医療法人の承継はどうする?プロセスと留意点を分かりやすく解説

2022.11.25

医療法人経営者の高齢化に伴い、承継は大きな課題になっています。

本記事では、承継を検討すべき理由とそれを難しくしている要因について解説し、ケース別の承継プロセスとおすすめスキームもご紹介します。

医療法人経営者及び関係者の方は、是非参考にしてください。

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CONTENTS

医療法人の承継とは?​

医療法人の承継とは、医療法人の経営権(理事長ポスト)や出資持分(財産権)などを後継者に譲ることです。

例えば、病院の経営者(院長)がリタイアして医師の息子に経営を引き継ぐなど、他者に経営のバトンタッチするケースが承継にあたります。

後継者に渡されるものの中には、有形資産と無形資産・負債・従業員・患者などが含まれます。

医療法人の承継を検討すべき理由​

医療法人の経営者は、承継について事前に十分検討しておくことが大切です。

主な理由は下記です。


・税金の問題

・地域医療への影響

それぞれ詳しく解説します。

税金の問題

持分あり医療法人の場合、経営者の持分は承継時に後継者に引き継がれます。

この際、相続税や贈与税・譲渡所得税などが発生します。

医療法人は非営利性の団体であるため、株式会社のように利益配当ができず、長年の利益が内部留保として蓄積されやすい傾向にあります。

蓄積した財産が大きければ大きいほど課税額も高くなってしまうため、納税資金を確保できないリスクがあります。

いざ承継の段になって税金の問題が発生しないよう、事前に承継計画をしっかり考えておく必要があります。

なお、持分なし医療法人の場合は、財産は国・地方自治体・その他の医療法人に帰属するため、相続税はかかりません。

地域医療への影響

医療法人は公益性が高く、地域医療に大きく貢献しています。

後継者が見つからない、相続税が払えないといった理由で医療法人の存続が難しくなると、十分な医療を提供できなくなる可能性があります。

医療法人の承継は、経営者だけでなく地域住民にとっても死活問題なのです。

医療法人の承継は難しい?​

承継は簡単に行えるわけではなく、様々な要因から複雑化してしまうことがあります。

主な理由は下記です。

・後継者は原則医師でなければならない

・意思決定の体制作りが必要


それぞれ詳しく解説します。

後継者は原則医師でなければならない

医療法第46条6項で、「医療法人(次項に規定する医療法人を除く。)の理事のうち一人は、理事長とし、医師又は歯科医師である理事のうちから選出する。」と定められています。

そのため、経営者である親が子どもに継がせる場合でもあっても、その子どもが医師でなければ後継者にはなれません。

これは、原則誰でも承継可能な株式会社とは大きく異なる点です。

意思決定の体制作りが必要

社員総会は3名以上の社員から成る最高意思決定機関として機能し、理事や監事の選任と解任を行います。

医療法人において社員は平等の議決権があり、意思決定において大きな影響力を持ちます。

重要な職務執行時には社員から選ばれた理事から成る理事会が決定を行うため、スムーズな意思決定のためには後継者をサポートしてくれる社員や理事の存在が必要となります。

場合によっては、社員の総入れ替えを行わなければならないケースもあるでしょう。

後継者の選任にあたっては、この点も考慮しなければなりません。

持分あり医療法人の承継方法​

ここからは、医療法人の承継方法をケース別に解説します。

出資持分あり医療法人の代表的な承継パターンは以下の2つです。

・親族に承継する
・第三者に承継する(M&A)

それぞれ詳しく解説します。

親族に承継する

親族間で承継する場合は、以下のどちらか方法で手続きを進めます。

出資持分の引き渡し

現経営者が後継者に出資持分を渡すスキームです。

方法としては、贈与・相続・譲渡(売買)などがあり、どれを選ぶかによって課税される税金が変わります。(贈与税・相続税・所得税など)

メリットは、手続きのハードルが比較的低いことです。
持分に関する契約書の締結と、必要に応じて社員の入れ替えをすれば完了します。

取引先の同意は不要で、現在の雇用状況や許認可などに影響はありません。

注意点として、上記の持分引き渡しの処理は、あくまで財産権に関する処理であることです。
承継には財産権のみでなく経営権も関係します。

経営権も手に入れるためには、社員の入れ替えを行う必要があります。

ただし、承継前の社員が後継者に好都合の議決をすることが予想される場合には入れ替えなくても問題ありません。

出資持分の払い戻し

持分を後継者に引き渡すのではなく、現経営者が出資比率に応じて財産を払い戻してもらい、その後に後継者が新たに出資するスキームです。

この方法では持分を引き渡していないため、税金がかかりません。

メリットは、手続きがシンプルであること、現在の経営体制に大きな影響がないこと、移転に伴う税金が発生しないことなどです。

注意点として、払い戻しを受けた経営者は、その利益に対して課税が発生します。

また後継者については、経営者に代わって出資金を捻出する必要があります。

第三者に承継するパターン(M&A)

