
インボイスの少額特例とは、税込1万円未満の課税仕入は要件を満たした帳簿を保存していれば仕入税額控除ができる制度です。
インボイスに関する事務処理の負担を軽減する目的で導入されています。
インボイスの少額特例は対象者や帳簿の記載事項など細かな要件が定められています。
また、適用期間の定めや、インボイスの発行義務については注意が必要です。
今回はインボイスの少額特例について詳しく解説します。
インボイス制度に関するその他の記事は以下をご覧ください。
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インボイスの少額特例とはどのような制度?

少額特例とは、課税事業者が税込1万円未満の課税仕入れを行った際に、インボイスの保存をせずとも仕入税額控除が認められる制度です。この特例の目的は、インボイス制度への対応に伴う小規模事業者の事務負担を軽減することにあります。
対象となるのは、一定の売上規模以下の事業者です。ただし、この特例はインボイス制度導入による負担を軽減するための経過措置であり、適用期間が設けられています。
詳しく見ていきましょう。
適用されるための要件
少額特例の適用対象は、税込1万円未満の課税仕入れに限られます。インボイスの保存義務は免除されますが、課税仕入れに関する帳簿の保存は必要です。
特例を活用するためには、正確な取引記録を残し、事業者としての義務を果たしながら負担軽減を図ることが求められます。
税込1万円未満とみなされるケースの例
- ・〇月2日に3,000円の商品を購入、〇月8日に8,000円の商品を購入。
- それぞれで請求および精算を行った
- →明確に別の取引のため、特例の適用対象です。
- ・X月5日、X月16日、X月29日に、1回につき5,000円のサービスを同じ業者から受けた。
- 請求および精算はそれぞれの日に実施
- →合計額は1万円以上になりますが、それぞれ独立した取引のため特例の適用を受けられます。
税込1万円超(適用対象外)とみなされるケースの例
- ・3,000円の商品と8,000円の商品を同時に購入した
- →合計11,000円で取引額が1万円を超えるため特例の適用対象外です
- ・〇月2日に3,000円の商品を購入、〇月8日に8,000円の商品を購入。
- 請求は〇月末日付、一括で行った
- →購入した日が別ではあるものの一括での請求・精算のため、1つの取引とみなされます。
- ・月額30,000円の業務委託を行い、月に6日稼働した
- →1日分に換算すると1万円未満になるものの、取引額は30,000円とみなされます。
対象となる事業者の条件
少額特例の対象事業者は、基準期間における課税売上高が1億円以下、または特定期間における課税売上高が5千万円以下の事業者です。
特定期間の売上高の算定においては、納税義務の判定とは異なり、給与支払額の合計を基準にすることは認められていません。
ここでいう「基準期間」は、法人の場合は前々事業年度、個人事業者の場合は前々年を指します。「特定期間」は、法人では前事業年度の開始日から6カ月間、個人事業者では前年1月から6月の期間を指します。
少額特例を適用する事業者は、対象要件を正確に確認し、適切な手続きを行う必要があります。
適用される期間と期限
少額特例は時限措置として定められており、2023年10月1日から2029年9月30日までの期間に行われる課税仕入れが対象です。
この期間を過ぎると、課税期間の途中であっても特例の適用は受けられなくなります。特例を活用する際は、適用期間を正しく把握し、適切な対応を行うことが重要です。
消費税の免税要件や、基準期間・特定期間の仕組みについては以下の記事で詳しく解説しております。
帳簿の記載事項

最初に紹介したように、インボイスの少額特例の適用を受けるには、一定の事項を記載した帳簿を保存する必要があります。
帳簿に記載が必要な事項は以下の4つです。
- ・相手先の氏名または名称
- ・取引年月日
- ・取引内容:軽減税率の対象となる取引がある場合はその旨も記載が必要です。
- ・課税仕入にかかる支払対価の額
なお「経過措置(少額特例)の適用がある旨」を記載する必要はありません。
似た制度との違い

