
2025年度の税制改正大綱で、iDeCoをはじめとした確定拠出年金を一時金で受け取る場合のルールに関する大幅な変更が加わりました。
従来はiDeCoと会社からの退職金の両方を受け取る場合に、少し工夫すれば両方で退職所得控除の満額適用が可能でした。
しかし今回の税制改正により両方で退職所得控除の満額適用を受けるのが難しくなったため、退職金の手取り額が減少すると考えられます。
今回の変更はiDeCoの税制メリットの減少と捉えられるため、iDeCo改悪といわれているのです。
本記事ではiDeCo改悪といわれる理由や今回の変更による影響がある人、今後のiDeCo活用方法について解説します。
iDeCoの概要については以下の記事をご覧ください。
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CONTENTS
iDeCo改悪といわれる理由

iDeCo改悪といわれるのは、iDeCoと退職金の両方で退職所得控除の満額適用を受けるための受給間隔が延びたためです。
以前は5年でしたが、2025年度の税制改正大綱により10年に変更となりました。
受給間隔に関するルールは「10年ルール」と呼ばれます。
10年ルールの仕組み
本来、iDeCoなどの確定拠出年金と会社からの退職金を同時に受け取る場合、退職所得控除は一方にしか適用されません。
ただし、これまではiDeCoを受け取ってから5年以上が経過した後に会社の退職金を受け取る場合はiDeCoと退職金の両方で退職所得控除の適用が可能でした。
この仕組みは5年ルールと呼ばれています。
5年ルールであれば、iDeCoを60歳の時点で一時金として受け取り、会社からの退職一時金は65歳の時点で受け取る方法が可能です。
近年は65歳定年も主流となっており、会社からの退職一時金を65歳で受け取るのは一般的といえます。
そのため5年ルールであれば、多くの人が問題なくiDeCoと退職金の両方で退職所得控除の満額適用をできました。
しかし、前述のように税制改正により5年ルールから10年ルールへ変更されました。
iDeCoと退職金の両方で退職所得控除の適用を受けるためには、iDeCoを受け取ってから退職金を受け取るまでに10年以上の期間が必要です。
iDeCoを60歳の時点で受け取る場合、退職所得控除の満額適用を受けるには会社の退職を70歳まで遅らせる必要があるのです。
退職所得控除の仕組みについては以下の記事で解説しています。
【参考】19年ルールとの違い
iDeCoには5年ルールや10年ルールだけでなく、19年ルールと呼ばれる仕組みも存在します。
19年ルールは先に会社の退職金を受け取り、iDeCoを後から受け取る場合に適用される仕組みです。
会社の退職金を受け取ってからiDeCoを受け取るまでの期間が19年以内の場合、退職所得控除に調整がかけられます。
iDeCoの受け取りよりも前の19年間で会社から退職金を受け取っている場合、重複する期間分の退職所得控除を受けられません。
iDeCoと退職金の両方で退職所得控除の満額適用を受けるためには、退職金受け取りから19年以上経過した後にiDeCoを受け取る必要があります。
5年ルール・10年ルールと19年ルールはいずれも、重複している期間がある場合に退職所得控除の調整がかかる制度です。
いずれも退職所得控除の二重適用を防ぐ目的で導入されています。
まとめると、5年ルール・10年ルールは先にiDeCoなどの確定拠出年金を受け取り、後に会社からの退職金を受け取った場合に適用される仕組みです。
19年ルールは反対に、先に会社からの退職金を受け取り後にiDeCo等を受け取った場合に適用されます。
iDeCoの改悪による影響を受ける人・受けない人とは