親族ではなく第三者に承継する場合(M&A)は、一般的に以下の方法で手続きを行います。

出資持分の引き渡し

現経営者から後継者に持分を移転するスキームです。

親族間承継の場合と流れや注意点は同じですが、第三者が対象だと、通常は譲渡(売買)が行われます。

出資持分の払い戻し

持分の移転ではなく、経営者が出資比率に応じて財産の払い戻しを受けるスキームです。

こちらも流れや注意点は親族間承継の場合と同じです。

合併

複数の医療法人が契約を交わして1つの医療法人になるスキームです。

合併には以下の2タイプがあります。


吸収合併

吸収する側の医療法人が、消滅する側の医療法人がもつ権利・義務すべてを受け継ぐ


新設合併

消滅する複数の医療法人がもつ権利・義務すべてを、新たに設立した医療法人が受け継ぐ


合併のメリットは、複数の医療法人が一枚岩になることでコストカットや業務効率改善を期待できることです。

また、受け継ぐ側の持分が対価になるため、後継者サイドは資金を用意せずにすみます。


注意点としては、手続期間が長めになることや、権利・義務すべてを受け継ぐことで、本来は避けたい債務まで承継してしまう恐れがあることなどが挙げられます。

事業譲渡

事業の一部あるいは全てを他の会社に譲渡するパターンです。

出資持分の譲渡と混同しそうですが、事業譲渡では特定の事業における資産や権利・義務・従業員などに限定して売却できる点が異なります。

複数の医療施設の一つのみを譲渡するケースがこれに該当します。

また、売り手の経営者は医療法人を手放さずにいることも可能です。

メリットは、当事者の判断で譲渡する権利や義務を選べるため、簿外・潜在債務リスクが軽減されることです。

注意点としては、手続きが複雑であることや、許認可・医療機関番号が引き継げないこと、また従業員の引き継ぎについては個別に同意が求められることなどです。

他にも、患者の引き継ぎにおいて余計なコストや手間がかかることが挙げられます。

持分なし医療法人の承継方法​

出資持分なし医療法人の承継パターンも、基本的には持分あり医療法人と同じです。

しかし、持分なし医療法人の場合、持分あり医療法人と異なり財産権の概念がないため、前経営者が受け取れるのは医療法人設立時に支払った金額(拠出金)の上限までです。

持分の譲渡や出資比率に応じた払い戻しなどがない代わりに、医療法人から退職金の形で支払われるのが通常です。

この退職金には上限額が設定されており、計算式は「最終報酬月額×勤続年数×3倍」です。

算出された金額に納得できない場合は、希望額に達するまで顧問などのポストに就任するなどして報酬を受けることは可能です。

病院スタッフへの承継(院内承継)は可能?​

親族でも院外の第三者でもなく、院内スタッフを後継者にすることも可能です。

例えば、病院内で重要なポストにいる医師(副院長や診療科長など)などです。

 

院内承継には、以下のようなメリットとデメリットがあります。


メリット
・病院内の事情に詳しく、理念や経営方針を受け継いでもらいやすい
・従業員との信頼関係がすでにできており、円滑なコミュニケーションがしやすい


デメリット
・出資持分あり医療法人の場合、候補者が持分を買い取る資金を捻出するのが難しい(多額の資金が必要になることが多いため)
・院内という限られた枠で経営スキルがある後継者を探すのが難しい
・要職にある候補者も高齢のケースがある

このようにメリットはあるものの、親族間承継や第三者への承継と比較して、院内承継はメジャーな選択肢ではありません。

検討に値するかどうかは、院内の人材状況により変わるでしょう。

まとめ​

このように、医療法人の承継はできるだけ早いうちに検討すべき重要な課題であることが分かりました。

承継のプロセスは複雑で時間や手間がかかります。まだ先のことだと後回しにせず、どのスキームが自身の医療法人にとって最適なのか、じっくり考えてみましょう。

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吉岡 伸晃

記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士

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