キャプティブとは、特定の企業およびグループのリスクのみを専門に引き受ける保険会社です。
法的なルールにより日本国内に設立することは困難なため、海外に設立することになります。
キャプティブ運営の進め方や制度の活用によっては節税効果を得られる可能性があります。
ただし、キャプティブの目的はあくまでもリスク管理であり、節税を目的に設立するべきではありません。
メリットと注意点をしっかり押さえた上で設立を検討しましょう。
今回はキャプティブの仕組みやメリット、注意点について詳しく解説します。
キャプティブ運営で注意するべき事項の1つがタックスヘイブンです。
タックスヘイブンについては以下の記事をご覧ください。
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CONTENTS
キャプティブとは
キャプティブとは自社の専属保険子会社を意味する言葉です。
特定の企業およびグループのリスクのみを専門的に引き受ける保険会社を指します。
キャプティブの仕組み
キャプティブは大きく2パターンに分けられます。それぞれの仕組みについて詳しく解説します。
元受けキャプティブ
元受けキャプティブの大まかな仕組みは以下の通りです。
- 1.親会社から直接リスクを引き受ける
- 2.1で引き受けたうちの一部を自社のリスクとして内部保有し、残りを再保険マーケットに転嫁する
一部の国では再保険マーケットの処理コストが日本よりも安いため、コストの差額分が発生します。
コストの差額・再保険手数料・リスクの内部保有分が内部留保となります。
ただし現行の法律上、元受けキャプティブを設立するのはほぼ不可能です。詳しくは「日本国内におけるキャプティブの実情」で解説します。
再保険キャプティブ
再保険キャプティブの大まかな仕組みを紹介します。
- 1.親会社から同一国内にある保険会社にリスクを引き受けてもらう
- 2.1の保険会社がキャプティブに対して出再する
- 3.リスクの一部を自己保有し、残りを再々保険マーケットに転嫁する
現在設立されているキャプティブのほとんどは再保険キャプティブに該当します。
日本国内におけるキャプティブの実情
日本の保険業法上、日本国内に特定の企業およびグループのリスクのみを専門的に引き受ける保険会社を設立するのは困難です。
そのためキャプティブは海外に設立することになります。
しかし、海外の会社が日本企業のリスクを直接引き受けることも認められていません。
したがって、親会社のリスクを直接引き受ける仕組みである元受けキャプティブを設立するのは事実上不可能です。
以上の理由から、設立されるキャプティブのほとんどは再保険キャプティブに該当します。
日本で認可を受けている保険会社を通じて、海外キャプティブにリスクを転嫁するパターンが一般的です。
なお、キャプティブはキャプティブ制度が整備された国や地域に設立する必要があります。
設立に適した国として以下の例が挙げられます。
- ・バミューダ
- ・ケイマン
- ・ミクロネシア
- ・ラブアン島(マレーシア)
- ・ハワイ
- ・アメリカバーモント州
キャプティブは節税になる?
結論として、キャプティブによって節税効果を得られる可能性はあるものの、節税目的で設立するのはおすすめしません。
以下のような方法によりキャプティブ運営で節税効果を得られる可能性があります。
- ・タックスヘイブンに設立する
- ・外国子会社配当益金不算入制度を活用し、海外キャプティブから受ける配当金を益金不算入にする
また、キャプティブの設立に適した国として紹介したハワイ島は、年間220万ドルまでの保険料収入は非課税になります。
そのためハワイ島に設立すれば、結果として大きな節税効果を得られる可能性があるのも事実です。
ただし、キャプティブの目的はあくまでもリスク管理であり、節税を第一の目的にするべきではありません。
経済実体がないと判断されてしまえばタックスヘイブン対策税制の対象になり、かえって損失が増える恐れもあります。
そもそも設立や運営にかかるコストを考慮すると、節税効果を超え、大きな損失が発生するケースもあるでしょう。
なおタックスヘイブンとは、法人税や所得税等の税率が低い国および地域の総称です。
タックスヘイブン現地の税制が適用されれば、日本国内で事業を営む場合に比べて税額を大幅に抑えられます。
しかし、タックスヘイブンに設立した会社に事業実態がないとみなされた場合、当該現地法人の所得には日本の税制が適用されます。
