個人事業主の法人成り!資産引継ぎ方法と注意点を税理士が解説

全国47都道府県(フルリモート対応)で、最適な会社設立スキームの構築や財務戦略を通じて企業の成長を強力にバックアップする東京・新宿の税理士事務所、BIZARQ(ビズアーク)グループ 代表(公認会計士・税理士・行政書士)の吉岡伸晃です。

個人事業主として事業が軌道に乗り、売上や利益が拡大してくると、節税や社会的信用力の向上を目的として「法人成り(法人化)」を検討される経営者様が多くいらっしゃいます。しかし、個人事業主から法人成りをする際、これまで個人名義で所有・使用してきた車両、パソコン、機械設備、店舗・事務所の不動産、あるいは商品在庫といった資産を、設立した新しい会社へそのまま無条件で引き継ぐことはできません。

法律上、個人事業主という「個人」と、新しく設立された「法人」は、まったくの別人格として扱われるためです。たとえ自分が100%出資して設立した会社であっても、個人の資産を会社に移すためには、正しく法手続きおよび税務処理を踏まえた「資産引継ぎ」を行う必要があります。

資産引継ぎの方法には「売買」「賃貸借」「贈与」「現物出資」などの複数の選択肢があり、対象となる資産の種類や金額、法人の資金繰り、個人の税負担によって適した方法が異なります。もし適正な価格や手続きを誤ってしまうと、思わぬ譲渡所得税が個人に課されたり、法人側に受贈益課税が発生したり、消費税の想定外の納税義務が生じるなどの重大な税務トラブルを引き起こすリスクがあります。

今回は、個人事業主が法人成りする際の資産引継ぎ方法について、実務でよく使われる手法やポイント、税務上の注意点を税理士のプロの視点から分かりやすく解説します。なお、そもそも法人成りをするべきかどうかの判断や、最適なタイミングについて迷われている方は、あわせて以下の関連記事もご参照ください。
【関連記事】法人成りに最適なタイミングとは?会社設立時期の目安を解説!

法人成りは、現在のビジネスを次のステージへと大きく飛躍させるための極めて有効な手段です。税負担の軽減や決算期の自由設定といった法人化のメリットを最大限に享受するためにも、資産引継ぎの基本と実務手順を正しく理解しておきましょう。

プロの視点資産引継ぎは「売買」か「賃貸借」が実務の基本!税負担シミュレーションが鍵

法人成りに伴う資産引継ぎには、主に「売買契約」「賃貸借契約」「贈与」「現物出資」という4つの選択肢が存在しますが、私たちBIZARQ(ビズアーク)グループが実際の税務・財務現場でサポートさせていただく際、ほとんどのケースで推奨するのは「売買契約」または「賃貸借契約」のいずれかです。

なぜなら、「贈与(無償譲渡)」は税務上で「みなし譲渡」とみなされ、実際には1円も金銭が動いていないにもかかわらず個人に譲渡所得税が課され、法人側にも受贈益という益金(法人税の課税対象)が発生するという二重の課税リスクを孕んでいるからです。また、「現物出資」は資本金を増強できるメリットがある一方で、定款への特殊な記載が必要となったり、出資金額や資産の性質によっては裁判所が選任した検査役の調査や弁理士・公認会計士等の証明が必要になるなど、手続きが非常に煩雑化し、会社設立のスケジュールに大きな遅れが生じる傾向があるためです。

さらに、近年特に注意が必要なのが、インボイス制度や最新の税制改正を踏まえた「消費税の課税関係」です。個人事業主時代に消費税の課税事業者(インボイス発行事業者)であった方が法人成りをする場合、個人から法人へ車両や設備を有償で「売買」すると、その売買代金自体が個人の課税売上となり、個人の最終確定申告で多額の消費税を納めなければならなくなる罠が存在します。

私たち税理士・公認会計士の役割は、単に書類の作成や名義変更の手続きを代行することにとどまりません。「個人の譲渡所得税」「法人の減価償却による節税効果」「法人成り時の消費税負担」「設立直後の法人のキャッシュフロー」を総合的に比較・シミュレーションし、どの資産を、どの手法で、いくらの金額(時価)で引き継ぐのが最も手元資金を残せるかという「未来の財務数字」を精緻に設計することです。これこそが、事業成長を加速させるための正しい資産引継ぎのプロセスです。

法人成り時に個人事業主の資産を引継ぐ4つの方法

個人事業主の資産を新たに設立した法人へ移動・引継ぐために用いられる主な手法は以下の4種類です。それぞれの概要とメリット・デメリット、実務での取り扱いについて順番に詳しく確認していきましょう。

