診療費の未払いはクリニックを悩ませる大きな問題のひとつです。
クリニックのキャッシュフローに影響を与え、ときには経営圧迫につながる恐れもあるため、迅速かつ的確に対処する必要があります。
今回は未払い診療費の回収方法や、未払い診療費に関する注意点について解説します。
なお、クリニックの経営に影響を与える要素は未払い診療費だけではありません。
以下の記事でクリニックが閉院となる理由についても取り上げていますので、ぜひご覧ください。
CONTENTS
未払いの診療費を回収する方法
未払い診療費の回収に向けて、最初は任意的手段から取っていきます。その後回収の見込みがなければ、法的手段に進むのが一般的です。
未払いの診療費を回収する方法について、任意的手段から順に紹介します。
メール・電話・郵便物で催促する
診療費未払い分の回収に向けて最初に行うべき方法は、メール・電話・郵便物による催促です。
メールや手紙のように送った内容が文字で残る手段の場合、以下の項目を盛り込む必要があります。
- ・未払いの発生日
- ・督促の日付
- ・請求額
- ・支払期限
- ・支払方法
- ・担当者の連絡先
電話の場合は電話をした日時、電話の内容などを記録しておくと安心です。可能であれば電話の音声を録音しましょう。
手間が少なく実施しやすい方法ですが、強制力が弱い点がデメリットとなります。
内容証明郵便で催促する
内容証明郵便とは、いつ・誰が・誰に・どのような文書を送ったかが公的に記録される方法です。
相手に配送された事実が残るため、「受け取っていない」といった主張が不可能になります。
配送した事実を証拠として残すだけでなく、相手にプレッシャーを与える意味でも効果的です。
内容証明郵便の送り方を紹介します。
- 1.受取人に送付する内容文書を用意する
- 2.謄本(内容文書の原本のコピー)を、差出人保管用・郵便局保管用の計2通用意する
- 3.封筒に必要事項を記入する
※内容文書の認証が必要なため、文書を封筒に入れ封をすることがないよう注意 - 4.必要なものを用意し郵便局の窓口で手続き、料金を支払う
裁判所を介した支払督促を行う
裁判所から支払督促を実施してもらう方法です。受取人へプレッシャーを与える・回収の意思を強く訴える効果が期待できます。
支払督促の申立てに必要な書類を紹介します。
- ・支払督促申立書
- ・当事者目録&請求の趣旨及び原因の写し
- ・収入印紙
- ・120円分の郵便切手を貼った無地の封筒
- ・1,125円分の郵便切手を貼った無地の封筒(債務者1名につき1枚)
- ・63円の郵便はがき(債務者1名につき1枚)
- ・資格証明書(債権者や債務者が法人の場合)
- ・委任状(代理人が申立てをする場合)
支払督促申立書および当事者目録の書式は、裁判所の公式サイトからダウンロードが可能です。
支払督促から一定期間以内に異議申し立てがなければ、仮執行宣言付支払督促を獲得でき、強制執行が可能になります。
民事調停の申立てを行う
民事調停とは、債権者と未払い人の間に第三者である調停委員会が入り、話し合いによって解決を図る手段です。
裁判より費用が安い・裁判と違い非公開で行われるといったメリットがあります。
調停が成立・合意に達すれば、債務名義を持つ調停調書が作成されます。この調停調書は裁判の判決と同じ効力を持ちます。
調停が不成立になった場合は、通常の訴訟に移行するのが一般的です。
訴訟を起こす
上に挙げた方法で未払い診療費の回収が実現しなかった場合、訴訟を起こすことになります。
勝訴すれば強制執行が可能になり、未払い人の財産差し押さえ・債権の回収ができます。また判決の前に和解が成立した場合は、和解調書を得られます。和解調書を獲得できた場合も、未払い診療費回収の強制執行が可能です。
訴訟の大きなデメリットは、時間とコストがかかる点です。訴訟が長引くほど、未払い人である患者の資金力が悪化する恐れが大きく、債権回収ができなくなるリスクもあります。
未払いの診療費が60万円以下の場合、少額訴訟も可能となります。少額訴訟は請求額が合計60万円以下の場合に実施できる簡易的な訴訟であり、審理1回で判決・費用が小さい点がメリットです。
