
中小企業退職金共済とは、単独で退職金制度を設けることが困難な中小企業をサポートする目的で設けられた共済制度です。
事業主が毎月掛金を拠出し、従業員が退職したときに共済から従業員に直接退職金が支払われる仕組みです。
中小企業退職金共済にはさまざまなメリットがある一方で、注意するべきデメリットも存在します。
中小企業退職金共済を上手く活用するためには、メリットとデメリットの両方、そして注意点も押さえることが大切です。
今回は中小企業退職金共済について詳しく解説します。
経営者や役員向けの退職金を積み立てられる共済制度については以下の記事をご覧ください。
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CONTENTS
中小企業退職金共済とは

中小企業退職金共済とは、単独で退職金制度を設けることが困難な中小企業をサポートする目的で設けられた共済制度です。略して「中退共」とも呼ばれます。
中小企業退職金共済の仕組み
中小企業退職金共済の契約から退職金が支払われるまでの大まかな流れは以下の通りです。
- 1.事業主が中小企業退職金共済と退職金共済契約を結ぶ
- 2.事業主が毎月掛金を拠出する
- 3.従業員が退職したら、事業主から中小企業退職金共済へ退職届を提出する
- 4.退職者本人から請求した後、中小企業退職金共済から従業員に直接退職金が支払われる
掛金の支払は口座振替によって行われます。
拠出した資産の管理・運用・給付は中小企業退職金共済が行うため、事業主の手間はほとんどありません。
中小企業退職金共済の月額掛金
中小企業退職金共済の月額掛金は以下の16種類です。
- ・5,000円
- ・6,000円
- ・7,000円
- ・8,000円
- ・10,000円
- ・12,000円
- ・14,000円
- ・16,000円
- ・18,000円
- ・20,000円
- ・22,000円
- ・24,000円
- ・26,000円
- ・28,000円
- ・30,000円
なお、パートタイマーなどの短時間労働者は特例として以下の月額も設定できます。
- ・2,000円
- ・3,000円
- ・4,000円
従業員ごとに任意に掛金を選択できます。また、掛金の増額も可能です。
中小企業退職金共済の加入条件
中小企業退職金共済の加入条件について、共済契約者(事業者)と被共済者(従業員)それぞれ紹介します。
まずは共済契約者の条件です。加入できるのは以下の要件を満たす企業のみとなります。
- ・一般業種(製造業、建設業等):常用従業員数300人以下または資本金3億円以下
- ・卸売業:常用従業員数100人以下または資本金1億円以下
- ・サービス業:常用従業員数100人以下または資本金5,000万円以下
- ・小売業:常用従業員数50人以下または資本金5,000万円以下
個人企業や公益法人などは常用従業員数によって判断します。
続いて被共済者についてです。
中小企業退職金共済に加入している企業では、原則として全従業員を加入させる必要があります(包括加入の原則)。
ただし例外として、以下のいずれかに該当する従業員は加入しなくても良いとされています。
- ・雇用期間の定めがある
- ・季節的業務で雇用される
- ・試用期間中
- ・短時間労働者
- ・休職期間中またはこれに準ずるケースに該当する
- ・近いうちに雇用関係が終了すると明らかである
また、以下のいずれかに該当する場合は加入できません。
- ・すでに中退共制度に加入している
- ・特定業種退職金共済制度に加入している
- ・加入に反対した
- ・小規模企業共済制度に加入している
中小企業退職金共済の加入手続き
中小企業退職金共済の加入手続きの流れを紹介します。
- 1.退職金共済契約申込書を入手する
- 窓口で入手・郵送で取り寄せ・PDF書式をダウンロードと3つの方法が挙げられます。
- 2.従業員の同意を取る
- 加入させようとする従業員の同意が必要です。
- 3.従業員ごとの掛金月額を決定する
- 4.「退職金共済契約申込書」と「預金口座振替依頼書」を記入する
- 5.必要な添付書類を用意する
- 添付書類については制度の公式サイトをご確認ください。
- 6.最寄りの金融機関または委託事業主団体の窓口に書類を提出する
- ケースによっては、この後「解散存続厚生年金基金の残余財産の交付希望確認書類の送付」が必要になります
- 7.契約が成立し、中退共本部から事業主へ各従業員の「退職金共済手帳」が届く
なお、契約成立日は金融機関等での書類受付日となり、契約成立日の属する月分から掛金の請求が行われます。
中小企業退職金共済のメリット

