サラリーマンをはじめとした給与所得者は、個人事業主のように収入から経費を引いて所得を計算するわけではありません。
しかし給与所得者にも、仕事のための支出が高額な場合には収入から一定額を控除できる仕組みが存在します。この仕組みが「特定支出控除」です。
サラリーマンのスーツも、金額や要件によっては特定支出控除の対象になる可能性があります。
ただし特定支出控除は要件が厳しいため、必ずしも適用対象になるとは限らない点に注意が必要です。
今回は特定支出控除について詳しく解説します。
会社員が個人でできる節税対策については以下の記事をご覧ください。
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CONTENTS
特定支出控除とは
特定支出とは、サラリーマンをはじめとした給与所得者が行う支出のうち仕事に必要と認められる経費を指します。
特定支出控除とは、特定支出が給与所得控除額の2分の1相当を超える場合に、超過部分を所得から差し引ける制度です。
サラリーマンには収入から経費を差し引く仕組みがありませんが、仕事に必要な支出は発生し得ます。
そのような支出を考慮し、給与所得控除の制度が適用されます。
サラリーマンは必要経費等を差し引くことができない分、給与所得控除を差し引いた額を所得として扱うイメージです。
そして給与所得控除として差し引ける額よりも特定支出が大きい場合には、給与所得控除とは別に特定支出控除も認められているのです。
特定支出控除の対象になる支出の例
特定支出に該当する費用として以下の例が挙げられます。
- 1.通勤費
- 2.職務上の旅費(取引先への訪問や出張にかかる交通費など)
3.転勤に伴う転居にかかる支出 - 4.研修費
- 5.資格取得費
- 6.単身赴任などの場合に、勤務地や居所と自宅の間の旅行のために必要な支出(帰宅旅費)
- 7.勤務必要経費に該当する以下の支出(上限65万円)
- ・図書費
- ・衣服費
- ・交際費等
サラリーマンのスーツは7の勤務必要経費に含まれる「衣服費」に該当する可能性があります。
ここでいう衣服費とは、勤務場所において着用が必要とされる服の購入費です。
仕事でスーツの着用が義務付けられており、スーツ以外の服での勤務が認められていない場合は特定支出に含められる可能性があります。
特定支出控除の計算方法の具体例
前述のように、特定支出のトータルのうち、給与所得控除額の2分の1超の部分が控除額になります。
今回は以下2つの例を用いて控除額の計算方法を紹介します。
- 1.給与収入600万円、特定支出80万円の場合
- 2.給与収入600万円、特定支出130万円の場合
まずは「1.給与収入600万円、特定支出80万円の場合」です。
制度の適用を受けられるか判定するため、特定支出が給与所得控除額の2分の1超であるかを確認する必要があります。
給与収入600万円の場合、給与所得控除の計算式は「収入金額×20%+440,000円」です。
この式に当てはめて計算すると、600万円×20%+440,000円=164万円となります。
給与所得控除額の2分の1は164万円÷2=82万円、すなわち特定支出を上回ります。
したがって今回の例では控除は受けられません。
続いて「2.給与収入600万円、特定支出130万円の場合」を計算します。
給与収入は1と同額のため、給与所得控除も同額の164万円、給与所得控除額の2分の1相当額は82万円となります。
給与所得控除額の2分の1である82万円よりも特定支出130万円の方が高額のため、今回のケースでは控除制度の適用が可能です。
当該ケースでは、130万円-82万円=48万円が控除額となります。
特定支出控除の適用を受けるための手続き
特定支出控除は年末調整では対応できないため、制度を利用するには確定申告が必要です。
また、確定申告書に以下の書類を添付する必要があります。
- ・給与所得者の特定支出に関する明細書
- ・給与の支払者(またはキャリアコンサルタント)による証明書
給与収入や各種控除額、納付済みの所得税額等を確認するために源泉徴収票も必要です。
所得税の確定申告書の提出期間は2月16日から3月15日です。