保険者徴収制度を使う
患者が健康保険に加入している場合、保険者徴収制度を利用できます。
保険者徴収制度とは、保険者である地方自治体や健康保険組合が医療機関にかわって未収金を徴収する制度です。
保険者徴収制度を利用するためには、支払いを受けるためにクリニック側が最大限に努力したという実績が必要となります。手間が大きいうえに拒否されるケースも珍しくないため、実際はあまり使われない制度です。
診療費未払いが発生した際の注意点
診療費未払いが発生した際の注意点を3つ紹介します。
診療費未払いを理由にした診療拒否はできない
診療費未払いが発生していても、対象の患者に対して、診療費未払いを理由にした診療拒否はできません。
医師には応召義務が課せられています。応召義務とは、診療を求める患者を正当な理由がない限りは拒否できないという義務です。
診療拒否が可能となる正当な理由として、以下の例が挙げられます。
- ・ほかの重症患者や緊急性の高い患者を診療中で新たな患者の対応ができない
- ・診療時間外や勤務時間外に診療を求められた
- ・医師が不在のため診療できない
- ・(入院の場合)ベッドが満床で受け入れが不可能
- ・専門外のため対応できない
診療費の未払いは診療を断れる正当な理由に該当しません。そのため来院した患者に未払い診療費があっても、原則として診療を行う必要があるのです。
なお、未払い診療費の催促や、「支払う気がないなら治療しない」と告げること自体は、正当な行為であり問題ありません。
しかし、伝え方や対応の仕方が応召義務に反すると判断されてしまうと、医師法や民法の違反とみなされる恐れがあります。
未払い診療費の催促を後回しにしない
未払い診療費の催促を後回しにしないことも大切です。
診療費の未払いが発生したら、早めに催促をはじめる必要があります。時間が経つほど、回収のハードルが上がる・手間が増える可能性が高くなります。
なるべく穏便に解決するために話し合いを試みようとしたものの、結局未払金の回収に至らず、時間だけが経ってしまうケースは珍しくありません。
結果として、未払い発生から時間が経過してから、督促状の送付や裁判所での手続きをはじめるケースが多くみられます。
未払い診療費の催促は後回しにせず、なるべく早めに回収に向けた方法を実施しましょう。
ケースに合わせて適切な方法をとる
未払い診療費を回収する方法はいくつかあり、それぞれメリット・デメリットが異なります。ケースに合わせて適切な方法をとることが大切です。
たとえば、人によっては手紙を全然確認しないため、郵送による催促に気づかないケースが有り得ます。逆に郵送物は頻繁に確認するものの、メールはあまり見ないという人もいます。
相手に確実に伝えるために、どのような方法で催促するか検討が必要です。
強制力のある手段についても、どの方法を実施するかしっかり考える必要があります。
裁判所による支払督促は、未払い人へのプレッシャーを与える・手続き自体は容易というメリットがあります。しかし相手に意義を申し立てられた場合、通常訴訟のために裁判所へ行く必要性が生じ、かえって手間が増える恐れがあるでしょう。
訴訟は強制力が強く、債権を回収できる可能性が高いです。ただし時間やコストがかかる点がデメリットであり、訴訟費用が回収した診療費より大きいケースも有り得ます。
さまざまな方法があり、それぞれメリット・デメリットが異なるからこそ、ケースに合わせて適切な方法の選択が必要です。
まとめ
診療費の未払いは残念ながら特別珍しいことではありません。
しかし、請求して期日までにしっかり支払いをしてもらえるケースもまた多く存在します。
未払い診療費が回収できず残っている場合はそのまま放置するのでなく、なるべく迅速に対応する・ケースに合わせた手段を実施するなど、今回紹介したポイントを押さえて適切な対応をしましょう。
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記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士