特定支出控除とは、要件を満たす場合に給与所得控除後の所得金額から一定額を差し引くことができる制度です。
特定支出控除を上手く活用すれば、大きな節税効果を得られる可能性があります。
勤務医をはじめとした給与所得者はぜひ活用したい制度です。
ただし、特定支出控除は提供対象となる支出に限りがあり、かつ適用を受けるために必要な手続きや書類もあります。
特定支出控除の適用を確実に受けるため、本制度について事前に十分理解を深めることが大切です。
今回は特定支出控除の概要や適用を受ける上でのポイント、さらには勤務医の節税におすすめのその他の制度について紹介します。
以下の記事では給与所得者が個人でできる節税対策について詳しくしていますので、ぜひこちらもご覧ください。
CONTENTS
特定支出控除の概要
はじめに、特定支出控除の概要を紹介します。
特定支出控除とは
特定支出控除とは、その年の特定支出(仕事に必要と認められる経費)の合計額が給与所得控除の2分の1相当額を超える場合に利用できる制度です。
給与所得者は必要経費等を差し引くことができない分、必要経費相当額として給与所得控除を差し引くことができます。
しかし業務のための支出が多い場合、給与所得控除だけでは必要経費相当額を控除しきれないケースがあります。
このように、業務関連の支出が大きい場合に使用できるのが特定支出控除の制度です。
特定支出について、国税庁の公式サイトでは以下のように案内されています。
- ・通勤費
- ・職務上の旅費
- ・転勤に伴う転居にかかる費用
- ・研修費
- ・資格取得費
- ・帰宅旅費
- (単身赴任などの場合に勤務地や居所と自宅の間の旅行のためにかかる費用)
- ・図書費
- ・衣服日
- ・交際費等
特定支出控除の適用を受けるには、給与の支払者またはキャリアコンサルタントによる証明が必要です。
また、特定支出控除は年末調整での適用ができないため、確定申告を行う必要があります。
なお、特定支出控除の適用対象となるのは給与所得者に限られるため、医師の場合は勤務医のみが対象となり得ます。
個人でクリニックを運営する開業医の所得は事業所得に該当し、特定支出控除の対象になりません。
特定支出控除の適用による所得税額への影響
特定支出控除の適用により所得税額がどのように変わるか、以下の例を用いて紹介します。
- ・給与等の収入金額:1,800万円
- ・特定支出:150万円
- ・基礎控除:48万円
- ・給与所得控除、特定支出控除、基礎控除以外の適用なし
まずは特定支出控除の適用を受けない場合です。
給与等の収入金額が850万円を超える場合、給与所得控除額は195万円となります。
したがって、給与所得の額は1,800万円-195万円=1,605万円です。
ここから基礎控除額を差し引いた 1,605万円-48万円=1,557万円 が、課税される所得金額となります。
課税所得1,557万円の場合、税率は33%、控除額は1,536,000円です。したがって所得税額は以下のようになります。
- 15,570,000円×33%-1,536,000円=3,602,100円
続いて特定支出控除の適用を受けた場合です。
特定支出控除によって受けられる控除の額は、給与所得控除の2分の1を超える部分の金額です。この金額を「特定支出控除額の適用判定の基準となる金額」といいます。
給与等の収入金額が850万円を超える場合の給与所得控除額は195万円のため、特定支出のうち97.5万円を超える部分は控除が適用されます。
今回の場合、150万円-97.5万円=52.5万円が特定支出控除の対象です。
以上の情報を用いて、所得税の金額を計算しましょう。
課税対象となる所得税の額は以下の通りです。
- 給与等の収入金額1,800万円-給与所得控除195万円-特定支出控除52.5万円-基礎控除48万円=1,504.5万円
税率は33%、控除額は1,536,000円が適用されます。したがって所得税額は以下の通りです。
- 15,045,000円×33%-1,536,000円=3,422,850円
今回の例の場合、最終的な税額に約18万円もの違いが生まれました。
特定支出控除の適用により税額を大幅に抑えられるため、特定支出が多い場合は活用すべき制度といえるでしょう。
※今回は特定支出控除に注目するためにシンプルな例を用いました。通常、他にも社会保険料控除や扶養控除等の各種控除制度が入るため、より複雑な計算になるのが一般的です。
