
出張旅費規程は、出張にかかる経費に関するルールを定めたものです。
出張旅費規程の作成は必須ではありません。しかし出張旅費規程を定めることで、交通費や宿泊費とは別に日当を支給できるようになります。
日当は損金計上が可能です。つまり、出張旅費規程の作成により損金計上できる額が増えるため、法人税の節税につながります。
出張旅費規程を上手く活用するためには、規程の作成および運用におけるポイントを押さえることも大切です。
今回は出張旅費規程を活用した節税対策や、企業が押さえるべきポイントについて詳しく解説します。
法人におすすめできるその他の節税テクニックについては以下の記事をご覧ください。
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出張旅費規程が節税につながる理由

出張旅費規程が節税に繋がるのは、法人税や所得税など複数の税金に対して効果があるためです。具体的に「法人」「役員・従業員」の双方にどのようなメリットがあるのか、税金の種類ごとに詳しく見ていきましょう。
法人税・消費税の負担を軽減できる
出張旅費規程に基づいて支給される交通費、宿泊費、日当(出張手当)は、全額を「旅費交通費」として損金に算入できます。これにより課税所得が圧縮され、法人税の節税に直結します。
さらに、国内出張の日当や手当は、消費税法上「課税仕入れ」として扱われます。例えば1万円の日当を支給した場合、そのうち消費税相当額(現行税率10%なら909円)を仕入税額控除の対象にできるため、納付する消費税額を減らす効果も得られます。規程がない場合、日当は給与扱いとなり、これらの税務上のメリットは受けられません。
役員・従業員の所得税・住民税が非課税になる
出張旅費規程に基づいて支給される旅費は、通常必要と認められる範囲内であれば、受け取った役員や従業員の所得税および住民税が非課税となります。これは、給与ではなく出張にかかる実費を補填するものと見なされるためです。
もし規程がなく日当などを支給すると、それは給与(賞与)と判断され課税対象となってしまいます。規程を設けることで、会社は経費を増やしつつ、従業員は可処分所得を実質的に増やすことが可能になります。これは、昇給とは異なり社会保険料の負担も増えないため、双方にとって大きなメリットです。
社会保険料の算定基礎から除外される
出張旅補規程に基づき支給される日当や宿泊費は、税法上「給与」とは見なされません。そのため、健康保険や厚生年金保険といった社会保険料の算定基礎となる標準報酬月額に含まれません。
これは、会社と従業員の双方にとってメリットがあります。会社側は法定福利費の負担増を抑えることができ、従業員側も社会保険料の負担が増えることなく手当を受け取れます。
例えば、役員報酬の一部を減額し、その分を出張日当で補填する形を取れば、社会保険料を適法に削減しつつ、役員の手取り額を維持または増やすことも可能になります。
出張旅費規程を作成する節税以外のメリット

出張旅費規程の作成には節税以外にもメリットがあります。メリットを3つ紹介します。
経費精算の手間を削減できる
出張旅費規程は、出張に関する経費精算の手間の削減に効果的です。
出張旅費規程を作成しない場合、出張経費は原則として実費精算となります。
出張の人数や回数が多い会社では、出張の経費精算だけでもかなりの作業量が発生してしまいます。
経費精算を行う経理や総務だけでなく、申請者である出張に行った従業員や役員にとっての負担も大きいです。
出張旅費規程を作成すれば、出張関連の経費を実費精算ではなく固定額を支給すると定めることも可能です。
出張先までの距離に応じて交通費を定めるケースや、政令指定都市か否かで宿泊費を定めるケース等がみられます。
出張に行く従業員や役員は、定められた固定額の範囲内に交通費や宿泊費が収まるよう個々に調整するイメージです。
固定額を支給する旨を定めれば、出張先や日数等の情報だけで簡単に経費精算ができるようになります。
従業員の手取りを増やせる
出張旅費規程を作成し日当を支給するようになれば、従業員の手取りを増やせます。
日当は出張に際して必ず支給するものです。
出張に行く従業員や役員側にとっては、給与とは別で特別な手当が支給されたというイメージになります。
しかし日当は一般的な手当と違い、所得税や社会保険料の計算対象にはなりません。
出張の日当は給与には該当しないため、所得に対して課される税金の計算対象には含まれないのです。
出張旅費規程を作成して日当を支給すれば、税負担なく純粋に手取りだけを増やせます。
出張に関する明確なルールができるため管理しやすくなる
出張旅費規程は出張に関する経費のルールをまとめたものです。
出張に関する明確なルールができるため、出張旅費等の管理がしやすくなります。
経費の管理がしやすくなれば、以下のようなトラブルのリスクを抑えられます。
- ・出張旅費の精算について従業員から度々質問を受ける
- ・出張に行く従業員に対して出張旅費について都度説明する必要性が生じる
- ・従業員が出張旅費について正しく理解しておらず、誤った申請をする
- ・必要以上に高額な交通費や宿泊費をかけてしまう
- ・出張に関する経費についての誤解やわかりにくさが原因で従業員に不満が溜まる
出張旅費規程を作成すれば、トラブルのリスクを抑えられ、出張旅費の申請や精算が進みやすくなるでしょう。
出張関連の管理がしやすくなるため、業務効率化が期待できます。
出張旅費規程は法人ならではの節税策

