退職金は一度に多額の支出を要するため、長期にかけて退職金を準備する必要があります。
退職金をする方法には複数の種類があり、それぞれ異なるメリット・デメリットがあります。
医療法人で効率的かつ確実に退職金を準備するためには、自院にあった方法を選ぶことが大切です。
退職金の金額に明確な決まりや相場はないものの、高額過ぎると否認される恐れがあります。
また、退職金にかかる税金の仕組みを上手く押さえられれば、税負担を最小限にすることができます。
退職金の決め方および税負担を抑えるポイントを事前に確認しておく必要があるでしょう。
本記事では、医療法人の退職金について、退職金を準備する方法や金額の決め方、節税のポイントを詳しく解説します。
医療法人の節税テクニックについて詳しく解説した以下の記事もぜひご覧ください。
CONTENTS
医療法人で退職金を準備する方法
医療法人で退職金を準備する方法を3つ紹介します。
生命保険
退職金を準備する代表的な手法の1つが生命保険の活用です。
法人名義で生命保険に加入した場合、要件を満たせば保険金の一部を経費として計上できます。
また、途中解約をした場合に解約返戻金を法人に戻せる点もメリットです。
デメリットとしては、支払う保険料の総額よりも解約返戻金および満期金が少ない点が挙げられます。
法人で生命保険を活用する方法はいくつかありますが、退職金の準備を目的とする場合に適したパターンとして以下の2つが挙げられます。
長期平準定期保険
経営者や役員に万が一の事態が起きたときの保障および退職金の財源確保を目的とした保険です。
契約者と保険金の受取人は法人、被保険者は経営者や役員となります。
養老保険
役員や従業員に万が一の事態が起きたときの保障および退職金の財源確保を目的とした保険です。
契約者および満期時の保険金受取人は法人、被保険者は従業員および役員の全員、死亡保険受取金は従業員および役員の遺族となります。
内部留保
医療法人の場合、内部留保を退職金の財源にするのも1つの手段です。
前提として、現行制度において新たに設立できる医療法人は持分なし医療法人のみです。
持分なし医療法人は、法人の解散時に内部留保(法人の残存財産)の分配ができません。
もし解散時に財産が残っていた場合、国のものになってしまいます。
また、医療法人は非営利法人という性質上、剰余金の配当も不可能です。
内部留保を退職金の財源にする方法は、内部留保を経営者や役員・従業員へ還元できる仕組みといえます。
後継者がいない・当代で解散を考えている等の場合、内部留保を退職金に充てる方法はおすすめです。
ただし退職金は一般的に高額のケースが多いため、内部留保だけでは足りない恐れもあります。
退職金の支給をするのであれば、内部留保以外にも何らかの財源を確保するのが良いでしょう。
中小企業退職金共済
中小企業退職金共済(中退共)とは、中小企業が毎月掛金を支払った退職金を積み上げていく制度です。
中小企業に該当するか否かは資本金等の総額と常時使用する従業員数で判断します。
要件を満たしていれば医療法人でも加入可能です。
中退共の大きなメリットとして、国の制度のため安心して利用できる点が挙げられます。
また、掛金を経費計上できるため節税効果がある・国の助成を受けられるため掛金よりも積立額が高くなる点もメリットです。
デメリットとしては、保険機能がない点が挙げられます。
万が一の事態が起きた時、死亡退職金としてまとまった金額は用意されません。
また、中途解約をした場合、積立金は法人ではなく社員個人へ直接支払われます。
医療法人 退職金の相場
前提として、退職金は勤続年数や報酬月額等のさまざまな要素から金額を算出します。
法人の規模によっても金額の違いがあります。
従業員の退職金であれば、官公庁や民間調査企業などが実施する調査の結果からある程度相場の把握が可能です。
しかし、役員の退職金はケースによって全く異なります。
したがって、医療法人に限らず役員退職金の相場を一概に表すことはできません。
役員退職金の相場は表せなくても、役員退職金の計算時に多く用いられている方法は存在します。
一般的に、役員退職金は以下の式で計算します。
