事業

60%

第5種事業:サービス業など

50%

第6種事業:不動産業

40%

2割特例について

インボイス制度導入に伴い、免税事業者から課税事業者へ移行した事業者向けに「2割特例」が新設されました。これは納税額の負担を軽減する制度で、売上税額の2割を納税額とする仕組みです。

この特例は、2023年10月1日から2026年9月30日までの間に該当する課税期間で適用可能です。2割特例は、一般課税方式と簡易課税制度のどちらを選択していても利用できます。

個人事業主のインボイス対応における注意点

インボイス制度の導入に伴い、個人事業主が対応すべき重要なポイントについて解説します。

取引先の状況を事前に把握する

インボイス制度の開始後、取引先(買手側)の対応状況を事前に確認することが重要です。各取引先がどのようにインボイス制度に対応しているかは異なるため、事前に把握しておくことでスムーズな対応が可能となります。

課税事業者になるべきか検討する

免税事業者である場合、課税事業者になるべきかを慎重に検討する必要があります。適格請求書を発行するには課税事業者であることが必須となるため、特に取引先に課税事業者が多い場合、請求書発行を求められることが予想されます。

ただし、適格請求書の発行は任意であり、求められたとしても必ず応じる必要はありません。自分自身の意思で登録するかどうかを決めることが大切です。事業規模や将来的な計画を踏まえて判断しましょう。

会計管理体制を再構築する

課税事業者となる場合、適格請求書の保存義務が生じます。適切に保存できない場合、消費税の仕入税額控除が受けられなくなるため、より慎重な管理が求められます。

インボイス制度を契機に、会計管理の体制や方法を見直し、正確な帳簿と請求書の管理を行うようにしましょう。免税事業者であっても同様に会計管理の適正化が求められるため、この機会に確認すると良いでしょう。

課税事業者にならない場合は?

適格請求書発行事業者への登録は、課税事業者としての納税義務が生じることを意味します。

それでは、課税事業者にならない選択をした場合、どのような対応が考えられるのでしょうか。

課税売上高を基準値以下に抑える

基準期間の課税売上高が1,000万円を超えると、課税事業者となる義務が生じます。免税事業者であり続けたい場合、事業規模を調整して課税売上高が基準値を超えないように管理することも一つの選択肢です。

免税事業者として継続する選択を取る

売上が1,000万円を超えない場合は、免税事業者のままでいることも可能です。一般消費者が主な取引先の場合、適格請求書を発行する必要性が低いケースもあります。また、業種によっては免税事業者のままで大きな影響が出ない場合もあります。

免税事業者として継続するかどうかを決める際には、事業規模、売上の見通し、納税負担額などを慎重に検討しましょう。

まとめ

課税売上高とは、消費税の課税対象となる売上と免税売上の合計額です。

課税売上高は主に、課税事業者の判定・簡易課税制度の適用可否の判定・仕入控除税額の計算方法の判定で用います。

 

95%ルールとは、課税売上高が5億円以下かつ課税売上割合が95%以上の場合は、仕入等に係る消費税を全額控除できる仕組みの通称です。

95%ルールにより仕入税額の全額控除ができない場合、個別対応方式または一括比例配分方式により仕入控除税額を計算する必要があります。

一般的には個別対応方式が有利になりやすいですが、どちらが有利かはケースによって異なるため、自社に適した方法を選びましょう。

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吉岡 伸晃

記事監修
BIZARQ株式会社代表公認会計士

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