認定医療法人制度とは、持分あり医療法人が持分なし医療法人に移行する際に移行計画の認定を受けることで、様々な優遇措置を受けられる制度です。
移行計画の認定制度が実施されるのは平成29年10月1日から令和8年12月31日までのため、制度を利用するには早めに準備を進める必要があります。
ただし、認定医療法人制度にはメリットとデメリット両方があります。
そのため、すべての医療法人が必ずしも利用するべきとは限りません。
認定医療法人制度について理解を深め、利用するべきか否かを判断する必要があります。
今回は認定医療法人制度について、要件をはじめとした概要やメリット・デメリットを詳しく解説します。
認定医療法人制度は、医療法人における事業承継税制に似た制度の適用を受けるために利用が必要な制度です。
医療法人の事業承継税制については、以下の記事で詳しく解説しています。
医療法人の種類については、以下の記事をご覧ください。
CONTENTS
認定医療法人制度の概要
はじめに、認定医療法人制度の概要を解説します。
認定医療法人制度とは
認定医療法人制度とは、持分あり医療法人が持分なし医療法人に移行する際に移行計画の認定を受けることで、様々な優遇措置を受けられる制度です。移行計画認定制度とも呼ばれます。
同制度を利用することで、移行計画の期間満了まで相続税の納税が猶予され、持分を放棄した場合は猶予税額が免除されます。
また、移行計画により持分なし医療法人へ移行した場合、出資者の持分放棄に伴う法人贈与税は非課税となる仕組みです。
移行計画の認定制度が実施されるのは、平成29年10月1日から令和8年12月31日までです。
認定医療法人制度の要件
認定医療法人制度の適用を受けるためには、以下すべての要件を満たす必要があります。
- 1.移行計画の内容が社員総会において決議されたものである
- 2.移行計画の有効性及び適切性に疑義がない
- 3.計画に記載された移行期限が5年を超えない
- 4.運営に関する要件をすべて満たしており、かつ、移行後6年間は要件を維持し続ける
4の「運営に関する要件」の具体的な内容は以下の通りです。
- ・法人関係者に対し、特別の利益を与えない
- ・役員に対する報酬等が不当に高額とならないような支給基準を定めている
- ・株式会社等に対して特別の利益を与えない
- ・遊休財産額は事業にかかる費用の額以下
- ・法令違反、帳簿書類の隠ぺい等その他公益に反する事実がない
- ・社会保険診療等が全収入の80%を超える
- ・自費患者に対する請求額の基準が社会保険診療報酬と同一の基準
- ・医療収入が医業費用の150%以内
医療法人制度 申請の必要書類
認定医療法人の申請に必要な書類を紹介します。
- 移行計画認定申請書
- 厚生労働省の公式サイトからダウンロード可能です。
- 移行計画
- 移行計画の様式も厚生労働省の公式サイトからダウンロードできます。
- 定款の写し
- 現行の定款の写しを用意する必要があります。なお、原本証明は不要です。
- 出資者名簿
- 厚生労働省の公式サイトでダウンロードできる様式を使います。
- 社員総会の議事録の写し
- 移行計画の議決に関する社員総会の議事録の写しが必要です。
- 直近の三会計年度に係る貸借対照表および損益計算書
- 医療法施行規則附則第57条の2第1項各号に掲げる要件に該当する旨を説明する書類
- 事務担当者連絡先
なお、今回紹介した必要書類は新規申請時に必要なものです。
変更申請の際には別の書類が必要となります。
認定医療法人制度のメリット
認定医療法人制度のメリットを3つ紹介します。
相続税の納税負担がなくなる
最も大きなメリットは、相続税の納税負担がなくなる点です。
認定医療法人となり移行計画を実行すれば、出資持分がなくなるため、出資金に相続税がかかるという事態が起こりません。
事業承継の際には高額の相続税が課されて大きな負担となるケースが多くみられますが、同制度の利用によってこのような事態を避けられます。
また、出資者が出資持分を放棄して持分なし医療法人へ切り替わる際、通常であれば医療法人に贈与税が課されます。
しかし認定医療法人となれば、持分なし医療法人へ移行する際に発生する贈与税が非課税となります。
