通常の方法で事業承継を実施すると、後継者に多額の贈与税もしくは相続税が課せられ、大きな負担が発生します。
このような課税負担の問題を緩和するための制度が、事業承継税制です。
事業承継税制の適用を受けることで、相続税・贈与税の納税猶予を受けられ、場合によっては税額免除となります。
この事業承継税制ですが、医療法人は株式会社のように適用を受けられるわけではありません。
医療法人の場合は特例制度を使う必要があり、満たすべき要件にも違いがあります。
本記事では医療法人の事業承継税制について解説します。
医療法人承継のプロセスや流れは以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひそちらもご覧ください。
CONTENTS
医療法人について見る前に 事業承継税制の概要
医療法人ならではの具体的な内容に入る前に、まずは事業承継税制の概要を紹介します。
事業承継税制とは、事業承継によって後継者が取得した資産にかかる相続税・贈与税の納税猶予を受けられる制度です。
一定期間にわたって要件を満たすと、納税猶予を受けていた税額の免除も適用されます。
事業承継税制の適用を受けるために満たすべき条件は、先代経営者が満たすもの・後継者が満たすもの・会社が満たすものの3種類に分けられます。
先代経営者が満たすべき条件
・法人の代表者であった
・相続開始または贈与の直前において筆頭株主であった
・贈与の場合、贈与時に代表者を退任済み
後継者が満たすべき条件
・相続または贈与によって後継者と後継者親族で総議決権数の過半数を保有する
・後継者が一人の場合は筆頭株主に、後継者が複数人の場合は総議決権数の10%以上の議決権数・もっとも多くの議決権数を保有することになる
・贈与の場合は贈与時点で成人済み、贈与の直前で3年以上の役員であり代表者となっている
・相続の場合は相続開始直前に役員の立場であり、相続開始から5ヵ月後に代表者となる
会社が満たすべき条件
・中小企業基本法上における中小企業者に該当する
・従業員が1人以上
※社会保険の被保険者または一定の要件を満たす75歳以上の人が該当します。社会保険に加入していないアルバイト等は対象外です
・上場会社、風俗営業会社、資産管理会社等に該当しない
医療法人も事業承継税制の適用を受けられる?
事業承継税制の適用を受けるためには、中小企業基本法上における中小企業者という条件を満たす必要があります。
医療法人は、中小企業基本法上の中小企業者には該当しません。
そのため医療法人の承継では、通常の事業承継税制の適用を受けられないのです。
ただし医療法人であっても、一定の要件を満たせば事業承継税制に似た制度の適用を受けられます。
医療法人の事業承継税制について詳しく解説します。
事業承継税制を受けられるのは認定医療法人のみ
前述したように。従来の事業承継税制は株式会社などの中小企業基本法上の中小企業者の事業承継で適用を受けられる制度です。
医療法人は中小企業基本法上の中小企業者に該当しないため対象外となります。
ただし医療法人の場合も一定の要件を満たすことで、医療法人の持分についての納税猶予の特例を受けられます。
医療法人の事業承継税制と呼ばれることが多いですが、厳密には事業承継税制とは異なる仕組みです。
ただし今回は便宜上、医療法人の事業承継税制として表現します。
医療法人の事業承継税制は、出資持分のある医療法人から出資持分のない医療法人への移行にあたって経済的利益が発生した際、該当部分にかかる相続税・贈与税の納税猶予を受けられる制度です。
大前提として、相続税・贈与税いずれの納税猶予を受ける場合でも、認定医療法人であることが条件となります。
認定医療法人とは、持分ありの医療法人から持分なしの医療法人への移行を決定し、該当の移行計画について厚生労働大臣の認可を受けた医療法人です。
出資持分の放棄は、他の出資者や医療法人に出資持分にかかる経済的利益の贈与が行われたとみなされます。
そのため通常は贈与税が発生してしまいますが、認定医療法人の制度によって、概要分の贈与税の納税猶予が適用されます。
以上が、医療法人の事業承継税制と呼ばれる仕組みの概要です。
相続税の納税猶予の特例・贈与税の納税猶予の特例それぞれについて解説します。
相続税の納税猶予の特例
被相続人・相続人・医療法人の持分、それぞれが満たすべき要件は以下のとおりです。
- 被相続人:医療法人の持分を有していた者である
- 相続人:相続または遺贈によって、被相続人から医療法人の持分を取得した者である
