財務デューデリジェンスとは、M&Aにおいて、売り手側企業の財務・会計面に関して詳細に把握するために行う調査です。
収益性やキャッシュフロー安定性、財務的安定性などのさまざまな項目を分析されます。
財務デューデリジェンスはM&Aを成功させるために欠かせない重要な工程です。
重要な工程だからこそ、ただ専門家に任せきりにするのではなく、財務デューデリジェンスの目的や大まかな流れは事前に知っておくべきといえます。
今回は財務デューデリジェンスについて詳しく解説します。
M&Aでの起業については、以下の記事をご覧ください。
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CONTENTS
財務デューデリジェンスとは
財務デューデリジェンスとは、M&Aにおいて、売り手側企業の財務・会計面に関して詳細に把握するために行う調査です。財務DDと表記されるケースも多くみられます。
売り手側企業の財務状況や財務リスクを把握するために行います。
財務デューデリジェンスの目的
財務デューデリジェンスは、売り手側企業の財務・会計面に関して詳細に把握するために行う調査と紹介しました。
ここではより具体的に、財務デューデリジェンスの目的、すなわち財務・会計面の詳細な把握が必要とされる理由を3つ紹介します。
適切な企業価値を算定するため
財務諸表だけでは簿外債務の存在や正常収益力を把握できません。
そのため財務デューデリジェンスを行い適切な企業価値を算定する必要があります。
財務デューデリジェンスによって企業価値を明確にした上で、契約条件や買収価額を決定するのが一般的です。
財務リスクを洗い出すため
財務デューデリジェンスは以下のような財務リスクを洗い出す目的もあります。
- ・未払残業代や訴訟リスクなどの簿外債務
- ・契約上不利となるような条件
- ・不正会計や粉飾決算のリスク
- ・脱税やの納税漏れの有無
- ・そのほか買収後に悪影響を及ぼす恐れのある事項
買収後のスムーズな利益向上を実現するため
財務デューデリジェンスによって財務・会計面の細かな調査を行えば、以下のような事項も把握・予測できるようになります。
- ・買収後に必要となる設備投資
- ・平均的な運転資金の額、季節変動の有無や大きさ
- ・売上高の水準やEBITDA
M&Aそのものだけでなく、買収後の事業計画を立て、スムーズな利益向上を実現するためにも必要な作業です。
EBITAとは
「Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization」の略で、日本語では「利息・税金・減価償却前利益」と訳されます。
企業の本業の収益力を評価するための指標で、利息、税金、減価償却費を除外して利益を計算します。経常的な営業活動から得られる利益を示すため、事業の比較や評価に使われます。
財務デューデリジェンスの主な分析内容
財務デューデリジェンスの主な分析内容を5つ紹介します。
収益性
財務デューデリジェンスにおける収益性の分析は、経常的・実質的な収益力を判断するために行います。
収益性分析で特に重要なポイントが以下の2つです。
- ・正常収益力を判断するため、売上高やEBITDAから例外的な取引や営業外項目を排除する
- ・過去の業績推移や事業計画との整合性をチェックする
本業とは無関係の例外的な取引による損益や、会計・税務処理の誤りを是正した上での収益力を明確にできます。
運転資本(キャッシュフロー安定性)
売り手側企業のキャッシュフローが安定的に回っているかを確認するために、営業活動に投下されている資本の分析を行います。
主な分析対象は以下の通りです。
- ・売上債権
- ・棚卸資産
- ・仕入債務
- ・そのほかの流動資産および流動負債
運転資本分析は、主に倒産のリスクを精査する目的で行われます。
成長性・投資計画
成長性・投資計画は設備投資分析と呼ばれることもあります。
主な分析対象は以下の通りです。
- ・過去の設備投資額
- ・事業計画
- ・設備の保守および改良投資の周期
売り手企業で行われた過去の設備投資の内容や、設備投資を回収できているか等を把握するために行います。
投資に対する姿勢を把握し将来の成長性を検討するために必須の分析です。
財務的安定性
財務的安定性の分析はネットデット(Net Debt)分析とも呼ばれます。
売り手企業が抱えている有利子負債と将来的な支出・損失などの合計と、現金および現金同等物との差額を分析し、財務的な安定性を検証します。
