医療機関にかかる消費税とは?医療法人や開業医がおさえておくべきポイントを解説!

2023.02.13

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事業主が支払う税金のなかでも特にインパクトの大きいものとして、所得にかかる所得税・法人税と、消費税が挙げられます。

医療機関で行う診療行為は消費税が発生しないケースが多いですが、すべての取引が消費税の対象外というわけではありません。

消費税が発生する取引について正しく押さえなければ、消費税の処理や申告を誤ってしまう恐れがあるため注意が必要です。

 

今回は医療機関にかかる消費税について、医療法人や開業医がおさえておくべきポイントを解説します。

 

クリニックや医療法人の経費・税務面のポイントについては、以下の記事でも紹介しておりますのでご覧ください。

 

 

 

CONTENTS

医療機関について見る前に 消費税の概要

医療機関ならではのポイントを見る前に、まずは消費税ついて改めて確認しましょう。

消費税とは

消費税とは商品の販売やサービスの提供に際して課せられる税金です。

負担する人と納付する人が異なる税金(間接税)であり、消費者が負担・事業主が納付を行います。事業主による商品やサービスの提供に際し、消費者は本体価格に消費税をプラスした金額を支払います。

そして事業主は、一定の計算によって算出された消費税額について期日までに税務署へ申告・納付が必要です。

 

前述したように、消費税は所得税・法人税とならんで、事業主にとってインパクトの大きい税金です。

しかし、すべての事業主に必ずしも消費税の納税義務が発生するわけではありません。

消費税の確定申告・納付が必要となるのは、以下に当てはまる場合です。

  • ・基準期間の課税売上高が1,000万円を超える
  • ※基準期間:個人事業主の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度
  • ・基準期間の課税売上高は1,000万円以下であるものの、期日までに消費税課税事業者選択届出書を提出している
  • ・特定期間の課税売上高または給与等支払額の合計額が1,000万円を超える
  • ※特定期間:個人事業主の場合は前年の1月1日から6月30日、法人の場合は全事業年度の開始の日以後6ヶ月間

消費税の申告・納付期日はそれぞれ以下のとおりです。

  • 個人事業主:翌年の3月末日
  • 法人:事業年度終了日の翌日から2ヶ月

消費税の計算方法

消費税の計算方法には、原則課税と簡易課税の2種類があります。

それぞれ詳しく解説します。

原則課税

売上にかかる消費税(受け取った消費税)と、仕入や経費にかかる消費税(支払った消費税)の差額を納付額とする計算方法です。

文字通り消費税の原則的な計算方法となります。

簡易課税

売上にかかる消費税に所定の割合(みなし仕入率)を乗じた金額を支払った消費税の額とみなす方法です。

基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合に利用できます。

 

納付する消費税額は、売上にかかる消費税-売上にかかる消費税×みなし仕入率で計算します。

 

なお、みなし仕入率は業種区分ごとに定められており、医療を含むサービス業等は50%です。

※物品販売は80%、医療機器等の売却は60%

また簡易課税制度の適用を受けるには、期日までに消費税簡易課税制度選択届出書を提出する必要があります。

医療機関で課税対象となる取引

前提として、医療機関における健康保険適用の診療は消費税が発生しません。

また労災保険や自賠責保険の対象となる医療も、消費税の対象外です。

言い換えると、保険適用外の診療やサービスは消費税の対象となります。

 

前述したように消費税の納付義務は、基準期間や特定期間の課税売上高で判断します。

また納付税額は売上にかかる消費税から仕入・経費にかかる消費税を差し引いた額であるため、課税取引について正しい判断が必要です。

 

この章では、クリニックや医療法人といった医療機関において、課税対象となる取引の例を紹介します。

自費診療

保険適用外の診療行為、自費診療は消費税の課税対象です。

自費診療に当てはまるものとして、以下の具体例が挙げられます。

 

  • ・健康診断
  • ・人間ドック
  • ・予防接種
  • ・美容医療
  • ・歯列矯正
  • ※ただし先天性の異常や顎変形症の治療に必要な場合など、歯列矯正が保険適用となるケースもあります
  • ・インプラント
  • ・視力矯正手術(レーシックなど)
  • ・先進医療
    ※先進医療:公的医療保険の対象ではない・対象となるか評価段階である薬や治療法を用いた診療行為

 

自費診療の割合は診療科目や対応範囲によって大きく異なります。

たとえば一般内科は社会保険診療が中心であり、自費診療の対象になるのは健康診断や予防接種といった限られた部分のみです。

一方で審美歯科を扱う歯科医院や美容医療を行う医療機関は、自費診療が多いため、課税売上高も大きくなります。

物品販売による収入

物品販売による収入も課税対象です。

主な例として、医療機関内で販売する歯ブラシ・健康食品・健康アイテムなどが挙げられます。

 