出張旅費規程を活用した節税は、法人だからこそ利用できる非常に有効な手法です。
株式会社や合同会社はもちろん、医療法人など、あらゆる法人がこの規程を制定・活用できます。社長一人だけの会社や家族経営の中小企業であっても、規程を作成すれば、役員への日当支給などを通じて非課税の恩恵を受けることが可能です。
一方で、個人事業主の場合、この方法は原則として適用できません。個人事業主の出張経費は、事業に関連する実費のみが経費として認められます。出張旅費規程という仕組みは、法人格を持つことのメリットを最大限に活かす節税策の一つと言えるでしょう。
出張旅費規程を作成する際のポイント

出張旅費規程を作成する際のポイントを3つ紹介します。
記載するべき内容を漏れなく盛り込む
出張旅費規程として適切な運用ができるよう、記載するべき内容を漏れなく盛り込むことが大切です。
内容に不備や不足があればルールとして正しく機能せず、かえってトラブルの原因になる恐れがあります。
記載するべき事項を6つ紹介します。
出張旅費規程の目的
当該規程がどのような目的で、どのような内容について定められたものであるかを記載する項目です。
文面の例を紹介します。
- ・「この規程は、〇〇社の役員および従業員が、社命により出張する場合に支給する旅費に関して定めるものである」
- ・「この規定は、就業規則第〇〇条に基づき定めるものである」
- 就業規則に出張旅費や各種規程についての条文があれば、当該条文に基づく旨を記載しても良いでしょう。
規程の適用範囲
出張旅費規程の適用範囲は原則として全員です。全社員に対して適用される旨を明記しましょう。
出張の定義
どこまでが「外出」、どこからが「出張」であるか等、用語の定義も記載する必要があります。
「勤務地を起点に半径〇km以上」といった形式で記載するのが一般的です。
出張や出張旅費の申請および手続き方法
出張の申請方法や手続きのフロー、出張経費の精算手続きの期日等を決める必要があります。
申請や手続きについて定めなければ、出張経費の精算がかえって煩雑になってしまう恐れがあるため注意しましょう。
出張旅費の種類および金額
交通費、宿泊費、日当等が該当します。
交通費は「鉄道」「航空機」「船舶」「バス」「タクシー」のように項目別に作成することが大切です。
指定席の使用可否や航空機利用の条件、例外規定などを作成します。
宿泊費は上限を定めるのが一般的です。役員・管理職・一般社員のように、役職に応じて上限額を定めるケースが多くみられます。
緊急時の対応
出張先で交通事故や災害に遭った場合、海外で病気や通信障害等のトラブルが起きた場合など、緊急時の対応についても記載する必要があります。
社会通念上認められる適正な金額にする
出張旅費規程を定めれば、日当の支給や出張旅費の定額支給が可能と紹介しました。
しかし、規程に定めた内容であれば金額がいくらでも良いというわけではありません。
高すぎる日当や固定額の支給は損金算入が否認されてしまう恐れがあります。
日当や各種上限額は、社会通念上認められる適正な金額に設定しましょう。
日当や支給額の上限を決める際は、アンケートや集計資料等を用いるのが便利です。
たとえば産労総合研究所の「国内・海外出張旅費に関する調査」では、日当や宿泊料等のさまざまな平均値を確認できます。
税務調査で否認されないための注意点を押さえる
出張旅費規程は節税効果が高い反面、税務調査で厳しくチェックされやすい項目でもあります。規程そのものが否認されることのないよう、金額設定以外にも運用面で以下のポイントを必ず押さえておきましょう。
全従業員を対象とする
出張旅費規程は、特定の役員だけを優遇するためのものであってはなりません。税務調査で規程の妥当性を主張するためには、原則として役員を含む全従業員を適用対象とすることが不可欠です。
もし役員のみを対象とするなど、適用範囲が恣意的であると判断された場合、規程自体が否認され、支給した日当などが給与として課税されるリスクがあります。
ただし、役職に応じて支給額に差を設けることは社会通念上認められています。
例えば、「役員はグリーン車を利用可、一般社員は普通車指定席まで」といった形で、合理的なバランスを保った基準を設定することが重要です。
出張の事実を証明できる書類を保管する
出張旅費規程を定額精算で運用する場合でも、出張が実際に行われたことを客観的に証明できる書類の保管は必須です。税務調査では、実態のない「カラ出張」による経費の水増しが疑われやすいためです。
具体的な対策として、「出張報告書」や「出張経費精算書」を作成・保管しましょう。これらの書類には、出張日、訪問先、目的、同行者、業務内容などを記録します。日当や定額支給の交通費・宿泊費については領収書は不要ですが、実費精算する経費の領収書はもちろん必要です。
こうした書類を整備しておくことで、調査時に経費の正当性をスムーズに説明できます。
出張旅費規程の存在・内容を社内全体に周知する
出張旅費規程を適切に運用できる状態にするためには、出張旅費規程の存在および内容を社内全体に周知する必要があります。
出張旅費規程が知られていなければ、運用できていないのと同じといえるでしょう。
たとえば役員や管理職のみに規程の存在を知らせており、一般社員には伝わっていない場合、一部の社員のみを対象とした規程とみなされます。
このような場合、役員や管理職等に支給した日当は損金算入が認められなくなる恐れがあります。
単に出張旅費規程を作成すれば良いわけではなく、全社員に周知して適切に運用できる状態にすることが大切です。
出張旅費規程の節税についてよくある質問

