個人事業主に課される所得税と法人に課される法人税はルールが全く異なります。
そのためタイミングや状況によっては、法人化した方が税負担を大幅に抑えられる可能性があります。
法人化による節税メリットを事前に知っておくことも、最適なタイミングで法人化をするために大切です。
ただし、個人事業主の法人化にはメリットだけでなく注意点も存在します。
注意点を知らずに法人化をしてしまうと、かえって税負担や支出が大きくなってしまうかもしれません。
今回は個人事業主の法人化によって得られる節税メリットを9つと、法人化をする際の注意点を3つ紹介します。
法人成りに最適なタイミングは以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひこちらもご覧ください。
CONTENTS
法人化で得られる節税メリット
はじめに、法人化で得られる節税メリットを9つ紹介します。
赤字を繰り越せる期間が長い
個人事業主が法人化することで、赤字を繰り越せる期間がより長くなります。
個人事業主が赤字を繰り越せる期間は最長で3年間です。
一方、法人は欠損金(法人における赤字)を最長10年間繰り越せます。
赤字を繰り越せる期間が長ければ、その分赤字を活用しきれないリスクが低くなります。
現時点では赤字でも将来的に黒字になる可能性が高い場合、法人化をして赤字を繰り越せる期間を長くした方が良いでしょう。
給与所得控除の適用を受けられる
給与所得控除とは、給与所得の計算に際して給与収入から一定額を控除する制度です。
給与所得者は収入から経費を差し引くことができませんが、実際には仕事のためのスーツや備品等の支出が発生しています。
給与所得控除とは、給与所得者の必要経費相当額を差し引くための仕組みといえます。
名称に「所得控除」と含まれていますが、一般的な所得控除とは異なる制度です。
法人化すると、設立した会社から役員報酬の支給を受けることになります。
役員報酬は給与所得として扱われるため、給与所得控除の適用対象です。
所得税の課税対象になるのは給与所得控除適用後の所得部分となるため、所得税を大幅に抑える効果が期待できます。
扶養控除・配偶者控除の適用を受けられる
前提として、個人事業主も要件を満たせば扶養控除・配偶者控除の適用を受けられます。
しかし個人事業主の場合、一回でも給料を支払った扶養親族や配偶者は控除対象になりません。
一方、法人化して法人から給与を支払う形であれば、扶養親族や配偶者に給料を支払った場合でも自身は控除の適用を受けられます。
個人事業主が法人化することで、扶養控除・配偶者控除の適用要件が緩くなるイメージです。
家族への給与・役員報酬を経費計上できる
個人事業主が法人化すれば、家族に対して支払う給与や役員報酬を経費計上できます。
個人事業主も青色申告専従者給与の制度を活用すれば家族への給与を経費として計上できます。
ただし、青色申告専従者給与の適用を受けるには事前に税務署へ届出が必要です。
また、青色事業専従者の要件は厳しく設定されており、働き方についてかなりの制約を受けることになります。
法人から支払う給与や役員報酬については、たとえ代表者や役員の家族であっても細かな制約はありません。
そのため個人事業主が法人化をすれば、家族への給与や役員報酬をほぼ確実に経費計上できるようになります。
ただし、仕事に見合わない不当に高額な給与や報酬は損金として認められない可能性が高いため注意しましょう。
退職金を損金算入できる
法人化をすれば、経営者である自身への退職金を法人の経費として計上できます。
計上できる経費が増えて節税ができるだけでなく、効率的かつ確実に退職金を用意できる点もメリットです。
経営者本人に対する退職金だけでなく、従業員の退職金も損金として扱われます。
出張手当をつけられる
出張手当とは、出張の際にかかる交通費や宿泊費等の実費精算をする経費とは別に支払う日当です。
出張先で発生し得る食費や消耗品費の充当、出張に対する労いの意味をこめて支給されます。
出張先までの距離や役職別に一定額を支給するのが一般的です。
出張手当は個人事業主には認められておらず、法人のみ計上できます。
計上できる経費が増えるため節税に効果的です。
なお、出張手当を経費計上するためには、出張旅費規程の中で出張手当に関するルールを記載する必要があります。
福利厚生として経費計上できる項目が増える
法人化をすることで、福利厚生として経費計上できる項目が増えます。具体的な例は以下の通りです。
- ・通勤手当
- ・健康診断料
- ・慶弔見舞金
- ・社員旅行費用
- ・資格取得の補助費用
- ・保養施設の利用料