中小企業退職金共済のメリットを3つ紹介します。
掛金を損金算入できる
中小企業退職金共済で支払う掛金は全額損金算入が可能です。
中小企業退職金共済への加入によって損金算入できる額が増えるため節税効果が期待できます。
なお、中小企業退職金共済の掛金は「保険料」や「福利厚生費」科目を使用するのが一般的です。新たに「退職共済掛金」といった勘定科目を作るケースもあります。
いずれの科目を使っても問題ありませんが、一度決めた科目は変更せず、継続して使うことが大前提です。
掛金の一部が国によって助成される
中小企業退職金共済は、国による掛金の助成制度があります。
新規に中小企業退職金共済に加入する事業主に対しては、以下の助成が行われます。
- 1.加入後4ヶ月目から1年間、掛金月額の2分の1(1人当たり上限5,000円)を国が助成
- 2.短時間労働者の特例月額掛金については、1に次の金額を上乗せ
- 掛金2,000円の場合は300円、3,000円の場合は400円、4,000円の場合は500円
ただし、新規加入助成の除外要件もあるためご注意ください。
また、掛金月額が18,000円以下の従業員の掛金を増額する場合、増額分の3分の1を国が1年間助成します。
なお、掛金助成は助成金の支給ではなく、掛金から助成金を免除する方法によって行われます。
管理の手間なく退職金制度を運営できる
前章で紹介したように、拠出した掛金の管理・運用・従業員への支給を行うのは中小企業退職金共済側です。
掛金は口座振替によって自動で引き落とされるため、一度設定すればその後の作業は必要ありません。
このように中小企業退職金共済に加入すれば、事業主側での手間は最小限に退職金制度を運営できます。
中小企業退職金共済と特定退職金共済(特退共)の節税メリット比較

中小企業向けの退職金共済制度には、中退共の他に特定の業種を対象とした「特定退職金共済(特退共)」も存在します。どちらの制度も、従業員の福利厚生を充実させながら、企業にとって大きな節税メリットが期待できるのが特徴です。ここでは、両者の違いと具体的な節税効果について詳しく解説します。
中退共と特退共の主な違い
中小企業退職金共済(中退共)が幅広い中小企業を対象とする国の制度であるのに対し、特定退職金共済(特退共)は商工会議所などが運営し、その地域の事業者を対象とする制度です。また、建設業や清酒製造業、林業といった特定の業種を対象とする「特定業種退職金共済」も存在します。
中退共には新規加入時や掛金増額時に国からの助成がありますが、特退共には原則として助成制度がありません。どちらも掛金が全額損金算入できる点は共通しており、企業の状況や業種に応じて最適な制度を選択することが重要です。
掛金の全額損金算入による法人税の節税シミュレーション
中退共や特退共の最大の節税メリットは、事業主が負担する掛金を全額損金(個人事業主の場合は必要経費)として計上できる点です。これにより、法人税の課税対象となる所得を圧縮できます。
例えば、従業員10人に対し、1人あたり月額20,000円の掛金を拠出する場合、年間で「20,000円 × 10人 × 12ヶ月 = 240万円」が損金となります。仮に法人税率が30%であれば、単純計算で年間約72万円の法人税額を軽減できる効果が期待できます。将来の退職金原資を準備しながら、同時に確実な節税対策となるのが大きな魅力です。
従業員にもメリットがある退職所得控除
節税メリットは事業者側だけではありません。従業員(被共済者)が将来退職金を受け取る際にも、税制上の優遇措置が受けられます。退職金は給与所得とは分離して扱われ、「退職所得控除」という大きな控除が適用されます。この控除額は勤続年数に応じて決まり、税負担が大幅に軽減される仕組みになっています。
事業主が拠出した掛金は従業員の給与所得とはみなされず、所得税がかからないため、現役時代の税負担を増やすこともありません。このように、企業と従業員の双方にとって税制上のメリットがある制度です。
中小企業退職金共済のデメリット・注意点

