
配当金にかかる税金の納税方法のうち、最も多く用いられているのは申告不要制度です。
上場株式の配当金にかかる税率は年収等に関係なく一律のため、源泉徴収が済んでいれば配当金の確定申告は必要ありません。
ただし、配当所得の確定申告を行い、配当控除を受けた方が税額を抑えられるケースがあります。
すべてのケースで節税につながるとは限らないため、配当控除の仕組みや節税につながるケースについて十分な理解が必要です。
今回は配当金にかかる税金の仕組みや配当控除が節税につながるケース、注意点等を解説します。
株式投資で発生するその他の所得については以下の記事をご覧ください。
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配当金の確定申告は基本的に不要

配当金は「特定口座(源泉徴収あり・なし)」「一般口座」のいずれを利用しても源泉徴収されるため、基本的に確定申告は不要です(申告不要制度)。
しかし、特定口座(源泉徴収なし)や一般口座で譲渡益が発生した場合、または非上場株式の配当金や大口株主(持株比率3%以上)として配当を受け取る場合は、総合課税の対象となり確定申告が必要です。
一方で、確定申告が義務でない場合でも、譲渡損失が発生した場合や課税所得が一定額以下の人は申告することで税金の還付を受けられる可能性があります。確定申告をしないことによるペナルティはありませんが、自身の所得状況に応じた適切な申告が重要です。
配当金の確定申告が不要となるケース

源泉徴収ありの特定口座で取引を行っている場合
特定口座には「源泉徴収あり」と「源泉徴収なし」の2種類があります。「源泉徴収あり」の特定口座を利用している場合、証券会社が自動的に税金を徴収し、納税を完了するため、確定申告を行う必要はありません。
ただし、他の所得と合算することで総合課税の対象となるケースや、税率の変更による影響がある場合は、確定申告が必要になることもあります。年間の取引報告書を確認し、不明な点がある場合は税務相談を行うと安心です。
源泉徴収なしの特定口座で年間利益が20万円以下の場合
源泉徴収なしの特定口座を利用している場合でも、年間の配当金や株式の譲渡益を含む利益が20万円以下であれば、確定申告の必要はありません。
この20万円の枠は給与所得などの本業の所得とは別に計算されるため、たとえば給与所得がある場合でも、配当金の利益が20万円未満であれば申告は不要です。ただし、利益が20万円を超えた場合は確定申告が必要になります。
また、所得税の確定申告が不要であっても、住民税の申告が必要となる場合があるため注意が必要です。住民税の申告を行わないと、住民税額や健康保険料の計算に影響を及ぼす可能性があるため、年間の利益を正確に把握し、適切な管理を心がけましょう。
NISA(少額投資非課税制度)を利用している場合
NISA口座を利用している場合、口座内で得た配当金は非課税となります。そのため、NISA口座での取引については、確定申告の必要はありません。
ただし、NISA口座外での取引には特定口座のルールが適用されるため、NISAとその他の口座を明確に区別し、適切な税務処理を行うことが重要です。
NISAを最大限に活用するためにも、制度の仕組みを理解し、適切な投資計画を立てることが節税にもつながります。
配当金の確定申告が必要となるケース

一方で、配当金の受け取りには確定申告が必要となるケースもあります。 特に、特定口座の種類や、非上場株式の配当金を受け取る場合、大口株主である場合などは申告義務が生じるため、注意が必要です。
源泉徴収なしの特定口座で年間20万円超の利益がある場合
源泉徴収なしの特定口座を利用している場合、年間の配当金の合計が20万円を超えると、確定申告が必要になります。この際、配当金だけでなく、株式の売却益も合算されるため、年間の総所得額が20万円を超えているかどうかを確認することが大切です。
確定申告を適切に行うことで、税金の過払いが発生しないよう管理することができます。
配当金の確定申告をした方が有利なケース