ただし一部の従業員や役員のみを対象とした制度や、社会通念上妥当ではないと判断される内容にかかる支出は、福利厚生ではなく給与とみなされます。
経費計上できず所得税の課税対象となり、負担が大きくなってしまうため注意しましょう。
社会保険料や生命保険料を経費計上できる
法人化すれば、経営者本人の社会保険料や法人名義の生命保険料を経費計上できます。
個人事業主が支払う国民健康保険料や国民年金保険料は経費として計上できません。社会保険料控除の対象となります。
一方、法人の役員や従業員は社会保険料を会社と折半することになります。
そして、社会保険料のうち会社負担分は経費として計上可能です。役員や従業員の負担分は個人事業主と同様に社会保険料控除が適用されます。
また、法人向けの生命保険にかかる支払保険料も経費として計上できます。
このように、法人化によって経費計上できる保険の範囲が広くなるのです。
法人向け保険については以下の記事で詳しく解説しています。
消費税の課税事業者となるタイミングを遅らせられる
消費税の課税事業者となるタイミングを遅らせることができる点も法人化のメリットです。
個人・法人問わず課税売上高が1,000万円を超えると翌々事業年度から消費税の課税事業者になります。
しかし、会社設立時の資本金が1,000万円未満の場合、設立1期目は必ず消費税免税となります。
つまり、個人事業主として消費税の課税事業者になる前に法人成りをすれば、消費税の免税期間を延長できるのです。
個人事業主が法人化する際の注意点
続いて、個人事業主が法人化する際の注意点を3つ紹介します。
会社設立にコストがかかる
法人化で特に注意すべき要素の1つが会社設立のコストです。会社設立時は最低でも以下の費用が発生します。
- 定款用収入印紙代
- 紙の定款を作成する場合に必ず発生する費用で、一律40,000円です。
- ただし、電子定款の場合は不要です。
- 定款認証手数料
- 30,000円~50,000円で、設立時資本金の額によって異なります。合同会社等、持分会社の場合は不要です。
- 謄本手数料
- 登記の際に必要になる定款の謄本を作成する上でかかる費用です。合計で2,000円程度となります。
- 登録免許税
- 登記申請時に発生する手数料のようなものです。
- 株式会社の場合は、資本金の金額×0.7%または150,000円のうちいずれか大きい金額、合同会社の場合は資本金の金額×0.7%または60,000円のいずれか大きい金額となります。
株式会社の場合、法定費用だけでも最低20万円程度とかなりの支出を伴います。
赤字でも発生する税金がある
法人にかかる税金のうち、法人住民税の均等割は赤字でも納付義務があります。
法人住民税は法人税割と均等割の2つから構成されており、赤字の場合は法人税額を基準に算出される法人割は発生しません。
一方で均等割は会社の資本金や従業員数といった規模を基に算出される部分であり、所得の有無や大小を問わず納付義務があります。
均等割は都道府県民税と市町村民税から構成されており、最低でも合計7万円と決して低くない金額です。
所得額によっては法人税の方が高額なケースがある
個人に対して課される所得税は、所得が一定を超えた部分に高い税率が適用される超過累進課税の仕組みを採用しています。
一方、法人税は所得額に関係なく一定の税率です。
そのため、事業による所得が大きくなると、所得税よりも法人税の方が低い税率となり税額を抑えられます。
言い換えると、所得額が低い場合は所得税の方が低い税率になるのです。
このように、所得額によっては法人税の方が高額になり税負担が重くなる恐れがあります。
節税を目的とするのであれば、法人になった方が税負担を抑えられるのが確定したタイミングで法人化をしましょう。
まとめ
個人事業主の法人化には、節税という観点だけでもかなり多くのメリットがあります。
法人化が節税につながる理由として、法人の方が経費にできる範囲が広い・様々な制度を活用できる等が挙げられます。
適切なタイミングで法人化を実現できれば、個人事業主のままでいるよりも税負担を抑えられるでしょう。
ただし、法人化には会社設立コストをはじめとした注意点も存在します。
所得額によっては、法人税よりも所得税の方が金額を抑えられる可能性もあります。
自身の事業の状況が節税をはじめとしたメリットを享受できるかどうかをしっかり確認した上で法人化を検討しましょう。
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記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士