その他リスクの有無
その他のリスクとして、簿外債務や偶発債務と呼ばれるものの有無の洗い出しを行います。
簿外債務・偶発債務の具体例は以下の通りです。
- ・減損のリスク
- ・簿価と時価で差異がある項目の有無および差異の大きさ
- ・訴訟リスク
- ・M&A後ののれん計上額
財務デューデリジェンスの費用相場
財務デューデリジェンスは公認会計士や監査法人をはじめとした専門家に依頼するのが一般的です。
作業単価×作業時間で計算するケースが多く、規模が大きくなるにつれ高額になる仕組みとなります。
1時間あたりの作業単価は、中小規模の会計事務所であれば1~2万円、大手事務所や専門性が必要な内容の場合は2~5万円が相場です。
合計額で考えると、中規模であれば数十万~数百万円、大規模な会社の場合は1,000万円を超えるケースもあります。
財務デューデリジェンスの流れ
財務デューデリジェンスの流れを5つの工程に分けて解説します。
依頼先の選定・依頼をする
財務デューデリジェンスの主な依頼先は公認会計士や監査法人などの専門家です。
一口に公認会計士・監査法人といっても得意分野が異なるため、自社に適した依頼先を選ぶ必要があります。
依頼先の選定に際してチェックしたい要素として以下の例が挙げられます。
- ・M&A経験の有無や実績
- ・得意とする業界や規模感
- ・費用感
具体的な調査範囲を決定する
続いて、財務デューデリジェンスにおける具体的な調査範囲を決定します。
売り手企業についてなるべく正確な情報を把握するためには、調査範囲を広げるのが理想です。
しかし範囲を広げすぎてしまうと、時間や費用がかかる・自社にとって不要な情報まで集めてしまう恐れがあります。
そのため調査範囲はある程度絞り込むことが大切です。
調査範囲を決定する際のポイントとして以下の3つが挙げられます。
- ・過去何年分を調査対象とするかを決める
- ・M&Aの目的から逆算して調査項目を決める
- ・予算も考慮して考える
調査に必要な資料の準備や請求をする
調査範囲が決定したら、調査に必要な資料の準備や請求をします。
まずは必要な資料を明確にしましょう。リスト化すると書類の不足がないか確認しやすく便利です。
その後請求した資料が手に入ったら具体的な調査や分析作業の開始となります。
一度の請求で必要な情報がすべて揃わなかった場合は、再度必要な資料の洗い出しおよび請求をする必要があります。
資料のレイアウトやルールは企業によって異なるため、分析に時間がかかるケースも多いです。
見方がわからない資料や、内容に疑問・不明点がある場合は、売り手企業に質問をする必要があります。
必要に応じて経営陣へのヒアリングを行う
資料の調査だけでは把握しきれない情報がある場合は経営陣へのヒアリングも必要です。
経営陣へのヒアリングで質問する内容として以下の例が挙げられます。
- ・資料を用いた調査結果の深掘り
- ・企業の方向性
- ・財務に関する考え方や戦略
- ・帳簿上では把握できないリスクについて
- ・市場状況
なお経営陣へのヒアリングは、法務やビジネスなどほかのデューデリジェンスとあわせて行うケースも多いです。
結果報告・M&Aを実施するかを判断する
調査がすべて終了したら、依頼した専門家によって財務デューデリジェンスの報告書が作成されます。
報告内容をもとにM&Aを実施するか改めて検討し、最終的な判断を行います。
まとめ
財務デューデリジェンスはM&Aにおいて、売り手企業の財務・会計面を詳細に把握するために行う調査です。
収益性やキャッシュフロー安定性など、さまざまな面から細かな調査を行います。
財務デューデリジェンスには高度な知識が必要なため、公認会計士や監査法人などの専門家に依頼するのが一般的です。
財務デューデリジェンスはM&Aにおいて重要な作業である上、コストや時間がかかります。
そのため、M&Aの目的を明確にした上で自社に適した依頼先を選ぶ必要があります。
また、依頼する専門家に任せきりにするだけではなく、自身も財務デューデリジェンスについて基本事項を押さえておくことが大切です。
納得のいくM&Aを実現するために、今回紹介した内容を押さえて適切な財務デューデリジェンスを行いましょう。
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記事監修
BIZARQ株式会社代表公認会計士