
賃貸物件での法人登記に法律上の問題はありませんが、賃貸借契約や管理規約に反する可能性があります。
契約違反が原因でトラブルになる恐れもあるため、賃貸物件での登記を無断で行うのは避けた方が良いでしょう。
契約上の問題がないとしても、許認可要件やプライバシーの観点におけるリスクも考慮する必要があります。
今回は賃貸物件で法人登記をするリスクや注意点、会社設立・法人登記に適した物件の例を紹介します。
法人登記の概要や方法については以下の記事をご覧ください。
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CONTENTS
会社設立時に賃貸物件で登記するリスク

前提として、賃貸物件での法人登記に法律上の問題はありません。
賃貸の戸建て住宅はもちろん、アパートやマンションといった集合住宅での法人登記も法的には可能です。
ただし、賃貸物件での法人登記が賃貸借契約や管理規約に反する可能性はあります。
ほかにも、賃貸物件での法人登記にはさまざまなリスクが存在するため危険です。
この章では会社設立時に賃貸物件で登記するリスクを4つ紹介します。
損害賠償や退去が必要になる恐れがある
賃貸物件で法人登記をしてしまうと、最終的に損害賠償や退去が必要になる恐れがあります。
賃貸物件は賃貸借契約や管理規約の中で「居住用として利用する」旨が盛り込まれているケースが多いです。
そして、居住用と定められている物件を事務所として利用する行為は契約違反とみなされます。
以下のような場合、損害賠償や退去を求められる可能性が高いでしょう。
- ・事務所利用によって居住者以外の出入りが増え、賃貸人や他の住民に迷惑が及んだ
- ・取引先との関係悪化等が原因で、賃貸物件および周辺でトラブルが発生した
直接的な被害が発生した場合だけでなく、事務所利用が原因でほかの住民の不安をまねいた場合も損害賠償が必要になり得ます。
上記のようなケースに該当しなくても、違反行為を行なったという事実だけで損害賠償や退去を求められる可能性もあります。
許認可の要件を満たせない可能性がある
賃貸物件を本店所在地として登記してしまうと、許認可の要件を満たせない可能性が高いです。
許認可の中には事務所に関する要件の定めが存在するものもみられます。
例えば労働者派遣事業は、事業に使用し得る面積がおおむね20平方メートル以上あることが要件の1つです。
また、そもそも賃貸契約ではなく事務所契約でなければ許認可申請が認められません。
居住用の賃貸物件は事務所利用を想定しておらず、面積が狭い物件が多くみられます。
したがって事務所の面積に関する要件を満たせないケースが多いでしょう。
仮に面積要件を満たしても賃貸契約の時点で許認可が下りない可能性が高いです。
自宅住所が公開される
法人の本店所在地は登記事項の1つであり、国税庁法人番号公表サイトで誰でも閲覧できます。
賃貸物件である自宅を本店所在地として使ってしまうと、ネットで自宅住所を公開することになってしまうため危険です。
なお代表者の住所も登記事項ではありますが、国税庁法人番号公表サイトには記載されません。
履歴事項全部証明書を取得しなければ把握されないため、自宅を本店所在地にするよりもリスクは低くなります。
さらに2024年10月1日より、代表者の住所の一部を非表示にする措置が利用可能になりました。
自宅住所を本店所在地として登記しない限り、自宅住所が広く公開されてしまうリスクは抑えられる仕組みとなっています。
後から登記住所を変更するのは手間とコストがかかる
本店所在地を含め、登記事項は後から変更可能です。
そのため、一時的に賃貸物件である自宅住所を本店所在地として登記し、後に本店所在地を変更することも可能ではあります。
ただし、登記事項を変更するには変更登記の手続きが必要です。
また、同一管轄内の移転の場合は3万円、管轄が異なるエリアへ移転の場合は6万円の登録免許税が発生します。
このように後から登記住所を変更するのは手間とコストがかかるため、なるべく避けるのが理想です。
賃貸物件で法人登記をする際の注意点

