医療法人の承継はどうする?プロセスと留意点を分かりやすく解説

全国47都道府県(フルリモート対応)で、医業承継サポートやクリニックの税務顧問を通じて企業の成長を強力にバックアップする東京・新宿の税理士事務所、BIZARQ(ビズアーク)グループ 代表(公認会計士・税理士・行政書士)の吉岡伸晃です。

医療法人の理事長先生や院長先生の高齢化にともない、「自院の経営権や財産をどのように次の世代へ引き継ぐべきか」という医業承継の問題は、いまや医療業界全体にとって非常に大きな課題となっています。

医療法人の承継は、一般的な株式会社の事業承継とは仕組みが大きく異なります。医療法に基づく独自の役員要件があるほか、長年の健全経営にともなって積み上がった内部留保(出資持分)の評価額が高騰し、予想を上回る重い税負担がのしかかってくるケースが少なくありません。

今回は、医療法人の承継を早期に検討すべき理由や手続きを複雑にする要因、高度な税務判断が求められる「持分あり」「持分なし」のケース別における具体的な承継プロセスと留意点について、医療税務・法務に強いBIZARQの視点で分かりやすく解説します。

※そもそも医療法人を設立する際の要件やメリット・注意点などの基礎知識については、以下の記事で詳細に解説していますので、ぜひ合わせてご覧ください。

【プロの視点】承継対策の遅れはクリニックの経営悪化に直結する

具体的な承継スキームを解説する前に、医療法人専門の税理士として多くの経営者を見てきた経験から、皆様へ極めて重要なアドバイスをお伝えします。それは、「医療法人の承継対策を後回しにすることは、単にバトンタッチが遅れるだけでなく、日々のクリニックの経営状態そのものを悪化させるリスクがある」という視点です。

厚生労働省の委託調査報告書によると、病院の開設者・代表者の平均年齢は64.3歳、診療所(クリニック)の開設者も61.7歳と高齢化の一途を辿っています。同報告書では、「事業承継の見通しが立たないために理事長が高齢化し、経営戦略も明確に決められずに経営状態が悪化していくパターンもある」と、非常にリアルな構造的課題が指摘されています。

さらに、医療法人の「合併」手続きに目を向けると、直近の公的データでは3年間で83件の合併が行われ、そのすべてが消滅法人の権利義務を丸ごと引き継ぐ「吸収合併」の形をとっています。これらはすべて、都道府県の医療審議会という非常に厳格な行政審査をクリアしなければ成立しません。

「まだ先のことだから」と対策を先送りにしてしまうと、いざという時に最適な選択肢を選べなくなり、地域医療の灯を消してしまうことになりかねません。数年後を見据えた計画的な財務コントロールを行うことこそが、未来の経営を加速させるための絶対条件です。

医療法人の承継とは?経営権と財産権のバトン

医療法人の承継とは、現経営者(理事長)がリタイアや世代交代にともない、医療法人の「経営権(理事長ポスト)」や「出資持分(財産権)」などを、次の後継者へと譲渡・引き継ぐ一連の手続きを指します。

例えば、長年地域医療を支えてきた院長先生が引退し、医師であるお子様へ経営のバトンタッチをするようなケースが代表例です。承継の際、後継者に引き継がれる要素には、診療所や医療機器などの有形資産だけでなく、これまでに築いてきた信用やブランド(無形資産)、医療法人の負債、スタッフの雇用、諸設備、 shadow通院してくださる患者様との信頼関係にいたるまで、すべてが含まれます。

手遅れになる前に!承継を早期に検討すべき2つの理由

医療法人の承継は、直前になって慌てて進めようとしても思い通りにいかないケースが多いため、早い段階から事前の準備をしておくことが大切です。その大きな理由は以下の2点に集約されます。

出資持分の高騰にともなう「税金の問題」

出資持分ありの医療法人の場合、長年の黒字経営によって法人の純資産(内部留保)が大きくなっているケースが非常に多いです。この持分を後継者へ引き継ぐ際には、贈与税、相続税、あるいは譲渡所得税といった多額の税負担が発生します。

医療法人は非営利性の団体であるため、株式会社のように利益の配当を行うことができません。そのため、毎年の利益がすべて法人内部に蓄積されやすい傾向にあります。蓄積された財産が大きければ大きいほど、課税される税額も高くなってしまうため、後継者側に納税資金を確保できないというリスクが生じます。いざ承継という段階で資金ショートを起こさないためにも、事前の引き下げプランを考えておく必要があります。(※出資持分のない医療法人の場合は、財産権そのものがないため相続税等はかかりません)