出張旅費規程による節税を検討する中で、多くの経営者様や経理担当者様から寄せられる疑問があります。ここでは、特に質問の多い項目についてQ&A形式で分かりやすく解説します。
日当や宿泊費の相場はいくらですか?
日当や宿泊費の上限額について、税法で明確な金額が定められているわけではありません。基準となるのは「社会通念上相当と認められる金額」という考え方です。この金額を判断する上で参考になるのが、同業種・同規模の他社が一般的に支給している金額です。
具体的なデータとしては、一般財団法人労務行政研究所(旧:産労総合研究所)が公表している『国内・海外出張旅費に関する調査』がよく参照されます。例えば、2019年度の調査では社長の国内宿泊日当の平均値は4,458円でした。
このような客観的なデータを参考に、自社の状況に合わせて妥当な金額を設定することが、税務リスクを避ける上で重要です。
社長一人だけの会社でも規程は作れますか?
はい、社長一人だけの会社や、家族経営の会社であっても出張旅費規程を作成し、活用することは全く問題ありません。大企業だけでなく、中小企業こそ積極的に活用すべき節税策です。社長自身が出張する際に、規程に基づいて日当や宿泊費を受け取ることで、会社は損金算入ができ、社長個人は所得税・住民税が非課税になるというメリットを享受できます。
ただし、一人社長の会社であっても、規程の作成や取締役会(または株主総会)での承認議事録の保管、出張報告書の作成といった正規の手続きを踏むことが、税務調査への備えとして非常に重要です。
海外出張でも同じように節税できますか?
はい、海外出張についても旅費規程を定めることで、法人税や所得税の節税メリットを受けることができます。
ただし、消費税の扱いに注意が必要です。国内出張の日当は消費税の「課税仕入れ」として扱われ、仕入税額控除の対象となりますが、海外出張のために支給される旅費、宿泊費、日当は国外での役務提供にあたるため、原則として消費税の課税対象外(不課税または免税)となります。
したがって、海外出張手当については、消費税の節税効果は期待できません。この点を理解した上で、国内出張とは別に海外出張用の規程を設けるのが一般的です。
規程を作成すれば、領収書は一切不要になりますか?
いいえ、全ての場合で領収書が不要になるわけではありません。規程によって不要となるのは、「定額支給」される日当(出張手当)などです。日当は、出張中の食事代や細かな雑費など、領収書の取得が難しい経費を補填する趣旨のため、領収書の提出は求められません。
しかし、交通費や宿泊費を「実費精算」と規程で定めている場合は、当然その領収書が必要になります。また、たとえ交通費や宿泊費を定額で支給する場合でも、税務調査で「カラ出張」を疑われないために、出張の事実を証明する出張報告書や、航空券の半券、ホテルの予約確認メールなどの客観的証拠は保管しておくべきです。
まとめ
出張旅費規程とは出張旅費に関するルールを定めたものです。
出張旅費規程を定めることで、出張に行った従業員や役員に対して日当の支給が可能になります。
日当は損金算入が可能なため法人税等の節税に効果的です。
また、支給される側は税負担なく手取りを増やせる、出張経費の精算の手間を軽減できる等のメリットもあります。
ただし、ただ出張旅費規程を作成すれば良いわけではありません。
記載するべき項目を漏れなく盛り込み、日当や各種上限額は社会通念上認められる適正な金額にする必要があります。
また、出張旅費規程の存在や内容を社内に周知することも大切です。
出張旅費規程を上手く活用し、節税をはじめとした様々なメリットを得ましょう。
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記事監修
BIZARQ株式会社代表公認会計士





