開業準備に使った費用はどこまで経費として認められる?注意点も解説!

2024.02.15

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クリニックの開業準備にかかった費用の大部分は経費計上が可能です。

開業準備にかかった費用は開業費と呼ばれ、明確な定義は特にありません。開業準備にかかった費用であれば、開業の数年前の支出でも経費計上が認められます。

 

ただし、開業準備にかかった費用の全額を開業費として計上できるわけではありません。

支出の性質によっては別の勘定科目を使う必要がある、もしくはそもそも経費計上ができないケースがあります。

開業準備にかかった費用を正しく経費計上するため、開業費について十分な理解が必要です。

 

今回はクリニックの開業準備費用の経費計上について詳しく解説します。

 

以下の記事ではクリニック開業に必要な資金について解説していますので、ぜひこちらもご覧ください。

 

 

医療法人の経費については、以下の記事をご覧ください。

 

CONTENTS

開業準備にかかった費用 経費にできる範囲とは

はじめに、クリニックの開業準備にかかった費用のうち経費にできる範囲について解説します。

開業費の定義

開業費とは、開業準備に要した費用のことです。明確な定義は特に定められておらず、開業準備に要した費用全般が開業費として扱われます。

基本的には、会社設立から営業開始までにかかった費用を指します。

 

開業準備にかかった費用であれば、開業の数年前に発生した支出でも開業費として経費計上が可能です。

ただし、支出の事実があった日と開業日に大きなズレがある場合、開業準備に要した費用であることを証明する必要があります。

創立費との違い

創立費とは、会社を設立するために要した費用です。会社設立までにかかった費用とも言い換えられます。

創立費に該当する支出として以下の例が挙げられます。

  • ・法人印の作成費用
  • ・定款認証手数料
  • ・印鑑証明書の発行手数料
  • ・会社設立登記に要した登録免許税
  • ・会社設立前の事務所賃料
  • ・会社設立前の従業員給与
  • ・専門家へ会社設立手続きの代行を依頼した場合の報酬
  • ・発起人への報酬
  • ・金融機関や証券会社との取引手数料

会社設立準備に伴い会議室をレンタルした場合や、打ち合わせのために交通費や飲食費を支出した場合、これらの費用も創立費として計上可能です。

開業費として経費計上できる支出の例

開業費として経費計上できる支出の例について、一般的な支出と、クリニックや医療機関特有の支出に分けて紹介します。

一般的な支出

開業費として計上できる一般的な支出の例は以下の通りです。

 

  • ホームページやパンフレットの作成費用
  • 開業までにかかった広告宣伝関連の費用は開業費として計上可能です。
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  • 名刺や制服代
  • 開業のために必要な経費のため、当然開業費として計上できます。
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  • 各種備品や消耗品費
  • 事務所やクリニックの備品・消耗品も開業費として計上可能です。
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  • 採用費
  • 採用サイトの制作に要した費用や人材紹介会社への手数料などが挙げられます。
  •  
  • セミナーの受講費用や外部の研修に支払った費用
  • 開業前の研修に要した費用も開業費として計上可能です。研修費の規定はクリニックによって異なりますが、クリニックが負担するケースが多くみられます。
  •  
  • 開業前に行った打ち合わせに伴う費用
  • 会議室のレンタル料や飲食代などが該当します。なお前項で紹介したように、創立前に発生した打ち合わせ費用は創立費の対象です。
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  • 挨拶状の送付や贈答品の購入にかかった費用
  • クリニックの開業に際してお世話になった人や関係者へ挨拶状や贈り物をするケースも多いでしょう。
  • その際にかかった費用も開業費に含められます。

クリニックや医療機関特有の支出

クリニックや医療機関特有の支出として、以下の例が挙げられます。

 

  • 待合室に設置する備品代
  • 待合室に設置する椅子や棚、患者さんへの情報提供が目的のボード等が挙げられます。
  • いずれもクリニックの準備に必要な支出として経費計上が可能です。
  •  
  • クリニックの受付で使う備品や消耗品代
  • 体温計・文房具・診察券の作成に使う紙等、幅広く経費計上が可能です。
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  • 他のクリニックの見学にかかった費用
  • 開業に伴い、他のクリニックを見学し参考にするのは珍しくありません。
  • 他のクリニックの見学にかかった費用として、往復交通費や手土産代等は開業費として計上できます。
  •  
  • キッズスペースの用意にかかった費用
  • キッズスペースに敷くマット代や、おもちゃ・絵本代も開業費として計上可能です。

