
財務分析とは貸借対照表や損益計算書といった財務諸表の数値をもとに、企業の安全性や経営状況、課題などを多角的に把握することです。
医療法人やクリニックにおける財務分析では「安全性」「収益性」「機能性」の3つの分野が重視されます。
財務諸表以外の資料も用いる必要があるため、実質的には経営分析に近い性質も有します。
財務分析を効率良く行うためには、まずは特に重要な指標の分析から優先的に進めるのが良いでしょう。
今回は医療法人やクリニックの財務分析で押さえるべき指標について解説します。
財務分析に用いる貸借対照表および損益計算書については以下の記事で詳しく解説しています。
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CONTENTS
医療法人・クリニックの財務分析の対象となる分野

医療法人・クリニックの財務分析の対象になる分野として以下の3つが挙げられます。
- 安全性
- 財務的に安定しているかを示す指標です。
- 支払い能力や健全性、倒産リスクの判断に用いる指標ともいえます。
- 収益性
- 医療法人やクリニックにどれだけ稼ぐ力があるかを示す指標です。
- 安定して事業を継続するためには効率的に利益を生み出す力が必要であるため、収益性も重視されます。
- 機能性
- 医療法人・クリニックが保有する病床や人材などの経営資源を効率良く活用できているかを示す指標です。
分析に用いる具体的な指標は後述します。
医療法人・クリニックの安全性分析に用いる指標とポイント

医療法人・クリニックの財務分析として、まずは安全性分析について解説します。
安全性分析に用いる指標の例5つ
医療法人・クリニックの安全性分析で特に多く用いられる指標を5つ紹介します。
自己資本比率
資本全体に対する自己資本の割合を示す指標です。
自己資本比率が高いと経営が安定しているとみなされます。
- 自己資本比率(%)=自己資本÷総資本×100
医療法人が運営する一般病院における自己資本比率の平均値は34.9%です。
固定長期適合率
自己資本と固定負債の合計に占める固定資産の割合です。
固定資産の取得費の回収には長い期間を要するため、返済義務のない自己資本や、長期性の資金でまかなう必要があります。
- 固定長期適合率(%)=固定資産÷(自己資本+固定負債)×100
医療法人が運営する一般病院における自己資本比率の平均値は77.0%です。
償還期間
財務分析における償還期間とは、長期借入金を何年間で返済できるかを示すものです。
償還期間の計算結果と実際の借入金の返済期限を比較し、現在の利益水準で借入金を返済できるのかを判断します。
- 償還期間(年)=長期借入金÷(税引前当期純利益 ×70%)+減価償却費
医療法人が運営する一般病院における自己資本比率の平均値は8.3年です。
流動比率
流動比率とは流動資産と流動負債の割合を示す指標です。
流動比率が100%未満の場合は流動負債が流動資産を上回っている状態であり、短期的な返済能力に問題があると判断できます。
- 流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100
医療機関は流動資産の中に事業未収金として2ヶ月分の診療報酬があるため、一般企業に比べて流動比率が高くなります。
医療法人が運営する一般病院における平均値は423.2%です。
一床当たり固定資産額
一床当たりの有形固定資産の保有状況を示す指標です。
過大な投資は高額の減価償却費、すなわち収益的支出の増大につながる恐れがあります。
そのため類似病院の平均よりも数値が高い場合は原因の分析および改善が求められます。
- 一床当たり固定資産額=減価償却資産の帳簿価額÷病床数合計
医療法人が運営する一般病院における平均値は17,545千円です。
安全性分析のポイント
安全性分析で意識するべきポイントを3つ紹介します。
返済能力に問題はないか
以下のような状態の場合、返済能力に問題があると判断されます。
- ・流動比率が100%未満(流動負債が流動資産を上回っている)
- ・固定長期適合率が100%超(固定資産の取得費や維持費を流動負債にも頼っている)
- ・償還期間が実際の返済期限よりも長い(現在の利益水準では返済が間に合わない)
資金ショートや返済遅延の恐れがあるため、資金繰り改善に向けた早急な対策が必要です。
資金繰り悪化を招く恐れのある懸念事項がないか
固定長期適合率が100%を上回る場合、固定資産の取得や維持に要するキャッシュを短期資金である流動負債にも頼っている状態です。
過大投資の可能性が高く、資金不足を招く恐れがあると判断して良いでしょう。
また、一床当たり固定資産額が平均を上回る場合も過大投資の恐れがあり、将来的に資金繰り悪化を招く恐れがあります。
資産や資本を上手く活用できているか
固定長期適合率が極端に低い場合、設備投資を抑えすぎている可能性があります。
資金繰り悪化の懸念は低いものの、資産や資本を活用しきれていないと考えられるでしょう。
医療法人・クリニックの収益性分析に用いる指標とポイント