勤務医が特定支出控除を受ける上でのポイント
続いて、勤務医が特定支出控除を受ける上でのポイントを3つ紹介します。
適用対象になりやすい支出の例を把握しておく
特定支出控除について漏れなく適用を受けるため、適用対象になりやすい支出の例を事前に把握しておきましょう。
どのような支出が該当するか知っておくことで、より効率的に制度を活用できる、申請漏れのリスクを抑える等のメリットを得られます。
「特定支出控除とは」の項でも特定支出控除の対象になる支出の例を紹介しましたが、いずれも給与所得者全体に発生し得る普遍的な支出です。
勤務医の効率的な節税のためには、勤務医特有の支出のうち、特定支出控除の対象になりやすいものを押さえておくのが良いでしょう。
勤務医の人に発生しやすい支出の具体例を紹介します。
- ・学会に関する交通費や参加費
- ・資格取得費
- ・教授や医師との接待交際費
勤務必要経費は合計65万円が上限
特定支出のうち、図書費・衣服費・交際費等は、勤務必要経費に該当します。
そして特定支出控除において、勤務必要経費は合計65万円が上限です。
たとえば図書費20万円・衣服費30万円・交際費30万円で合計80万円の場合、特定支出控除を受けられるのは65万円までとなります。
研究に向けた書籍の購入や医療関係者との交流が多い勤務医の方は、勤務必要経費が高額になりやすいでしょう。
しかし上限が定められているため、全額控除できるとは限らない点に注意する必要があります。
特定支出控除を受けるために必要な手続きを押さえておく
特定支出控除は年末調整での反映ができないため、制度の適用を受けるには確定申告が必要です。
また、確定申告書に以下の書類を添付する必要もあります。
- ・給与所得者の特定支出に関する明細書
- ・給与の支払者またはキャリアコンサルタントによる特定支出に関する証明書
勤務先に書類作成をしてもらう必要があり時間がかかる可能性もあるため、余裕を持って作業を進めましょう。
勤務医の節税に活用できるその他の制度
勤務医の節税に有用な制度は特定支出控除だけではありません。
この章では、勤務医の節税に活用できるその他の制度を3つ紹介します。
寄附金控除
寄附金控除は一定の要件を満たす寄付金(特定寄附金)の支出があった場合に受けられる所得控除です。
寄附金控除による控除額は以下の式で計算します。
- その年中に支出した特定寄附金の合計額-2,000円=寄付金控除の額
なお、特定寄附金は所得の40%相当額が限度であり、全額を寄付金控除の計算に含められるとは限らない点にご注意ください。
寄附金控除については以下の記事で詳しく解説しています。
医療費控除・セルフメディケーション税制
医療費控除は、自分や生計を一にする配偶者・親族のために支出した医療費が一定額を超える場合に利用できる制度です。
セルフメディケーション税制は、自身で選択・購入した医薬品の合計額が一定額を超える場合に適用を受けられます。
医療費控除とセルフメディケーション税制はどちらか一方しか適用を受けられないため、自身にとって有利な方を選びましょう。
確定拠出年金
確定拠出年金とは、拠出した掛金を運用し、運用結果に基づいて給付額が決まる年金制度です。
積み立てた掛金や運用益等は公的年金に上乗せされる形で将来受給できます。
掛金が全額所得控除の対象になるため、大きな節税効果が期待できます。
確定拠出年金の種類は、個人で拠出・運用をするiDeCoと、企業が拠出し運用を従業員が行う企業型確定拠出年金(企業型DC)の大きく2つです。
確定拠出年金について解説した記事もありますので、詳しくはこちらをご覧ください。
まとめ
特定支出が大きい場合、特定支出控除の適用を受けることで大きな節税効果を得られます。
特に学会等に向けた交通費や研修費、医療従事者との会食が多い勤務医の人は、特定支出控除の適用を受けられる可能性が高いです。
仕事に必要な支出が多い場合、一度特定支出控除の適用可否を確認しても良いでしょう。
なお、勤務医の節税対策に活用できる制度には他にも様々な種類があります。
自身に合った節税テクニックを活用し、所得税の負担を最小限に抑えましょう。
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記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士