医療法人における資本金とは?基金や出資持分との違いも解説!

2023.10.31

医療法人は、一般的な事業会社のような法人とは異なる性質の組織です。

会社法に基づく法人との違いとしてさまざまな要素が挙げられますが、大きな違いの1つとして資本金の考え方が挙げられます。

 

資本金は出資者によって払い込まれる、事業を行うための元手となるお金です。

医療法人にも払い込まれて元手となるお金はありますが、法人の種類によっては資本金の扱いになりません。

持分なし医療法人における基金と、出資持分あり医療法人における出資金のうち、資本金とみなされるのは出資金のみです。

医療法人における元手資金の扱いを正しく押さえるためには、医療法人の種類ごとの違いについても正しい理解が必要です。

 

今回は医療法人における資本金や、基金・出資持分との違いについて解説します。

 

クリニックを医療法人化するための手続きについては以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひこちらもご覧ください。

 

CONTENTS

医療法人における資本金の考え方

はじめに、医療法人における資本金の考え方について解説します。

資本金とは

そもそも資本金とは、出資者によって払い込まれる事業の元手となるお金です。

出資者への返済義務はなく、貸借対照表において純資産の部に表示されます。

一般的な会社の場合、資本金は創業費・開業費・会社設立後の当面の運転資金として利用されます。

 

資本金の額は、会社の資金力や規模を判断する基準になる要素です。

資本金の大きさが融資や新規契約の可否を判断する材料になるケースも珍しくありません。

 

また、資本金は税金の計算にも大きな影響を与えます。

事業内容や売上規模が同じでも、資本金の額が違うために発生する税金の額が変わることもあります。

税負担を抑えるという意味では、資本金が大きければ良いとは限らないのです。

資本金の違いによって影響を受ける部分の詳細は後述します。

 

資本金の概要は以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひこちらをご覧ください。

 

 

資本金と基金の違い

前提として、医療法人は社団医療法人と財団医療法人の2種類に区分されます。

現在は医療法人全体のうち大多数は社団医療法人が占めている上、新規に設立されるケースは非常に少ない状態です。

そのため、本記事でも社団医療法人に絞って解説します。

 

そもそも社団医療法人には、持分なし医療法人と持分あり医療法人の2種類があります。

前者の持分なし医療法人は文字通り出資持分がなく、定款に出資についての定めもありません。

一般的な会社のような資本金(出資金)は存在しない医療法人です。

 

持分なし医療法人は、経営原資の獲得手段から基金拠出型医療法人とも呼ばれます。

基金は、医療法人に拠出された金銭およびその他の財産で、一定の場合に拠出者に対する返還義務を負うものです。

拠出者から医療法人に対する貸付金の一種として扱われます。

持分なし医療法人には法人に対して財産権を有する出資者が存在しないため、解散時に医療法人の財産はすべて国のものになります。

 

基金は経営原資の獲得手段ではあるものの、資本金としては扱われません。

そのため、出資持分のない医療法人である基金拠出型医療法人は資本金0円となります。

 

現行制度において医療法人は出資による資金調達ができないため、代わりに基金によって資金調達を行っています。

【参考】基金が資本金でない理由

基金が資本金として扱われない理由は、基金の性質が以下のように資本金の性質と大きく異なるためです。

  • 基金はいわゆる劣後債に該当する
  • ※劣後債:普通社債に比べて元利金を受け取る順位が低い社債
  • 医療法人における基金は利息が付かず、返済期限の定めもありません。
  • 基金はすべての債務が弁済された後に返済される債務となります。
  •  
  • 基金は剰余金の配当を目的せず、あくまでも原資を確保するための手段である
  • 一般的な会社の場合、保有株式数に応じて配当金を受領する権利を持ちます。
  • 持分なし医療法人には剰余金の配当という概念がありません。
  •  
  • 議決権を有するのは基金の拠出者ではなく医療法人の社員である
  • 一般的な会社の場合、出資者は出資額に応じて株式を所有・議決権を持ちます。
  • 一方で持分なし医療法人の場合、議決権を持つのは拠出者ではなく医療法人の社員です。