インボイスの少額特例に似た制度との違いについて解説します。
2割特例
2割特例は、インボイス発行事業者になるためにインボイス制度をきっかけに免税事業者から課税事業者になった事業者を対象とする特例です。
売上に係る消費税額から売上税額の8割を差し引いた額を納付税額とすることができます。
売上税額の2割が納付税額となるため、2割特例と呼ばれています。
特例の適用にあたって事前に必要な手続きは特にありません。消費税の確定申告書に「2割特例の適用を受ける」旨を付記すれば適用されます。
なお、2割特例を適用できるのは、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間のみです。
他にも細かな要件が定められているため、詳しくは国税庁の公式サイトをご確認ください。
3万円未満の一定の取引に関する特例
3万円未満の一定の取引に関する特例とは、税込の支払額が3万円未満の取引は、一定の事項を記載した帳簿保の存のみで仕入税額控除が可能となる特例です。
3万円以上の取引であっても、請求書等の交付を受けていないなどやむを得ないがある場合も適用を受けられます。
3万円未満の一定の取引に関する特例は、インボイス制度の開始に伴い廃止されました。
現在は税込3万円未満の取引について仕入税額控除を受けるためには、原則インボイスの保存が必要です。
また、インボイスを保管していない取引は原則として仕入税額控除を受けられません。「請求書の交付を受けられなかった」という理由も通用しないため注意が必要です。
(インボイスの少額特例の適用対象となる取引を除く)
インボイスの少額特例の注意点4つ

インボイスの少額特例の注意点を4つ紹介します。
適用期間の定めがある
インボイスの少額特例は、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの期間が適用対象期間です。
たとえ課税期間の途中でも、令和11年10月1日以後に行う課税仕入については特例の適用を受けられません。
適用期間を過ぎた後に課税仕入について仕入税額控除を行うには、一部の例外を除きインボイスの保管が必須となります。
【発行者側】インボイスの発行義務が免除されるわけではない
インボイスの少額特例は、課税仕入についてインボイスを保存しなくても仕入税額控除ができるという制度です。インボイスの交付義務が免除されるものではありません。
たとえ税込1万円未満の取引であっても、取引相手である買い手側からインボイスを請求された場合は交付する必要があります。
前述の通り、少額特例ではインボイスの発行義務が免除されるわけではありません。
しかし「一定の要件を満たす取引はインボイスの発行を免除する」という別の特例が存在します。
ほかにも、インボイスに関する特例や経過措置は複数存在します。制度によって適用要件や期間が全く異なるため、注意しなければ混同してしまう恐れが大きいです。
そのためか、国税庁の公式サイトでも「(少額特例では)インボイス発行事業者の交付義務が免除されているわけではない」と明記されています。
インボイスに関する多数の特例それぞれについて正しく理解し、制度ごとに適切な処理を行うのは容易ではありません。
インボイス関連の処理を正しく行い、特例を正確に適用するためには、専門家である税理士のサポートを受けるのが安心です。
控除額の条件次第では適用対象外になる場合がある
インボイス少額特例の適用可否は課税売上高を基準に判断されます。この課税売上高は、税の対象となる売上を指し、全体の売上が1億円以上であっても控除額次第では適用外となる可能性があります。
また、特定期間の課税売上高が5,000万円以下であれば、基準期間の課税売上高が1億円を超えていても特例の適用が認められます。したがって、インボイス少額特例を活用する場合は、基準期間だけでなく特定期間の課税売上高も必ず確認することが重要です。
判定の基準は個々の商品ではなく取引総額となる
インボイス少額特例の適用対象について特に留意すべきなのが判定単位です。この特例は税込10,000円未満の課税仕入れが対象となりますが、判定基準は商品単体ではなく取引全体の額となります。
例えば、単価6,000円の商品を2つ購入した場合、その合計金額12,000円は少額特例の適用範囲外となります。適用を検討する際には、取引ごとの総額を考慮する必要があります。
まとめ
インボイスの少額特例とは、税込1万円未満の課税仕入は要件を満たした帳簿を保存していれば仕入税額控除ができる制度です。
一定規模以下の事業者を対象としています。
少額特例では、税込1万円未満の判定方法や帳簿の記載事項など細かなルールが定められています。
消費税に関する事務処理を適切に行うためには、少額特例に関する正しい理解が必要不可欠といえるでしょう。
今回紹介した少額特例以外にも、インボイスに関する特例は多数存在します。
似たイメージの特例が多く混同しやすいものの、制度によって内容や適用要件が全く異なります。
インボイス制度や特例に関する理解が曖昧な状態では、特例の適用に際して誤った処理をしてしまう恐れが大きいです。
インボイスについて疑問や不安がある場合や、何らかの特例の適用を受けようとする場合は、専門家である税理士への相談をおすすめします。
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記事監修
BIZARQ株式会社代表公認会計士