持株会制度は節税に効果的?仕組みとメリット、注意点について解説!

2024.02.21

持株会制度は、自社の株式を購入・保有できる制度です。

持株会には様々な種類がありますが、単に持株会と呼ぶ場合は従業員を対象とする従業員持株会を指すケースが多くみられます。

加入者は持株会を通じて自社株を購入し、間接保有する仕組みです。

 

持株会は経営者・従業員ともに様々なメリットがあります。中でも大きなメリットとして、相続税の節税につながる点が挙げられます。

一方、会社への依存度が高くなる点や、株の買取時にトラブルが起こる恐れがある点に注意が必要です。

 

今回は持株会制度について詳しく解説します。

 

一般的な株取引における節税対策については以下の記事で詳しく解説しています。ぜひこちらもご覧ください。

 

 

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CONTENTS

持株会制度の概要

はじめに、持株会制度の概要を解説します。

持株会制度とは

持株会制度とは、自社の株式を購入・保有できる制度です。同制度を運営する常設機関を持株会と呼びます。

持株会には様々な種類がありますが、単に持株会と呼ぶ場合は従業員を対象とする制度を指すケースが多いです。

持株会を設置している会社であっても、加入するか否かは従業員が自由に判断できます。

以降は特別な記載がない限り、従業員を対象とする持株会を前提に解説します。

持株会制度の仕組み

持株会制度では、加入者から募った出資金を自社株の取得原資に充てます。

出資金を集める方法として、従業員に支払う給与等から一定額の掛金を天引きするのが一般的です。

会員である従業員は、持株会を経由して自社株を購入するイメージです。

各々の出資割合に応じて持分を保有し、持分に応じて配当金を受け取れるようになります。

 

また、多くの企業では奨励金制度を導入しています。

持株会における奨励金とは、従業員が拠出する掛金に会社が一定額を上乗せする仕組みです。

掛金と奨励金を合算した金額が出資金として扱われるため、拠出分よりも自社株を多く購入できます。

 

なお、持株会は民法667条に規定される民法上の組合として扱われます。

組合に法人格はないため、持株会は法人税の対象にもなりません。

また、従業員が受け取る配当金は個人の配当所得として扱われ、所得税の対象になります。

持株会に帰属する株式は、会員である従業員が間接保有した状態です。

持分を有しているとはいえ、株式を自由に扱えるわけではありません。詳しくは後述します。

持株会の種類

持株会の種類は、企業の上場状況や加入者の条件に応じて4つに分類できます。
それぞれの持株会の特徴は以下の通りです。

従業員持株会

従業員持株会は、上場企業で働く従業員が資金を出し合い、自社株を協同で購入することを目的として運営される組織のことです。

企業側は、奨励金の支給など様々な支援を行うことで、従業員の資産形成をバックアップします。従業員持株会は複数の従業員によって構成される民法上の組合であるため、経営陣に当たる役員は加入することができません。

拡大従業員持株会

拡大従業員持株会は、非上場企業に勤める従業員が上場している親会社等の株式を購入することを目的に運営される組織です。
基本的なしくみは従業員持株会とほぼ同じで、加入者が非上場企業の従業員であるという点だけが異なります。
非上場の複数企業の従業員が集まり、「グループ従業員持株会」を設立するケースもあります。

役員持株会

役員持株会は、企業の役員(子会社の役員も含む)が自社株の取得を目的として運営される組織です。
従業員持株会とは違い、奨励金の支給など金銭的な支援は認められていません。
また、役員持株会は従業員持株会とは別の組織として設立・運営されるのが一般的です。

取引先持株会

取引先持株会は、企業の取引先が自社株を購入することを目的に運営される組織です。
取引先が自社株を保有することにより、取引関係の強化や株価の安定などの効果が期待できます。
取引先持株会の会員は、法人でも個人でも構いません。
役員持株会と同様に、奨励金の支給など金銭的な支援は認められていません。

