医療法人の使用人兼務役員とは?節税・雇用保険のメリットと注意点

全国47都道府県(フルリモート対応)で、医療法人の税務顧問や未来財務サポートを通じて企業の成長を強力にバックアップする東京・新宿の税理士事務所、BIZARQ(ビザーク)グループ 代表(公認会計士・税理士・行政書士)の吉岡伸晃です。

医療法人において、節税やキャッシュ最大化を図りながら役員の社会保障を充実させる有効な手法として「使用人兼務役員」の設置があります。医療法人であっても、要件を満たせば使用人兼務役員を設置することが可能です。これを正しく活用すれば、役員給与特有の厳しい税務制約を回避して賞与を損金(経費)に算入しやすくなったり、雇用保険に加入して各種助成金を活用できたりと、大きなメリットを享受できます。

本記事では、医療法人における使用人兼務役員の基本要件から具体的な導入メリット、税務調査で否認されないための実務ポイントを解説します。医療法人化の全体像については、医療法人化の方法やメリット・デメリットを解説した記事も併せてご参照ください。

プロの視点医療法人における使用人兼務役員の導入・活用と実務リスク

東京・新宿エリア拠点から全国47都道府県の医療法人・クリニックを支援してきたBIZARQグループの現場経験からお伝えすると、医療法人における使用人兼務役員の導入は「節税面・労務面で大きなメリットをもたらす有効な手法」であると同時に、「税務調査で極めて狙われやすい注意ポイント」でもあります。

医療法人で使用人兼務役員を導入する際のプロの視点として、特に押さえておくべき実務上の結論は以下の3点です。

  • 「役員としての職務」と「使用人としての職務」の明確な区分けと実態証明
    税務署は単に「名目が事務長だから」「院長補佐だから」という理由だけで使用人兼務役員とは認めません。役員としての職務と使用人としての職務の両実態を総合的に確認し、現場での労働実態や権限の範囲を明確にしておくことが必須です。
  • 給与体系(役員報酬部分と使用人給与部分)の明確な区分けと過大給与対策
    使用人としての給与・賞与を損金算入できる点が大きな魅力ですが、他の同等職種の一般従業員(一般の看護師長や事務長など)と比べて不自然に高額な場合、税務調査で「過大給与」として否認されるリスクがあります。客観的な給与テーブルと職務記述書の整備が不可欠です。
  • 税理士と社会保険労務士の「横横連携」による実務構築が必要不可欠
    使用人兼務役員は、税務上の「損金算入(定期同額給与・事前確定届出給与の適用除外)」と、労務上の「雇用保険適用(ハローワークの兼務役員雇用実態証明書)」が表裏一体となっています。税理士だけ、あるいは社労士だけで対応しようとすると、どちらかの要件が漏れて税務否認や保険適用拒否という事態につながる傾向があります。

2026年(令和8年)現在の税制においても、役員給与や過大給与に対する損金算入ルールは非常に厳格に運用されています。使用人兼務役員を戦略的に活用するためには、税務・労務・法務の総合的な視点からの設計が欠かせません。

医療法人における使用人兼務役員とは?基本定義と要件

使用人兼務役員とは、法人において「取締役や理事といった役員の地位を有しつつ、同時に部長、課長、院長、事務長などの使用人(従業員)としての職務にも常時従事する人」を指します。

一般企業(株式会社など)では、営業部長兼取締役や工場長兼取締役などが典型例ですが、医療法人の場合でも、組織の要件を満たせば法律上・税務上の使用人兼務役員を設置することが可能です。

対象外となる役員(理事長・専務・常務等)

医療法人において誰でも使用人兼務役員になれるわけではありません。法人税法施行令第71条等の規定により、代表理事(理事長)、専務・常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員、監事など、一定の役員は使用人兼務役員になることができません。

一方、これらに該当しない理事については、法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事するなど、使用人兼務役員の要件を満たしていれば、使用人兼務役員となり得ます。

