概算経費の特例とは、社会保険診療報酬による事業所得の金額を、一定の方法で算出した概算の経費額を使って計算できる仕組みです。
社会保険診療報酬にかかる経費の集計および計算の手間を抑えられるため、会計処理の負担を大幅に軽減できます。
実額経費よりも概算経費の方が大きければ税額を抑えられるため、節税につながるケースもあります。
しかし、すべてのクリニック・医療法人で概算経費の特例の適用を受けた方が節税につながるとは限りません。
また、特例の適用を受ける場合に押さえるべき注意点も存在します。
メリットばかりに注目せず、注意点も知った上で特例の適用を受けるか否かの判断が必要です。
今回はクリニック・医療法人における概算経費の特例について詳しく解説します。
医療法人にかかる経費について以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひこちらもご覧ください。
医療法人におすすめの節税対策については、こちらの記事をご覧ください。
CONTENTS
クリニック・医療法人に適用される概算経費の特例とは
はじめに、クリニック・医療法人に適用される概算経費の特例の概要を紹介します。
概算経費の特例の概要
概算経費の特例とは、社会保険診療報酬による事業所得の金額を、一定の方法で算出した概算の経費額を使って計算できる仕組みです。
概算経費の特例は、以下2つの要件を満たす場合に適用できます。
- 1.その年の社会保険診療報酬が5,000万円以下
- 2.自由診療を含めた収入総額が7,000万円以下
たとえば、社会保険診療報酬が4,000万円、自由診療が4,000万円の場合、その年の収入総額は計8,000万円となります。
この場合、2の要件を満たさないため概算経費の特例の適用を受けられません。
概算経費の額
概算経費の計算方法は社会保険診療報酬の額によって以下のように異なります。
- 2,500万円以下:社会保険診療報酬×72%
- 2,500万円超3,000万円以下:社会保険診療報酬×70%+50万円
- 3,000万円超4,000万円以下:社会保険診療報酬×62%+290万円
- 4,000万円超5,000万円以下:社会保険診療報酬×57%+490万円
たとえば社会保険診療報酬が3,500万円だった場合、社会保険診療報酬3,000万円超4,000万円以下に該当するため、計算式は以下の通りです。
概算経費の額=3,500万円×62%+290万円=2,460万円
クリニック・医療法人で概算経費の適用を受けるメリット
この章では概算経費のメリットを3つ紹介します。
経費の集計・計算の手間がかからない
概算経費の大きなメリットが、経費の集計・計算の手間がかからない点です。
概算経費は社会保険診療報酬に一定の割合を乗じた上で、金額に応じて一定額を足して算出します。実際に発生した経費の額がいくらであるかは無関係です。
そのため、一つひとつの経費を細かく入力したり、経費の種類ごとに集計・計算する工数が発生しません。
経費集計および計算は、会計処理の中でも特に手間がかかる工程の1つです。
概算経費の特例の適用を受ければ、経費にかかる手間が最小限で済むため、会計処理にかかる負担を大幅に軽減できるでしょう。
ただし、同特例の適用を受けられるのは保険診療分のみです。
自由診療収入がある場合、自由診療にかかった経費は通常通り集計・計算をする必要があります。
また、自由診療と保険診療のそれぞれにかかった経費の区別も必要になります。
税額を抑えられる可能性がある
税額を抑えられる可能性がある点も、特例の適用を受けるメリットの1つです。
概算経費の特例の適用を受けた場合、社会保険診療報酬に一定の割合を乗じた額に、一定額を足した金額を経費として事業所得の計算に用います。
そして、経費が大きいほど収入から差し引ける金額も大きくなるため所得が減り、結果として節税につながります。
つまり、もし実額経費よりも概算経費の方が大きければ、実額経費で計算する場合よりも税額を抑えられるのです。
ただし、概算経費の方が必ずしも節税につながるとは限りません。あくまでも、概算経費を使えば税額を抑えられる可能性があるというだけです。
実額経費と概算経費のどちらが有利になるか、事前にシミュレーションをした上で決める必要があります。
