クロス取引とは?節税対策としての活用方法とリスクを徹底解説

東京・新宿を拠点に全国47都道府県(フルリモート対応)で税務顧問や未来財務サポートを手掛ける、BIZARQ(ビズアーク)グループ 共同代表(公認会計士・税理士・行政書士)の吉岡伸晃です。
「保有している株式の利益が出たけれど、税金が高くて悩んでいる」「クロス取引という手法を使えば節税できると聞いたが、法的に問題はないのか?」とお考えの経営者様や投資家の方は少なくありません。
結論から申し上げますと、クロス取引は活用方法によっては節税や株主優待の取得に効果的ですが、同時に「不公正取引(仮装売買)」とみなされる恐れがある、非常にリスクの高い手法です。
この記事では、クロス取引の基本的な仕組みから、節税対策としての活用法、そして絶対に知っておくべきリスクについて、財務・税務のプロフェッショナルの視点で徹底解説します。
※株式投資に関する基本的な節税対策については、以下の記事もぜひご参照ください。
【プロの視点】法人の「クロス取引」による節税は原則NG!
具体的な仕組みを解説する前に、経営者の方に税理士として絶対にお伝えしておきたい重要な事実があります。それは、「法人が節税目的で行うクロス取引は、税務上厳しく規制されている」ということです。
個人の場合は後述するような節税効果を得られるケースがありますが、法人の場合、同一事業年度内に同じ銘柄の株式を「同数・同価格」で売買して意図的に損失(売却損)を出しても、法人税法上、その損失はなかったものとして扱われます(租税回避行為の防止)。
目先の法人税を減らそうと安易にクロス取引に手を出すと、損失が認められないばかりか、税務調査で厳しい指摘を受けることになります。私たちBIZARQは、このようなグレーな裏ワザではなく、本業の成長投資や適切な制度活用を通じて「未来の経営を加速させる」ための、安全で効果的な節税戦略を推奨しています。
そもそも「クロス取引」とは?仕組みと3つのメリット

クロス取引とは、1つの証券会社で同じ銘柄・数量の買い注文と売り注文を同時に出し、同じ価格で約定させる取引のことです。
現物取引・信用取引に関係なく、同一銘柄の買い注文と売り注文を同時に行う取引はすべてクロス取引に該当しますが、中でも「現物買い注文」と「信用売り注文」を組み合わせるケースが多くみられます。
このクロス取引には、主に以下の3つのメリットがあります。
1. 株価変動の影響を受けずに株主優待を取得できる
クロス取引の仕組みを最も活用されているのが、株主優待の取得です。
権利付最終売買日までに「現物買い」と「信用売り」を同時に発注し、権利落ち日以降に「現渡し(現物株の返却によって信用売りを決済する方法)」で決済します。
この方法を使えば、株価が上がっても下がっても損益が相殺されるため、株価下落のリスクを負うことなく、安全に株主優待だけを獲得することができます。
2. 含み益と含み損が相殺される
買い注文と売り注文を同時に行なうことで、買いの含み益および売りの含み損の両方が発生します。これにより含み益と含み損が相殺されるため、リスクヘッジとしても効果的です。市場が大きく動いても、損失を最小限に抑える効果が期待できます。
3. 【個人のみ】節税効果を得られるやり方がある
クロス取引の活用方法によっては、個人の所得税における節税効果を得られる可能性があります。(※前述の通り、法人は対象外です)
クロス取引による節税方法は、「株価が下がり損失が出ている銘柄を売却して損失を確定させた後に、再び買い戻す」というものです。例えば、以下のようなケースです。
- 当期、すでに株式Aの売却により株取引の利益30万円が確定している。
- 取得価額100万円で現在も保有している株式Bが、70万円に値下がりしている。
この時点で株式Bを売却すれば「30万円の損失」が確定します。すると、株式Aの売却益30万円と相殺(損益通算)され、株取引による所得は実質0円となり、所得税が課されなくなります。その後、すぐに株式Bを買い戻せば、保有している株式のラインナップはそのままに、節税効果だけを得ることができる仕組みです。
節税対策としてクロス取引をする致命的な2つのリスク
上記の通り、個人の場合は利益と損失を相殺する節税が理論上は可能です。しかし、節税目的でクロス取引を実施するには、決して無視できない大きなリスクが2つあります。
1. 不公正取引(仮装売買)に該当する恐れがある
最も注意すべきなのが、クロス取引が「不公正取引(仮装売買)」に該当する恐れがある点です。
仮装売買とは、ある特定の銘柄の売買が盛んに行われていると他者に誤解させることを目的とした、市場の公正を阻害する違法行為です。
日本取引所グループ(JPX)が相場操縦的行為として厳格に監視している通り、同価格・同銘柄の買い注文と売り注文を同時に行い、取引数を膨らませる行為は重いペナルティの対象となります。節税や株主優待が目的であっても、やり方自体は仮装売買と同じであるため、証券取引等監視委員会などから違法とみなされるリスクが常に付きまといます。
2. 想定していた売却損にならないケースがある(取得単価の平均化)
クロス取引による節税は、損失を確定させることが前提です。しかし、「同じ特定口座」で「同一営業日」にクロス取引を行うと、税務上のルールにより、売却した株式の取得単価が平均化されてしまうという落とし穴があります。
結果として、想定していた売却損の金額にならず、「利益と相殺して所得税をゼロにするつもりが、思うような節税に繋がらなかった」という失敗が多発しています。
クロス取引を禁止・制限している金融機関の実態

