クリニックの運営にあたって、自身の配偶者や家族の方にサポートを頼み給与を支払っている開業医の方も多いのではないでしょうか。
開業医が配偶者や家族に支払う給与は、一定の要件を満たすことで経費計上が可能です。
この仕組みを、青色事業専従者給与といいます。
青色事業専従者給与を活用するためには、所定の手続きをする必要がある他、注意点の確認も欠かません。
今回は開業医の人が知っておきたい、青色事業専従者給与について詳しく解説します。
なお、青色事業専従者給与は節税対策として活用される手段のひとつです。
開業医が確定申告や節税対策のために知っておきたいその他の制度や仕組みについて、以下の記事でも解説しておりますので、ぜひご覧ください。
今回紹介するのは開業医として個人でクリニックを経営しているケースです。
医療法人の経費については以下の記事で詳しく解説しています。
CONTENTS
青色事業専従者給与とは
はじめに、青色事業専従者給与の概要や必要な手続きについて解説します。
配偶者や親族に支払った給与を経費にできる制度
青色事業専従者給与とは、青色申告の個人事業主が、生計を一にする配偶者や親族に支払った給与を経費にできる制度です。
要件を満たす人であれば業種や職種を問わず適用を受けられる制度です。
クリニック経営を行う開業医も当然活用できます。
配偶者や親族に給与として支払った額は、原則として経費計上ができません。
しかし要件を満たす場合、特別な取り扱いの対象として経費計上が可能になります。
対象の給与を経費として計上するためには、以下すべての要件を満たす必要があります。
- 1.青色事業専従者の要件を満たす人に支払われた給与である
- 2.期日までに所定の手続きを実施している
- 3.対象の給与が、届出書の内容通りの方法・金額で支払われている
- 4.労務の対価として適切な金額である
※労務の対価を超える部分は経費計上ができません
1の詳しい要件は以下のとおりです。
- ・事業者と生計を一にする配偶者または親族である
- ※生活の資が同じであることです。生活費を同じ財布から出している・事業主が養っている状態などが当てはまります。住んでいる場所が同じか否かは直接の判断基準になりません
- ・確定申告をする年の12月31日時点で15歳以上である
- ・確定申告をする年の6ヶ月超の期間(または事業に従事できる期間の2分の1超の期間)、対象の事業に従事している
このように一定の要件が存在するため、配偶者や家族に支払った給与であれば、必ずしも青色事業専従者給与にできるわけではありません。
要件を満たさないにもかかわらず経費として扱ってしまうと、税務調査で指摘を受ける・修正申告が必要になる恐れがあるため注意しましょう。
必要な手続き
制度の適用を受けるためには、税務署に届出の提出が必要です。
届出の概要について解説します。
- ・手続を行う人:青色事業専従者給与額を経費計上しようと考える青色申告者
- 今回の場合、クリニック経営者である開業医の人となります
- ・提出期限:青色事業専従者給与額の経費計上を行いたい年の3月15日まで
※開業や専従者となった時期が1月16日以降の場合、対象の日から2か月以内 - ※期限が土日祝にあたる場合は翌平日が期限
- ・提出方法:届出書を所轄の税務署へ持参または送付
なお、提出した届出は審査が実施され、要件を満たしているか・内容に問題がないかチェックされます。
審査によって要件を満たしていないと判断された場合、対象の給与額は経費計上ができないため注意が必要です。
手続きに必要な届出の書式は、税務署の公式サイトからダウンロードができます。
記入するうえでの注意点も案内されているため、事前に必ず確認しましょう。
青色事業専従者給与の注意点
前の章で触れたように、青色事業専従者給与の経費計上には所定のルールが定められています。
要件を満たしていない場合、届出を提出しても対象の給与の経費計上が認められない恐れがあるため注意が必要です。
注意点として、特に大切なポイントを3つ紹介します。
青色申告であることが大前提
青色事業専従者給与は、青色申告であることが大前提です。
青色という名のとおり、白色申告の場合は適用できません。
