医療法人には、さまざまな種類の税金が課せられます。
税金によって性質・納付先・納付期日などが異なるため、それぞれの税について正しい理解が必要です。
また、医療法人と個人クリニックはどちらも医療の提供が目的ですが、まったく異なる性質を有する形態です。
発生する税金の種類の違いに伴い、管理運営面での相違点も多数存在します。
今回は医療法人にかかる税金の種類や、個人事業主が運営するクリニックとの違いについて解説します。
以下の記事では医療法人とクリニックの相違点について総合的に解説していますので、ぜひこちらもご覧ください。
CONTENTS
医療法人にかかる税金
大前提として、法人運営にかかる税金の種類は、事業内容や法人の状況によって多少の違いがあります。
とある医療法人には納付義務のある税金が、別の医療法人には課せられていないケースも有り得ます。
すなわち税金の種類だけでなく、課税される条件についても理解が必要です。
この章では多くの医療法人で発生する税金について、特徴や納付に関するルール、課税される条件などを紹介します。
法人税
法人税とは、法人の所得にかかる国税です。
申告および納付期限は法人の事業年度終了日(決算日)の翌日から2ヶ月以内と定められています。
申告書の提出先および税金の納付先は、納税地を所轄する税務署です。
法人税は法人の所得に対して課せられる税金であるため、赤字であれば発生しません。
ただし、納付税額が0円の場合でも期日までの申告は必要です。
個人クリニックと医療法人の大きな違いのひとつが、所得に対して課せられる税金の種類です。
個人事業主が運営する個人クリニックの場合、所得に対して所得税が課せられます。
医療法人と個人クリニックの税金面の違いは、法人税と所得税の違いといえるでしょう。
法人税と所得税の違いは次章で詳しく解説します。
消費税
消費税とは、商品やサービスの販売に際して課せられる税金です。
負担するのは消費者、納付するのは事業者と、負担する人と納付する人が異なります(間接税)。
消費税の申告・納付期限は、法人税と同様に事業年度終了日の翌日から2ヶ月以内です。
消費税はすべての事業者に納税義務が生じるわけではありません。
消費税課税事業者となるのは、以下のいずれかに該当する場合のみです。
- ・基準期間の課税売上高が1,000万円超
- ※基準期間:法人の場合は前々事業年度
- ・特定期間の課税売上高または給与等支払額の合計額が1,000万円超
- ※特定期間:法人の場合は前事業年度の開始日以後6ヶ月間
- ・上記に該当しないものの、期日までに消費税課税事業者選択届出書を提出している
医療機関における健康保険適用の診療は、消費税が発生しない取引です。
そして、消費税の納付義務が生じるか否かは原則として基準期間や特定期間の課税売上高をもとに判断します。
したがって、規模が大きく売上高そのものは大きい医療法人であっても、消費税の納付義務が生じるとは限りません。
消費税について以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
法人住民税
法人住民税とは、法人に対して課せられる地方税です。
道府県民税と市町村民税の2種類があり、事業所の所在する都道府県および市町村それぞれに申告および納税をする必要があります。
(東京23区の場合は都税事務所への申告・納税のみ)
申告および納付の期日は原則として事業年度終了日の翌日から2ヶ月以内です。
法人住民税は法人税割と均等割から構成されており、それぞれ以下の性質を持ちます。
- ・法人税割
- 法人税額に住民税率を乗じて算出します。
- 法人税が発生しない、すなわち赤字の年には法人税割も発生しません。
- ・均等割
- 資本金等の額や従業員数といった規模によって定額が課せられる部分です。
所得が赤字の年であっても均等割の納付が必要であるため、法人住民税は毎年発生する税金といえます。
法人事業税
法人事業税とは、法人住民税と同様法人に対して課せられる地方税です。
法人の所得額に法人事業税率を乗じて計算します。
正確な税率は自治体によって異なるため、自治体の案内をご確認ください。
申告および納付先は都道府県税事務所、期日は原則として事業年度終了日の翌日から2ヶ月以内です。
固定資産税・償却資産税
固定資産税は、土地・建物などの不動産や償却資産などの固定資産に課せられる税金です。