- 医療法人の持分:相続税の申告期限の時点で、該当の持分が認定医療法人のものであり、相続税申告書に「相続税の納税猶予の特例」適用を受ける旨を記載している
贈与税の納税猶予の特例
贈与税の納税猶予の特例を受けるためには、贈与者・受贈者・特例の対象となる経済的利益それぞれが以下の要件を満たす必要があります。
- 贈与者:認定医療法人の持分を有していた
- 受贈者:認定医療法人の持分を有しており、贈与者の持分放棄によって受けた経済的利益に贈与税がかかる
- 対象となる経済的利益:贈与者の認定医療法人の持分放棄によって受けた経済的利益であり、贈与税の申告書に当該特例の適用を受ける旨を記載している
なお、相続税・贈与税いずれも期限内の申告が必要です。
【参考】医療法人と株式会社の違い
参考として、医療法人と株式会社で大きく異なる部分を紹介します。
法人の機関設計
医療法人の場合、社員総会・理事長・理事・理事会・監事の設置が必要です。
医療法人の理事長は原則医師または歯科医師となります。
株式会社の場合、最低限必要なのは一人以上の取締役のみです。
それ以外の機関として、必要に応じて監査役・会計参与・会計監査人などが挙げられます。
また株式会社の場合、株主によって構成される株主総会も必ず存在します。
法人成立に必要な条件・前提
株式会社は会社設立の登記申請によって法人成立が可能です。
医療法人は都道府県知事の認可が必要不可欠であり、認可後の設立登記によって法人成立となります。
営利性の有無
株式会社は営利目的(利益追求)、医療法人は非営利の法人です。
剰余金の配当の可否
株式会社は剰余金の配当が可能ですが、医療法人では禁止されています。
残余財産の分配の方法
株式会社の場合、残余財産の帰属先は株主になります。
医療法人は出資持分ありの場合は出資者、持分なしの場合は国や地方公共団体等です。
医療法人の概要や株式会社との違いについてはこちらの記事でも解説していますので、併せてご覧ください。
医療法人の事業承継税制に関する注意点
医療法人の事業承継税制について、注意点を2つ紹介します。
認定医療法人の要件を6年間満たし続ける必要がある
医療法人の事業承継税制の適用を受けるためには、認定医療法人の要件を6年間満たし続ける必要があります。
医療法施行規則附則第五十七条の二に認定要件が記載されております。内容を簡単にまとめました。
- ・事業に際し、社員、理事、監事、使用人その他当該医療法人の関係者に特別の利益を与えない
- ・役員報酬額が不当に高額な金額でない
- ・他法人や特定の個人に対し、寄付や特別な利益を与える行為をしない
- ・当該医療法人の遊休財産額が直近に終了した会計年度の損益計算書の費用額を超えない
- ・法令に違反する事実や隠蔽・仮装して記載した事実がない
- ・当該医療法人の事業内容が一定の要件を満たしている
また、移行から6年間毎年報告書を提出し、要件を満たしていることを報告する義務もあります。
認定医療法人の要件を満たさなくなった場合、認定移行計画の認定が取り消されてしまいます。
納税猶予の特例も受けられなくなり、ただちに納税が必要になるため注意しましょう。
ほかにも納税猶予税額の納付が必要になるケースもあるため、事前に確認しておくと安心です。
特例の適用には担保の提供が必要
相続税・贈与税ともに、納税猶予の特例を受けるためには、医療法人持分納税猶予税額および利子税の額に見合う担保の提供が必要です。
認定医療法人の持分すべてを担保とする場合は、持分に関する質権設定の承諾書など、担保提供関係書類の提出もする必要があります。
認定医療法人の持分以外を担保にすることもできます。
特例の適用を受けるための手続きは、必要な書類や手続きが多く複雑なため、専門家に相談するのが安心です。
まとめ
事業承継税制は中小企業者に該当する会社に適用される制度であり、医療法人は対象外です。
医療法人の場合、医療法人の事業承継税制と呼ばれる特例のような制度を用いる必要があります。
医療法人の事業承継税制は守るべきルールが多いうえに複雑であり、扱いには注意が必要です。
制度について正しく理解し確実な適用を受けられるよう、ぜひ専門家に相談しサポートをお受けください。
医療法人やクリニックの税務相談・節税対策は
BIZARQにお任せください。
全国オンライン対応・ご相談は無料です。
医療法人やクリニックの
税務相談・節税対策は
BIZARQにお任せください。
全国オンライン対応・
ご相談は無料です。
記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士