個人事業主から法人成りをする場合、個人事業主として使っていた資産をそのまま継続して使うことはできません。
個人の資産を設立した会社でも使う場合は、個人から法人へ資産引継ぎをする必要があります。
資産引継ぎの方法には複数の選択肢があり、資産によって適した方法が異なります。
引き継ぐ資産を明確にした上で、資産の種類に適した方法で引き継ぐことが大切です。
今回は法人成りをする際の資産引継ぎについて詳しく解説します。
法人成りに適したタイミングについては以下の記事をご覧ください。
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CONTENTS
法人成りの資産引継ぎ方法
法人成りをする場合、個人事業主として使っていた資産をそのまま継続して使うことはできません。
個人と法人は別人格のため、設立した会社と個人事業主も全く別の存在として扱う必要があります。
個人事業主の資産を法人でも使う場合、個人から法人へ資産引継ぎをする必要があります。
資産引継ぎで用いられる方法は主に4種類です。それぞれ詳しく解説します。
売買契約
元の所有者である個人から設立する会社に対して資産を売却する方法です。「譲渡」とも呼ばれます。
売買契約により資産引継ぎを行う場合、対象の資産の所有権は法人側に移転します。
個人と法人との間で売買契約を交わすのみのシンプルな手続きで済む点がメリットです。
ただし、売却によって譲渡所得が発生した場合、個人には譲渡所得税が課されます。
譲渡所得に関する確定申告が必要な点は手間といえるでしょう。
また法人側は、資産を買い取るためのまとまった資金が必要です。
賃貸借契約
個人から法人に対して資産を貸し出す方法です。
資産引継ぎの方法の一種と扱われますが、所有者は個人事業主のままとなります。法人は個人に賃借料を支払って資産を使います。
賃貸借契約は、不動産のような売却に手間やコストがかかる資産に対して用いられるケースが多いです。
名義変更のような手続きをしなくても資産を使える点が大きなメリットです。
一方、貸主である個人事業主には賃貸料という所得が発生するため、毎年確定申告が必要な点がデメリットといえます。
贈与
新たに設立した会社に対して、資産を無償で譲渡する方法です。
贈与の大きなメリットは、資産の引継ぎに際して法人側で購入資金を用意する必要がない点です。
会社設立の直後は開業費として様々な支出が発生するため、贈与で金銭的な負担を抑えるのも1つの手段といえます。
ただし、個人から法人に対する無償譲渡は「みなし譲渡」として扱われます。
みなし譲渡とは、資産を無償もしくは著しく低額で譲渡した場合に、時価で譲渡したとみなして課税されるルールです。
同ルールが存在する以上、実際には金銭の動きがなくても、個人・法人それぞれ課税が発生するため注意が必要です。
みなし譲渡については次の章でも詳しく解説します。
現物出資
金銭以外の財産を出資に充てることです。
個人から法人に引き継ぎたい資産を出資に充てれば、出資と資産引継ぎを同時に実施できます。
契約書の作成が必要ない、会社側で購入資金を用意する必要がない等のメリットがあります。
ただし以下の点に注意が必要です。
- ・資本金として計上されている額と保有する金銭の額に差が生じる
- ・定款への記載事項が増えるため、通常よりも定款作成に時間がかかる
- ・財産の合計額や性質によっては裁判所が選任した検査役による調査が必要
法人成りの資産引継ぎにおけるポイントと注意点
法人成りの資産引継ぎにおけるポイントと注意点を5つ紹介します。
引き継ぐ資産の選別が必要
資産引継ぎを実行する前に、設立する会社へ引き継ぐ資産の選別が必要です。
個人事業主の資産すべてを引き継ぐべきとは限りません。状況によっては個人で処分する方が適しているケースもあります。
たとえば老朽化がみられる固定資産を引き継いでも、その後使用する期間はあまり長くないと考えられるでしょう。
短期間しか使用しない資産のために契約手続きや固定資産台帳への記録を行うのは、得られる資産価値に対して労力が大きすぎるといえます。
また、売掛金や買掛金のような債権・債務は取引先への同意等が必要で手間がかかるため、引き継がないケースが多いです。
すべての資産を引き継ごうとすると必要以上の手間となってしまう恐れがあります。