クリニックの存続に関わる「地域医療への影響」

医療法人は、極めて公益性が高く、地域の患者様の健康や命を支えるインフラとして貢献しています。もし「後継者が見つからない」「高額な相続税が払えない」といった理由で医療法人の存続が難しくなり、解散や閉院を余儀なくされてしまうと、これまで通ってくださっていた患者様へ十分な医療を提供できなくなるなど、地域医療に大きな影響を及ぼしてしまいます。医療法人の承継は、経営者一族だけの問題ではなく、地域住民にとっても大きな問題なのです。

株式会社とはここが違う!承継を難しくする2つの要因

医療法人の承継は、一般的な株式会社の事業承継と比べて難易度が高いとされています。それは、医療法によって定められた以下の2つの独特な要因があるためです。

要因① 理事長(後継者)は原則として医師・歯科医師でなければならない

医療法第46条の6第1項において、「医療法人の理事のうち一人は、理事長とし、医師又は歯科医師である理事のうちから選出する」と法律で定められています。
そのため、経営者である親が「自分の子どもにクリニックを継がせたい」と願っても、そのお子様が医師・歯科医師の資格を持っていなければ、医療法人のトップ(理事長)として経営を承継させることは原則不可能です。誰でも後継社長になれる株式会社とは、この人的要件が根本的に異なります。

要因② 社員総会・理事会における意思決定の体制作りが必要

医療法人の最高意思決定機関は、3名以上の「社員」から構成される「社員総会」であり、理事や監事の選任・解任を行います。株式会社の株主総会では出資比率(株数の多さ)によって決議権が決まりますが、医療法人における社員の議決権は出資額に関わらず全員「1人1票の平等な権限」を持ち、意思決定において大きな影響力を持ちます。
また、重要な職務執行時には社員から選ばれた理事から成る理事会が決定を行うため、スムーズな意思決定のためには後継者をサポートしてくれる社員や理事の存在が必要となります。場合によっては、社員の総入れ替えを行わなければならないケースもあるでしょう。後継者の選任にあたっては、この点も考慮しなければなりません。

出資持分「あり」医療法人の承継スキーム

出資持分が認められている医療法人(経過措置医療法人)における、代表的な2つの承継パターンと具体的な実務スキームを解説します。

親族(子どもなど)に承継する場合

親族間で承継する場合は、以下のどちらかの方法で手続きを進めます。

【出資持分の引き渡し(譲渡・贈与・相続)】

現経営者が保有している出資持分を、直接後継者へ移転させるスキームです。贈与・相続・譲渡(売買)など、どれを選ぶかによって課税される税金の種類が変わります。(贈与税・相続税・所得税など)

  • メリット
    手続きのハードルが比較的低い点です。持分の移転に関する契約書の締結と、必要に応じて社員の入れ替えをすれば完了します。取引先の同意は不要で、現在の雇用状況や許認可などに影響はありません。
  • 注意点
    上記の持分引き渡しの処理は、あくまで財産権に関する処理である点です。承継には財産権のみでなく経営権も関係します。経営権も手に入れるためには、社員の入れ替えを行う必要があります。ただし、承継前の社員が後継者に好都合の議決をすることが予想される場合には入れ替えなくても問題ありません。

【出資持分の払い戻し】

持分を後継者に直接引き渡すのではなく、現経営者が出資比率に応じて一度財産を法人から払い戻してもらい、その後に後継者が新たに出資するスキームです。この方法では持分を直接引き渡していないため、引き渡しにともなう税金(贈与税・相続税など)はかかりません。

  • メリット
    手続きがシンプルであること、現在の経営体制に大きな影響がないこと、移転にともなう税金が発生しないことなどが挙げられます。
  • 注意点
    払い戻しを受けた経営者側において、その利益(出資額を超える部分)に対して課税(配当所得課税等)が発生する点です。また後継者については、経営者に代わって新たな出資金を捻出する必要があります。

第三者に承継する場合(M&A)