1.所有権が移転する売買契約(譲渡)

元の所有者である個人事業主から、新たに設立した法人に対して資産を有償で売却する方法です。実務上「譲渡」とも呼ばれます。
売買契約により資産引継ぎを行う場合、対象となる資産の所有権は明確に個人から法人へと移転します。パソコン、オフィス家具、営業用車両、機械設備、商品在庫(棚卸資産)など、動産を中心とした多くの資産引継ぎにおいて、最も標準的かつ一般的に用いられる手法です。

  • メリット
    個人と法人の間で売買契約書を作成し、法人が個人へ代金を支払うという非常にシンプルで分かりやすい手続きで完了します。法人は買い取った資産(減価償却資産)を固定資産台帳に計上し、将来の事業年度にわたって減価償却費として経費化(損金算入)できるため、法人税の節税効果が得られます。
  • デメリット
    個人事業主側に売却益が発生した場合、資産の種類に応じて譲渡所得や事業所得などが生じ、個人に対して所得税・住民税が課されて確定申告が必要になります。また、法人側としては資産を買い取るためのまとまった購入資金(キャッシュ)をあらかじめ用意しなければなりません。

2.名義変更が不要な賃貸借契約

資産の所有権自体は個人のまま据え置いておき、個人から新会社に対して資産を有償で貸し出す方法です。法人は個人に対して毎月一定の「賃借料(地代家賃やリース料)」を支払って資産を使用します。
この手法は、土地や建物といった不動産や、高額な製造機械など、法人側で買い取り資金を用意するのが難しい場合や、所有権の移転登記に不動産取得税・登録免許税などの多額のコストが発生する資産に対して選択されるケースが多いです。

  • メリット
    所有権が個人から移転しないため、法務局での登記変更手続きや名義変更に伴う高額な税金・手数料がかかりません。法人側も初期の買い取り資金を用意する必要がなく、設立直後の貴重な資金(キャッシュ)を温存して事業の運転資金に回すことができます。
  • デメリット
    貸主である個人(元・個人事業主)には、法人から受け取る賃借料によって「不動産所得」や「雑所得」が継続的に発生するため、法人成りした後も毎年個人の確定申告を行う手間が残ります。また、個人と法人の間の賃借料設定が市場相場から大きく乖離していると、税務調査で否認されるリスクがあります。

3.資金負担を抑える贈与(無償譲渡)

個人の資産を、新会社に対して対価を受け取らずに「無償」で譲り渡す(プレゼントする)方法です。

  • メリット
    法人側で購入代金を支払う必要がないため、金銭的な負担がゼロで済む点がメリットに見えます。会社設立直後は開業準備や設備投資で資金が出ていくため、手元の現金を減らさずに資産を法人名義にしたいと考えがちです。
  • デメリット
    個人から法人に対する無償譲渡は、税務上「みなし譲渡」として極めて厳しく取り扱われます。実際には金銭のやり取りが1円も発生していなくても、「個人が時価で法人に売却し、その得たお金を法人に寄付した」とみなされてしまいます。その結果、個人には時価に基づく譲渡所得税が課税され、さらに法人側にもタダで資産をもらったことによる利益(受贈益)が発生したとみなされて法人税が課税されます。双方に思わぬ税負担が生じるため、実務で採用されることは滅多にありません。

4.資本金に組み入れる現物出資

現金の代わりに、パソコン、車両、不動産、有価証券などの「金銭以外の財産」を出資して法人を設立(または増資)する方法です。引き継ぎたい資産をそのまま会社の出資財産に充てることで、会社の資本金を増やしながら資産の引継ぎを同時に完了させることができます。

  • メリット
    売買代金の受け渡しが不要であり、法人側で買い取り資金を用意する必要がありません。手元の現預金が少なくても資本金額が大きい信頼性の高い会社を設立できる点が魅力です。
  • デメリット
    定款に現物出資を行う者の氏名、出資する財産の内容、その価額などを詳細に記載しなければならず、設立手続きが複雑化します。また、一定額を超える現物出資では、裁判所が選任した検査役による厳格な調査や専門家(弁護士・公認会計士・税理士等)の証明が必要となる場合があり、多大な費用と時間がかかる点に十分な注意が必要です。
引継ぎ方法所有権の移転法人の資金負担個人の税務申告主な対象資産実務での利用頻度
売買契約移転する必要(買取代金)資産の種類に応じて譲渡所得や事業所得などが発生する場合あり在庫、車両、備品、PC高い(最も一般的)
賃貸借契約移転しない不要(賃借料のみ)賃貸収入(不動産所得等)の申告が毎年必要土地、建物、高額設備高い
贈与移転する不要みなし譲渡として個人・法人双方に課税リスクあり少額の備品(一部)低い
現物出資移転する不要資産の種類に応じて譲渡所得や事業所得などが発生する場合あり車両、不動産など低い(手続きが煩雑)

