発行可能株式総数とは、会社設立時に決めるべき事項の1つです。
法人の登記事項でもあるため、一度決めた内容を変更する場合は変更登記を行う必要があります。
発行可能株式総数の決め方にはいくつかのルールが存在するため、会社設立前に十分理解を深める必要があります。
また、変更登記を最小限に抑えるため、なるべく変更の必要性が生じない内容を設定するのが理想です。
今回は発行可能株式総数をはじめ、株式発行について会社設立時に知っておくべきルールを詳しく解説します。
定款の記載事項については以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひこちらもご覧ください。
オンライン無料相談 受付中
CONTENTS
会社設立 発行可能株式総数とは
はじめに、会社設立時に決めるべき発行可能株式総数について概要を解説します。
発行可能株式総数の意味
発行可能株式総数とは、株主総会の決議なく発行できる株式の総数・上限です。
株式会社の設立までに決めて定款に明記する必要があります。
発行可能株式総数は法人の登記事項の1つです。
そのため、会社設立時に決めた発行可能株式総数を変更する場合は法務局で変更登記を行う必要があります。
発行可能株式総数を定款に記載する理由
定款に記載する理由は、大きく2つです。
1つ目は、資金調達の機動性を確保するためです。
株式会社の主な資金調達手段は株式発行ですが、株式を発行すると既存株主の持株比率が変わってしまう可能性があります。
持株比率の変化は会社に大きな影響を与える恐れがあるため、株式発行は慎重に行う必要があります。
最も理想的なのは、会社の最高意思決定機関である株主総会で決定することです。
しかし、株主総会の開催には時間がかかるため、株式発行のために株主総会を行う場合株式発行の目的である資金調達も遅くなります。
スピーディーな資金調達ができず、結果として経営に悪影響を及ぼす恐れがあります。
株式発行の権限を取締役会に与えスムーズな資金調達を実現するために、発行可能株式総数を定める必要があります。
2つ目は、権限の乱用を防ぐためです。
発行できる株式数に定めがなければ、取締役が好き勝手に株式を発行できるようになってしまいます。
際限なく株式発行が可能な状態では、前述した内容と同じく既存株主の持株比率が変化する恐れが大きいです。
したがって権限乱用を防ぐためにも、上限の決定は必要不可欠となります。
株式の譲渡制限とは
発行可能株式総数に関するルールは、株式の譲渡制限の有無によって異なります。
株式の譲渡制限とは、株式会社において株式の譲渡を自由にできないというルールです。
株式の譲渡制限を定める場合、定款に「株式を譲渡によって取得するには株主総会の承認を受ける必要がある」旨を記載する必要があります。
株式の譲渡制限を設けるか否かは、会社設立の前に決めるべき事項の1つです。
株式の譲渡制限を設けるメリットとして、以下の3つが挙げられます。
相続時に株式が分散し、会社に不都合な人へ株式がわたるのを防げる
株式は相続財産の1つです。
株式の譲渡制限がなければ、相続の発生によって自動的に相続人へ株式がわたってしまいます。
相続人が会社にとって不都合な人物であった場合、会社経営に悪影響を及ぼす恐れがあります。
株式の譲渡制限があれば株式の譲渡による取得には株主総会による決議が必要なため、このような事態を防げます。
取締役会の設置義務がない
株式の譲渡制限を設けない会社には、取締役会の設置が義務付けられています。
株式譲渡制限会社(非公開会社)であれば取締役会の設置が不要であるため、会社設立の手間を抑えられます。
取締役・会計参与・監査役の任期を10年まで延長できる
株式譲渡制限会社は、取締役・会計参与・監査役の任期を10年まで延長できます。
通常、役員の任期は2年(監査役のみ4年)であり、任期を延ばすには再任という形で変更登記を行う必要があります。
株式譲渡制限会社であれば任期を最長10年に設定できるため、変更登記は10年に1度で済みます。
会社設立時の株式発行に関するルール・ポイント
会社設立時の株式発行に関するルール・ポイントを紹介します。
発行可能株式総数の上限
前項で、発行可能株式総数に関するルールは株式の譲渡制限の有無によって異なると紹介しました。
両者の大きな違いは、設定できる数に上限があるか否かです。
非公開会社(株式譲渡制限会社)には上限がありません。好きな数を設定できます。
前章で株式の譲渡制限を設けるメリットを3つ紹介しましたが、上限がない点もメリットといえるでしょう。