利用するか否かは確定申告の際に選択できる
概算経費の特例の適用を受ける上で、事前に必要な届出や申請は特にありません。
概算経費を利用するか否かは確定申告の際に選択ができます。
そのため、収入や経費のすべてが揃い、どちらが有利になるかの正確な判断をした上での選択が可能です。
なお、概算経費の適用を受ける場合、確定申告書類とあわせて以下の書類を添付する必要があります。
- 個人:所得税青色申告決算書(一般用)付表(医師及び歯科医師用)
- 法人:社会保険診療報酬に係る損金算入に関する明細書
クリニック・医療法人で概算経費の適用を受ける際の注意点
概算経費の注意点を3つ紹介します。
必ずしも節税につながるとは限らない
メリットの章でも少し触れましたが、概算経費の適用が必ずしも節税につながるとは限りません。
概算経費よりも実額経費の方が大きければ、実額経費を利用した方が所得を抑えられます。
節税を最優先にするのであれば、実額経費の方が大きい場合は概算経費の適用を受けない方が良いでしょう。
実額経費の方が大きくなりやすいケースとして、以下の例が挙げられます
- ・人件費が高額
- ・賃料やリース料が高額
以下の個人クリニックを例に、概算経費と実額経費のどちらが大きくなるか計算してみましょう。
- ・社会保険診療報酬:3,000万円
- ・自由診療収入:なし
- ・賃料およびリース料以外の経費:1,800万円
上記ケースの場合、概算経費の額は以下の通りです。
3,000万円×70%+50万円=2,150万円
このクリニックで賃料とリース料が発生していない場合、実額経費よりも概算経費の方が大きいため、概算経費の適用を受けた方が税額を抑えられます。
一方、リース料および賃料が毎月50万円発生していると仮定すると、実額経費は以下のようになります。
1,800万円+50万円×12ヶ月=2,400万円
概算経費よりも実額経費の方が250万円大きいです。この場合、実額経費で計算した方が税額を抑えられます。
経費を保険診療にかかる分と自由診療にかかる分で区別する必要がある
概算経費の適用を受けられるのは保険診療分のみです。
自由診療にかかった経費は実額で計上するため、経費を保険診療にかかる分と自由診療にかかる分で区別する必要があります。
もし自由診療にかかった経費の集計時に漏れがあると、自由診療収入から引ける経費額が少なくなり利益が大きくなるため、税額が増える恐れがあります。
逆に、保険診療にかかった経費を自由診療の経費に含めてしまうと、税務調査で指摘を受けて追徴課税の対象になる恐れがあるため注意しましょう。
なお、保険診療と自費診療の両方にかかる経費(共通経費)は按分して計算します。
更正の請求は認められない
更正の請求とは、納めた税額が多すぎた場合や還付金が少なかった場合に減額更正を請求することです。
概算経費については、この更正の請求が認められていません。
たとえば概算経費を用いて確定申告をし、期日後に実額経費の方が得と気付いたため、実額経費で税額の計算をし直して更正の請求をするのは不可能です。
税額を最小限に抑えるために、どちらがより節税につながるか確定申告の前に必ずシミュレーションをするべきでしょう。
まとめ
概算経費の特例では、社会保険診療報酬に一定の割合を乗じた額に、報酬額に応じた一定額を足した金額を経費として用います。
そのため、保険診療分にかかる経費の個別集計や計算が必要ありません。
概算経費の特例の適用を受ければ、会計処理にかかる手間を大幅に軽減できます。
また、実額経費よりも概算経費の方が大きければ節税にもつながります。
ただし、すべてのケースで概算経費の方が節税につながるとは限りません。
人件費やリース料が大きいクリニック等の場合、実額経費の方が大きくなりやすいため、概算経費は節税につながらない可能性が高いです。
また、概算経費の適用を受けられるのは保険診療にかかる経費のみです。自由診療分の経費は別途区別する必要があります。
この仕組みを正しく理解した上で、概算経費と実額経費のどちらを利用するか判断しましょう。
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記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士