資本金と出資金・出資持分の違い

医療法人のうち、出資金の概念が存在するのは持分あり医療法人のみです。

医療法人における出資金は経営の原資となる財産のことで、一般的な会社の資本金と似た性質を有します。
実際、出資金の額は資本金の額として扱われます。

 

出資持分とは、出資者の財産権を意味する言葉です。

出資金の額に応じて有する持分割合を意味します。

医療法人が解散した時、医療法人が有していた財産は出資者が出資持分に応じて分けることになります。

 

医療法人の設立時にAが300万円、Bが100万円の出資をした場合を例にします。

財産4億円がある状態で医療法人を解散した場合、Aは3億円、Bは1億円の財産を受け取る権利を有するイメージです。

 

一般的な会社における資本金と違い、医療法人の出資者が有するのはあくまでも残余財産の分配請求権のみです。

医療法人は非営利が前提であり、剰余金の配当が認められていません。

また、出資者が医療法人(員総会の構成員)とも限らないため、出資持分を有する=議決権を持つ、という式も成立しません。

出資金そのものは資本金に近い性質を持ちますが、出資者の権利と一般的な会社における株主の権利には大きな違いがあります。

 

なお、2007年の医療法改正により、新たに持分あり医療法人を設立することはできなくなりました。

つまり、今後設立される医療法人はすべて持分なし医療法人であり、必然的に資本金0円になります。

医療法人 資本金の違いによって影響を受ける部分

既に紹介したように、持分なし医療法人(基金拠出型医療法人)は資本金が0円の扱いです。

一方で、持分あり医療法人の出資金は資本金と同様の扱いを受けます。

つまり、持分なし医療法人は資本金が無く、持分なし医療法人は資本金が有る状態です。

 

「資本金とは」で紹介したように、資本金の有無は税金の計算に影響を与えます。

資本金の有無が影響を与える税金について詳しく解説します。

法人税

資本金の大小が法人税の計算に与える影響として、主に以下の3つが挙げられます。

法人税の軽減税率

資本金の額による大きな違いの1つが、軽減税率の有無です。

資本金1億円以下の法人の場合、課税所得800万円以下の部分には19%の軽減税率が、800万円超の部分には23.2%が適用されます。

資本金1億円超の法人の場合、所得額に関係なく一律で23.2%となります。

持分なし医療法人は資本金が0円のため、必然的に軽減税率の適用対象です。

欠損金の繰越控除

資本金1億円を超える法人には、欠損金の繰越控除について上限が定められています。

持分なし医療法人には資本金がないため、欠損金の繰越控除に関する上限は存在しません。

その他優遇措置

資本金1億円以下の法人にはさまざまな優遇措置があります。

資本金0円の持分なし医療法人は、必ず優遇措置の対象となります。

持分あり医療法人の場合、出資金の額によっては優遇措置を受けられません。

法人住民税 均等割

法人住民税の均等割は、資本金の額と従業員の人数によって決まります。

資本金0円の持分なし医療法人は最も安い基準が適用されるため、税金が安くなります。

持分あり医療法人は出資金の額によって均等割の額が変わるため、必ずしも安い税額が適用されるとは限りません。

消費税

法人設立時に資本金が1,000万未満の場合、消費税の納付が免除されます。

基金は資本金としては扱われないため、基金が1,000万円以上であっても消費税の免税事業者となる要件を満たします。

まとめ

持分あり医療法人における出資金は実質的に資本金と同じ扱いを受けます。

一方、持分なし医療法人の経営原資である基金は資本金とはみなされません。

2007年の医療法改正により持分あり医療法人の新設ができなくなったため、今後設立される医療法人は必然的に資本金0円の持分なし医療法人となります。

 

資本金の有無や大小は、税金の計算に大きな影響を与えます。

正しい会計処理のためには、医療法人における経営原資の扱いについて十分な理解が必要です。


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吉岡 伸晃

記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士

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