法人成りの資産引継ぎにおける5つの重要ポイントと注意点

個人事業主から法人への資産引継ぎをトラブルなくスムーズに進め、税務調査での指摘を防ぐためには、以下の5つの重要ポイントを必ず押さえておく必要があります。

引き継ぐ資産の選別(不要な資産の排除)

法人成りをするからといって、個人事業主時代の資産や契約をすべて丸ごと新会社に引き継ぐ必要はありません。引継ぎ手続きを開始する前に、まずは「設立する法人で真に必要な資産はどれか」を慎重に選別することが大切です。
たとえば、年式が古く老朽化が進んでいる車両や、近いうちに買い替え予定のパソコンなどをわざわざ法人に引き継ぐと、売買契約書の作成、固定資産台帳への登録、名義変更手続きなどの余計な事務負担が発生します。得られる節税効果や資産価値に対して労力が大きすぎる場合は、個人事業の廃業時に個人のまま処分・廃棄する方が合理的なケースも少なくありません。
また、売掛金(未回収の売上)や買掛金・未払金(未払いの仕入代金等)といった債権・債務についても、法人へ引き継ぐためには取引先ごとに債権譲渡通知や債務引受の同意を得る必要があり、実務上極めて煩雑です。そのため、売掛金や買掛金は引き継がず、個人事業主時代の個人口座で最後まで回収・支払いを清算して完結させるのが一般的な実務手順です。

引継ぎできない資産(個人名義の契約や許認可)に注意

個人事業主として使用していた財産や契約の中には、性質上そのまま法人へ引き継ぐことができないものが存在します。
たとえば、個人名義で賃貸契約を結んでいる事務所、店舗、駐車場などの不動産賃貸借契約は、あくまで不動産オーナー(賃貸人)と「個人」との間の契約です。法人成りしたからといって無断で契約者を法人に変更することはできず、事前にオーナーや管理会社へ連絡し、名義変更手続き(または法人名義での新規契約締結)を行う必要があります。その際、名義変更手数料や敷金・保証金の再積出が求められる場合があるため確認が必要です。
また、飲食店営業許可、古物商許可、建設業許可、宅地建物取引業免許など、個人事業主として取得していた行政上の許認可は、原則として法人へ自動継承されません。法人として新しく許認可を申請・取得し直す必要があり、審査期間中は営業ができない「許認可の空白期間」が生じるリスクがあります。事業をストップさせないためにも、法人設立のスケジュールと許認可申請のタイミングを高度に調整することが不可欠です。

資産の種類に応じた最適な引継ぎ方法の選択

資産の種類(流動資産か固定資産か等)によって、税務上推奨される引継ぎ方法や適正価格の決め方が異なります。

  • 棚卸資産(商品在庫・原材料等)
    商品や製品などの在庫は「売買契約」によって引き継ぐのが基本です。棚卸資産は原則として適正な「時価(仕入原価や通常販売価額)」で売買することが重要です。極端に安い価格で売却すると低額譲渡とみなされるため注意しましょう。
  • 減価償却資産(車両・機械・工具・備品・PC等)
    営業用車両やパソコン、工具器具備品などの減価償却資産も、原則として適正な「時価」に基づく「売買契約」で引き継ぎます。時価の算定にあたっては、中古車市場価格やオークション相場、あるいは個人事業の帳簿価額(未償却残高)を参考にします。なお、市場価格が分かりにくい特殊な機械設備等については、自己判断せず税理士に時価の妥当性を相談することが重要です。また、車両や高額設備を買い取る資金が法人にない場合は、「賃貸借契約」を選択して毎月リース料を支払う形をとることも可能です。
  • 不動産(土地・建物)
    土地や建物などの不動産は売買金額が極めて高額になるため、「賃貸借契約」を選択するのが実務上の王道です。個人から法人へ不動産を売買すると、法人側には不動産取得税や名義変更の登録免許税が重くのしかかり、個人側にも多額の譲渡所得税が発生して資金繰りを圧迫するためです。個人所有のまま法人に貸し付け、法人から適正な地代家賃を受け取る形が最も手堅く節税にも繋がります。
  • 負債(銀行借入金等)
    個人事業主時代の事業用借入金を法人に引き継ぐ(免責的債務引受)ためには、融資元である金融機関の厳格な審査と承諾が必要です。しかし、個人の借入を法人が引き継ぐ手続きは審査が非常に厳しく、認められないケースも多々あります。そのため、個人事業主の借入金は法人成りの前に個人の事業資金で可能な限り返済を済ませ、新会社はあらためて法人名義で「創業融資」を受けて資金調達を行うのが、実務上スムーズで手堅い事業展開の形といえます。

