所得税の対象となる所得は、一時所得を含めて全部で10種類に分類されます。
所得の種類によって課税対象額の計算式や課税方法が異なるため、確定申告を行うためには自身の所得について正しく理解する必要があります。
一時所得とは、営利目的の継続的行為から生じた所得以外の所得のうち、労務や役務の対価としての性質や、資産の譲渡による対価としての性質を有しない所得です。
一時所得の確定申告におけるポイントとして、一時所得に当てはまる支出の種類と特別控除額の存在、収入から差し引ける金額が挙げられます。
「収入を得るために支出した金額」は一時所得の計算で間違えやすいポイントであり、計算を誤ってしまうとペナルティが課される恐れがあるため注意が必要です。
反対に、一時所得の仕組みを上手く活用すれば節税につながる可能性もあります。
今回は一時所得について、確定申告の流れや節税のポイントを紹介します。
所得税の仕組みについては以下の記事で解説していますので、ぜひこちらもご覧ください。
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CONTENTS
一時所得とは
一時所得に該当するもの
一時所得に該当する所得として、以下の例が挙げられます。
- ・懸賞や福引きの賞金品 ※業務に関連して取得するものを除く
- ・競馬や競輪の払戻金 ※営利目的の継続的行為から生じたものを除く
- ・生命保険の一時金や損害保険の満期返戻金等 ※業務に関連して取得するものを除く
- ・法人から贈与された金品 ※業務関連や継続的に取得するものを除く
- ・遺失物の拾得者や埋蔵物発見者が受ける報労金等
- ・資産移転等の費用に充てる目的の交付金のうち、目的の支出に充てられなかったもの
一時所得の条件
臨時的に得た収入であっても、必ずしも一時所得とは限らずその他の所得(雑所得)に分類されることもあります。
ここでは、一時所得として扱われるための4つの要件を具体例とともに解説します。
- 1. 継続的な営利活動から生じたものではないこと
- 一般的に、競輪の車券や競馬の馬券の払戻金は一時所得に該当します。
- しかし、ソフトウエアを活用して独自の条件設定と計算式により馬券を購入し、偶然性の影響を最小限に抑えながら通年でほぼ全てのレースに馬券を買って利益を得ている場合は「営利目的の継続行為」とみなされ、一時所得ではなく雑所得に区分されます。
- 2. 継続的に受け取る所得ではないこと
- 通常、生命保険の満期保険金を一括で受け取る場合は一時所得に該当します。
- ただし、満期保険金を年金形式で受け取る場合は一時的とは言えないため、雑所得となります。
- 3. 労務や労働の対価として得たものではないこと
- 原稿料や講演料などは、労務の対価として支払われます。そのため、一時的な受け取りであっても一時所得ではなく、雑所得に分類されます。
- 4. 資産の売却によって得たものではないこと
- 不動産や株式の売却によって得た利益は「譲渡所得」に該当し、一時所得とは異なります。
- 企業から個人への贈与、例えば懸賞に応募して景品が当選した場合などは一時所得となりますが、親からマイホームを贈与された場合などの個人間の贈与は、一時所得ではなく贈与税の対象となります。
- ただし、確定申告をする年の1月1日から12月31日までに贈与された財産の合計額が110万円以下の場合は、贈与税を納める必要はありません。
一時所得と雑所得の違い
一時所得と混同されやすい所得区分の一つに雑所得があります。
両者の主な相違点は、一時所得が労務等の営利目的の所得を含まないのに対し、雑所得はある程度継続的な所得を対象としている点です。
雑所得に該当する具体例は以下の通りです。
- ・不動産や山林から生じる所得
- ・資産の譲渡による所得
- ・利子収入
- ・副業からの給与所得や退職所得
- ・公的年金の収入
- ・著作物の印税収入
- ・インターネットオークションによる収入
なお、株式等の金融資産取引から得られる所得は、上述の譲渡所得に分類されます。
一時所得 確定申告で押さえたいポイント
一時所得が発生した場合に確定申告が必要となるのは、その所得が一定額を超えたときです。すべての一時所得が課税対象となるわけではありません。
一時所得を含めた所得が20万円を超える場合は、確定申告が必要です。
また、一時所得には最大50万円の特別控除があります。総収入から収入を得るための支出を差し引いた額が50万円以下であれば、課税されません。