青色事業専従者給与は所定の手続きが必要と紹介しましたが、もし現時点で白色申告の場合、先に青色申告の申請を行うのが安心です。
なお、白色申告の場合は事業専従者控除という制度の適用を受けられます。
事業専従者控除とは、事業専従者に対して給与を支給した場合、一定の金額について所得控除を受けられる制度です。
青色事業専従者給与は給与の経費計上が可能ですが、白色申告の事業専従者控除は経費ではなく所得控除となる点にご注意ください。
青色事業専従者給与と白色申告の場合に利用できる事業専従者控除は、似ているようで相違点の多い制度のため、自身が利用できる制度がどちらであるか確認しましょう。
青色事業専従者に該当するか正しい判断が必要
生活の資が同じである配偶者や親族への給与であっても、必ずしも制度の適用対象になり、経費計上ができるとは限りません。
対象の給与を経費として計上するためには、制度の適用を認められるか正しい判断が必要です。
制度の適用を受けられるかの判断が難しいケースとして、対象者が副業をしている場合が挙げられます。
青色事業専従者には、対象の事業への専従が要件として定められています。
たとえば別の場所でアルバイトをしており、空いた時間にクリニックの手伝いをしているケースでは、クリニックの事業に専従しているとはいえません。
クリニックへの従事に専念していると断言できないためです。
たとえ副業の収入よりクリニックで得た収入が大きい場合でも、クリニックへの専従とは判断されない可能性があります。
収入額の大小ではなく、勤務実態が主な判断基準となります。
ただし副業が一切できないわけではありません。
たとえばアルバイトをしているのが休みの日や短い時間に単発などの場合、ほかに収入があっても専従者と認められることが有り得ます。
アルバイトの有無がクリニックでの仕事に影響しておらず、ごくわずかである場合は問題ない可能性が高いでしょう。
今回は簡単な例を紹介しましたが、副業の可否や条件については、明確な基準によって判断できるわけではありません。
専門家に相談しアドバイスを受けるのが確実です。
金額の決め方に関するポイントを押さえる
前述したように、届出には専従者への給与額を記載する必要があります。
制度の適用を確実に受けながらもメリットを十分に享受できるよう、給与額の決め方に関するポイントを押さえることが大切です。
大前提として、青色事業専従者給与額は、配偶者控除や扶養控除による控除額よりも大きな金額にしましょう。
配偶者や親族を青色事業専従者にすると、対象者について配偶者控除や扶養控除が適用できなくなります。
すなわち年間で支払う給与額が配偶者控除や扶養控除より小さい場合、かえって節税効果が弱くなってしまうのです。
また給与額が高額過ぎる場合、経費として認められない恐れがあります。
不当に高額とされる金額に明確な基準はなく、業務内容・労務の性質・相場などから判断されます。
青色事業専従者給与額と確実に認められ経費として問題なく計上できるよう、同業や同職種における賃金の水準を参考にするのが安心です。
もしある程度大きな給与を支給しようと考えている場合、税負担との兼ね合いも考慮する必要があります。
専従者が受け取った給与の額が100万円を超えると住民税、103万円を超えると所得税の対象となります。
このように、支給する給与が大きいと青色事業専従者の税負担が重くなる恐れがあるため注意しましょう。
まとめ
開業医の人がクリニックの経営を配偶者や親族に手伝ってもらう場合、青色事業専従者給与の適用を受けられるか検討するのがおすすめです。
制度の適用を受けるには一定の要件を満たす必要がありますが、制度の活用によって節税効果を得られる可能性があります。
しかし、判断や処理を誤ってしまうと、大きなトラブルが発生する恐れもあります。
青色事業専従者給与について疑問や不安があれば、無理に当事者のみで対応しようとせず、ぜひ専門家にご相談ください。
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記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士