医療法人化のメリット・デメリットを税理士が徹底解説!

全国47都道府県(フルリモート対応)で、最新の税制改正への適応と戦略的な財務支援を通じて企業の成長を強力にバックアップする東京・新宿の税理士事務所、BIZARQ(ビズアーク)グループ 代表(公認会計士・税理士・行政書士)の吉岡伸晃です。

個人経営のクリニックを医療法人化すると、どのようなメリットがあるのでしょう。おそらく多くの人が一番に思い付くのは節税だと思います。

しかし、医療法人化には他にも様々なメリットとデメリットが伴うため、それらをきちんと理解した上で自身のクリニックの状況を鑑みながら法人化するかどうかを慎重に検討する必要があります。安易な判断をして後で後悔してしまうことのないように、メリットとデメリットをしっかり把握しておきましょう。

【プロの視点】変化を好機に変える未来財務

医療法人化は、長引く物価高への対応を軸とした個人所得課税の緩和と、企業の積極的な投資・成長を促す法人課税のインセンティブ創設が両輪となっています。特に中小企業にとっては、少額減価償却資産の即時償却基準が40万円未満に引き上げられたことや、特定生産性向上設備等投資促進税制が新設されたことは、自社のDXや設備投資を加速させる大きなチャンスと言えるでしょう。

私たち東京・新宿を拠点とするBIZARQグループでは、こうした税制の変化を単なる「過去の処理」の変更として捉えるのではなく、一歩先を見据えた「未来の経営を加速させる財務戦略」としてご提案しています。変化の激しい時代だからこそ、いち早く最新の税制を自社の経営に組み込み、企業のキャッシュフローを最大化させることが重要です。

医療法人化の概要

今回の税制改正は、長引く物価高に直面する家計の負担軽減と、持続的な経済成長を目指す企業の投資促進が主な柱となっています。個人所得、法人課税、消費税など多岐にわたる見直しが行われているため、それぞれの変更点が自身の事業やライフプランにどう影響するのかを正しく見極める必要があります。詳細な一次情報については、厚生労働省:医療法人・医業経営のホームページもあわせてご確認ください。

医療法人化によって得られる多くのメリット

医療法人化すると、以下のような節税効果があります。

法人税率への切替による税負担の軽減

個人医院の場合、事業所得は全て院長個人の所得となります。所得税は超過累進課税方式で所得が増えるほど負担額は大きくなっていき、所得税と住民税を併せると最高税率は約50%にもなります。医療法人の場合、所得は医療法人と個人に分かれます。医療法人の所得には法人税が課せられますが、法人税率は30%程度でほぼ一定の上、個人の所得税の最高税率より低く設定されています。そのため、法人化して院長の報酬を低く設定し残ったお金を医療法人の所得とすれば、個人の所得税を抑えながら節税が可能となります。収入が多い医院ほど法人化によって高い節税効果が得られる反面、年間の社会保険診療報酬が5,000万円以下の医院は逆に税負担が増える可能性があるため注意が必要です。

給与所得控除を理事長個人が受けられる

開業すると個人事業主になりますが、医療法人化すると医療法人から給与の形で役員報酬が支払われるため、給与取得控除が受けられます。勤務医に戻ると考えると分かりやすいでしょう。給与所得控除が受けられるということは、その分節税となります。給与所得控除とは、会社員など給与所得者の税金を計算する際、事業所得者の経費の代わりに給与から差し引く金額のことです。具体的には、生命保険料や配偶者控除などです。こうした一律の基準を設けて給与収入に応じた額を差し引くことで、個別に経費を計算する手間を省き、尚且つ事業所得者との公平性を保つことができます。収入が高い人ほど控除額の割合が少なくなるため、多くの税を負担する仕組みとなっています。給与所得控除は最大195万円です。

所得分散によるクリニック全体の節税

所得税は所得が多いほど課税額が大きくなるため、給与を理事長一人に集中させると個人の納税額が大きくなってしまいます。家族を理事長や理事など役員に就任させて報酬を分散させるとより多くの控除を受けられるため、収入は同額でも課税額を抑えることができます。

