医療法人の役員報酬の上限額はいくら?適切な決め方を解説!

2023.02.08

クリニックを医療法人化する際に必要な作業のひとつに、役員報酬額の決定が挙げられます。

役員報酬は好きな金額に設定できるわけではありません。

金額が不当に高いと判断されると、損金算入が認められない恐れがあります。

本記事では医療法人化にあたって役員報酬を決める際に押さえたいポイントを紹介します。

以下の記事で医療法人化に必要な作業・適正な役員報酬の決め方について紹介していますので、ぜひご覧ください。



CONTENTS

医療法人の役員報酬に上限額はある?

役員報酬を決めるにあたって、まずは上限額の有無や具体的な金額を知りたいと考える方も多いでしょう。

ここでは医療法人の役員報酬における上限額について解説します。

そもそも役員報酬とは

役員報酬とは文字通り、役員に対して支払う報酬です。

役員報酬を損金に算入するためには、従業員に支払う給与とは違い、細かな規定を守る必要があります。

 

医療法人においては、理事長・理事・監事が役員に該当します。
すなわち理事長・理事・監事に支払う報酬は、役員報酬の規定に沿う必要があるのです。

 

損金に参入できる役員報酬は、定期同額給与と事前確定届出給与の二種類です。

それぞれ詳しく解説します。

定期同額給与

1ヶ月以下の一定の期間ごとに同額が支給される役員報酬です。

従業員に毎月支払う給与と似た性質を有します。

 

定期同額給与の支給には税務署への届出が必要であり、届出に記載した額よりも過大な支給分は損金算入が認められません。

定期同額給与の金額は年1回、会計期間の属する事業年度開始の日から3カ月を経過する日までであれば変更できます。

事前確定届出給与

支払日・支払額を事前に税務署に届け出る必要がある報酬です。

役員に対する賞与のような性質を有します。

 

事前確定届出給与の支給・損金算入のためには、定められた期日までに届出が必要です。

届出の内容と支給日や支給額に少しでも相違がある場合、該当の会計期間におけるすべての事前確定届出給与の損金算入が認められません。

役員報酬の上限額に明確な決まりはない

医療法人の役員報酬の上限は、一説では3,600万程度とされていますが、実際のところ役員報酬の額に決まりはなく、上限も明確に設定されていません。

しかし前述したように、不当に高額な役員報酬については損金算入が認められない恐れがあります。

 

不当に高額な役員報酬を判断する基準として、厚生労働省の「持分の定めのない医療法人への移行計画認定制度のQ&A」の「5.認定要件について(役員等に対する報酬関係)」が参考になります。

ポイントは以下のとおりです。

 

  • ・報酬が不当に高額であるか否かは、当該医療法人の経理状況のほか、一般的な医療法人や事業者の役員報酬・従業員給与も考慮して判断する。

  • ・報酬の追加が妥当であると判断できる勤務実態があれば、一般的な役員報酬額の水準を超える場合でも、不当に高額とはみなされないケースがある。

  • ※医療法人の役員としての業務に加え、医師としての勤務実績がある・法人への貢献度や地域での活動がある場合など

上限額や不当に高額といえる金額の基準はなく、ケースに合わせて総合的に判断されます。

医療法人で役員報酬を決める際のポイント

医療法人の役員報酬額に明確な上限はないとはいえ、高額すぎると損金算入が認められない恐れがあります。

そのため、役員報酬は適正と判断される範囲で決めなければなりません。

 

医療法人で役員報酬を決める際に押さえたいポイントを3点紹介します。

法人で確保したい余剰金の目安をもとに決定する

役員報酬に明確な上限はありませんが、ある程度の基準となる金額を設定することは大切です。

基準となる金額として、法人で確保したい余剰金の目安を使う方法が挙げられます。

 

役員報酬を決める基準のひとつに、「前年の利益額または想定利益額-2か月分の運転資金」を上限にする考え方があります。

2か月分の運転資金は、法人の剰余金として確保したい金額の目安です。

 