このような仮装売買のリスクを防ぐため、現在は多くの証券会社がクロス取引そのものを全面的に禁止、あるいは厳しい制限をかけています。
- SBIネオトレード証券
建玉の繰り延べ目的以外のクロス取引を禁止しています。 - 楽天証券
クロス取引のうち、一定のケースに該当する注文はシステム上で対応不可能な措置をとっています。 - 三菱UFJモルガン・スタンレー証券
クロス取引は原則引き受けできない旨が明記されています。
このように、金融機関側もコンプライアンスの観点から厳しく取り締まっているのが実態です。
クロス取引によるリスクを避ける3つの方法
どうしてもクロス取引に似た手法を行いたい場合、以下の3つの方法でリスクを軽減できると言われていますが、それぞれにデメリットがあります。
- 売り注文と買い注文のタイミング(日にち)をずらす
同一営業日に行わなければ仮装売買とみなされるリスクは減り、取得単価の平均化も防げます。しかし、タイミングをずらすと株価が変動してしまうため、想定外の損失を被るリスクが発生します。 - 立会外取引を利用する
証券取引所の通常の取引時間以外(立会外)に取引を行う方法です。市場の売買高に影響を与えないため仮装売買にはなりませんが、手数料が高めに設定されていることが多く、節税効果以上にコストがかかる恐れがあります。 - 売りと買いを「異なる特定口座(別の証券会社)」で行う
口座を分けることで取得単価の平均化は防げますが、同一時期・同価格で売買を成立させる行為自体は変わらないため、依然として仮装売買とみなされるリスクは高く、推奨できません。
「クロス取引と節税対策」まとめ
- クロス取引は個人の損益通算には活用できるが、法人の節税対策としては税務上認められない。
- 同時に同じ価格で売買を行う行為は「仮装売買(不公正取引)」とみなされるリスクが高く、多くの証券会社で規制されている。
- 安全に実施しようとタイミングをずらすと、株価変動リスクや手数料コストが発生し、期待した効果を得られない可能性が高い。
クロス取引は、コンプライアンス上のリスクが非常に高い「グレーな手法」です。会社の資産や経営者の個人資産を守り、安全に増やしていくためには、このような裏ワザに頼るべきではありません。
「合法で安全な節税対策を知りたい」「将来の事業成長に向けた正しい財務戦略を立てたい」とお考えの方は、ぜひBIZARQグループにご相談ください。税務・法務・労務のプロフェッショナルが連携し、あなたのビジネスを強力にバックアップします。
正しい節税や財務戦略については、当法人の未来財務サポートもご覧ください。資産運用や法人税に関するお悩みは、ぜひ税理士無料相談をご利用ください。
クロス取引に関するよくある質問
いいえ、法人の場合は節税になりません。法人税法では、租税回避を防止する観点から、同一事業年度内に同じ銘柄を同数・同価格で売買して意図的に発生させた損失は、なかったものとして計算されるルールになっています。
株主優待の取得(つなぎ売り)自体は広く知られた手法ですが、市場の取引時間中に不自然なクロス注文を出すと、システムの検知により仮装売買の疑いをかけられるリスクがあります。そのため、多くの証券会社が注意喚起を行ったり、取引に制限を設けたりしています。
同一の特定口座において、同一営業日に売却と買い戻しを行うと必ず取得単価は平均化されてしまいます。これを防ぐ最も確実な方法は「売却する日と、買い戻す日を別々の日にずらす」ことですが、その間に株価が変動してしまうリスクを受け入れる必要があります。
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この記事の監修者

吉岡 和樹 Kazuki Yoshioka
BIZARQグループ 共同代表
上智大学を中退後、7年間にわたり中堅会計事務所に勤務し、2014年にBIZARQ Groupの前身となる会計法人を設立。「経営のアクセルを踏む『攻め』のコンサル」を信条とし、会計・税務だけでなく経営や財務の相談に幅広く対応。創業融資やリスケジュール支援など、資金調達を通じた伴走支援で企業の成長を力強く後押ししている。事業計画の策定と銀行対応に多数の実績を持つ。