続いて、医療法人・クリニックの収益性分析に用いる指標とポイントを紹介します。
収益性分析に用いる指標の例9つ
前提として、収益性分析自体は業界・業種問わず実施されるものです。
ただし、医療法人やクリニックの収益性分析では、医業ならではの指標が多く存在します。
医療法人・クリニックの収益性分析で用いられる指標の例を紹介します。
医業利益率
医療法人の本業である医業の収益に対する利益の割合です。
- 医業利益率(%)=医業利益÷医業収益×100
医療法人が運営する一般病院における平均値は-2.3%です。
なお、医業利益率は病院と診療所で以下のように大きな違いがあります。
- 病院:-1.1%
- 無床診療所:5.0%
- 有床診療所:2.6%
総資本医業利益率
投資した総資本によって生み出された医業利益率を示す指標です。
数値が高いほど効率良く利益を生み出せていると判断できます。
- 総資本医業利益率(%)=医業利益÷総資本×100
医療法人が運営する一般病院における平均値は3.3%です。
経常利益率
経常利益とは通常の経営活動を通じて獲得した利益のことです。
医療機関においては本業である医業および財務活動によって得た利益が経常利益となります。
- 経常利益率(%)=経常利益÷医業収入×100
医療法人が運営する一般病院における平均値は2.7%です。
償却前医業利益率
減価償却費を差し引く前の利益率です。
キャッシュフローの簡易的な水準を示します。
- 償却前医業利益率(%)=(医業利益+減価償却費)÷医業収益×100
医療法人が運営する一般病院における平均値は2.5%です。
病床利用率
病床の稼働状況を示す指標です。
- 病床利用率(%)=1日平均入院患者数÷稼働または許可病床数×100
入院収益と関連する指標のため、収益性分析で特に重視されます。
医療法人が運営する一般病院における平均値は71.7%です。
材料費比率
医業収益に対する材料費(医薬品費及び診療材料費)の割合を示します。
- 材料費比率(%)=材料費÷医業収益×100%
医療法人が運営する一般病院における平均値は18.2%です。
人件費比率
医業収益に対する人件費の割合を示す指標です。
人件費は病院の費用項目の中でも最も比率が高いため、特に重視されます。
- 人件費比率(%)=給与費÷医業収益×100
医療法人が運営する一般病院における平均値は55.7%です。
委託費比率
人件費のうち、直接雇用ではなく外部委託に関する費用の割合を示します。
- 委託費比率(%)=委託費÷医業収益×100
医療法人が運営する一般病院における平均値は6.1%です。
職員1人当たり医業収益
職員の生産性を示す指標です。
- 職員1人当たり医業収益=医業収益÷(常勤職員数+非常勤職員数を常勤換算した値)
医療法人が運営する一般病院における平均値は12,967千円です。
収益性分析のポイント
収益性分析で用いる指標は、1つの結果だけでは細かな情報を判断できません。
以下のように複数の指標を用いて判断する必要があります。
- ・過年度から数値がどのように変化しているか
- ・数値が変化した理由(成長・悪化ともに)は何か
- ・規模や事業内容が近い他の医療法人やクリニックと比べて異常な数値がないか
- ・どの指標の利益率が悪いか、収益性悪化の原因は何か
数値を出して終わりではなく、ほかの指標と組み合わせた分析や過年度・他院との比較も行い、結果を深掘りする必要があります。
また、収益性向上のためには後述する機能性の改善が必要です。
したがって、機能性分析もあわせて行う必要があります。
医療法人・クリニックの機能性分析に用いる指標とポイント

最後に、医療法人・クリニックの機能性分析に用いる指標とポイントについて解説します。
機能性分析に用いる指標の例7つ
機能性分析に用いる指標の例を7つ紹介します。
平均在院日数
各患者の入院日数の平均値です。
- 平均在院日数(日)=在院患者延数÷{(新入院患者数+退院患者数)×2分の1}
医療法人が運営する一般病院における平均値は33.1日です。
平均在院日数が長いほど病床利用率が上昇するため、収益面では好ましいとされます。
ただし診療報酬上は平均在院日数の制限が定められているため、日数を短くすることが求められます。
患者1人1日当たり入院収益、外来患者1人1日当たり外来収益
いずれも売上単価を示す指標です。
- 患者1人1日当たり入院収益=(入院診療収益+室料差額収益)÷(在院患者延数+退院患者数)
- 外来患者1人1日当たり外来収益=外来診療収益÷外来患者延数
入院収益の計算では質量差額収益を除くケースもあります。
患者1人1日当たり入院収益の平均値は50,608円、外来患者1人1日当たり外来収益の平均値は13,909円です。
その他の指標
すでに紹介した2項目以外にも、医療法人やクリニックの機能性分析で用いられる指標は以下のように多数存在します。
- ・一床当たり1日平均入院患者数
- ・一床当たり1日平均外来患者数
- ・医師(看護師/職員)1人当たり入院患者数
- ・医師(看護師/職員)1人当たり外来患者数
機能性分析のポイント
機能性分析は経営資源を有効活用できているかを判断するために行う分析です。
「入院診療収益+室料差額収益=患者1人1 日当たり入院収益×許可病床×病床利用率×稼働日数」のように、機能性は収益性に関係します。
すなわち、機能性分析の結果として数値が低い項目があれば改善をする必要があります。
機能性が低い状態を放置したままでは収益性の向上は実現できません。
ただし、前述した収益性分析と同様に、機能性分析で用いる指標も1つの結果だけでは細かな情報を判断できない点に注意が必要です。
過年度の数値や他の医療機関の数値、都道府県等が公開するデータ等と比較し、数値が低いものがあれば改善策を検討しましょう。
まとめ
医療法人やクリニックの財務分析における指標は、安全性・収益性・機能性の3種類に分けられます。
本記事では合計21の指標を取り上げましたが、今回紹介した以外にも財務分析で用いられる指標は多く存在します。
財務分析の目的や現状の課題に合わせて、必要な分析を網羅的に行いましょう。
なお、各指標の数値を算出しても、1つの結果だけでは細かな情報の判断はできません。
過年度の数値や類似病院の平均との比較、他の数値とのバランスなどを考慮する必要があります。
各指標の計算方法だけでなく、財務分析への活かし方についても十分な理解が必要です。
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記事監修
BIZARQ株式会社代表公認会計士