具体的になれない役職の範囲は以下の通りです。詳細な税法上の規定については、国税庁「No.5205 役員のうち使用人兼務役員になれない人」をご参照ください。

  • 理事長(医療法人の代表権を有し、経営の主導者であるため兼務不可)
  • 専務理事、常務理事(法人の業務を統括・常務を処理する重要役員であるため兼務不可)
  • 清算人(解散手続き等を行う立場であるため兼務不可)
  • 監事(業務・会計監査を担い、法令上使用人の兼務が禁止されているため不可)
役職・立場医療法人での具体例使用人兼務役員になれるか主な理由
理事長理事長(開設者)不可法人の代表権を有し経営の主導者であるため
専務理事・常務理事専務理事、常務理事不可法人の業務を統括する重要役員であるため
監事監事(外部会計士等)不可業務監査・会計監査を担い、使用人兼務が法令上禁止
平理事(副院長兼務)勤務医である理事可能診療という使用人職務に常時従事しているため
平理事(事務長兼務)事務長である理事可能事務部門の総括という使用人職務に従事しているため
平理事(名目のみ)非常勤の親族理事不可使用人としての常時勤務実態が存在しないため

職務実態の要件(地位と常時勤務の証明)

単に理事の役職名を「平理事」にしておくだけでは十分ではありません。使用人兼務役員として客観的に認められるためには、以下の職務実態要件をすべてクリアする必要があります。

  • 法人の使用人としての職制上の地位を有すること(定款や組織図上、院長・副院長・事務長・看護部長等の役職が明記されていること)
  • 常時使用人としての職務に従事していること(日々クリニックや病院の現場で常勤スタッフとして労働に従事していること)
  • 役員職務と使用人職務の実態確認
    理事としての職務と使用人としての職務の両実態を総合的に確認し、現場での労働実態や権限の範囲を明確にしておくこと。

医療法人で使用人兼務役員を置く大きなメリット

医療法人で使用人兼務役員を適切に設置すると、税務面および労務面で非常に大きなメリットが得られます。代表的な3つのメリットを深掘りします。

①損金算入の自由度(役員給与規制の緩和)

通常、医療法人の役員に支払う役員報酬や役員賞与には、法人税法上極めて厳しい制約が課されています。

  • 役員報酬(定期同額給与)
    原則として事業年度開始の日から3月以内に行われる改定等、法人税法上認められる場合を除き、各支給時期の給与額が同額であることが必要。期途中の不当な増減額は損金算入が制限される。
  • 役員賞与(事前確定届出給与)
    事前に支給時期と支給額を税務署へ届出(事前確定届出給与に関する届出書)し、少しでもズレがあると損金不算入となる。

しかし、使用人兼務役員の場合、「使用人部分の給与・賞与」については、一般の従業員と同様のルールが適用されます。

たとえば、決算期末に想定以上の利益が出た場合、一般の役員には緊急の決算賞与を支給しても損金にできませんが、使用人兼務役員の使用人賞与部分であれば、使用人としての職務に対応する相当な金額であり、かつ期末までの支給通知や期末後1か月以内の支給といった法人税法上の使用人賞与の損金算入要件を適正に満たすことで損金算入が可能となります。

※決算賞与支給時の注意点:使用人兼務役員の使用人部分に対して決算賞与を支給し損金算入する場合、法人税法上の使用人賞与の要件として「期末までに各人別に支給額を通知する」「通知した金額を事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払う」「その支給額を通知した日の属する事業年度において損金経理する」といった要件を厳格に満たす必要があります。また、「一般従業員と同等の支給基準」が一律の法令要件となっているわけではありませんが、国税庁の取扱上、類似する職務の使用人に対する給与等を基準として不相当に高額でないこと(相当な金額であること)や、他の使用人と支給時期が異なって過大役員給与とみなされないこと等の要件を満たすことが求められます。なお、制約を受けないのはあくまで「使用人としての職務に対する給与・賞与」のみであり、理事としての報酬部分は通常の定期同額給与のルールに従う必要があります。

②雇用保険の加入と節税・手当のメリット

原則として、法人の役員は「雇用される者」ではないため、雇用保険に加入することはできません。しかし、使用人兼務役員は使用人としての身分を兼ね備えているため、就業実態や労働者的性格に基づき、ハローワークにおいて雇用関係(労働者性)が認められた場合には雇用保険の被保険者となることができます。

雇用保険に加入できることにより、以下のような直接的・間接的ベネフィットが生まれます。

  • 各種給付金・手当の受給権確保
    育児休業給付金、介護休業給付金、高年齢雇用継続給付などの公的給付を受け取ることができ、万が一の退職時には失業手当(基本手当)の受給対象となります。
  • 法人側の保険料経費化(節税効果)
    法人が負担する雇用保険料・労働保険料は法人の損金(経費)となります。役員個人の社会保障を充実させつつ、法人の節税にもつながる仕組みです。