- 最終報酬月額×従事年数(役員としての在任年数)×功績倍率
このうち特徴的なのが功績倍率です。
功績倍率とは貢献度に応じて乗じる係数のようなもので、役職が高いほど適用される功績倍率も大きくなります。
医療法人で適用される功績倍率の一例として以下が挙げられます。
- ・理事長:3.0
- ・常務理事:2.0
- ・平理事:1.0
今回の例の場合、最終報酬月額が100万円、従事年数15年の常務理事が退職する場合の役員退職金は以下の通りです。
- 100万円×15年×2.0=3,000万円
功績倍率の設定方法に特別なルールはありませんが、あまりにも高額の退職金では損金算入が認められない恐れがあります。
そのため、紹介した功績倍率を大きく上回る数値には設定しないのが無難です。
医療法人の退職金 税負担を抑えるためのポイント
医療法人の退職金に関する税負担を抑えるためのポイントについて、所得税・法人税それぞれ紹介します。
【所得税】税金が発生しない範囲で支給する
所得税の税負担を最小限に抑えるには、退職金の額を税金が発生しない範囲にするのが最も効果的です。
前提として、退職金は退職所得として扱われます。
退職所得の計算式は以下の通りです。
- (退職金の額-退職所得控除)×2分の1
退職所得控除は勤続年数によって、以下のいずれかが適用されます。
- 勤続年数が20年以下の場合
- 勤続年数×40万円
- ※80万円未満の場合は80万円
- 勤続年数が20年超の場合
- 800万円+70万円×(勤続年数-20年)
例として、勤続年数15年、退職金800万円の場合の退職所得は以下のようになります。
- 退職所得控除
- 15年×40万円=600万円
- 退職所得
- (800万円-600万円)×2分の1=100万円
退職金の額を退職控除の範囲内に抑えれば、退職所得は0円となり退職金にかかる所得税は発生しません。
税負担を最小限に抑えるのであれば、退職金を退職控除以下にするのが最も効果的です。
ただし、退職金にかかる所得税を抑えるために退職金の額を低くすれば良いとは限りません。
控除範囲内であれば確かに税負担はなくなりますが、そもそも退職金として受け取れる額も少なくなってしまいます。
退職金の額を高くするか税負担を抑えることを優先するか、慎重に判断する必要があります。
【法人税】損金算入のための要点を押さえる
法人税については、効果的な節税テクニックというよりも、損金不算入にならないためのポイントを押さえることが大切です。
退職金を確実に損金算入するためのポイントとして、以下の4点が挙げられます。
- 過大な退職金にならないよう注意する
- 従業員の退職金であれば各種調査結果等から相場を推測し、相場から大きく外れない程度に抑えるのが安心です。
- 功績倍率を高くしすぎない
- 役員退職金に明確な相場はありませんが、金額が高いと判断されると損金算入が認められない恐れがあります。
- 金額が高くなりすぎるのを防ぐため、功績倍率を高くしすぎないよう注意しましょう。
- 退職金規程を定めておく
- 退職金規程を定めておくのも大切です。
- 役員退職金は明確な相場がない分、根拠資料として規程が重要な意味を持ちます。
- 必要なステップをしっかり踏む
- 特に役員退職金の支給に際して大切な要素です。
- 社員総会の決議をする、議事録等の証拠を残す等の手続きをしっかり行いましょう。
まとめ
退職金は一度に多額の支出を要するため、早いうちから退職金の財源を準備する必要があります。
医療法人で退職金を準備する方法として、生命保険・内部留保・中小企業退職金共済の3つを紹介しましたが、各メリット・デメリットを押さえた上で、自院に合う方法を選ぶことが大切です。
医療法人に限らず、退職金を損金算入するためには不当に高額な金額を避ける必要があります。
今回紹介した計算例やポイントを押さえ、退職金として適切な額を設定しましょう。
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記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士