退職金が支給できる独自の優遇制度

個人医院の場合、退職金を支給することはできません。医療法人の場合、院長やその家族が医療法人から退職金を受け取ることが可能で、支給された退職金が適正額の範囲であれば全額損金処理することができます。受け取った個人にも退職所得控除が適用され、更に課税対象となるのは控除後の金額の1/2のみという優遇制度があるため、通常の役員報酬として支給するより大幅な節税となります。ちなみに「損金」とは法人税法上の概念で原価、費用、損失が含まれ、「経費」とは所得税法上の概念で個人事業主が確定申告で事業に使った費用として計上するものを指します。

医療法人格を取得した後は、個人経営の時代よりも活用できる損金や税制上の選択肢が劇的に広がります。こうした法人ならではの財務の仕組みを駆使し、医療法人に特化した具体的な税務・節税ノウハウについて網羅的に確認しておきたい院長先生は、当法人が提供する以下の関連記事を合わせてご覧ください。

生命保険を活用した確実な積立と損金算入

個人事業の場合、生命保険料が最大12万円控除されますが、支払った保険料を経費とすることはできません。医療法人の場合、保険料の全額又は一部を経費としながら退職金の積立てが可能となります。この生命保険を利用した節税を行いつつ退職金として受け取れば、支払い額以上の額を得ることも可能となります。返戻金として受け取ると雑収入として計上されるため、赤字のタイミングで掛け金を取り崩して補填に使うといった活用方法もあります。

法人名義変更による車両等の経費化

車両も経費として計上できます。個人事業場合、所有する車両はプライベートに使用する可能性があるため全額経費として認められることは殆どありません。医療法人の場合、あくまで法人であるためプライベートという概念がありません。そのため、自己所有の車両であっても法人名義に変更すれば、100%経費にすることができます。

源泉所得税がなくなるキャッシュフローの改善

個人医院の場合、社会保険診療報酬は所得税が源泉徴収されます。医療法人の場合、源泉徴収されないためその分資金繰りが良くなります。

持分なし医療法人の相続税ゼロという強み

平成19年4月1日の医療法改正後に設立された持分なし医療法人の場合、解散時の財産は国・地方自治体・その他の医療法人に帰属します。出資者の相続財産からは除外されるため、相続税がかかりません。ただし、医療法改正前に設立された持分あり医療法人の場合は、巨額の相続税がかかり、むしろデメリットとなる場合があります。詳しくは後述のデメリットを参照してください。

節税以外のメリットには、以下のものが挙げられます。

社会的信用の向上による資金調達と採用の優位

医療法人は非常に厳正な審査を経て認可を受けており、設立後も適正な財務管理を求められるため、個人医院と比較してより社会的信用が高まります。金融機関への対外的信用も向上し、資金調達しやすくなります。個人医院の場合、融資を受ける際には院長の他にもう一人保証人が必要ですが、医療法人の場合、契約の主体が医療法人なので保証人を理事長にして実質一人で借入することができます。また、採用に関しても、「医療法人○○会」といった名称を掲げることで、優秀な人材が集まりやすいなどのメリットがあります。

自由な事業展開による付帯業務の可能性

個人事業主の場合、院長一人につき診療所一つしか経営することができません。医療法人の場合、分院、介護事業施設、リハビリテーション施設、メディカルフィットネス施設など、付帯業務含めて様々な事業展開をすることが可能です。

事業承継対策の簡素化と永続的な医業経営

個人医院の場合、クリニックの承継には相続税がかかります。持分なし医療法人の場合、理事長を変更するだけで事業承継が完了し、相続税もかからないため、子どもに継がせるのが容易となります。

地域医療へ安定的に貢献できる基盤の確立

上述のように事業展開や承継をスムーズに行うことで永続的な経営が可能となり、地域医療の安定供給に貢献できます。

借金名義の法人変更による個人のリスク軽減

個人医院の開業時にできた借金の名義を理事長から医療法人に変更することで、個人の負ったリスクを減らすことができます。

医療法人化に伴う知っておくべきデメリット

財務面のデメリットとして、以下のものが挙げられます。

社会保険の加入義務による労使折半のコスト増

個人医院の場合、社会保険(健康保険・厚生年金)は任意加入です。医療法人になると、従業員数に関わらず社会保険に強制加入しなければなりません。保険料は事業主と従業員で労使折半となるため、事業主と従業員双方に金銭的負担が生じます。