固定資産税の対象資産のうち、土地と建物以外の事業用資産(償却資産)にかかる税金を限定して償却資産税と呼びます。
固定資産税は自治体から届く納付書を使って支払います。
納付期日は自治体によって対象の違いがあるため、自治体の案内または納付書に記載された期日をご確認ください。
医療機器にかかる固定資産税について以下の記事で詳しく解説しています。
医療法人と個人クリニック 税金面での違い
前章で紹介したように、医療法人と個人クリニックにおける税金での大きな違いは、所得に対して課せられる税金の種類です。
医療法人には法人税、個人クリニックには所得税が課せられます。
この章では法人税と所得税の主な違いを紹介します。
税率
法人税と所得税は、税率の仕組みが大きく異なります。
所得税は所得が大きくなるにつれ適用される税率が高くなる累進課税制度です。
5%から45%の7段階に区分されており、所得が大きくなると税負担も大きくなります。
一方、法人税の税率は資本金の額や法人の種類(区分)によって決定される仕組みです。
資本金1億円以下の法人の場合、所得年800万円までは15%、年800万円を超える部分は23.2%が適用されます。
前述した内容を除き、所得額によって適用される税率が変わることはありません。
所得がある程度大きくなると、所得税よりも法人税の方が税額を抑えられます。
経費にできる範囲
法人税と所得税では、税法上認められている経費の範囲に違いがあります。
法人の方が経費にできる支出の範囲が広いため、医療法人の方が個人クリニックよりも節税がしやすいでしょう。
法人の場合のみ経費計上ができる支出として、以下の具体例が挙げられます。
- ・事業主(医療法人の場合は理事長)本人の報酬
- ・家族や親族従業員に対する給与、報酬
- ・生命保険料
- ※法人名義かつ各種要件を満たすものに限ります
- ・住宅手当や出張手当など各種手当
- ・退職金
一方で、法人の方が厳しい規定が定められている経費もあります。
代表的なものが交際費です。
個人事業主の場合、取引先や事業関係者の接待を目的とした支出はすべて経費として計上ができます。
法人税法の経費として計上できる交際費は一定の要件を満たすものに限ります。
会計・税務処理にかかる手間
会計・税務処理にかかる手間は、法人税の方が大きいです。
個人事業主の場合、白色申告であれば貸借対照表や損益計算書を作成する必要がありません。
帳簿付けの必要はありますが、単式簿記という簡単な方法が認められています。
法人の場合、白色申告であっても貸借対照表および損益計算書などの提出が必要です。
また、個人事業主と違い単式簿記が認められておらず、複式簿記による帳簿付けが義務付けられています。
税法と直接関係のない部分でも、以下のようにさまざまなルールが存在します。
- ・社会保険の加入義務
- ・住所変更に伴う各種手続き
- 個人事業主が引っ越しをしても、事業に関する変更手続きは税務署への手続きのみで済みます。
- 一方で法人の場合、法務局での変更登記、税務署等への届出、郵便局や銀行での変更手続きなどが必要です。
- ・社会保険料に関する会計処理
- ・決算整理仕訳
単純に手間が大きくなるだけでなく、法的な内容を含めた理解が求められる点も負担になるでしょう。
まとめ
医療法人にかかる税金にはさまざまな種類があり、それぞれ性質や発生する条件、納付先などが異なります。
税金を漏れなく正確に納付するためには、発生する税金ごとに正しい理解が必要不可欠です。
法人と個人事業主の税金について、特に大きな違いが所得にかかる税金です。
医療法人は法人税、個人クリニックには所得税が課せられます。
税率や経費の範囲など複数の相違点があるため、違いを押さえることが大切です。
税金に関する法律や規則は複雑なものが多く、専門知識のない人が完璧にこなすのは困難です。
医療法人の税金について疑問や不安があれば、税務の専門家である税理士へご相談ください。
医療法人やクリニックの税務相談・節税対策は
BIZARQにお任せください。
全国オンライン対応・ご相談は無料です。
医療法人やクリニックの
税務相談・節税対策は
BIZARQにお任せください。
全国オンライン対応・
ご相談は無料です。
記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士