親族ではなく第三者に承継する場合(M&A)は、一般的に以下の方法で手続きを行います(参考:厚生労働省:医業承継・M&Aについて)。

【出資持分の引き渡し】

現経営者から第三者の後継者に持分を移転するスキームです。親族間承継の場合と流れや注意点は同じですが、第三者が対象だと、通常は譲渡(売買)が行われます。

【出資持分の払い戻し】

持分の移転ではなく、経営者が出資比率に応じて財産の払い戻しを受けるスキームです。こちらも流れや注意点は親族間承継の場合と同じです。

【合併】

複数の医療法人が相互間の契約を交わして1つの医療法人になるスキームです。消滅医療法人の全資産を包括的に存続(または新設)医療法人が承継します。社員は存続(新設)法人の社員となる効果をともない、社団医療法人と財団医療法人の合併も認められています。合併には以下の2タイプがあります。

  • 吸収合併
    吸収する側の医療法人が、消滅する側の医療法人がもつ権利・義務のすべてを受け継ぐ。
  • 新設合併
    消滅する複数の医療法人がもつ権利・義務のすべてを、新たに設立した医療法人が受け継ぐ。
  • メリット
    複数の医療法人が一枚岩になることで、コストカットや業務効率改善を期待できることです。また、受け継ぐ側の持分が対価になるため、後継者サイドは初期の資金を用意せずにすむケースもあります。税制適格の要件を満たせば課税なしで欠損金を引き継げます。
  • 注意点
    手続期間が長めになることや、権利・義務のすべてを包括的に受け継ぐことで、本来は避けたい債務(簿外債務など)まで承継してしまう恐れがあることなどが挙げられます。

【事業譲渡】

医療法人そのものを売るのではなく、法人が運営している病院やクリニック(事業)の資産や権利・義務・従業員などに限定して売却するスキームです。複数の医療施設のうち一つのみを譲渡するケースなどがこれに該当します。売り手の経営者は医療法人を手放さずにいることも可能です。

  • メリット
    当事者の判断で譲渡する権利や義務を選べるため、簿外・潜在債務リスクが軽減されることです。
  • 注意点
    手続きが複雑であることや、許認可・医療機関番号がそのまま引き継げないことです。また、従業員の引き継ぎについては個別に同意が求められ、患者様の引き継ぎにおいても一定のコストや手間がかかることが挙げられます。許可ベッドや人員の引継ぎ、補助金返還などの問題が生じる可能性もあるため注意が必要です。

出資持分「なし」医療法人の承継と役員退職金

出資持分なし医療法人の承継パターンも、基本的には持分あり医療法人と同じです。

しかし、持分なし医療法人の場合、持分あり医療法人と異なり財産権の概念がないため、前経営者が受け取れるのは医療法人設立時に支払った金額(拠出金)の上限までです。持分の譲渡や出資比率に応じた払い戻しなどがない代わりに、医療法人から退職金の形で支払われるのが通常です。
この退職金には損金算入のための上限額が設定されており、一般的には以下の計算式に基づいて算出されます。

退職金の計算目安 = 最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率(一般的に3倍まで)

算出された金額に納得できない場合などは、希望額に達するまで退任後も顧問などのポストに就任し、継続して報酬を受けることでキャッシュを還元していくアプローチをとることも可能です。

病院スタッフへの承継(院内承継)の是非

親族でも院外の第三者でもなく、院内スタッフを後継者にすることも可能です。例えば、病院内で重要なポストにいる医師(副院長や診療科長など)へ引き継ぐケースが該当します。院内承継には、以下のようなメリットとデメリットがあります。

【メリット】

  • 病院内の事情や地域・患者様の個別状況に詳しく、理念や経営方針を受け継いでもらいやすい。
  • 従業員との信頼関係がすでにできており、トップ交代後も円滑なコミュニケーションがしやすい。

【デメリット】

  • 出資持分あり医療法人の場合、候補者である勤務医が持分を買い取るための多額の資金を個人の資産から捻出するのが難しい(個人債務保証の引継ぎに躊躇するケースもあるため)。
  • 院内という限られた枠の中で、医療技術だけでなく経営スキルを兼ね備えた後継者を探すのが難しい。
  • 要職にある候補者自身も高齢のケースがある。

このようにメリットはあるものの、親族間承継や第三者へのM&Aと比較して、資金移転や人材確保の観点から、院内承継はメジャーな選択肢とはなっていません。検討に値するかどうかは、院内の人材状況により変わるでしょう。