資金自由度の低下と個人の可処分所得減少

個人医院の場合、収益から費用を引いた差額が所得となり、税金負担後の残金は個人の財産として自由に使うことができます。医療法人の場合、理事長であっても役員報酬として支払われる給与以外のお金を自由に使うことはできません。医療法人と理事長は別人格として明確に切り分けられているからです。このため、理事長個人が自由に使える所得は個人経営と比較して減少します。

内部留保を処分できない配当禁止の原則

個人医院の場合、獲得した利益の配当が可能です。医療法人では、余剰金の分配が禁止されています。獲得した利益は配当や賞与の形で処分することができず、内部留保として医療法人内に蓄積されます。これによって出資持分の評価額が拠出時の何倍も大きくなり、医療法人の出資金という換金性の低い形で相続財産が膨らんでしまいます。ちなみに「内部留保」とは、最終利益の中で社内に蓄えられる(=留保される)部分を指し、利益剰余金と同義です。

持分あり医療法人の解散時みなし配当課税

持分あり医療法人は経過措置医療法人に位置付けられ、解散時の残余財産の帰属先についても変更されていないため、残余財産を出資額に対して出資者へ分配することが可能です。そのため、内部留保が多くなり個人への分配額が医療法人の資本金の額を上回る場合は、利益の配当又は剰余金の配当とみなされ、配当所得として超過累進税率が適用され所得税が課税されます。しかし、役員報酬や役員退職金の支給額を調整し、解散時に医療法人の内部に残余財産が残らないようにすることで、みなし配当所得を少なくすることは可能です。

持分なし医療法人の解散時残余財産の国帰属

持分のない医療法人は、解散時の残余財産が国や地方公共団体等に帰属するため、出資割合に応じた返還請求をすることはできません。役員報酬や役員退職金の支給額を調整し、解散時に医療法人の内部に残余財産が残らないようにすればこのデメリットは回避できますが、個人事業主と異なり私的財産の請求や継承ができない点は、後継ぎがいないクリニックにとっては大きなデメリットです。

交際費の一部が損金にならない税法上の制限

個人医院の場合、事業に直接関係する交際費であれば金額の制限なく全額経費として認められます。医療法人の場合、交際費として損金算入可能な金額に上限があります。

<持分あり医療法人の場合>
出資金が1億円以下であれば、法人損金限度額は800万円です。800万円までの交際費は全額損金になりますが、800万円を超過した分については損金になりません。

<持分なし医療法人の場合>
出資金が0円として扱われるため、税法上の出資金を以下の算定式で計算します。
(期末総資産簿価-期末総負債簿価-当期利益)×60%
この計算式に当てはめて税法上の出資金が1億円を超過した場合、交際費は原則全額損金不算入になります。つまり、持分なし医療法人において内部留保が多くなると経費で落とせる交際費が大幅に減少する可能性があるため注意が必要です。

また、こうした交際費制限のほか、医療機器や先端設備の導入時に活用できる中小企業者向けの優遇税制についても、法人成りの前後で要件が大きく変わるケースがあります。少額資産の一括経費算入特例に関するルールや実務上の注意点については、以下の関連記事をあわせてご確認ください。

小規模企業共済等の解約による加入資格喪失

医療法人の役員は、小規模企業共済や年金基金の加入資格がありません。医療法人では厚生年金に強制加入となるため、個人で掛けていた小規模企業共済や年金基金、経営セーフティ共済は解約しなければなりません。

運営面のデメリットには以下があります。

運営管理業務の煩雑化にともなう事務負担

医療法人化すると、下記のような対応が必要です。

  • 法人設立手続き:設立時の届出や定款変更の許認可など、非常に煩雑な手続きが必要です。
  • 都道府県知事への報告:設立後も事業報告書などの必要書類を都道府県知事へ定期的に提出しなければならないため、管理業務の負担が増えます。
  • 書類作成などの雑務:事業報告書、総資産の変更登記、変更登記にかかる官庁への届出、社員総会の議事録など、書類作成の手間が増えます。
  • 社員総会や理事会の開催:医療法人になると、社員総会や理事会を開かなければならず、運用管理の負担が増えます。

