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2026.09.02
医療法人のM&Aを徹底解説!最新動向と手法・メリットをプロが解説

全国47都道府県(フルリモート対応)で、医療法人のM&A支援や経営コンサルティングを通じて企業の成長を強力にバックアップする東京・新宿の税理士事務所、BIZARQ(ビズアーク)グループ 代表(公認会計士・税理士・行政書士)の吉岡伸晃です。
現在、日本の医療業界において後継者不足に悩むクリニックや病院は非常に多く、地域医療の維持・存続という観点からも、医療法人のM&A(企業の合併・買収)の必要性が必然的に高まっています。しかし、非営利性が強く求められる医療法人のM&Aは、株式会社などの一般企業とは適用される法律(医療法など)が異なり、選択できるスキームや行政機関への手続きが非常に特徴的かつ複雑です。
本記事では、医療法人の売却(譲渡)を考えている理事長様や、買収による分院展開を検討中の法人様に向けて、医療法人M&Aの最新動向から具体的な手法、メリット・デメリットまでを専門家の視点で分かりやすく徹底解説します。
なお、医療法人の制度上の種類やクリニックとの違いに関する基礎知識については、下記の記事で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
・関連記事:医療法人とは?概要と種類、クリニックとの違いを解説!
プロの視点医療法人M&Aを成功に導く最新動向と「税制改正」の影響

医療法人のM&Aを検討する際、経営陣の皆様にまず押さえていただきたいのが「最新の法制度と税制の動向」です。
令和8年度(2026年度)の税制改正大綱において、「認定医療法人制度(持分あり医療法人から持分なし医療法人への移行を支援し、相続税・贈与税の納税猶予・免除措置を活用できる制度)」の適用期限がさらに3年延長される措置が盛り込まれました。これにより、本制度を活用したスキームをじっくり検討・実行しやすい環境が引き続き維持されています。
東京・新宿エリアをはじめ、全国47都道府県の医療機関からM&Aに関するご相談を受ける中で感じるのは、失敗の最大の要因は事前のデューデリジェンス(財務・法務・労務リスクの調査)の不足と、複雑な行政手続きのスケジュール見誤りにあるということです。
医療法人は剰余金の配当が禁止されているなど独自の資金ルールが存在し、過去の未払い残業代や医療過誤リスク、社会保険の未加入問題などが隠れているケースも少なくありません。M&Aを実行する際は、過去の税務処理をなぞるだけでなく、未来の地域医療構想を見据えた上で、税理士、弁護士、社労士などの専門家チームによる多角的なリスク検証を行うことが、リスクを最小限に抑え、安全なM&Aを成功に導くために極めて重要なポイントとなります。
医療法人M&Aにおける3つの特徴と主要スキーム
医療法人のM&Aで用いられる主なスキーム(手法)は、適用される法律の違いから、原則として以下の3つに分類されます。それぞれの特徴を正しく理解し、自院の経営戦略や法人の形態に最適な手法を選択することが重要です。
- 合併
- 事業譲渡
- 出資持分の譲渡(「持分あり」「持分なし」)
複雑なスキームの比較について、まずは以下の表で全体像を整理します。
| スキーム名 | 主な特徴・対象 | 手続きの難易度・期間 | 許認可の引き継ぎ |
|---|---|---|---|
| 合併 | 2つ以上の法人を1つに統合する | 高(約1年程度〜) | 原則として引き継がれる |
| 事業譲渡 | 一部の事業(クリニック等)のみを売買する | 中(数ヶ月〜半年程度) | 取り直し(廃止・新規開設等)が必要 |
| 出資持分譲渡 | 法人の所有権・経営権を譲渡する | 中〜高(法人形態による) | 法人は存続するため引き継がれる |
1.合併:医療審議会を経る大規模な統合
合併とは、2つ以上の医療法人をひとつに統一する手法です。合併には、新しく医療法人を設立して消滅する法人の権利義務をすべて引き継がせる「新設合併」と、存続する法人に消滅側のすべてを引き継がせる「吸収合併」があります。実務上は、手続きの連続性やコストの観点から吸収合併の方が一般的に用いられる傾向があります。