資産譲渡による消費税の課税リスク(インボイス制度への対応)

個人事業主時代に「消費税の課税事業者」であった方や、インボイス制度の開始に伴って「インボイス発行事業者(適正請求書発行事業者)」に登録していた方が法人成りをする場合、資産の引継ぎ方法に「売買」を選ぶと大きな消費税リスクが発生します。
個人から法人への資産の売買は、税法上の「課税資産の譲渡」に該当するため、売却代金に対して消費税が課されるためです。特に、高額な車両や機械設備、建物などをまとめて法人に売却した場合、個人の最終的な確定申告において、想定外に高額な消費税の納税義務が生じる恐れがあります。「自分が作った会社にモノを移動しただけ」と安易に捉えていると、思わぬ資金ショートを引き起こす原因になります。
なお、個人事業主時代に「免税事業者」であった場合は、資産を売買しても個人に消費税の納税義務は生じません。個人事業主が消費税の課税事業者となる要件や、令和8年度税制改正を踏まえたインボイス制度の影響については、以下の関連記事や公的機関の情報もあわせてご確認ください。
【関連記事】免税事業者とは?課税事業者との違いやインボイス制度の影響を税理士が解説
【参考】No.6501 納税義務の免除|国税庁

無償・低額譲渡における「みなし譲渡」の課税リスク

法人成りの際、「どうせ自分の会社なのだから」と考え、個人の資産を無償(贈与)で会社にあげたり、時価よりも極端に安い金額(1円や100円など)で売却したりするケースが散見されます。しかし、これは税務上、想定外の課税リスクを伴う行為です。
税法上、個人から法人に対して無償で資産を譲渡したり、適正な時価の2分の1未満の金額で譲渡(著しい低額譲渡)した場合は、「みなし譲渡」の規定が適用されます。
これは、実際にはお金のやり取りがなくても「適正な時価で売却して利益を得た」とみなされ、個人に対して譲渡所得税(または事業所得)が課税されるルールです。それだけでなく、買い取った法人側も「本来の時価よりも安く(あるいは無償で)資産をもらって受贈益(利益)を得た」とみなされ、時価との差額分に対して法人税が課税されてしまいます。
税務調査でみなし譲渡の指摘を受けると、個人と法人の双方が追徴課税を受けるリスクがあるため、資産の引継ぎを行う際は客観的な「時価」を基準に行うことが極めて重要です。

「個人事業主が法人成りする際の資産引継ぎ方法」まとめ

  • 資産引継ぎは「売買」か「賃貸借」が基本
    手続きの手間や税務リスクを考慮し、実務上は売買契約か賃貸借契約で引き継ぐのが最も確実な方法です。
  • 引き継ぐ資産と時価の算定を厳格に
    不要な資産は引き継がず、引き継ぐ場合はみなし譲渡課税を避けるため、適正な「時価」での取引を徹底してください。
  • 消費税や許認可の空白期間に注意
    課税事業者の場合は売却益に対する消費税が発生すること、また許認可は取り直しとなる点に注意してスケジュールを組みましょう。

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「法人成りの資産引継ぎ」に関するよくある質問

A.原則として、そのまま自動的に引き継ぐことはできません。借入金の名義を個人から法人に変更する(免責的債務引受)には、金融機関の厳格な審査と同意が必要です。実務上は、法人が新たに創業融資を受け、個人事業の借入は個人で返済していく形をとるのが一般的です。

A.税務調査で否認されないよう、客観的な「時価」で算定することが重要です。中古車販売サイトでの同車種・同条件の販売価格を参考にしたり、中古車買取業者に査定を依頼して査定額の書類を残しておくなどの対応が必要です。市場価格が分かりにくい特殊な機械設備等については、自己判断せず税理士に時価の妥当性を相談してください。

A.事業の用に供していたものであれば引き継ぎ可能です。ただし、プライベートでも使用している(家事按分している)資産については、事業専用割合などを考慮し、適正な価格で売買契約を結ぶ必要があります。

この記事の監修者

BIZARQグループ 代表 / 公認会計士・税理士・行政書士 吉岡伸晃

吉岡 伸晃 Nobuteru Yoshioka

BIZARQグループ 代表 / 公認会計士・税理士・行政書士

大手監査法人での経験を経て、現在はスタートアップから医療法人まで幅広い企業の財務・経営戦略をサポート。事業計画策定や資金調達支援に強い。

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