確定申告が不要なケースであっても、申告を行うことで税金の還付や負担軽減につながる場合があります。 ここでは、確定申告をすることでメリットを得られる具体的なケースを解説します。
株式の譲渡損失が発生している場合
1年間の株式取引で譲渡損失が発生している場合、確定申告によって所得税の還付を受けられる可能性があります。これは、「申告分離課税方式」を選択することで、配当金と譲渡損失を「損益通算」できるためです。
また、損益通算を行っても損失が残る場合は、翌年以降3年間にわたって繰り越しが可能です。繰り越された譲渡損失は、翌年以降の譲渡益と相殺されるため、翌年以降の課税額を抑える効果が期待できます。
課税所得が695万円以下の場合
課税所得が695万円以下の人は、「総合課税」を選択して確定申告を行うことで税負担を軽減できる可能性があります。これは、配当控除という制度を利用できるためです。
配当控除とは、二重課税を解消するために設けられた制度で、所得税10%・住民税2.8%分の税額控除を受けることができます。
ただし、この制度はすべての人に適用されるわけではなく、課税所得が695万円以下の人に限定されます。 課税所得と年収は異なるため、混同しないよう注意しましょう。
株の配当金は配当所得に該当

所得は全部で10種類に分類され、それぞれ課税方法や計算方法が異なります。
株の配当は配当所得に該当します。そして配当所得の特徴の1つが、納税方法が複数存在する点です。
この章では配当所得の納税方法について詳しく解説します。
配当金にかかる税金の納税方法
配当金にかかる税金の納税方法は全部で3種類です。それぞれの特徴や申告の必要性について解説します。
※今回は大口株主を除く上場株式等の配当等について取り上げています。その他の配当金にかかる税金については国税庁の公式サイト等をご確認ください。
申告不要制度
源泉徴収によって納税が完了する方法です。
上場株式等の配当金は所得額に関係なく、所得税15%、住民税5%の計20%(+復興特別所得税)の源泉徴収税率が課されます。
本制度を選択した場合、配当等にかかる源泉徴収税額をその年の所得税額から差し引くことはできません。配当控除も対象外となります。
総合課税制度
他の所得を合算して計算を行う方法です。同制度を選択する場合は配当控除の適用を受けられます。
申告分離課税制度
主に上場株式等の譲渡損失の損益通算を行う場合に用いる方法です。
申告分離課税では他の所得とは別で税額の計算を行います。配当金について確定申告を行うものの、配当控除は受けられません。
配当所得の申告は不要なケースが多い
配当金にかかる税金の納税方法のうち、最も一般的なのは申告不要制度です。
配当金は所定の銀行口座に入金されますが、支払い時に源泉徴収が行われます。
そして、上場株式の配当金にかかる税率は年収等に関係なく一律です。
したがって源泉徴収が済んでいれば確定申告をする必要はありません。
ただし所得金額によっては確定申告を行い、配当控除を受けた方が税額を抑えられるケースがあります。
とはいえ、すべてのケースで配当控除を受けるのが最適とは限りません。
所得税の額を最小限に抑えるためには、自身のケースに最も適した納税方法を選ぶことが大切です。
配当控除については次の章で詳しく解説します。
配当控除によって所得税・住民税を節税できるケースがある