持株会制度のメリット

持株会制度のメリットについて、経営者側・加入者である従業員側それぞれ紹介します。

経営者側のメリット5つ

経営者側の主なメリットとして5つ紹介します。

相続税の節税につながる

経営者にとっての最も大きなメリットは、相続税の節税につながる点です。

原則として、個人へ株式を譲渡する場合は時価に近い評価額を用いる必要があります。

株式の評価方法に関するルールは相続と贈与によって違いがありますが、会社の財務状態や経営成績等を用いて計算します。

ケースによるため一概にはいえませんが、後継者の税負担が大きくなってしまうケースは珍しくありません。

 

一方、持株会に株式を譲渡する場合、株式の評価額は配当還元方式で計算した価額となります。

配当還元方式とは、保有株式に応じて受け取る年間の配当金を10%で還元し、元本の株式価額を評価する方法です。

配当還元方式で計算した評価額は通常の評価方法よりも低くなりやすいため、相続税の対象となる相続財産の額を抑えられます。

また、第三者割当増資の場合、オーナーの持株数および純資産は変わらないものの持株割合が下がる仕組みです。

結果として1株あたりの資産額が減少するため、相続財産の額も圧縮されます。

 

なお、相続税の計算における株式の評価方法には非常に複雑なルールが設定されており、専門知識のない人のみで行うのは容易ではありません。

効果的な節税対策を行うためにも、相続税に関する正確な知識や深い理解が必要です。

制度を活用した節税対策および相続税の計算・申告を正しく行うためには、税務の専門家である税理士へ相談するのが良いでしょう。

構成員の退職や相続による株式の分散が起こらない

持株会の会員である従業員は、持株会を通じて自社株を間接保有している状態です。

しかし、購入した自社株を自由に扱えるわけではありません。自社株の扱いについては規約に従う必要があります。

そのため、規約の中で以下のようなルールを作成すれば、構成員の退職や相続による株式の分散が起きずに済みます。

  • ・持株会からの自社株の持ち出しを禁止する
  • ・退職する場合は自社株を持株会へ譲渡する

規約の適切な整備は、後述するトラブルを防ぐためにも欠かせません。

なお自社株を安く買い戻せるよう、持株会が自社株を買い取る際の評価方法について配当還元方式と定めるのがおすすめです。

従業員のモチベーションアップが期待できる

持株会に加入すれば、従業員は自社株を安く購入できます。また、配当金やキャピタルゲインの獲得も可能です。

このように従業員にとっても大きなメリットが存在するため、制度を通じて従業員のモチベーションアップも期待できます。

生産性の向上や離職率の低下、さらには採用力の強化にもつながるでしょう。

福利厚生の充実につながる

奨励金の支給など様々な支援を行い、従業員の中長期的な資産形成をバックアップする持株会は、企業が自主的に導入している法定外の福利厚生として位置づけられています。
福利厚生が充実していることは、対外的な評価や従業員の満足度の向上にもつながります。

多くの企業で持株会制度が導入されているのはこのためです。

安定した企業経営に寄与する

企業にとって従業員持株会は、自社株を長期的に保有する安定株主となります。

自社株の外部流出を防ぐことで、第三者である一般株主による敵対的買収を防止する効果も期待できます。 

多くの従業員が持株会に加入することは、安定的な企業経営の実現につながるのです。

従業員側のメリット5つ

従業員側のメリットを5つ紹介します。

中長期的な資産形成を促進できる

毎月一定の金額が積み立てられ、奨励金のおかげで多くの株式の取得が可能となります。

企業の業績次第では配当金の増額も見込めるため、手間をかけずに資産形成を行うことができます。

少額で株を購入できる

上場企業の株取引は100株単位(1単元)と定められています。

そのため、通常の方法で株を購入するためにはまとまった資金が必要です。

一方、持株会制度に加入すれば毎月一定の掛金を拠出することで自社株を購入できます。

小額でも株を購入できる点は、従業員にとっての大きなメリットといえるでしょう。

配当金やキャピタルゲインを得られる

持株会を通じて株を購入すれば、株式数に応じて配当金やキャピタルゲインを得られます。

持株会に長く加入し株の購入を続けるほど保有株式数も増えていき、配当金等も高額になっていきます。

会社から奨励金が支給される

従業員持株会を導入している企業の多くは、会員となっている従業員に奨励金を支給しています。自社株を購入する際、会社が購入金額の一定割合を上乗せしてくれるため、自己負担額よりも多くの株式を取得することが可能です。