「医療法人の承継プロセス」まとめ

  • 医療法人の承継は、経営権(理事長ポスト)だけでなく内部留保された「出資持分(財産権)」の評価引き下げと税金対策を早期から行うことが重要。
  • 後継者は医師資格が必須であるなど医療法特有の制限があり、円滑な世代交代には社員総会や理事会における意思決定体制の整備が不可欠。
  • 親族への持分移転、第三者へのM&A(合併・事業譲渡)、持分なし法人の退職金スキームなど、自院の持分の有無や後継者の有無に合わせて最適な選択肢を組み立てる。

医療法人の承継は、これまでドクターが心血を注いで築き上げてきたクリニックの価値を次の世代へ遺し、地域医療の未来を守るための最大のプロジェクトです。しかし、そのプロセスは高度な税法と医療法のクロスオーバーであり、一歩間違えると経営状態の悪化や認可手続きの遅れを招くリスクを孕んでいます。

「自院の出資持分が今いくらになっているのか、正確な持分評価と税額の試算をしてほしい」「数年後の引退に向けて、最も手元にキャッシュが残り、後継者が困らない承継プランを設計してほしい」とお悩みの理事長先生は、ぜひBIZARQにご相談ください。

私たちは、医療経営のインフラと最先端の税務に精通した総合士業グループとして、公認会計士・税理士の知見を活かした緻密なシミュレーションから、他の士業の独占業務である法務・労務手続きの円滑な連携、さらにはM&Aのコンサルティングまでを完全ワンストップでサポートし、貴院の未来の経営を加速させます。

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医療法人の承継に関するよくある質問

A.国の「持分なし医療法人への移行促進制度」を活用する手法です。この制度を利用して、厚生労働省の認定を受けて持分を放棄し持分なし医療法人へ移行すれば、これまで経営者の頭を悩ませていた出資持分の高騰にともなう贈与税や相続税が、後継者や法人に対して非課税(免除)されるというメリットがあります。ただし、一度持分なしに移行すると、将来クリニックを解散した際のお金はすべて国等に帰属することになり、個人の財産に戻すことは二度とできなくなるため、親族間での承継のビジョンやリタイア資金の確保状況を踏まえ、専門家と慎重にメリット・デメリットをシミュレーションした上で判断する必要があります。

A.いいえ、必ずしもすべてを法人名義に移転する必要はありません。設備や土地・建物の名義が理事長個人のままであっても、その個人と医療法人との間で適正な「賃貸借契約」などを締結していれば、医療法人の運営をそのまま継続し、後継者へ経営を承継させることが可能です。また、引退後の前理事長の生活費(キャッシュフロー)を確保するために、あえて土地・建物は個人の名義のまま残しておき、医療法人から前理事長個人へ毎月適正な地代家賃を支払い続けるというアプローチは、実務上の定番な財務テクニックです。

A.医療法人の第三者承継(M&A)は、一般的な企業のM&Aよりも手続きが多く、最初のご相談や買い手探しから、最終的な経営権の移転(バトンタッチ)が完了するまでに、通常は「半年〜1年程度」の期間がかかります。これは、お互いの条件交渉や財務・法務の精査(デューデリジェンス)だけでなく、医療法人の役員(理事長)の変更にともない、各都道府県の保健所や厚生局に対して「役員変更届」や「開設届の変更」などの行政手続きを行う必要があるためです。期日ギリギリになってから動き出すと、引退のタイミングに手続きが間に合わず診療に影響が出てしまうリスクがあるため、余裕を持ったスケジュール管理が必要です。

この記事の監修者

BIZARQグループ 代表 / 公認会計士・税理士・行政書士 吉岡伸晃

吉岡 伸晃 Nobuteru Yoshioka

BIZARQグループ 代表 / 公認会計士・税理士・行政書士

大手監査法人での経験を経て、現在はスタートアップから医療法人まで幅広い企業の財務・経営戦略をサポート。事業計画策定や資金調達支援に強い。

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東京・新宿を拠点に全国47都道府県(フルリモート対応)で医療・クリニックの開業サポートや税務顧問を手掛ける、BIZARQ(ビズアーク)グループ 共同代表(公認会計士・税理士・行政書士)の吉岡伸晃です。 クリニックや医療法人を始めるにあたって、「そもそも毎月高いお金を払って顧問税理士と契約するかどうか」でお悩みの先生も多いのではないでしょうか。 結論から申し上げますと、クリニックの運営において顧問税...

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