医療法人の運営に際して、余剰資金が一切ない状態は決して好ましくありません。

常に安定した収入が得られる・支出額が一定であるとは限らないためです。

 

何らかの理由で収入が得られなくなったり、トラブルによって一度に大きな支出が発生したりするケースも有り得ます。

不測の事態があっても運営を続けられるよう、余剰資金としてある程度の運転資金確保が必要です。

 

そもそも医療法人の場合、開業し診療を開始してから社会保険診療報酬を回収できるまでに2ヶ月はかかります。

したがって、余剰資金があまりにも小さいと医療法人の開業から時間が経たないうちに資金ショートするリスクが高くなります。

 

最低限の余剰金を確保できるよう、役員報酬は前年の利益額または想定利益額-2か月分の運転資金を超えないように設定するのが安心です。

役員の生活も考慮する

役員報酬の損金算入が認められない恐れがあるのは、役員報酬のルールに従っていない場合と、不当に高額と判断された場合です。

役員報酬が少なければ、一見問題ないように感じるかもしれません。

しかし、役員報酬の額を抑えすぎるのも不適切です。

 

役員報酬は役員が職務を通じて得る報酬であり、役員や家族の生活資金となります。

役員報酬があまりにも少ない場合、生活が圧迫されたり勤務実態に対して報酬が安すぎるといったケースが起こり得ます。
子供の学費や住宅ローンなど家庭の支出を十分考慮し、役員と家族の生活をきちんとまかなえる十分な額を支給することが大前提です。

 

ただし、役員報酬が高額になるほど比例して役員の所得税・住民税・社会保険料などの負担が大きくなります。

そのため高額であるほど良いとも限りません。

損金算入が認められる範囲かつ生活を考慮したうえで、バランスの良い報酬額に設定することが大切です。

 

なお、以下のように当該医療法人における役員報酬が低くても問題ないケースもあります。

  • ・役員がほかの事業を兼任しており、それだけで生活できるような所得を得ている
  • ・別の法人から十分な給与または報酬を得ている
  • ・家族の収入が大きい、不動産所得のように別の所得があるなど、多額の役員報酬を必要としない理由がある

多面的に考慮したうえで決定する

医療法人における適正な役員報酬の額は、ひとつの面から単純に決定できるものではありません。

多面的に考慮したうえで金額を決める必要があります。

 

役員報酬が適正金額であるかを判断する基準について、改めてまとめました。

  • ・医療法人の経理事情
  • ・対象の役員の勤務状況
  • ・他法人の役員報酬額を考慮した相場

特定の要素を考慮するのみでは、役員報酬の適正な金額を決定できません。

また、今回紹介した基準以外に別の判断基準が用いられる可能性もあります。

損金算入が認められる適正な役員報酬額にできるよう、あらゆる点を考慮し、総合的に判断することが大切です。

医療法人の役員報酬について専門家に相談すると安心

役員報酬には細かなルールがあり、すべて当事者のみで理解・対応するのは容易ではありません。

会計・税務・法律に関する専門知識が必要な部分も多いため、専門知識や経験がないまま対応しようとするとミスや漏れが生じる恐れがあります。

 

また、役員報酬が適正額であるか否かはさまざまな面から総合的に判断されるため、客観的な意見も考慮するのが理想です。

役員となる人や内部関係者のみで役員報酬を決めるのは、どうしても偏った意見や考えになってしまいがちで、損金算入を否認されるリスクも高くなります。

医療法人の役員報酬額を決める際は、専門家に相談しサポートを得るのが安心です。

まとめ

役員報酬は損金算入するための細かなルールが多く、ルールに沿っていても不当に高額と判断されてしまうと損金算入が認められない恐れがあります。

にもかかわらず、上限額の定めがなく高額であるか否かは総合的に判断されるため、適正額の設定は容易ではありません。

医療法人で適正な役員報酬額を決められるよう、当事者のみですべて対応するのではなく、ぜひ専門家にご相談ください。


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吉岡 伸晃

記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士

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