一時所得の中には、法律により一部非課税とされるものがあります。以下がその例です。
- ・損害保険契約の保険金
- ・満期保険金が支払った保険料総額より少額の場合
- ・宝くじやサッカーくじの当選金
一時所得の確定申告が不要なケース
前項で解説した通り、一時所得を含めた所得が20万円以下の場合、一時所得に該当する収入が発生しても確定申告が不要になる可能性があります。
一時所得の確定申告が不要になるケースの例として以下の2つが挙げられます。
- 給与所得者で給与所得以外の所得が一時所得を含めて20万円以下の場合
- 勤務地で行う年末調整で所得税の精算が済むため別途確定申告を行う必要はありません。
- 給与所得者で給与所得以外の所得が一時所得のみ、かつ、一時所得が90万円以下
- 一時所得は計算の際に特別控除50万円を控除し、その上で所得金額の2分の1に相当する金額が課税対象となります。
- 一時所得が90万円以下であれば、特別控除を引き、残額を2分の1した額が20万円以下になるため確定申告が不要です。
なお、上記に該当する場合でも、以下のような年末調整で適用を受けられない控除を受けるためには確定申告を行う必要があります。
- ・医療費控除
- ・住宅ローン控除1年目
- ・雑損控除
- ・寄付金控除
一時所得の計算方法
一時所得の計算方法は以下の通りです。
一時所得=総収入金額 -収入を得るために支出した金額-特別控除額(最高50万円)
計算におけるポイントとして、「収入を得るために支出した金額」が挙げられます。
こちらは当該収入を発生させる行為のため、もしくは当該収入の生じた原因に伴い直接要した費用です。
たとえば競馬や競輪の払戻金の場合、結果が当たったレースの購入費は当該支出に含まれます。
しかし、外れたレースに関する購入費は一時所得の計算時に含めることができません。
当たり・はずれの結果に関係なく、競馬場や競輪場までの交通費も対象外です。
このように、あくまで該当の収入を生む上で直接関係した支出のみが認められる点に注意する必要があります。
一時所得にかかる税金の計算方法
一時所得は原則として、所得金額の2分の1に相当する金額を他の所得と合計して総所得金額を求め、それから税額を計算します。
つまり、一時所得のうち総所得金額に含めて課税対象となる金額は半分です。
一時所得の税率
一時所得は総合課税の対象となるため、給与所得、事業所得、雑所得などと合算して納税額を計算します。
総合課税対象の所得には超過累進課税制度が適用され、課税対象額に応じて税率や控除額が異なります。
<所得税の速算表>
課税対象の所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円〜1,949,000円 | 5% | 0円 |
1,950,000円〜3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
3,300,000円〜6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
6,950,000円〜8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000円〜17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円〜39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
出典:国税庁「所得税の税率」
一時所得の確定申告例
一時所得の確定申告の流れについて、以下の具体例を用いて解説します。
- ・競馬の払戻金200万円
- ・競馬の購入回数は10回、1回5万円で合計50万円。
- うち1回分で200万円の払い戻しが発生
今回のポイントは、支出の合計は50万円であるものの、200万円の払い戻しを受けるために直接かかった金額は5万円となる点です。
したがって、収入を得るために支出した金額として計上できるのは5万円となります。
計算式は以下の通りです。
200万円-5万円-特別控除50万円=145万円
一時所得のうち総所得金額に含める額は2分の1です。したがって、総所得金額に算入する額は以下のようになります。
145万円×2分の1=72.5万円
一時所得72.5万円を給与所得や他の所得と合算します。
あとは一般的な確定申告の流れと同じです。各種所得控除を差し引いた後の課税対象所得に所定の税率を乗じて所得税の額を計算します。
一時所得の確定申告をしないとどうなる?
