開業医の相続税対策に!個人版事業承継税制について解説!

2024.04.19

個人版事業承継税制とは、事業承継において発生する贈与税や相続税の納税猶予を受けられる制度です。

2019年1月1日~2028年12月31日までに行われる相続および贈与による事業承継が対象となります。

クリニックも要件を満たせば適用を受けられるため、開業医の相続税や贈与税対策に有用です。

 

そんな個人版事業承継税制ですが、適用を受けるには様々な手続きが必要です。

また、同制度のメリットだけでなく注意点も理解した上で、税制の適用を受けるか検討する必要があります。

 

今回は個人版事業承継税制について、メリットや注意点を含め詳しく解説します。

 

個人開業クリニックの事業承継全般については以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひこちらもご覧ください。

 

 

医療法人の事業承継税制については、以下の記事をご覧ください。

 

 

クリニック・医療法人専門税理士による
オンライン無料相談 受付中

CONTENTS

クリニックの相続税対策に使える個人版事業承継税制とは

個人版事業承継税制とは、個人の事業承継において発生する贈与税や相続税の納税猶予を受けられる制度です。

正確には、贈与または相続によって特定事業用資産を取得した場合に、その資産にかかる税金が納税猶予の適用対象となります。

一定の事由に該当する場合は、納税が猶予されている税金の免除も受けられます。

2019年1月1日~2028年12月31日までに行われる相続および贈与による事業承継が対象です。

 

個人事業承継計画の提出期限は二年延長され、2026年(令和8年)3月31日までとなりました。

しかし、事業承継計画に基づく相続・贈与の実行期限は2028年(令和10年)12月31日のままで延長はありません。

計画をギリギリに提出した場合、実行期間がタイトになってしまう点に注意しましょう。

個人版事業承継税制の要件

同税制の適用を受けるには、以下2つの要件を満たす必要があります。

  • ・青色申告にかかる事業をおこなっていた事業者の後継者が、相続または贈与によって事業用資産を取得する
  • ・後継者が令和8年3月31日までに都道府県知事へ「個人事業承継計画」を提出し確認を受ける

対象期間中に行われる相続および贈与でも、期日までに個人事業承継計画を提出しなければ税制の適用を受けられないためご注意ください。

また、納税猶予を受ける税金の種類ごとに定められた要件も満たす必要があります。

相続税の場合

相続税で同税制の適用を受ける際の要件には、相続人が満たすべきものと、被相続人が満たすべきものに大別されます。

 

後継者である相続人等が満たすべき要件は以下の5つです。

  • ①円滑化法の認定を受けている
  • ②相続開始の直前(亡くなる直前)まで、相続財産である特定事業用資産に係る事業に従事していた
  • ③相続税の申告期限までに開業届の提出および青色申告の承認申請を実施している
  • ④資産管理事業および性風俗関連特殊営業に該当しない
  • ⑤先代事業者等から相続等により財産を取得した者が、特定事業用宅地等で小規模宅地等の特例の適用を受けていない

 

被相続人が満たすべき要件は、被相続人が先代事業者であるか否かによって異なります。

 

  • 先代事業者である場合
  • 相続開始の日の属する年・その前年・その前々年に青色申告の確定申告書を提出している

 

  • 先代事業者以外の場合
  • ①先代事業者からの相続または贈与を受ける直前、先代事業者と生計を一にする親族であった
  • ②被相続人が先代事業者からの贈与を受けた、もしくは相続後に開始した相続に係る被相続人である

 

また、納税猶予となる相続税および利子税の合計額に見合う担保の提供も必要です。

贈与税の場合

相続税で個人版事業承継税制の適用を受ける際の要件も、後継者である受贈者と贈与者それぞれに分けられます。

 

受贈者の要件は以下の5つです。

  • ①贈与の日に18歳以上である
  • ②円滑化法の認定を受けている
  • ③贈与の日まで3年以上にわたり、贈与対象となる特定事業用資産に係る事業に継続して従事していた
  • ④贈与税の申告期限までに開業届を提出し、かつ、青色申告の承認を受けている
  • ⑤資産管理事業および性風俗関連特殊営業に該当しない

 

贈与者が満たすべき要件も相続税の場合と同様、先代事業者であるか否かによって異なります。

先代事業者である場合の要件は以下の2つです。

  • ①廃業届を提出している、もしくは贈与税の申告期限までに提出予定である
  • ②贈与日の属する年・その前年・その前々年に青色申告の確定申告書を提出している

 

贈与者が先代事業者でない場合は以下2つの要件を満たす必要があります。

  • ①先代事業者からの相続または贈与を受ける直前、先代事業者と生計を一にする親族であった
  • ②先代事業者からの贈与または相続の後に、特定事業用資産の贈与を行った

 