必要最低限の労力で済むよう、どの資産を引き継ぐか決めましょう。
引継ぎできない資産に注意
個人事業主として使用している財産のすべてが法人に引き継げるわけではありません。
引き継ぐ資産を選別すると同時に、そもそもどの資産を引き継げるかの把握も必要です。
たとえば個人名義で賃貸借契約をしている資産は、あくまで業者と個人事業主の契約に基づくものです。
契約の名義人を勝手に変えることはできないため、法人で改めて契約しなおす必要があります。
また個人で許認可を取得している場合でも、法人で取り直しが必要です。
資産の種類によって適した引継ぎ方法が異なる
資産引継ぎには複数の方法がありますが、資産の種類によって適した方法が異なります。
棚卸資産
商品や製品などは売買契約が一般的です。
基本的に通常の売買価額で取引をします。ただし通常の取引価額の70%程度までの値下げは可能です。
減価償却資産
棚卸資産と同様、自動車や工具器具備品などの減価償却資産も売買契約に基づいて引き継ぐのが一般的です。
原則として時価で譲渡する必要があります。時価は固定資産税評価額や市場価格等を参考にします。
時価が不明な場合は簿価による譲渡も可能です。
なお資産が高額で買い取り資金を確保するのが難しい場合、賃貸借契約を締結するケースもあります。
不動産
土地や建物などの不動産は売買契約および賃貸借契約による引継ぎが一般的です。
不動産に対しては賃貸借契約も多く選ばれる理由として、以下の4つが挙げられます。
- ・所有権移転登記の手間がかからずに済むため
- ・譲渡では取引価額が高額になりやすく、税負担が重くなる恐れがあるため
- ・買い取り資金を用意する必要がなく、金銭的な負担を抑えられるため
- ・不動産取得税や登記費用などのコストがかからずに済むため
負債
買掛金や借入金等の負債も引継ぎ可能ですが、手続きが煩雑なため引継ぎ対象としないケースが多くみられます。
また、そもそも契約者の変更ができず法人への引継ぎが認められないケースもあります。
法人成りの前に返済を済ませ、新たに設立する会社には負債を引き継がないのが理想です。
どうしても負債を返済しきれない場合、債権者に相談し手続きを行う必要があります。
資産の譲渡によって消費税が課される可能性がある
個人事業主が消費税の課税事業者であり、資産を売買契約によって引き継いだ場合、譲渡価額に対して消費税が課されます。
取引額によっては想定よりも消費税が高額になってしまう恐れがあるため注意が必要です。
なお、消費税の免税事業者であれば資産譲渡による消費税の支払い義務は生じません。
個人事業主が消費税の課税事業者になる要件については以下の記事をご覧ください。
無償や低額での譲渡は「みなし譲渡」に該当する
個人から法人への無償や低額での譲渡は「みなし譲渡」に該当します。
贈与による資産引継ぎや、時価よりも著しく低い価額での売買はみなし譲渡として扱われるため注意が必要です。
みなし譲渡とは、無償や低額での譲渡について時価で譲渡したものとみなして課税するというルールです。
一般的に、時価の2分の1未満の金額で譲渡した場合は低額譲渡としてみなし譲渡の対象になります。
個人から法人に対するみなし譲渡が行われた場合、実施した年度に以下の税金が課されます。
- ・個人:譲渡所得税
- ・法人:受贈益に対する法人税
贈与や低額譲渡により、想定より税負担が重くなる恐れがある点に注意が必要です。
まとめ
個人事業主として使用していた資産を新たに設立する会社でも使うためには、資産引継ぎを行う必要があります。
資産引継ぎの方法として、売買契約・賃貸借契約・贈与・現物出資の4種類が挙げられます。
コストや労力の面から、売買契約と賃貸借契約いずれかの方法をとるのが一般的です。
資産引継ぎに適した方法は、資産の種類や性質によって異なります。
そもそも、すべての資産を引き継ぐべきとは限りません。
法人成りに際して個人事業主の資産をどのように扱うか考える必要がありますが、何を決めるべきか・どう判断するべきか悩んでしまうケースも多いでしょう。
法人成りによる資産引継ぎについて疑問や不安があれば、設立や法人成りに強みを持つ専門家に相談するのが安心です。
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BIZARQ株式会社代表公認会計士