なお食品表示法に規定される食品は軽減税率の対象です。

軽減税率の対象商品とそれ以外では、適用される税率が異なるため注意しましょう。

 

医療機関で扱う可能性のある商品のうち、軽減税率の対象になるものの例を紹介します。

  • ・「医薬品」「医薬部外品」の表示がされていない栄養ドリンク
  • ・医薬品等に当てはまらない健康食品、美容食品、サプリメント、のど飴等
  • ・服薬の補助として利用するゼリー
  • ・経口補水液
  • ・特定保健用食品

その他消費税の対象となる収入

これまで紹介した以外に消費税の対象となる収入として、以下の例が挙げられます。

  • ・差額ベッド代
  • ・診断書発行手数料
  • ・治験収入
  • ・医療機器の売却にともなう収入

 

原則として、保険適用の診療以外は消費税がかかるとイメージするとわかりやすいです。

医療機関の経営にあたって押さえたい消費税のポイント

医療法人やクリニックなど、医療機関の経営にあたって押さえたい消費税のポイントを2つ紹介します。

原則課税と簡易課税どちらが有利になるか判断が必要

消費税の額を最小限に抑えるためには、原則課税と簡易課税のどちらが有利になるか判断が必要です。

 

すでに紹介した通り、簡易課税制度ではみなし仕入率を用いて税額を計算します。

実際に支払った消費税よりもみなし仕入率を用いて計算した税額のほうが大きければ、その分納税額を抑えられて有利なため、簡易課税の方が税額を抑えられるといえるでしょう。

実際、簡易課税制度を用いる方が消費税額を小さくできるケースは多くみられます。

 

特にクリニックや医療法人といった医療機関の場合、簡易課税の方が有利になりやすい傾向です。

その理由として、医療機関の経費は消費税の非課税対象(非課税仕入)である人件費の割合が大きくなりやすい点が挙げられます。

 

消費税の対象である課税仕入が小さい場合に原則課税を選んでしまうと、売上にかかる消費税から引ける額が小さくなり、結果として納付税額が大きくなる可能性が高いのです。

したがって、医療機関のように非課税仕入が占める割合が大きい業種の場合、簡易課税を選んだ方が有利でしょう。

 

ただし、必ずしも簡易課税制度のほうが有利とは限りません。

非課税仕入が大きければ簡易課税の方が有利であると解説しましたが、その逆もいえます。

すなわち課税仕入額が大きい場合、簡易課税で計算すると、原則課税よりも消費税額が大きくなる可能性が高いのです。

 

簡易課税制度を選んで不利になりやすい例として、設備投資を行う・備品をまとめて購入するケースが挙げられます。

設備投資や備品の購入は、ほとんどの場合に消費税の課税対象となる取引です。

課税仕入額が大きければ、原則課税を選んだ方が売上にかかる消費税から引ける額が大きくなりやすく、納付税額を抑えられる可能性が高くなります。

 

このように必ずしも簡易課税制度が有利とは限らないため、事前のシミュレーションが必要です。

 

なお簡易課税から原則課税への切り替えは、簡易課税が適用されてから2年を経過した後でないとできません

簡易課税から原則課税へ切り替えをするためには、消費税簡易課税制度選択不適用届出書の提出が必要です。

消費税の計算・申告は複雑になりやすい

所得税や法人税に比べ、消費税の計算・申告は複雑になりやすいです。

消費税の仕組みや計算方法について深い理解が求められます。

 

特に医療機関の場合、課税対象となる取引の正しい判断や集計、非課税取引の適切な扱いなどが必要です。

原則課税の場合は軽減税率の考慮、簡易課税の場合は取引内容ごとに適切なみなし仕入率の適用といった対応も行わなければなりません。

 

専門知識のない人が消費税の申告から納税まですべて行おうとすると、ミスや漏れが生じるリスクが高いです。

誤った税額で申告や納付をしてしまうと、税務調査で指摘を受け、延滞税や加算税の対象となる恐れがあります。

 

消費税の申告義務がある場合、専門家に代行依頼するのが安心です。

まとめ

消費税は所得税や法人税に比べ、ルールが複雑でわかりにくい部分が多いです。

医療機関の場合は課税対象になるか否かの判断や、正しい税率・みなし仕入率の適用など、さまざまな面に考慮する必要があります。

消費税の納税義務がある場合、当事者ですべて対応しようとせず、税理士などの専門家に相談するのが安心です。

 

しかし、専門家に代行依頼するからといって、消費税についてまったく知らずにいるのも好ましくありません。

今回紹介した消費税の基礎となるポイントはしっかり押さえましょう。


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吉岡 伸晃

記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士

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