中小企業退職金共済のデメリット・注意点を3つ紹介します。
掛金を減額できるのは要件を満たした場合のみ
中小企業退職金共済の増額変更は自由にできますが、減額できるのは以下のいずれかに該当する場合のみです。
- ・掛金月額の減額について当該従業員が同意した
- ・現在の掛金月額の継続が著しく困難であると厚生労働大臣が認めた
一度決めた掛金月額を減らすのは難しいことを押さえた上で掛金を決める必要があります。
経営者や役員層は対象外
中小企業退職金共済は従業員を対象とした制度です。原則として経営者や役員には中小企業退職金共済の加入資格はありません。
すでに加入済みの従業員が役員になった場合は、役員に就任した日の前日を退職日として退職金の請求手続きを行う必要があります。
加入期間によっては元本割れする恐れがある
中小企業退職金共済の加入期間が短い場合、納付した掛金総額よりも退職金が少なくなる、つまり元本割れしてしまいます。
中小企業退職金共済の加入期間が11ヶ月以下の場合、原則として退職金の支給はありません。
12ヶ月以上23ヶ月以下の場合の支給額は、掛金納付総額を下回る額になります。
24ヶ月以上42ヶ月以下の場合は掛金相当額に、43ヶ月からは運用利息と付加退職金が加算される仕組みです。
このように、中小企業退職金共済は加入期間が長いほど有利な制度となります。
中小企業退職金共済についてよくある質問

ここまで中小企業退職金共済のメリットやデメリットを解説してきましたが、実際の導入を検討する際には、さらに具体的な疑問が浮かぶことでしょう。
ここでは、経営者の方から特によせられる質問とその回答をまとめました。制度への理解を深めるためにお役立てください。
役員や個人事業主本人も加入できますか?
いいえ、中小企業退職金共済(中退共)は、あくまで従業員のための制度です。そのため、会社の役員(取締役など)や個人事業主本人は加入対象外となります。また、役員と兼務している従業員も原則として加入できません。
ただし、個人事業主の場合、事業を手伝っている同居の親族は、一定の条件を満たせば従業員として加入させることが可能です。役員の退職金準備には、役員退職慰労金制度や生命保険などを活用する別の方法を検討する必要があります。
掛金の変更(増額・減額)は自由にできますか?
掛金の増額はいつでも可能ですが、減額には制約があります。掛金を減額するには、原則として「従業員の同意」または「現在の掛金月額を継続することが著しく困難であると厚生労働大臣が認定した場合」のいずれかの要件を満たす必要があります。
業績の悪化などを理由に安易に掛金を減額することは難しいため、導入時には無理のない範囲で掛金額を設定することが重要です。将来の経営状況も見据えた上で、計画的に掛金を決めるようにしましょう。
中退共と特定退職金共済(特退共)、どちらを選べばよいですか?
どちらの制度を選ぶべきかは、企業の業種や所在地によって異なります。
まず、建設業、清酒製造業、林業といった特定の業種の場合は、それぞれの業種向けの「特定業種退職金共済」が第一の選択肢となります。それ以外の業種の中小企業であれば、全国をカバーし国の助成制度もある「中退共」が基本となります。
また、お住まいの地域の商工会議所などが運営する「特退共」も選択肢となり得ます。
福利厚生の充実度や利便性を比較し、自社に最適な制度を選択することが大切です。
まとめ
中小企業退職金共済は、退職金制度を設けることが難しい中小企業を対象とした共済制度です。
毎月口座振替によって掛金を納付し、従業員が退職した後に共済から従業員へ直接退職金の支払いが行われます。
掛金の管理や運用も中小企業退職金共済側で行うため、事業主がやるべき作業はほとんどありません。
中小企業退職金共済は掛金を損金算入できる・国からの助成を受けられるなどさまざまなメリットがあります。
一方で、減額変更は難しい・加入期間が短いと元本割れするなどのデメリットに注意が必要です。
中小企業退職金共済について理解を深め、制度を上手く活用しましょう。
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記事監修
BIZARQ株式会社代表公認会計士