一時所得の確定申告を怠ると、以下のようなペナルティを課される恐れがあります。
- 無申告加算税
- 本来納付する税額に一定率を乗じた額が課されます。
- 延滞税
- 税金が期日までに納付されなった場合に課されるペナルティです。期日の翌日から納税を行うまでの日数に応じて一定率が課せられます。
- 重加算税
- 所得の隠ぺいや意図的な過少申告など、悪質な脱税行為とみなされた場合に課されるペナルティです。
一時所得 確定申告のやり方
一時所得の確定申告では、一時所得の金額を記入する必要があります。
以下に一時所得の確定申告方法を詳しく説明します。
確定申告の必要書類
確定申告を行う際は、以下の書類を準備する必要があります。 漏れがないよう事前にしっかりと揃えましょう。
- ・確定申告書
- ・源泉徴収票(ない場合、収入金額と必要経費がわかる書類)
- ・本人確認書類(マイナンバーカード、通知カード、顔写真付きの身分証明書など)
- ・支出経費の金額が明記された書類
- ・収入の受取先(金融機関)がわかる書類
- ・各種控除の内容がわかる書類(医療費の領収書や控除明細書、社会保険料控除証明書など)
確定申告書の記入方法
- 1. 「収入金額等」の「一時(サ)」の欄
- 申告する1年間で得た一時所得の総収入金額を記入します。
- 2. 「所得金額」の「総合譲渡・一時(8)」の欄
- 収入から収入を得るために支出した経費を差し引き、その金額の1/2をかけた金額を記載します。
確定申告書の提出方法
確定申告の申告書類を提出する方法は、以下の3つがあります。
- 1. e-TAXを利用した電子申告
- 2. 所轄の税務署への郵送による提出
- 3. 所轄の税務署への直接提出
特にe-TAXを利用した電子申告がおすすめです。
e-TAXでは、数値の修正が簡単に行えるほか、一度作成したデータを保存しておくことで、次回の確定申告時に参考にすることができます。 郵送による申請と比べても、e-TAXを使った方が利便性が高いでしょう。
確定申告の期間
確定申告は毎年2月16日から3月15日までの約1ヶ月間に行います。 一時所得の確定申告も同様です。
確定申告では、前年の1月1日から12月31日までの1年間に得た所得を申告し、算出された所得税や消費税などを納税します。
ただし、一定の条件を満たしている場合は、所得税の還付を受けることができます。
還付申請の場合、3月15日の期限にとらわれず申請可能日から5年以内であれば認められています。
一時所得の節税対策3選
一時所得の仕組みを活用した節税テクニックを3つ紹介します。
「収入を得るために支出した金額」を漏れなく計上する
一時所得にかかる税金を抑えるには、「収入を得るために支出した金額」を漏れなく計上する必要があります。
一時所得の計算に際して収入から差し引ける金額は、ほかの所得に比べてわかりにくいかもしれません。
しかし節税対策において、収入から差し引ける支出を漏れなく計上するのは大前提といえます。
計上できる支出を判断できない・一時所得の計算について疑問がある等のお悩みをお持ちであれば、専門家である税理士に相談するのが安心です。
贈与は個人からではなく法人からとして行う
個人への贈与は個人からではなく法人からとして行うのが良いでしょう。
法人から個人への贈与は一時所得に該当し、贈与税ではなく所得税の対象になるためです。
贈与税は所得税に比べて、税額が高くなりやすい・ルールが複雑で計算および申告の手間が大きい傾向があります。
法人からの贈与にすれば、贈与を受けた側は節税になるだけでなく、税額計算や申告の負担が軽くなる可能性が高いです。
ただし、贈与税と所得税どちらの方が税額を抑えられるかは、贈与の内容や金額によって異なります。
確実な節税のため事前にシミュレーションを行うのがおすすめです。
保険金の受け取りは「一時金」にする
生命保険の満期時や解約時に保険金を受け取る方法は、一時金受け取り方式と年金受取方式の2種類があります。
節税という面で考えると、保険金の受け取りは一時金にするのがおすすめです。
一時金受け取りの場合、該当の受け取り保険金は一時所得とみなされます。一方、年金方式の場合は雑所得として扱われます。
一時所得は特別控除50万円が適用される上に課税対象になるのは2分の1であるため、雑所得よりも税額を抑えられる可能性が高いです。
ただし、保険の内容によっては年金方式の方が受け取れる金額が大きくなるケースもあります。
節税面だけでなく、受け取り金額の総額も考慮した上での判断が必要です。
一時所得の注意点4つ
一時所得を計算する際には、いくつかの注意点があります。