相続税において適用を受ける場合と同様、納税猶予となる贈与税および利子税の合計額に見合う担保の提供が必要です。

個人版事業承継税制の適用を受けるまでの流れ

個人版事業承継税制の適用を受けるまでの流れを紹介します。まずは相続税と贈与税で共通する流れです。

  • ①事業承継の具体的な計画を記載した「個人事業承継計画」を策定する
  • ②「個人事業承継計画」について認定経営革新等支援機関の指導および助言を受ける
  • ③認定経営革新等支援機関の所見を記載した①を都道府県庁に提出する

以降の流れは相続税と贈与税それぞれで異なります。

相続税の場合

相続税で本税制の適用を受ける場合、相続開始から8ヶ月以内に円滑化法の認定を受ける必要があります。

また、相続税の申告までに以下の作業も必要です。

  • ・開業届の提出
  • ・青色申告の承認申請

都道府県庁から交付される認定書を相続税の申告時に提出する必要もあります。

贈与税の場合

贈与税で本税制の適用を受けるための手続きも、基本的には相続税と同じです。

2019年1月1日~2028年12月31日までに贈与を行い、特定事業用資産の全ての贈与を完了させましょう。

その後以下の作業を行います。

・贈与を受けた年の翌年1月15日までに円滑化法の認定を受ける

  • ・開業届の提出
  • ・青色申告の承認を受ける

 

なお贈与税の申告期間は、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日です。

クリニックで個人版事業承継税制の適用を受けるメリット

クリニックで個人版事業承継税制の適用を受けるメリットを2つ紹介します。

贈与税や相続税の負担を抑えられる

最も大きなメリットが、贈与税や相続税の負担を抑えられる点です。

同税制の適用を受けることで、事業承継において発生する贈与税および相続税の納付が猶予されます。

また、期日までに「免除対象贈与」を行った場合や、贈与者が亡くなった場合等は、猶予を受けている税の納付が免除となります。

ほかにも様々な条件によって納付免除が適用されるため、事業承継における税負担の懸念を最小限にできるでしょう。

後継者争いの恐れを最小限に抑えた事業承継ができる

個人版事業承継税制を活用すれば、後継者争いや承継後のトラブルを最小限に抑えた事業承継ができます。

 

同税制の適用には様々な作業が必要であり、納税猶予は受けられるものの、他の面で後継者に負担がかかるのは事実です。

だからこそ、入念な検討に基づいた後継者の選定や事業承継を進めることになるでしょう。

事業承継に際して発生する労力が通常よりも大きくなる分、生前から関係者への周知及び理解を得ながら手続きを進めることで後継者争いや事業承継後のトラブルといったリスクを最小限に抑えることが期待できます。

クリニックで個人版事業承継税制を用いる際の注意点

続いて、クリニックで個人版事業承継税制を用いる際の注意点を2つ紹介します。

取消事由が発生した際は納税義務が生じる

税制適用の認定が下り納税猶予を受けている期間中、取消事由が発生した場合は納税義務が発生する点に注意が必要です。

取消事由として以下の例が挙げられます。

  • ・事業を廃止した
  • ・資産管理事業や性風俗関連特殊営業等に該当した
  • ・対象の事業に係る収入がゼロになった
  • ・青色申告の承認が取り消された、もしくは申請が却下された

 

上記以外にも取消事由に該当する項目は多数あるため注意しましょう。

取消事由に該当した場合、猶予されている相続税および贈与税だけでなく、利子税の納付義務も生じます。

認定を受けた後も報告義務があり手間がかかる

同税制の認定を受けた後も、都道府県や税務署へ一定期間ごとに報告が必要です。

期限までに報告をしなかった場合も納税猶予の取り消しが行われ、贈与税・相続税の全額および利子税の納付義務が生じます。

同税制の適用により納税の負担は抑えられますが、手続き面での手間が増大する点は注意が必要です。

まとめ

個人版事業承継税制の適用を受ければ、事業承継において発生する贈与税や相続税の納税猶予を受けられます。

また、一定の要件を満たせば猶予を受けている税額の免除も可能です。

事業承継を考えているものの納税負担が懸念となっているクリニックにおいて、個人版事業承継税制の活用は有用な手段といえるでしょう。

同税制を活用する際は、事前に取消事由や報告義務についても押さえておく必要があります。

 

個人版事業承継税制は手続きが非常に複雑であるため、専門家へ相談するのがおすすめです。

制度を上手く活用し、負担を抑えながらクリニックの承継を進めましょう。

【月5名様限定】
クリニック・医療法人専門税理士によるオンライン無料相談受付中

医療法人やクリニックの税務相談・節税対策はBIZARQ会計事務所にお任せください。
現在30分から1時間程度のオンライン無料相談を実施中です。

Picture of 吉岡 伸晃
吉岡 伸晃

記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士

03-6709-9216【営業時間】9:00~18:00 LINEで問い合わせ