簡単に解散できない永続性への高いハードル

医療法人も他の営利法人のように解散することはできますが、法人設立時と同様に、都道府県の認可が必要です。また、地域医療の担い手という観点から事業の永続性が求められるため、医療法第55条に定められている事由以外で解散は認められておらず、理事長が引退したい場合には、継承者かM&A(売却)先を探さなくてはいけません。更に、解散認可申請の仮申請受付時期は限られているため、事前審査や本申請を経て認可が下りるまでに半年ほどかかります。一度医療法人成りすると個人事業主に戻るのは難しいと言われているのは、このような理由からです。

「医療法人化のメリット・デメリット」まとめ

  • 法人化による高い節税効果と経営基盤の強化
    個人経営から法人税率への切替や所得分散、役員退職金の支給が可能になるほか、社会的信用の向上にともなう分院展開や資金調達の円滑化など、数多くのメリットを享受できます。
  • 社会保険の強制加入や資金の公私混同制限という制約
    従業員数に関わらず社会保険への強制加入義務が生じ労使折半コストが増加するほか、法人の資金を理事が自由に処分できなくなるなど、財務上の厳格な管理運営が求められます。
  • 持分の有無による財産承継・解散時のリスク管理
    内部留保の蓄積にともなう出資持分の評価額暴騰や、解散時の残余財産の国帰属、交際費の損金算入制限など、長期的な出口戦略(リタイア・医業承継)を見据えた緻密な財務設計が必須となります。

医療法人化はクリニックの税負担を最適化し、将来の事業承継を円滑に進めるための強力な選択肢となりますが、同時に様々な行政上の規制や財務的な制約を負うことになります。大切なのは目先の節税額だけにとらわれるのではなく、地域医療を支える法人としての社会的責任を認識し、中長期的な視点で決断を下すことです。

最新の法改正や医療法人特有の税制を味方につけ、リスクのない確実な医業経営を築くための当法人の税務顧問サービス(または未来財務サポート)もぜひご覧ください。自院にとって最適な法人化のタイミングや、具体的なメリット・デメリットのシミュレーションに関するお悩みは、お気軽に税理士無料相談をご活用ください。

医療法人化に関するよくある質問

A.実務上、医療法人化を検討する一般的な目安は、個人クリニックの「課税所得(売上から経費や控除を引いた金額)」が年間1,500万円〜1,800万円を超えたタイミングです。このラインを超えると、個人の所得税・住民税の最高累進税率(最高55%)による負担が、法人税の実効税率(軽減税率を含め約30%程度で一定)を大きく上回るため、税率差による確実な節税メリットが生まれ始めます。ただし、スタッフ数が多く社会保険料の法人負担分(労使折半コスト)が急増する医院では、所得ラインがさらに高く設定される場合もあるため、事前の精密な試算が不可欠です。

A.いいえ、医療法人の役員報酬は税法上の「定期同額給与」のルールが厳格に適用されるため、年度の途中でいつでも自由に変更することはできません。原則として、事業年度の開始(決算)から3ヶ月以内に開催される社員総会や理事会において向こう1年間の毎月の支給額を決定し、その期間内は「毎月完全に同じ金額」を支給し続ける必要があります。もし年度の途中で臨時に報酬を増減させてしまうと、その変更部分が経費(損金)として認められず、法人税と所得税の二重課税となる強烈なペナルティを受けるリスクがあるため、期首の報酬設定は非常に慎重に行わなければなりません。

A.医療法人の「理事長」は、医療法の原則として「医師または歯科医師」でなければ就任できないと定められているため、お子様が医師免許を持っていない場合、そのまま理事長として法人の代表権を直接引き継ぐことはできません。しかし、お子様を医療法人の資産や運営を管理する「理事(役員)」のメンバーや事務長として迎え入れ、実質的な法人の財産や経営権を承継させることは実務上可能です。その場合、医療行為を統括する「管理者(院長)」として外部から有資格者の医師を招聘して配置するガバナンス設計を行うことで、非医師のお子様であっても法人の経営を安定して継承していくスキームを構築できます。

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この記事の監修者

BIZARQグループ 代表 / 公認会計士・税理士・行政書士 吉岡伸晃

吉岡 伸晃 Nobuteru Yoshioka

BIZARQグループ 代表 / 公認会計士・税理士・行政書士

大手監査法人での経験を経て、現在はスタートアップから医療法人まで幅広い企業の財務・経営戦略をサポート。事業計画策定や資金調達支援に強い。

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