満期保険金は、金額などの条件によって確定申告の要否が変わる
生命保険の満期保険金や解約返戻金を受け取った際、支払った保険料の総額が受け取った保険金や解約返戻金の金額を上回っている場合、一時所得はゼロとなります。この場合、確定申告を行う必要はありません。
ただし、保険金が満期を迎えても、以下のようなケースでは注意が必要です。
・満期保険金を受け取らずに保険を継続する場合
・保険を再契約する場合
・満期保険金をすぐには受け取らず、一定期間保険会社に預けておく場合
これらの場合、たとえ実際には満期保険金を受け取っていなくても、満期日時点で保険金を一旦受け取ったものとみなされます。 そのため、確定申告が必要となることに留意しましょう。
赤字でも、事業所得や給与所得と損益通算できない
損益通算とは、赤字の所得と他の黒字の所得を相殺することを指します。
損益通算が可能な所得の種類は、以下の4つに限定されています。
・不動産所得
・事業所得
・譲渡所得
・山林所得
株式の売買で譲渡所得が赤字となった場合、事業所得の黒字と精算し、赤字分だけ事業所得の黒字を減らすことができます。しかし、一時所得は他の所得との間で損益通算を行うことができません。
例えば、保険を中途解約し、受け取った解約返戻金がそれまでに支払った保険料よりも少なかった場合、その赤字分を給与所得や事業所得の黒字分と相殺することはできず、一時所得はゼロとみなされます。
ただし、一時所得内では内部通算が可能です。
例えば、1年間のうちに以下のような保険AとBの一時所得が発生した場合を考えてみましょう。
・保険A:解約返戻金100万円
支払った保険料200万円 = -100万円
・保険B:満期保険金800万円
支払った保険料600万円 = 200万円
このケースでは、保険Aの一時所得をゼロとせずAとBを通算して以下のように計算します。
一時所得となる金額 = (100万円 + 800万円) – (200万円 + 600万円) – 50万円(特別控除額) = 50万円
この例では一時所得の金額は50万円となり、その2分の1に該当する25万円が確定申告の対象です。
生命保険の満期保険料は一時所得とならないことがある
生命保険の満期保険金や解約返戻金は、状況によって一時所得となる場合と贈与税の対象となる場合があります。
保険料の負担者と保険金の受取人が同一の場合
満期保険金などを一括で受け取った場合、一時所得の扱いとなります。
年金のように、毎月決まった金額を数年間にわたって受け取る場合は、雑所得扱いになります。 雑所得 = その年に受け取った年金の額 – その金額に対応する保険料または掛金の額
保険料の負担者と保険金の受取人が異なる場合
保険料を支払っている本人以外の人が保険金を受け取った場合、受取人は所得税の確定申告を行う必要はありません。
ただし、受け取った金額によっては、贈与税の申告が必要となる場合があります。
保険料の負担者と保険金の受取人が異なるかどうかによって、税務上の取り扱いが大きく変わってくるため、十分注意しましょう。
確定申告が必要ない一時所得もある
以下のような一時所得は源泉分離課税が適用されるため、確定申告ができません。
・懸賞金付き預貯金等の懸賞金
・一時払養老保険
・一時払損害保険(保険期間が5年以内であるなど一定の要件を満たすもの)
これらの金融類似商品は一時所得ではありますが、「源泉分離課税」の対象となっています。
源泉分離課税とは、他の所得と分離して、支払いの際に一定の税率で所得税を源泉徴収する仕組みです。 そのため、これらの一時所得を受け取った場合は、確定申告を行う必要はありません。
また、源泉分離課税の対象となる一時所得には、所得税および復興特別所得税と地方税の計20.315%が課されます。
まとめ
一時所得は、総収入金額から収入を得るために支出した金額と特別控除額を引いて計算します。
そして他の所得と合算して課税対象所得を計算しますが、合算する額は一時所得のうち2分の1となります。
つまり、総所得金額に含めて課税対象となる金額は半分のみです。
一時所得の仕組みを上手く活用すれば、所得税の大幅な節税ができる可能性があります。
ただし、どの節税対策やどのテクニックを活用できるかはケースによって異なります。
より確実な節税対策を行うため、専門家である税理士へ相談するのが安心です。
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記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士