給与天引きによって自社株式を購入できる

従業員持株会に一度加入すれば、給与天引きにより自動的に自社株式を購入できます。

自分で買い時を判断する必要がなく手間もかからないため、多忙な人や時間のない人でも資産形成に取り組みやすいと言えるでしょう。

さらに、購入タイミングを分散させることで高値での購入を避ける効果も期待できます。

持株会制度のデメリットと注意点

持株会制度のデメリットや注意点について、経営者側・加入者である従業員側それぞれ紹介します。

経営者側のデメリット3つ

経営者側の主なデメリットとして3つ紹介します。

実体のない持株会は否認されるリスクがある

持株会制度を相続税の節税対策に活用できるのは事実です。

しかし、節税対策のみを目的に実体のない持株会制度を設けてしまうと、対象の持株会について否認される恐れがあります。

実態がないとして否認されてしまえば、配当還元方式を活用した相続税の節税対策ができません。

 

相続税の節税対策は、持株会制度を適切に運用した際の副産物ととらえるべきです。

従業員が自由に加入できる状態にする・配当を出す・規定を整える等、会社の機関としてしっかり運営しましょう。

配当を出し続ける必要がある

持株会を導入する企業は、継続的な配当の実施が求められます。

安定的な配当が行われないと、従業員が会社の経営状況に不安を抱き、持株会の魅力が低下する可能性があります。これは従業員の仕事へのモチベーション低下にもつながりかねません。

しかし、企業経営に支障をきたすほどの無理な配当は避けるべきです。経営状況によっては、配当や奨励金の減額・停止を検討する必要もあるでしょう。持株会運営と企業の健全性のバランスを取ることが重要です。

買取時にトラブルが起こる恐れがある

持株会の会員である従業員が退職する場合、退職者の保有する自社株は会社が買い取るのが一般的です。

そして、株式をいくらで買い取るかについて従業員とトラブルになる恐れがあります。

自社株の買い取りがスムーズに進まない・購入価額が高くなってしまうといった事態のほか、退職する従業員との関係が悪化するケースも有り得ます。

 

自社株買取時のトラブルを防ぐためには、規約の中で買い取り価格について明記が必要です。

従業員側のデメリット6つ

従業員側のデメリットを6つ紹介します。

元本保証されない

従業員持株会で購入する自社株式には元本保証がありません。通常の株式投資と同様、株価変動のリスクが存在します。

株価上昇時は利益を得られますが、下落時は損失が生じる可能性があります。自社株投資でも価格変動による損失リスクが常に伴うことを認識しておきましょう。

任意のタイミングで株購入できない

持株会を通じての自社株購入は定期的に行われるため、自分の好きなタイミングでの購入はできません。

通常の株式投資では、株価の変動を見ながら適切なタイミングで売買し、キャピタルゲインを狙うことができます。しかし、持株会では購入タイミングを自由に選べないため、狙った通りのキャピタルゲインを得にくい点がデメリットといえます。

ただし、長期的に保有し株価が順調に上昇すれば、売却時にキャピタルゲインを得られる可能性もあります。このような制約があることを理解した上で、持株会への参加を検討しましょう。