このように、認定医療法人になると法人形態の切り替え時および事業承継の際の税負担がなくなるのです。
なお、医療法人の出資者が亡くなった時にまだ移行が済んでいなくても、相続税の申告期限の時点で認定医療法人であれば対象の相続税は猶予されます。
その後、持分なし医療法人への移行が完了すれば、猶予されていた相続税はそのまま免除となる仕組みです。
出資者から払戻請求を受ける恐れがなくなる
持分なし医療法人へ移行すれば、出資者から払戻請求を受ける恐れがなくなります。
仮に医療法人の設立時にAさんとBさんがそれぞれ100万円ずつ出資したとします。
この場合、Aさん・Bさんそれぞれの出資持分は50%です。
そして、医療法人の設立後利益が蓄積され続け、医療法人の純資産が2,000万円になったと仮定しましょう。
Aさん・Bさんは共に出資持分50%を有するため、医療法人の純資産の50%である1,000万円の請求権を有します。
もしこの状態でAさんが払戻請求を実施した場合、医療法人は1,000万円という高額の払い戻しをする義務が生じてしまいます。
持分なし医療法人へ移行すれば出資持分という概念がなくなるため、払戻請求が行われる懸念もありません。
同族経営を継続できる
認定医療法人制度において、社員や役員の構成に非同族を求める要件はありません。
同族経営を維持しつつも、出資持分に対して相続税が課税される事態を避けられます。
持分を放棄しても社員としての議決権が失われるわけではないため、運営権限がなくなるという懸念は不要です。
認定医療法人制度のデメリット
続いて、認定医療法人制度のデメリットを3つ紹介します。
移行後6年間は運営状況を厚生労働省へ報告する義務がある
認定医療法人制度を利用する場合、移行後6年間は運営状況を厚生労働省へ報告する義務があります。
同制度は、持分なし医療法人への移行計画について厚生労働省からの認定を受けた場合に利用できる制度です。
そのため、移行が計画通りに行われたか、移行後の運営に計画との大きな相違がないかのチェックを受ける必要があります。
運営状況の報告における必要書類の数が多く、報告の手間がかかる点は大きなデメリットです。
医療法人に多額の剰余金があっても請求が不可能
認定医療法人制度を利用して持分なし医療法人への移行を行った後、医療法人に多額の剰余金があっても請求は不可能です。
持分なし医療法人とは、名前の通り出資者が持分を持たない医療法人です。
そのため、移行計画に沿って持分なし医療法人へ移行した後出資者の持分はすべて失われます。
同制度を利用するメリットの1つとして、「出資者から払戻請求を受ける恐れがなくなる」を挙げました。
大きな払い戻しをする必要性がなくなるのはメリットですが、同時に出資者の権利が失われる点はデメリットともいえるでしょう。
残余財産分配請求権がなくなる
持分なし医療法人への移行後は、残余財産分配請求権も失われます。
医療法人における残余財産分配請求権とは、医療法人が解散する際に法人が有する資産の分配を受ける権利です。
通常、出資持分に応じて分配が行われます。
移行後は出資持分を放棄することになるため、残余財産分配請求権もありません。
もし多額の資産を持つ医療法人が解散となった場合、残余財産は国等に帰属となります。
まとめ
認定医療法人制度とは、持分なし医療法人に移行するに移行計画の認定を受けた場合に様々な優遇措置を受けられる制度です。
持分なし医療法人への移行によって出資持分がなくなるため、出資持分に高額の相続税がかかる恐れがなくなります。
また、通常の移行時には法人に贈与税が課されますが、同制度を利用すれば贈与税も免除されます。
このように、法人形態の切り替えや事業承継の際の税負担がなくなる点が大きなメリットです。
一方、手間がかかる点・出資持分の放棄によって財産請求権も失われる点がデメリットとして挙げられます。
制度について理解を深め、メリットとデメリットの両方を押さえた上で、制度を利用するか否かを決める必要があります。
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記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士