合併の最大の特徴は、医療法に基づく都道府県の「医療審議会」を経て行政の認可を得る必要がある点です。医療審議会は開催頻度が年に数回程度と限られており、事前の予備交渉から定款変更の認可、債権者保護手続き、最終的な登記完了までに約1年という長期間がかかることを想定しておく必要があります。
2.事業譲渡:分院展開や一部事業の切り出しに有効
事業譲渡は、医療法人そのもの(法人格)を手放すのではなく、特定のクリニック、介護施設、あるいは事業部門など「一部の事業」のみを譲渡するスキームです。特定の事業に関する財産、負債、権利義務、従業員との雇用契約などを個別に売却・買収することができます。
買い手側の法人が分院展開を行う際によく用いられる手法ですが、行政手続き上は「売り手側での診療所の廃止」と「買い手側での診療所の新規開設」という扱いになります。そのため、管轄の保健所や厚生局での開設許可・指定申請等の手続きを、診療スケジュールに空白ができないよう期限内に漏れなく行う必要があります。ただし、売り手は法人として存続するため、法人全体の経営権そのものを移転するよりは相対的に決断しやすい傾向があります。
3.出資持分の譲渡:「持分あり」「持分なし」の違いと対価
医療法人そのものの所有権と経営権を第三者に譲渡する、M&Aにおいて最も一般的な手法です。ただし、法人の設立時期や定款によって「持分あり」と「持分なし」に分かれ、扱いと対価の受け取り方が大きく異なります。
「持分あり」の医療法人の場合
平成19年(2007年)4月1日以前に設立された医療法人の多くが該当します。社員は出資持分払戻請求権と残余財産分配請求権を持っており、この「財産的価値のある出資持分」を買い手に譲渡(売却)することで、理事長(出資者)は直接的な譲渡対価を得ることができます。これと同時に、役員(理事等)と社員(最高意思決定機関の構成員)の変更を行い、法人の支配権を完全に承継します。
「持分なし」の医療法人の場合
平成19年4月以降に設立された法人、あるいは移行した法人が該当します。出資持分という概念が存在しないため、株式譲渡のように「持分を売買して対価を得る」ことができません。そのため、基金拠出型法人であれば「基金の譲渡(返還権利の移転)」を行いつつ、経営権(社員・役員の地位)の交代を行います。
創業者の長年の貢献に対する実質的な対価は、M&A実行後に「退職慰労金」というかたちで法人から支給されるのが一般的です。ただし、退職慰労金が不相当に高額であると判断された場合は「過大役員退職金」として税務上損金否認されるリスクがあるため、客観的で適正な退職金規程の整備と具体的な算定根拠の提示が不可欠となります。
医療法人M&Aを安全に進める具体的な手続きの流れ
医療法人のM&Aを適法かつ安全に進めるためには、契約面と行政面の双方で専門的な手続きが求められます。ここでは一般的な「出資持分の譲渡」を前提とした大きな流れを解説します。
詳細な法的枠組みについては、厚生労働省の公式案内も参考にしてください。
(参考:厚生労働省「医療法人制度について」)
事前のDDと最終契約:出資持分譲渡契約書の締結
条件交渉が大枠でまとまった段階で、買い手側による「デューデリジェンス(DD:買収監査)」が実施されます。財務・税務・法務・労務の各分野で隠れたリスク(簿外債務、未払い残業代、医療過誤リスク、コンプライアンス違反など)がないかを徹底的に調査します。
DDをクリアし、最終的な条件が合意に至れば、「出資持分譲渡契約書(または事業譲渡契約書など)」を作成し、締結します。この契約書には、法人の全貌や将来の義務を含む極めて重要な取り決めが記載されます。
- 譲渡の対象
出資持分や社員・理事としての地位譲渡の旨 - 実行日
クロージング日 - 譲渡の対価と決済方法
支払い条件やスキームの詳細 - 前提条件
譲渡が実行されるために双方がクリアすべき条件 - 表明保証
過去の財務状況や労務管理、医療トラブル等に関して隠れた簿外債務や不備がないことの誓約 - 誓約事項・競業避止義務