制度の全体像については、厚生労働省「雇用保険制度」の公式案内もご確認ください。

③助成金の活用機会の拡大

厚生労働省が実施している各種助成金(キャリアアップ助成金、人材確保等支援助成金、両立支援等助成金など)は、原則として「雇用保険の適用事業所であること」および「対象者が雇用保険被保険者であること」を受給要件としています。

雇用保険の被保険者であることが要件となる助成金については、使用人兼務役員が被保険者となりその他の支給要件も満たすことで、助成金の活用対象となる可能性があります。返済不要の助成金を活用できることは、設備投資や人材確保を推進する医療法人にとって大きなアドバンテージとなります。

医療法人で使用人兼務役員が認められない・否認されるリスクケース

医療法人における使用人兼務役員はメリットが大きい反面、税務署の税務調査において非常に厳しくチェックされる項目の一つです。以下のようなケースでは、使用人兼務役員の設置自体が否定されたり、支払った賞与・給与が損金否認されて追徴課税が課されるリスクがあります。

  • 小規模クリニックで組織的な必要性がないケース
    病床のない無床診療所(開業医)などで、従業員数が数名しかいないにもかかわらず、理事全員に「〇〇部長」「〇〇マネージャー」といった使用人タイトルを付けて使用人兼務役員と主張する場合。税務署から「部署を分けて使用人を置く実質的な組織上の必要性がない」と判断されるリスクが高まります。
  • 理事長の親族に対する形式的な名目設定(名義貸し)ケース
    理事長の配偶者や子供を無条件で理事にし、形式的に「事務長」という肩書を与えているものの、実際には時々クリニックに来る程度で常時勤務していない場合。勤務実態のない役員に対する使用人給与支給は、実質的な役員賞与(損金不算入)と判定される可能性が高いです。
  • 使用人給与の金額が「過大」であると判定されるケース
    法人税基本通達9-2-23に基づき、使用人兼務役員の使用人分給料・賞与が、同等の職務を行っている一般従業員(例:ほかの看護師や事務員)の給与水準から離れて不自然に高額である場合、使用人分として不相当に高額な部分について損金不算入となるおそれがあります。比較対象となる適切な使用人がいない場合には、役員就任直前の給与や使用人のうち最上位にある者の給与などを踏まえて適正額を判断します。

医療法人で使用人兼務役員を設置する際の実践ポイント

使用人兼務役員を円滑に導入し、税務調査でも正当性を客観的に立証できるようにするためには、事前の緻密な手続きと証拠(エビデンス)の積み上げが不可欠です。

ハローワーク手続き(実態証明書の提出)

使用人兼務役員が雇用保険に加入するためには、管轄のハローワーク(公共職業安定所)へ「兼務役員雇用実態証明書」を提出し、承認を受ける必要があります。

手続時には、単に申請書を出すだけでなく、以下の添付書類を厳密にチェックされます。

  • 理事会の議事録(役員選任および使用人としての職務委嘱が明記されたもの)
  • 労働契約書または就業諾書
  • 組織図(使用人としての職制上の位置づけがわかるもの)
  • 就業規則、賃金規定(一般従業員と同じ就業ルールが適用されているか)
  • 出勤簿・タイムカード(常時勤務している実態の証明)
  • 賃金台帳・給与明細(役員報酬部分と使用人給与部分が明確に区分されているか)

ハローワークで「兼務役員として雇用保険適用」の承認を得ておくことは、税務調査においても「公的機関が使用人実態を認めた客観的証拠」の一つとして補強材料となります。

エビデンスの整備(議事録・各種規定の作成)

税務対策の観点から最も重要なのは、「役員報酬金額」と「使用人給与金額」の内訳を明確に区分・根拠付けしておくことです。

具体的には、理事会や社員総会の議事録において、以下のように分離して決議・記載します。

「〇〇氏の理事としての役員報酬は月額10万円とする。なお、同氏は事務長としての職務を兼務するため、使用人給与として就業規則・賃金規定に基づき月額30万円、および一般従業員と同等の支給基準による賞与を支給する。」

このように明確に分離し、実際に使用人部分の給与・賞与は一般従業員と同じ賃金計算期間・支給日に支給することが重要です。

専門家(税理士・社労士)との連携

使用人兼務役員の判定は、法人税法・医療法・労働保険法が複雑に交錯する高度な専門領域です。「自院の規模で認められるか」「給料の比率はどう設定すべきか」を判断するには、医療法人の実務に精通した税理士および社会保険労務士のサポートを受けるのが最も確実です。