今回の税制改正によりiDeCo改悪という意見は多くみられます。
ただし、iDeCoに加入している人のすべてが10年ルールへの変更による影響を受けるわけではありません。
この章では10年ルールへの変更による影響を受ける人・受けない人について詳しく解説します。
10年ルールへの変更による影響がある人
10年ルールへの変更による影響がある人として以下2つのパターンが挙げられます。
会社からの退職金が多い人
会社から支給される退職一時金が多いほど、退職所得控除の有無による税額の違いも大きくなります。
10年ルールへの変更によりiDeCoと退職一時金の両方で退職所得控除を受けるのが難しくなれば、税額が大幅に増加する可能性が高いです。
会社から受け取る退職金の時期をずらせない人
60歳定年または65歳定年で退職金を受け取ることが確定している場合も、iDeCoと退職金の両方における退職所得控除の適用ができません。
従来の5年ルールと比較すると、税額が増大する可能性が高いでしょう。
iDeCo改悪による影響がない人
以下のいずれかに該当する人はiDeCo改悪による影響を受けません。
- ・勤め先の会社に退職金の制度が存在しない
- ・勤続年数等の理由から、勤め先で退職金を受け取る要件を満たしていない
- ・iDeCoまたは会社からの退職金を公的年金として受け取る
10年ルールはiDeCoと会社からの退職金の両方を一時金として受け取る場合に関係する制度です。
年金として受けとる場合は退職所得控除の概念が関係しないため、10年ルールへの改悪による影響もゼロになります。
iDeCoを上手く活用するための方法

従来は節税面を含む様々なメリットから、iDeCoと会社からの退職金の両方を一時金として受け取る方法が一般的でした。
しかし10年ルールへの変更により、一時金としての受け取りが最善ではないケースが増えると考えられます。
この章ではiDeCoを上手く活用するための方法を2つ紹介します。
年金として受け取る
会社からの退職金が高額な人や、将来受け取る年金が少ないと予想される人は、iDeCoを年金として受け取るのが良いでしょう。
年金として受け取れば公的年金等控除が適用され、税額を抑えられる可能性があります。
年金にかかる税金については以下の記事をご覧ください。
受け取り方を一時金と年金の併用にする
iDeCoの受け取り方として一時金と年金の併用も可能です。
受給額によっては受け取り方を併用した方が税額を抑えられる可能性もあります。
どの方法が最も税額を抑えられるかはケースによって異なるため一概にはいえません。
事前にシミュレーションをした上で、自分に合う方法を選びましょう。
改悪だけじゃない?iDeCoの変更点

税制改正によるiDeCoの変更点は10年ルールの導入だけではありません。
iDeCoの改正点には3つのポイントがあり、そのうち2つは改善と呼べるものです。
この章ではiDeCoの改善と呼べる2つの変更点について解説します。
掛金上限額の引き上げ
改善点の1つが掛金上限額の引き上げです。
これまでのルールでは、第2号被保険者のiDeCo掛金の上限は月額2万円または2.3万円でした。
税制改正により、上限額が月6.2万円と大幅な増額となっています。
(企業型DCとの合計)
なお自営業者やフリーランスなど第1号被保険者の場合、国民年金基金との共通枠で上限7.5万円です。
第1号被保険者の従来の上限額は月額6.8万円だったため、こちらも大幅な増加といえます。
iDeCoの掛金は全額所得控除の対象です。
そのため拠出できる掛金の額が増えるほど節税効果も大きくなります。
参考:厚生労働省「令和7年度 税制改正の概要(厚生労働省関係)」
加入対象者の拡大
もう1つの変更点が加入対象者の拡大です。
税制改正により、新たに以下の要件を満たす人もiDeCoの加入対象になりました。
- ・60歳以上70歳未満である
- ・以下のいずれかに該当する
- ・iDeCoの加入者または指図者であった
- ・私的年金の資産をiDeCoに移換でき、老齢基礎年金やiDeCoの老齢年金を受給していない
60歳になった後もiDeCoを継続することや、60歳になってからiDeCoに加入することも可能になったのです。
まとめ
iDeCo改悪といわれる理由は、iDeCoと退職金の両方で退職所得控除の満額適用を受けるための受給間隔が延びたためです。
これまではiDeCoの一時金受け取りから5年以上の期間をあければ、会社からの退職一時金でも退職所得控除の満額適用が可能でした。
しかし、今回の変更により受給間隔が5年から10年に延びたため、iDeCoと退職金の両方で退職所得控除を適用するのが難しくなります。
以前までのルールに比べて税制メリットが小さくなったため、改悪といわれるのです。
ただし、iDeCo加入者の全員が10年ルールへの変更による影響を受けるわけではありません。
また、iDeCoを年金受け取りにする等、10年ルールによる影響を抑えるための対策も存在します。
iDeCoのメリットを最大限に活かすためには、制度について理解を深め、自身に合った活用方法を実施することが大切です。
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記事監修
BIZARQ株式会社代表公認会計士