医療法人における適正な役員報酬の決め方とは?

2022.12.29

医療法人で決めるべき事項のひとつとして、役員報酬が挙げられます。
役員報酬は従業員に支払う給与と違い、守るべきルールや損金算入の要件が非常に厳格です。
役員報酬の決め方や支給方法などを誤ってしまうと、役員報酬として支払った額が損金に参入できない恐れもあります。

役員報酬をきちんと損金算入するためには、役員報酬について正しく理解することが大切です。

 

本記事では、役員報酬の定義や適正額の決め方などを解説します。

 

役員報酬の決め方については、以下の記事でも解説しています。

 

 

クリニックの医療法人化で必要となるその他の手続きについては、以下の記事で解説しています。

 

CONTENTS

役員報酬とは​

役員報酬とは文字通り、役員に対して支払う報酬です。

役員報酬は従業員に支給する給与とは違い、損金算入のためには細かな要件を満たす必要があります。
役員報酬として支払う金額のうち、損金に算入できるのは以下の2種類です。

 

定期同額給与

1ヶ月以下の一定の期間ごとに支給し、各支給時期における支給額が同額の給与を意味します。定期同額給与は支給額を税務署に届け出る必要があり、届け出よりも過大に支給した場合は損金算入できません。

定期同額給与の額を変更できるのは、会計期間の属する事業年度開始の日から3カ月を経過する日までです。たとえば1月に事業年度が開始する医療法人の場合、その年の3月末が定期同額給与を変更できる期日となります。

 

事前確定届出給与

役員に対する賞与のようなものです。
支給額を事前に税務署に届け出る必要があり、賞与の支給日・支給額ともに届出書の内容通りにしなければなりません。
税務署への届け出の期日は、以下いずれかのうち早い日です。

・社員総会等の決議をした日から1ヶ月を経過する日
・会計期間開始から4ヶ月を経過する日

支給日や支給額に少しでも相違があると、該当の会計期間における事前確定届出給与のすべてが損金不算入となります。

 

医療法人における役員として、理事長・理事・監事が挙げられます。
医療法人の理事長・理事・管理に支払う報酬は、役員報酬として細かな要件を満たさなければなりません。

医療法人における役員報酬の決め方​

会社法において、役員報酬は「定款または株主総会の決議によって定める」と規定されています。
しかし実際のところ、定款で役員報酬について定めているケースは少なく、株主総会において決定される場合がほとんどです。

医療法人は株主総会がない代わりに社員総会が行われます。
医療法人で役員報酬を決めるためには、定款による定めもしくは社員総会での決議が必要です。

医療法人も一般企業などほかの法人と同様に、定款によって役員報酬が定められるケースはあまり多くありません。多くの場合は社員総会での決議によって決定されます。

社員総会で役員報酬の総額のみを決定し、役員ごとの報酬額は理事会の決議で決めることも可能です。

医療法人の適正な役員報酬とは?​

多くの医療法人では、社員総会の決議によって役員報酬を決定しますが、必ずしも自由に設定できるわけではありません。
役員報酬に関するさまざまな要件を満たす必要がある他、不当に高額である場合、損金算入が認められない可能性が高まります。

医療法人の適正な役員報酬を決めるために押さえたいポイントを解説します。

不当に高額な役員報酬の基準とは

医療法人における不当に高額な役員報酬を考えるうえで、厚生労働省による「持分の定めのない医療法人への移行計画認定制度のQ&A」のQ8「理事等への報酬が不当に高額であるかどうかの判断基準は何か。」が参考になります。
回答で特に重要なポイントをまとめました。

・他法人の役員報酬や給与額も参考にしつつ、当該医療法人の懐事情等などを考慮して総合的に判断する

・医療法人の経理状況を考慮したうえで判断する。ただし、収益額に比例して無制限に役員報酬を認めるものではない
※仮に収益額がかなり大きな場合でも、役員報酬として設定できる額に上限が存在するということです。

役員の勤務状態によっては、一般的な役員報酬額に加算した支給を認める可能性もある
※理事が医師としても勤務しており、かつ医師の日常業務に加えて夜間当直や休日当直の恒常的な実施なども行なっている場合などが挙げられます。

役員としての責務や勤務状況に応じた報酬額であるかも考慮する
常勤・非常勤や勤務時間なども考慮されます。

このように、役員報酬が不当に高額であるか否かは、対象となる医療法人の経理事情だけでなく、対象の役員の勤務状況や他法人の役員報酬額などから総合的に判断されます。
したがって、不当に高額と呼べる金額例を一概に提示することはできません。

医療法人の役員報酬を決めるポイント

大前提として、必要以上に高額にするのは避ける必要があります。
前述したように、不当に高額な役員報酬は損金算入が認められない恐れがあります。

損金算入できる役員報酬は、高額すぎない金額であることが最低条件といえます。
しかし、役員報酬が低すぎる場合、節税面でのメリットが少なくなります。

また、報酬を受け取る役員の生活が成り立たなくなる恐れもあるため、バランスの考慮が大切です。

役員報酬を決めるときに押さえたいポイントとして、以下の3点が挙げられます。

・役員や家族の生活をまかなえる十分な額を支給する
・役員報酬が高額であると、役員の所得税・住民税・社会保険料などの負担が大きくなる。これらのバランスを考慮する
・不当に高額な報酬額に該当しないか総合的に考慮したうえで判断する

役員報酬を決める目安として、前年の利益額または想定利益額-2か月分の運転資金を役員報酬総額の上限にする考え方があります。
2か月分の運転資金は、法人の剰余金として確保したい金額の目安として、一般的に使われている考え方です。

しかし、紹介した例はあくまで目安であり、上限いっぱいに設定できるとは限りません。さまざまな面から総合的な判断が必要です

役員報酬の決定は専門家に相談するのが安心

役員報酬を損金算入するためには、不当な高額を避けることが大前提です。
ただし役員報酬を低く抑えすぎると、役員の勤務状況や責務に比べて安すぎる・節税効果が得られないなどの恐れがあります。

このように役員報酬の決定では考慮するべき要素が多く、適正額を決めるのは容易ではありません。当事者のみで決定しようとするのは大きな負担になるうえ、適正でない・損金算入が認められないなどの判断をされるリスクも高くなります。

役員報酬の金額に悩んだら、税理士などの専門家に相談するのが安心です。
損金算入が認められる範囲ながらも、役員の勤務状況などの評価を反映させた適正な額を設定し、さらに節税対策への効果も期待できます。

医療法人は一般企業と性質が異なる部分が多く、役員報酬の決め方や考え方にも違いがみられます。医療法人の役員報酬に関する内容は、医療法人の税務に精通した税理士に相談するのがおすすめです。

まとめ

役員報酬は従業員に支給する給与に比べ、要件が厳しく設定されています。
役員報酬の金額についても、不当に高額な金額は損金算入が認められない恐れがあります。

役員報酬が適正であるか否かは、さまざまな要素から総合的に判断されます。

医療法人の役員報酬を決定する際は、不当に高額な金額を避けることは大前提としつつ、役員の生活や発生する税金・社会保険料などのバランスも考慮が必要です。

役員報酬は考慮するべき要素が多く、専門知識のない人だけで金額を決めるのは容易ではありません。医療法人の役員報酬を決める際は、ぜひ医療法人の税務に精通した税理士などの専門家にご相談ください。


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吉岡 伸晃

記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士

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