譲渡後、売り手が近隣で同種のクリニックを開業しない義務など
特に労務面での未払い残業代問題や予期せぬ医療過誤などの簿外債務リスクを防ぐため、出資持分譲渡契約書における「表明保証条項」の設定は非常に重要です。また、出資持分を譲渡するだけでは経営権の完全な移行とはならないため、社員総会の決議や新理事の選任手続き、退任する理事の辞任届など、契約書に一連の手続きの全貌を規定しておく必要があります。M&Aに精通した弁護士や税理士などの専門家を交えて作成・締結を行いましょう。
行政手続き:定款変更・役員変更と保健所への届出
契約手続きと並行して、各行政機関への複雑な届出や認可申請が必要です。特に「定款変更」を伴う場合は、各都道府県知事の認可が必要となり、事前相談から申請、認可が下りるまで約2〜3ヶ月の期間を要する傾向があります。
- 定款変更認可申請
都道府県 - 役員変更届
都道府県 - 登記事項の変更登記
法務局(理事長の変更、本店所在地の変更、資産総額の変更など) - 開設届・診療所開設許可申請等
管轄の保健所 - 保険医療機関指定申請等の施設基準届
地方厚生局
院長や理事長が交代する場合、あるいは事業譲渡によって開設者が変更となる場合は要注意です。保健所や厚生局への届出遅延等、行政手続きのスケジュール管理に不備があると「一時的な保険診療不可(休診)」という重大なリスクに直結するため、関係各所との事前の綿密なスケジュール調整と計画的な対応が不可欠です。
医療法人M&Aを活用する買い手と売り手のメリット

需要が高まっている医療法人のM&Aには、買い手・売り手の双方に経営上の大きなメリットが存在します。双方の利害を一致させることが成功の秘訣です。
買い手側:初期費用の抑制と許認可・スタッフの承継
買い手側の最大のメリットは、新規開業における「時間・労力・コスト」を大幅に削減し、低リスクで事業拡大ができる点です。
ゼロからクリニックを立ち上げる場合、好立地な物件の選定、建設費が高騰している内装工事、高額な医療機器の購入など、膨大な初期投資が必要です。さらに、医師や看護師などの医療スタッフの採用難易度は年々高まっており、開業直後の患者集客(マーケティング)も容易ではありません。
M&Aを活用して既存の医療拠点を承継すれば、内装設備や医療機器、採用が困難なスタッフ、そして何より「地域に根付いた患者のカルテ(信頼と実績)」をそのまま引き継ぐことができます。これにより、開業初期から一定の患者基盤やスタッフを引き継ぎ、早期の経営安定化を図りやすい傾向があります。
売り手側:後継者不在の解消と創業者利益の獲得
売り手側にとって最大のメリットは、深刻化する「後継者不在問題」を根本的に解決し、地域医療の灯を守れることです。
親族内や院内に後継者がいない場合、そのままでは廃院(解散)の道を選ばざるを得ません。しかし、M&Aによって優良な第三者へ法人を譲渡できれば、長年法人に貢献してくれた職員の雇用を守り、通院している患者に引き続き安心して医療を提供することができます。
また、経営難や施設の老朽化に直面している法人にとっても、資金力やノウハウのある買い手の傘下に入ることで、経営再建を図る有力な手段となります。
さらに、創業者(理事長)は出資持分の売却や、長年の功労に対する適正な退職金というかたちで、適正な創業者利益を確保し、これまでの貢献に応じた円滑な事業承継とリタイアを実現できる傾向があります。
医療法人M&Aにおけるデメリットと統合(PMI)リスク
メリットが多い反面、医療法人M&Aにおける最大のデメリット(リスク)として注意すべきは、M&A実行後の「PMI(Post Merger Integration:経営統合プロセス)」におけるトラブルです。
病院やクリニックの経営は、単なるビジネスのシステムではなく、長年その地域に根差した独自の「診療方針」や「組織風土」で行われていることがほとんどです。経営トップが交代し、急激に新しい経営方針や人事評価制度、ITシステム(新しい電子カルテなど)を導入すると、現場のスタッフが強く反発して一斉退職を引き起こしたり、雰囲気が変わったことで患者が離れてしまい、結果的に経営破綻に陥るリスクがあります。