会社への依存度が高くなる

持株会制度を導入すると、会員である従業員が会社に依存してしまう恐れがあります。

自社株の価格は一般的に会社の業績に連動する仕組みであり、会社の業績が落ちれば株価も下落する恐れがあります。

会社の業績が下落し自社株の価値が下がれば、持株会の会員である従業員の保有資産も目減りしてしまいます。

持株会加入者の保有資産は、会社による影響を直接的に受けるのです。

一般的に、従業員の主な収入源は会社から支給される給与や賞与であるため、持株会に加入することで収入と資産の両方について同じ会社に依存する状態になってしまいます。

売却に時間がかかる

持株会の株式売却は、通常の株式投資と比べて時間がかかります。

一般的な株式投資では証券会社で売却注文を出せば数日で現金化できますが、持株会の株式は事務局への連絡や手続きが必要なため、現金化までに時間を要します。

株主優待がない

多くの企業が株主に対して様々な優待を実施していますが、従業員持株会では株主優待を受けられません。

これは、自社株の買付けが従業員個人の証券口座ではなく持株会という団体の口座で一括管理されているためです。この点は持株会参加の前に認識しておきましょう。

インサイダー取引対象となるリスクがある

従業員持株会を通じた定時定額の株式購入(1回あたり100万円未満)は、通常インサイダー取引規制の適用除外です。

しかし、重要情報を得た上での株式買い増しや新規の持株会加入などは、インサイダー取引の対象となる可能性があります。

このため、従業員は自社の重要情報を知り得る立場にあることを常に意識し、株式取引に関しては慎重な判断が求められます。持株会参加の際は、このリスクを十分に理解し適切に対応することが重要です。

持株会にかかる税金と確定申告の要否

持株会で購入した株式から利益を得た場合、その利益に対する税金は従業員が負担します。

従業員持株会では「奨励金」「配当金」「譲渡益」という3種類の課税対象項目があり、税法上のルールがそれぞれ異なります。これらの課税関係を正しく理解することは、持株会参加者にとって重要です。

ここでは、従業員持株会に関連する課税の仕組みや、確定申告が必要となるケースなどについて解説します。

奨励金(給与所得)

企業から従業員に支払われる奨励金は、税務上「給与所得」に区分され、課税の対象となります。月々支給される奨励金は毎月の給料に合算され、年に一度支給される奨励金については賞与に上乗せした上で、税金が源泉徴収されることになります。
奨励金に関しては、年末調整の手続きによって税務処理が完了するため、通常は確定申告を行う必要はありません。

配当金(配当所得)

従業員持株会を通じて獲得した自社株式は、理事長の名義で管理されています。そのため、配当金は一括して理事長宛てに送金されます。

しかし、実質的には各会員の株式所有割合に基づいて分配されるため、個々の会員に対する「配当所得」として税金が課されます。

 

上場企業の株式配当に関しては、支払い時に20.315%(内訳:所得税と復興特別所得税が15.315%、住民税が5%)の税金が自動的に差し引かれます。そのため、通常は確定申告を行う必要はありません。ただし、確定申告を選択し、配当控除を活用することも可能です。

 

課税対象となる所得金額が6,949,000円以下の場合、つまり税率20%のカテゴリーまでであれば、配当所得にかかる源泉徴収率「20.315%」より低い税率が適用されます。そのため、確定申告を行うことで税金面で有利になる可能性があります。結果として、確定申告を通じて、配当所得に関して過剰に徴収された所得税の払い戻しを受けられる可能性があります。

譲渡益(譲渡所得)

従業員持株会で取得した自社株式を売却し、譲渡益が生じた場合は「譲渡所得(申告分離課税)」として課税されます。上場株式等の譲渡所得には20.315%(所得税および復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税金がかかります。

持株会から個人の「特定口座(源泉徴収あり)」に引き出して売却すると、所得税や住民税は源泉徴収されるため、確定申告は不要となります。

持株会から自社株を個人の証券口座に移すだけでは課税発生しません。


もし株式の売却によって損失が出た場合、確定申告を行うことでその損失を最長3年間繰り越すことが可能であり、その期間内に生じた上場株式等の譲渡益や配当収入から差し引くことができます。

まとめ

持株会制度は、従業員の資産形成と企業の安定経営を両立させる仕組みです。

従業員にとっては、少額から自社株を購入でき、奨励金や配当金を受け取れるメリットがあります。一方で、企業は安定株主を確保し、従業員のモチベーション向上や福利厚生の充実を図れます。

しかし、リスクの集中や株価下落時の損失、売却の制限など、デメリットも存在します。また、税務面では奨励金、配当金、譲渡益に対してそれぞれ異なる課税がされるため、注意が必要です。

 

持株会への参加を検討する際は、メリットとデメリットを十分に理解し、自身の資産運用方針に合うかどうかを慎重に判断することが大切です。企業側も制度の適切な運用と透明性の確保に努めることで、持株会制度の効果を最大限に引き出すことができるでしょう。

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吉岡 伸晃

記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士

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