前章で紹介したリスクのうち最も注意するべきなのは「損害賠償や退去が必要になる恐れがある」でしょう。
損害賠償や退去が必要になるのは、賃貸物件での法人登記が契約・規約違反にあたる場合です。
契約・規約違反は大きなトラブルにつながる上、賃貸人やほかの住民に迷惑をかけてしまう恐れもあるため絶対に避ける必要があります。
契約・規約違反になるのを避けるため、賃貸物件で法人登記をする前にその物件で法人登記ができるかの確認が必須です。
契約書や管理規約の内容を確認するのは大前提です。
その上で、管理会社や大家にも法人登記の可否について確認する必要があるでしょう。
なお、仮に賃貸物件での法人登記が認められたとしても、許認可要件や自宅住所の公開といったリスクは避けられません。
賃貸物件で法人登記をするのであれば、さまざまなリスクがある旨を承知で行う必要があります。
会社設立・法人登記に適した物件やオフィス形態の例

最初に紹介したように、賃貸物件での法人登記に法律上の問題はありませんが、賃貸借契約や管理規約に反する可能性が高いです。
仮に契約や規約上問題がないとしても、自宅住所が公開されるというリスクは避けられません。
基本的に、居住用の賃貸物件は法人登記に適していないと考えた方が良いでしょう。
法人登記には居住用の賃貸物件ではなく、本店住所として利用するのに適したオフィスを選ぶのが安心です。
この章では会社設立・法人登記に適した物件やオフィス形態の例を4つ紹介します。
賃貸事務所
賃貸事務所はいわゆるオフィス物件、すなわち事務所利用を目的に貸し出されている物件です。
賃貸事務所の大きなメリットとして以下の2つが挙げられます。
- ・事務所利用が前提のため法人登記にまったく問題がない
- ・自社の事務所を構えることで社会的信用を得やすくなる
一方で以下のようなデメリットが存在します。
- ・ほかの物件やオフィス形態に比べて初期費用や月額家賃が高額
- ・基本的にオフィス空間の貸し出しのみであり、什器備品は1から揃える必要がある
シェアオフィス
シェアオフィスはひとつの広い空間に複数の企業がオフィスを構える形態です。
シェアオフィスのメリットを2つ紹介します。
- ・設備を共有できるため初期費用やランニングコストを安価に抑えられる
- ・法人登記のサポートをはじめ、さまざまなサービスを利用できる可能性がある
主なデメリットは以下の2つです。
- ・施設によっては法人登記ができないことがある
- ・同じスペースに複数の企業が存在するため、セキュリティ面のリスクがある
コワーキングスペース
コワーキングスペースは複数の企業や事業者が共同で利用する空間です。
シェアオフィスと似ていますが、コワーキングスペースの方が利用者同士の交流を重視する傾向にあります。
コワーキングスペースの主なメリットは以下の2つです。
- ・ほかの事業者との交流や人脈作りに活かせる可能性がある
- ・時間単位や月単位での利用が可能
注意するべきデメリットとして以下の2つが挙げられます。
- ・施設によっては法人登記ができないことがある
- ・利用のハードルが低いため信用力が落ち、法人口座の開設等で不利になる恐れがある
バーチャルオフィス
バーチャルオフィスとはオフィスとしての住所のみを貸し出すサービスです。
オフィスとして利用できる住所は貸与されるものの、物理的なオフィススペースの貸し出しは行われません。
住所の貸し出しのほかにも、郵便物の受け取りや電話受け付けなどさまざまなサービスを利用できます。
バーチャルオフィスについては以下の記事で詳しく解説しています。
まとめ
賃貸物件での法人登記にはさまざまなリスクがあります。
契約違反や規約違反になる事態を避けるため、賃貸物件での法人登記を無断で行うのは絶対にやめましょう。
契約・規約の内容を確認するのはもちろん、管理会社等へ法人登記の可否について確認する必要もあります。
仮に契約や規約上の問題がなくても、自宅住所が公開される等のリスクは避けられません。
居住用の賃貸物件は法人登記に適していないと考えた方が良いでしょう。
賃貸事務所、シェアオフィス、コワーキングスペース、バーチャルオフィスなど、事務所利用に適した物件を利用するのが安心です。
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記事監修
BIZARQ株式会社代表公認会計士