開業費にできない支出の例

開業前に発生した支出であっても、開業費として計上できないものがあります。具体例を紹介します。

 

  • 10万円以上の備品
  • 10万円以上の備品は購入した年に全額を経費計上はできません。
  • 購入時は資産計上し、耐用年数に応じて減価償却をする必要があります。
  •  
  • 敷金および礼金
  • 敷金および礼金も固定資産に計上する必要があります。
  • 敷金は預入金の性質を有する支出、礼金は貸主への謝礼金という一時金の性質を有するためです。
  •  
  • 開業後も継続して発生する支出
  • 従業員への給与や水道光熱費、インターネットの使用料などが挙げられます。
  • 開業費ではなく通常の経費として計上する必要があります。
  •  
  • 商品仕入代
  • 商品の仕入れにかかった費用は購入した段階では経費計上ができません。購入後、売上が発生した際に「売上原価」として計上できます。
  • 開業時は「商品在庫」として資産計上が必要です。

開業準備にかかった費用を経費計上する際の注意点

開業準備にかかった費用を経費計上する際の注意点を3つ紹介します。

「開業費」は繰延資産勘定

開業準備にかかった費用は経費計上が可能と紹介しました。

しかし厳密には、開業準備に要した費用に用いる「開業費」という勘定科目は、費用勘定ではありません。繰延資産に該当する科目です。

開業時には開業費として繰延資産に計上し、その後償却して費用計上をするイメージです。

 

開業費の償却に関するルールは、会計上と税務上で以下のように異なります。

  • 会計上:5年で均等償却
  • 税務上:任意償却

開業費の償却は、税務上のルールである任意償却を適用するのが一般的です。

所得が大きい年に高額の償却をすれば利益を減らして税額を抑えられるため、節税テクニックとしても多く用いられます。

 

開業費の計上および償却の仕訳例を紹介します。

 

  • 1.開業準備費として、消耗品費50万円、研修費80万円、採用費70万円の計200万円を現金で支払った。
  • 開業費 200万円 / 現金 200万円
  • ※支出の種類別に仕訳を分ける必要はありません。
  •  
  • 2.設立1期目は赤字となったため開業費の償却をしなかった。
  • 仕訳なし
  •  
  • 3.設立2期目は黒字が大きくなったため、開業費のうち50万円を償却した。
  • 開業費償却 50万円 / 開業費償却 50万円
  •  
  • 4.設立3期目に開業費の未償却残高をすべて償却した。
  • 開業費償却 150万円 / 開業費 150万円

領収書の整理・保管は必須

開業費として計上する支出について、領収書の整理・保管は必須です。

資料がない場合、経費として認められない恐れがあります。

電車代・バス代・割り勘でかかった費用等、領収書がない場合は出金伝票に残しましょう。

10万円以上の固定資産は「減価償却資産台帳」に記入する

すでに紹介したように、10万円以上の備品は取得した年に全額を経費計上することはできません。

まずは固定資産として計上し、耐用年数に応じて減価償却をする必要があります。

開業準備に際して購入した10万円以上の固定資産についても、開業費ではなく固定資産として計上します。

 

また、取得価額10万円以上の固定資産については、仕訳だけでなく減価償却資産台帳への記入も必要です。

記入ミスや漏れを起こさないよう、固定資産を取得したらなるべく早く記入しましょう。

まとめ

クリニックの開業準備において発生した支出は、開業費として経費計上が可能です。

開業費に該当するのは事業を始めるために要した費用であり、会社設立に要した支出である創立日とは異なる性質を持ちます。

また開業準備にかかった支出でも、取得価額が10万円以上の備品や開業後も継続して発生する支出は開業費に含まれないため注意が必要です。

 

開業費は厳密には費用ではなく繰延資産に該当する勘定科目です。開業した年は開業費勘定を使って繰延資産として計上し、その後償却して費用計上します。

黒字の年に高額の開業費償却をすれば計上できる費用が増えるため節税に効果的です。

 

ただし、税務の専門知識がない人が開業費勘定を最大限に活用するのは容易ではありません。

より効果的な節税ができるよう、税務の専門家である税理士に相談するのがおすすめです。


医療法人やクリニックの税務相談・節税対策は
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吉岡 伸晃

記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士

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