3月15日が土日祝の場合は翌平日が期日となります。
特定支出控除に関する注意点
特定支出控除に関する注意点を4つ紹介します。
仕事のために直接必要な支出であると証明が必要
特定支出控除の適用を受けるためには、当該支出が仕事のために直接必要なものであることを示す必要があります。
特定支出に該当する旨を証明するためには、給与の支払者またはキャリアコンサルタントによる証明書が必要です。
証明書の添付をしなければ控除の適用を受けられません。
証明書の様式については、国税庁公式サイト「No.1415 給与所得者の特定支出控除」の関連リンクをご確認ください。
特定支出控除について独立した記載欄は存在しない
確定申告書の控除欄には特定支出控除の欄は存在しません。
給与所得の欄に特定支出控除適用後の金額を記載する必要があります。
「特定支出控除の計算方法の具体例」で挙げた具体例の条件は以下の通りでした。
- ・給与収入:600万円
- ・特定支出:130万円
- ・給与所得控除:164万円
- ・特定支出控除の額:130万円-82万円(給与所得控除の半分)=48万円
この場合、給与所得の欄には以下の金額を書くことになります。
600万円-164万円-48万円=388万円
スーツなどの衣服費は要件が厳しい
特定支出に該当する費用には衣服費も含まれると紹介しました。
しかしサラリーマンのスーツなどの衣服費は、要件を満たすのが容易ではありません。
サラリーマンのスーツは、会社でスーツ着用が義務付けられており、その事実が証明された場合のみ計算に含められます。
必ずしもスーツ着用が義務付けられているわけではない場合は控除対象外になってしまう恐れがあります。
スーツの着用があくまでも慣習的なものであり、ルール上は私服勤務で問題ないケースについても、特定支出に含めるのは難しいでしょう。
また、プライベートでも使用する服も特定支出には含められません。
サラリーマンであっても、仕事以外でもスーツを着用する場合には対象外となります。
スーツに限らず、仕事での着用が義務付けられており、プライベートでは一切使用しない衣服費のみが特定支出として認められます。
特定支出控除を節税対策に使うのは難しい
もし特定支出控除の要件を満たしているのであれば、当然制度の適用を受けるべきでしょう。
しかし、節税目的で特定支出控除を活用するために、要件を満たす行為を意図的に行うのはおすすめしません。
特定支出控除が節税対策には適さない理由として以下の4つが挙げられます。
- ・特定支出に該当する費用の要件が厳しい
- ・特定支出が給与所得控除の2分の1を超えた場合のみ利用できる制度であり、金額のハードルが高い
- ・給与支払者による証明が必要
- ・要件が厳しく手間がかかるわりに節税効果がそれほど大きくない
制度の適用を受けるために意図的に支出を増やしても、仕事に必要な費用として認められず、控除を受けられない可能性があります。
また、思うような節税効果を得られず「他の節税対策を優先するべきだった」という結果になる恐れもあるでしょう。
「有用な節税対策」と考えるのではなく、あくまでも「特定支出控除という制度が存在する」程度に押さえておくのがおすすめです。
まとめ
特定支出控除とは、サラリーマンなどの給与所得者の特定支出が一定額を超える場合に利用できる制度です。
仕事に直接必要な支出が特定支出に該当します。
サラリーマンのスーツをはじめ、さまざまな支出が特定支出として認められます。
特定支出控除の適用を受けるには確定申告が必要です。
確定申告書とあわせて、特定支出に関する明細書、給与の支払者またはキャリアコンサルタントによる証明書を提出する必要があります。
また、特定支出控除は適用のハードルが高く、節税目的で利用するのは非常に難しい制度です。
要件を満たしている場合は当然適用を受けるべきですが、要件を満たそうと意図的に支出を増やすのはおすすめしません。
特定支出控除を正しく活用するために、制度について理解を深めましょう。
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BIZARQ株式会社代表公認会計士