配当控除とは、配当所得がある場合に一定の方法で計算した額の税額控除を受けられるという制度です。
総合課税の場合のみ適用を受けられます。
配当金の源泉徴収税率は所得額に関係なく、所得税15%、住民税5%の計20%で一律です。(復興特別所得税を除く)
所得額によっては通常用いられる源泉徴収税率よりも、配当控除を反映した後の正味税率の方が低いケースがあります。
必ずしも節税につながる方法というわけではなく、所得が一定以下の場合に節税効果が期待できる仕組みといえるでしょう。
配当控除を受けられる配当所得
配当控除の適用を受けられる配当所得は以下の通りです。
- ・剰余金の配当
- ・利益の配当
- ・剰余金の分配
- ・金銭の分配
- ・証券投資信託の収益の分配
出典:国税庁公式サイト「No.1250 配当所得があるとき(配当控除)」
なお、すべて日本国内に本店がある法人から受けるものに限ります。
配当控除の対象外となる配当所得
控除の対象にならないものとして以下の例が挙げられます。
- ・基金利息
- ・国外私募公社債等運用投資信託等の配当等
- ・特定目的信託、特定目的会社、投資法人等から支払を受けるべき配当等
配当控除の計算式
控除額の計算方法はその年の所得額によって4つのパターンに分けられます。
今回はそのうち、該当する人が特に多い2つのパターンについて解説します。その他のパターンについては国税庁公式サイトをご確認ください。
その年の課税総所得金額等が1,000万円以下の場合
配当控除の額は、以下1、2の合計額です。
- 1.剰余金の配当等に係る配当所得の額×10%
- 2.証券投資信託の収益の分配金に係る配当所得の額×5%
たとえば1が60万円、2が40万円の場合、控除額は以下のようになります。
60万円×10%+40万円×5%=8万円
その年の課税総所得金額等が1,000万円超、かつ、課税総所得金額等から証券投資信託の収益の分配に係る配当所得の金額を差し引いた金額が1,000万円以下の場合
次の1~3の合計が配当控除の額となります。
- 1.剰余金の配当等に係る配当所得の額×10%
- 2.証券投資信託の収益の分配に係る配当所得の金額のうち、課税総所得金額等から1,000万円を差し引いた額(A)に相当する部分×2.5%
- 3.証券投資信託の収益の分配に係る配当所得の金額のうちAを超える部分×2.5%
1が60万円、2が30万円、3が20万円の場合、配当控除の額は以下の通りです。
60万円×10%+40万円×2.5%+20万円×2.5%=7.5万円
【注意点】配当控除は必ずしも節税につながるとは限らない

前述のように、配当控除が必ずしも節税につながるとは限りません。
節税効果を得られるのは、課税所得が695万円未満の場合のみです。
課税所得が695万円以上の場合、確定申告によって適用される税率が、源泉徴収税率である20%を上回ってしまいます。
平成27年分以後の所得税の税率は以下の通りです。
- 1,000円 から 1,949,000円まで:5%、控除額0円
- 1,950,000円 から 3,299,000円まで:10%、控除額97,500円
- 3,300,000円 から 6,949,000円まで:20%、控除額427,500円
- 6,950,000円 から 8,999,000円まで:23%、控除額636,000円
- 9,000,000円 から 17,999,000円まで:33%、控除額1,536,000円
- 以降省略
住民税の税率は所得額に関係なく一律10%です。
課税所得1,000万円以下の場合、配当控除による控除率は所得税10%、住民2.8%が適用されます。
所得が6,950,000円 から 8,999,000円までの場合、所得税率は23%となります。所得税率23%から配当控除による控除率を差し引くと、23%-10%=13%となります。
住民税は、10%-2.8%=7.2%です。
これらを合計すると13%+7.2%=20.2%となり、源泉徴収税率を上回っています。
このように所得が695万円以上の場合、源泉徴収で済ませた方が税額を抑えられるのです。
なお、以前は配当所得にかかる税金について、所得税と住民税で異なる課税方式を選択できました。
しかし令和4年度税制改正により、課税方式を一致させることが定められました。そのため、現在は異なる課税方式の設定はできません。
まとめ
配当金の納税方法は全部で3種類あり、最も一般的なのは源泉徴収で納税が完結する申告不要制度です。
しかし課税所得が695万円未満の場合、源泉徴収税率よりも配当控除適用後の正味税率の方が低くなります。
したがって総合課税を選択して配当控除を受けた方が納税額を抑えられ、節税につながります。
一方、課税所得が695万円以上の場合は確定申告をするメリットがないといえるでしょう。
配当控除の仕組みを理解した上で、源泉徴収と配当控除どちらの方が税額を抑えられるか検討しましょう。
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記事監修
BIZARQ株式会社代表公認会計士