買い手は、売り手の歴史や組織文化を尊重し、現場スタッフとの対話を重ねながら、焦らず段階的に組織を融合させる慎重なマネジメントが強く求められます。
医療機関の事業承継成功事例(東北医科薬科大学のケース)
医療機関における第三者への円滑な事業承継によって、地域医療の維持・発展に大きく貢献した成功事例として、NTT東日本が運営していた企業系病院「NTT東日本東北病院」を、学校法人「東北医科薬科大学」へ病院事業を承継(事業譲渡)したケースをご紹介します。
NTT東日本は、2011年の東日本大震災の際にも緊急医療を提供した実績を持つ同病院を長年運営していましたが、近年は深刻な医師不足問題などの経営課題を抱えていました。そこで、医学部を新設して東北地方の医師不足解消を目指していた東北医科薬科大学へと、2016年に同病院の病院事業を承継(事業譲渡)する取り組みを実施しました。本件は企業系病院から学校法人への事業承継事例であり、医療資源の最適化を図る上で大きな示唆を与えるものです。
承継実行後、同病院は「東北医科薬科大学 若林病院」へと改名されました。大学病院のネットワークとリソースを活かして医師の確保や医療体制の充実が図られ、東北復興に向けた地域医療の重要拠点として、現在も地域住民に安定した医療を提供し続けています。これは、売り手・買い手・地域社会の「三方よし」を見事に実現したモデルケースといえます。
「医療法人のM&Aを徹底解説」まとめ
- スキームの多様性と法的制約
一般企業とは異なり、医療審議会を経る「合併」や、設立時期による「持分あり・なし」の出資持分譲渡など、医療法に基づく特有の制限と手続きが存在する。 - 売り手と買い手の双方にメリット
買い手は初期投資の抑制とスタッフ・患者の引き継ぎが可能となり、売り手は後継者不在の解消と創業者利益の獲得、地域医療の維持を実現できる。 - 専門家による事前検証とPMIが成功の鍵
過大役員退職金の損金否認や行政手続きの不備による休診リスク、統合後のスタッフ離反を防ぐため、士業専門家チームによる徹底したデューデリジェンスが不可欠である。
東京・新宿をはじめ全国の医療法人化・クリニックの事業承継やM&A、さらなる分院展開でお悩みなら、ぜひBIZARQ(ビズアーク)グループにご相談ください。私たちは、平均年齢33歳の機動力とIT対応力を武器に、「公認会計士・税理士・弁護士・社労士・行政書士」がワンチームとなる4士業連携体制で、複雑な医療法人のM&A手続きから、その後のPMI、未来の財務コンサルティングまでシームレスに伴走します。フルリモート対応で全国47都道府県の経営者様をサポートしております。医療法人の事業承継やM&Aに関するご相談は、医療・クリニック開業の専門チームへお任せください。まずはお気軽に、税理士無料相談までお問い合わせください。
「医療法人のM&A」に関するよくある質問
選択するスキームによりますが、一般的な「出資持分譲渡」や「事業譲渡」の場合は、事前のマッチングやデューデリジェンス、行政手続きを含めて半年〜1年程度かかる傾向があります。「合併」を選択し、都道府県の医療審議会を経る場合は、さらに長期間(1年〜1年半以上)を要することがあります。
「持分あり」の場合は、経営者個人が保有する出資持分を買い手に直接売却することで、売却益として対価を得ます。「持分なし」の場合は出資持分自体を売買できないため、M&A実行後に法人から前理事長へ「退職慰労金」というかたちで、長年の功労に報いる対価が支払われるのが一般的です。なお、過大役員退職金とみなされないよう適正な算定根拠が必要です。
情報漏洩によるスタッフの動揺や一斉退職、患者さんの離反を防ぐため、原則として「最終譲渡契約書が締結され、実行の目処が確実になったタイミング(クロージングの直前〜直後)」で、売り手と買い手が協力して慎重に告知・説明を行うのが一般的です。
この記事の監修者

吉岡 伸晃 Nobuteru Yoshioka
BIZARQグループ 代表 / 公認会計士・税理士・行政書士
大手監査法人での経験を経て、現在はスタートアップから医療法人まで幅広い企業の財務・経営戦略をサポート。事業計画策定や資金調達支援に強い。