一方、公開会社(株式の譲渡制限がない会社)の場合、発行可能株式総数として設定できる数は発行済株式総数の4倍までです。
たとえば設立時の発行株式数が100の場合、上限は400となります。
【非公開会社】発行可能株式総数の決め方
発行可能株式総数をどのように決めれば良いか、考え方の例を紹介します。
まずは非公開会社のケースです。
前項で紹介したように、非公開会社には発行可能株式総数の上限がないため自由に設定できます。
発行済株式総数の1つの目安は、発行済株式総数の10倍程度です。
キリが良くわかりやすい考え方で、尚且つ将来的に発行できる株式数にも余裕があります。
上限はないためこだわる必要はなく、より大きな数にもできます。
増資の可能性がなく今後株式の新規発行を一切行わない場合、発行済株式総数と同じにしても問題ありません。
ただし、新たに株式を発行するためには、以下のような手続きが発生します。
- ・株主総会の決議
- ・定款の変更手続き
- ・法務局での変更登記
発行可能株式総数に余裕があれば上記のような変更手続きが発生する可能性が低くなり、コストや手間を抑えられるでしょう。
したがって、発行可能株式総数は発行済株式総数と同じにせず、余裕を持たせるのが安心といえます。
【公開会社】発行可能株式総数の決め方
続いて、公開会社における決め方の例です。
前述のように、公開会社の場合、発行可能株式総数として設定できる数は発行済株式総数の4倍です。
そのため、株式をどれだけ発行するかによって発行可能株式総数として設定できる数が変わります。
公開会社における考え方・決め方として、1つの例を紹介します。
- 1.発行する株式の1株当たりの金額を決める
- 特別な規定はないため、自由に設定できます。
- 2.資本金を1株当たりの単価で割り、発行する株式の数を算出する
- 資本金200万、1株2万円の場合、設立時の発行済株式総数は100株です。
- 3.設立時の発行済株式総数を4倍する
- 今回の場合、発行済株式総数100株×4倍=400株 が上限となります。
発行済株式総数の4倍はあくまで上限であり、それより少ない数でも問題ありません。
ただし、既に紹介したように発行可能株式総数の変更には様々な手続きが必要となり手間がかかります。
変更手続きの必要性をなるべく少なくするために、上限ギリギリの数に設定することをおすすめします。
1株あたりの価額の決め方
1株あたりの価額の決め方にルールはありません。好きな額に設定できます。
なお、1株あたりの株価を5万円に設定している会社が多くみられます。
1株あたり5万円という金額設定が多いのは、旧商法に「設立時の額面株式は1株5万円以上」という規定があったためです。
旧商法の時代に設立された会社の場合、設立当時のルールをそのまま適用して1株5万円のままにしている場合が多いです。
現行制度では、前述のように1株あたりの価額を自由に設定できます。
ただし旧商法のイメージが残っているためか、現在も1株5万円に設定するケースが珍しくありません。
もしくはキリの良い価額として、1株1万円に設定するケースも多くみられます。
1株当たりの金額を高く設定するメリットとして、1株で多くの資金を調達できる点が挙げられます。
ただし出資のハードルが上がるため、かえって資金調達がしにくくなる恐れがあります。
一方、1株当たりの金額が低ければ出資しやすい分、他者に議決権・経営権を握られる恐れもあります。
1株あたりの価額は、高すぎ・安すぎどちらも好ましいとはいえず、バランスの良さが大切といえます。
1株当たりの価額の設定にお悩みであれば、専門家に相談するのも1つの手段です。
まとめ
発行可能株式総数は、会社設立時に決めるべき事項の1つであり法人の登記事項でもあります。
発行可能株式総数を変更するためには、株主総会による決議・定款の変更・法務局での変更登記が必要です。
必要な作業が非常に多く手間とコストが大きいため、変更手続きを必要とする場面が起こらないのが理想といえます。
したがって、発行可能株式総数は余裕を持たせてなるべく多く設定するのがおすすめです。
発行可能株式総数に関するルールは、株式の譲渡制限の有無によって異なります。
自身が設立する会社がどちらに該当するかを判断した上で、正しいルールに基づいて発行可能株式総数を設定しましょう。
スタートアップ支援に強い税理士によるオンライン無料相談受付中
各士業と連携したワンストップの会社設立はBIZARQ会計事務所にお任せください。
現在30分から1時間程度のオンライン無料相談を実施中です。
記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士