項目一般の役員(専任理事)使用人兼務役員(使用人分)
定期同額給与の適用原則厳格に適用(※法人税法上認められる改定等を除く)使用人給与部分は適用外(※ただし理事としての役員報酬部分は定期同額給与の適用を受ける)
賞与の損金算入事前確定届出給与の届出が必須届出不要(使用人職務に対応する相当な額であり、かつ他の使用人と不自然な差異がない等の要件を満たせば損金算入可能)
決算賞与の支給原則として損金算入不可法人税法上の使用人賞与の損金算入要件(期末までの各人別支給額通知、期末後1か月以内の支給、当該事業年度での損金経理等)を満たすことで損金算入可能
雇用保険の加入加入不可加入可能(就業実態等によりハローワークで労働者性が認められた場合)
過大給与否認リスク役員報酬全体の適正額で判定同種職種の一般従業員給与との比較等により適正額を判定

「医療法人の使用人兼務役員活用」まとめ

  • 要件と対象役員の把握
    理事長・専務・常務・監事は対象外(No.5205規定)。平理事かつ現場の使用人職務に常時従事していることが必須条件。
  • 税務・労務のメリット
    使用人給与・賞与部分は相当額の範囲で損金化が可能。雇用保険加入により労働者性が認められれば助成金活用機会も拡大。
  • 否認リスク防止と事前準備
    小規模クリニックの形式的設定や不相当に高額な給与は否認リスクあり。実態証明書提出やエビデンス整備が重要。

東京・新宿をはじめ全国のクリニック院長・医療法人理事長様で、使用人兼務役員の導入や節税対策、労務・税務顧問でお悩みなら、医療法人会計・DXに強い4士業連携のBIZARQ(ビズアーク)グループ医療専門サポートへご相談ください。実績豊富な専門チームが、貴院の健全な財務と未来の経営を力強くバックアップいたします。税理士無料相談はこちらから。

「医療法人の使用人兼務役員」に関するよくある質問

A.実態が伴っていれば可能です。ただし、税務署から「名義貸し」や「過大給与」と疑われやすいパターンでもあります。配偶者様が実際に毎日クリニックに出勤し、受付・医療事務・スタッフ管理などの職務を常時行っているか、タイムカードや業務日誌、他の一般従業員と比較して適正な給与設定になっているかという客観的エビデンスを揃えておく必要があります。

A.いくらでも認められるわけではありません。損金算入が認められるのは、あくまで使用人職務に対応する相当な金額の範囲内です。他の同等職種の使用人の給与水準から離れて不自然に高額な場合や、他の使用人と異なる時期に支給された場合などは、過大な役員給与とみなされ損金不算入とされるリスクがあります。

A.理事に就任したタイミング(または使用人として兼務を開始したタイミング)で速やかに手続きを行うことが推奨されます。遡って手続きしようとすると、当時の出勤簿や賃金台帳の確認が複雑になり、適用を拒否されるケースがあります。理事選任の決定と同時に、税理士・社労士へ相談して手続きを進めることをおすすめします。

A.法令上の制限はなく、設立初年度から設置することは可能です。ただし、設立初期でスタッフ数が非常に少ない場合、「組織として使用人を置く必然性・実態があるか」が厳しくチェックされる傾向があります。組織図の整備や業務分掌の明確化など、初期段階から客観的な説明ができる準備を整えておくことが大切です。

この記事の監修者

BIZARQグループ 代表 / 公認会計士・税理士・行政書士 吉岡伸晃

吉岡 伸晃 Nobuteru Yoshioka

BIZARQグループ 代表 / 公認会計士・税理士・行政書士

大手監査法人での経験を経て、現在はスタートアップから医療法人まで幅広い企業の財務・経営戦略をサポート。事業計画策定や資金調達支援に強い。

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医療クリニックの開業・財務支援に強い、東京・新宿の税理士事務所、BIZARQ(ビズアーク)グループ 代表(公認会計士・税理士・行政書士)の吉岡伸晃です。 クリニックの開業準備や設備更新において、もっとも多額の資金を必要とするプロセスの一つが医療機器の導入です。医療機器を揃える方法としては、大きく分けて「リース」と「購入」の2種類がありますが、どちらを選択するべきかお悩みの院長先生も多いのではないで...

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