タックスヘイブンの仕組みやタックスヘイブン税制については以下の記事をご覧ください。
キャプティブのメリット3選
キャプティブを設立するメリットを3つ紹介します。
適切なリスクヘッジが可能になる
キャプティブ設立による大きなメリットが、適切なリスクヘッジが可能になることです。
海外の再保険キャプティブに対して出再する性質上、キャプティブから世界の保険市場にアクセス可能になります。
そのため、一般の保険会社では引き受け困難なリスクについてもリスクヘッジができるようになります。
また、再保険市場への参入によりリスクの分散ができる点も大きなメリットです。
保険会社のノウハウを蓄積できる
キャプティブの運営を通じて自社内・自社グループ内に保険会社のノウハウを蓄積できます。
得られるノウハウとして以下の例が挙げられます。
- ・保険法や独占禁止法などの法律関連
- ・世界の保険市場に関する常識やトレンド
- ・保険料の相場、水準
ただし、キャプティブを運営するだけで自然にノウハウが得られるわけではありません。
能動的な情報収集や専門家・元受保険会社との十分なコミュニケーションにより、結果としてノウハウが蓄積されるイメージです。
キャッシュフロー向上の効果がある
キャプティブの運営によりキャッシュフロー向上の効果も期待できます。
海外子会社であるキャプティブの運営によって「外国子会社配当益金不算入制度」を活用できるためです。
外国子会社配当益金不算入制度とは、海外子会社から受け取る配当の95%が益金不算入になる制度です。
キャプティブでは以下のようなお金の流れが起こります。
- 1.日本の親会社から元受保険会社に保険料を払う
- 2.元受保険会社からキャプティブに保険料を払い、保険リスクの一部を転嫁する
- 3.キャプティブから親会社に配当を支払う
- 4.3の配当に当該制度を適用する
実質的にはキャッシュの一部が戻ってくる仕組みといえます。
国内で取引を完結させる場合よりもキャッシュフローが向上するでしょう。
キャプティブの注意点3選
最後に、キャプティブの注意点を3つ紹介します。
元受保険会社との協力が必須
キャプティブを運営するには元受保険会社による協力が必須です。
したがって、まずは親会社と元受保険会社との交渉が必要になります。
また、設立したキャプティブと元受保険会社が良好かつ密接な関係を築くことも求められます。
元受保険会社との協力体制を維持するため、綿密なコミュニケーションが必要な点を押さえておきましょう。
キャプティブ設立に高額の費用がかかる
キャプティブ設立には高額の費用がかかります。
前述のようにキャプティブは海外に設立します。そのため、海外での会社設立に詳しい専門家のサポートが必須です。
キャプティブという特殊な事業である以上、保険業界に精通した弁護士によるコンサルティングも必要でしょう。
当然、会社設立の法定費用や資本金も必要となります。
キャプティブ設立にはコンサルティング費用を含め数百万から数千万といった多額の費用がかかるため、設立ハードルが非常に高いです。
税制変更や法改正により支障が出る恐れがある
現行制度において、海外に再保険キャプティブを設立する方法であればキャプティブ運営が可能です。
しかし今後、税制変更や法改正により支障が出る恐れはあります。
日本国内だけでなく、キャプティブを設立した現地の法制度が変わる可能性もあるでしょう。
現在のキャプティブ運営スキームは、あくまでも現行制度ありきの内容です。
税制変更や法改正による影響を受けやすい点をあらかじめ認識しておく必要があります。
まとめ
キャプティブとは、特定の企業およびグループのリスクのみを専門に引き受ける保険会社です。
現行制度上、日本国内にキャプティブを設立するのはほぼ不可能です。
また、海外に元受けキャプティブを設立することもできないため、海外に再保険キャプティブを設立するのが一般的となります。
キャプティブ運営には、適切なリスクヘッジが可能になる・キャッシュフローが向上する等のメリットがあります。
一方で元受保険会社との協力が必須・設立までに多額の費用がかかる・税制変更や法改正により支障が出る恐れがある点に注意が必要です。
キャプティブの仕組みを理解し、メリット・デメリットを把握した上で、キャプティブ設立を検討しましょう。
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記事監修
BIZARQ株式会社代表公認会計士