インボイス制度によって個人事業主とフリーランスはどうなる?注意点を解説!

2023.11.08

2023年10月1日に開始されたインボイス制度は、消費税の仕入税額控除の仕組みを大きく変える制度です。

消費税に関する制度ではありますが、消費税の課税事業者だけでなく免税事業者にも影響を与えます。

 

消費税は一定の要件を満たすことで納付義務の免除を受けられます。

個人事業主やフリーランスは、消費税の免税事業者の要件を満たすケースが多いです。

しかしインボイス制度が始まった現在、消費税の免税事業者のままで居続けると様々なリスクが発生する可能性があります。

 

今回はインボイス制度が個人事業主やフリーランスに与える影響について解説します。

 

消費税の免税要件については以下の記事でも詳しく解説していますので、ぜひこちらもご覧ください。

 

 

CONTENTS

個人事業主・フリーランスへの影響の前に|インボイス制度とは

インボイス制度が個人事業主やフリーランスに与える影響について見る前に、まずはインボイス制度の概要を解説します。

インボイス制度の概要

インボイス制度は、消費税の仕入税額控除に関する制度です。

 

仕入税額控除とは、売上に係る消費税額から仕入れに係る消費税額を引いて納付税額を計算する仕組みを意味します。

インボイス制度の開始前は、消費税の課税対象となる仕入等はすべて仕入税額控除の対象でした。

しかし、インボイス制度によって、仕入税額控除の計算に含めることができるのは適格請求書等(インボイス)を保存している取引のみとなりました。

つまり。インボイス制度の開始によって、仕入税額控除の対象になる取引の範囲が狭くなったのです。

インボイスを発行できるのは消費税の課税事業者のみ

前提として、消費税は基準期間の課税売上高が1,000万円以下であれば納付義務が免除されます。

消費税における基準期間とは、その年の前々事業年度です。個人事業主・フリーランスの場合は2年前が該当します。

個人事業主やフリーランスは法人に比べて売上規模が小さく課税売上高が1,000万円を超えるケースは少ないため、免税事業者が多くみられます。

 

インボイスを発行するためには、適格請求書発行事業者への登録が必要ですが、登録ができるのは消費税の課税事業者のみです。

免税事業者は適格請求書発行事業者の登録ができないため、インボイスの発行もできません。

インボイス制度によって個人事業主・フリーランスが受ける影響

インボイス制度によって個人事業主・フリーランスが受ける影響として、考えられるものを4つ紹介します。

【免税事業者の場合】新規の案件・取引の獲得がしにくくなる

免税事業者のままでいると、新規の案件や取引の獲得がしにくくなる恐れがあります。

 

前章で紹介したように、インボイス制度の開始によって仕入税額控除の対象になるのがインボイスを保存している取引のみになりました。

インボイスを保存していない取引に係る消費税は仕入税額控除ができないため、買い手である事業者が負担することになります。

 

免税事業者は適格請求書発行事業者の登録ができないため、インボイスの発行も不可能です。

免税事業者との取引が仕入税額控除の対象外である以上、買い手事業者は適格請求書発行事業者との取引を優先するになるでしょう。

結果として、免税事業者の個人事業主やフリーランスは、新規の案件や取引の獲得で不利になる可能性があります。

【免税事業者の場合】消費税分の値下げを要求される

買い手側から消費税分の値下げを要求される可能性も高いと考えられます。

 

消費税の免税事業者であっても、本体価格に消費税を上乗せした金額を請求することに問題はありません。

実際、免税事業者も消費税を上乗せした額を請求するケースがほとんどです。

 

インボイス制度の開始前はすべての取引が仕入税額控除の対象であったため、消費税を上乗せした額を請求されても特に負担となりませんでした。

しかしインボイス制度の開始後は、免税事業者との取引にかかる消費税は仕入税額控除の計算に含めることができません。

つまり、免税事業者から消費税を上乗せした額を請求された場合、事業者は消費税の分負担が大きくなるのです。

 

以上の理由から、これまで消費税を上乗せした額を請求していた個人事業主やフリーランスは、買い手側から値下げを要求される可能性があります。

【免税事業者の場合】既存取引の解消や条件変更の交渉を受ける

免税事業者のままでいると、既存取引の解消や値下げ・取引数の削減といった条件変更の交渉を受ける恐れもあります。

 

前提として、買い手側が一方的に現在契約している取引の内容を変更する・取引停止をするのは違法です。

また、取引内容について交渉した結果が好ましくない場合に、それを理由とした取引削減等を行うことも認められていません。違法な制裁行為とみなされます。

そのため、既存取引の買い手側から一方的な契約解消を受ける恐れはないでしょう。

万が一違法行為に該当する対応をされた場合、公正取引委員会や弁護士等の各種窓口に相談する必要があります。

 

ただし、一方的に取引停止される心配がないとはいえ、既存取引の解消や条件変更の交渉を受ける可能性があります。

交渉の手間が発生するのはもちろん、交渉を受けること自体が心理的な負担になってしまうかもしれません。

【課税事業者の場合】消費税納付の負担が生じる

消費税の課税事業者になれば適格請求書発行事業者の登録ができるため、インボイスを発行できます。

ただし、課税事業者になると消費税納付の負担が生じます。

インボイスを発行できるようになり取引数や内容が安定するメリットよりも、消費税による負担の方が大きいケースも考えられます。

個人事業主・フリーランス インボイス制度に関する注意点

インボイス制度について、個人事業主やフリーランスが押さえるべき注意点を紹介します。

課税事業者になるべきか慎重に検討する

インボイス制度が開始されたからといって、必ずしも消費税の課税事業者になったり、適格請求書発行事業者になるべきとは限りません。

本当に課税事業者になる必要があるかどうかは慎重に検討する必要があります。

 

まず、取引先(買い手)が以下の場合はインボイスによる影響を受けにくいです。

  • ・一般消費者
  • ・免税事業者
  • ・簡易課税選択事業者

主要な取引相手が上記に該当する場合、インボイスを発行する必要性は低いといえます。

 

また、インボイスを発行するために課税事業者になれば消費税の納付義務が生じます。

消費税の負担は決して小さくありません。前項でも述べたように、インボイスを発行できるメリットよりも、課税事業者になったことで増大する負担の方が大きいケースもありえます。

 

インボイス制度による影響や消費税の負担等を考慮し、課税事業者になるべきか慎重に検討しましょう。

自身だけで判断しようとせず、専門家である税理士に相談するのがおすすめです。

【適格請求書発行事業者になる場合】必要な手続きを漏れなく行う

適格請求書発行事業者になる場合、手続きを漏れなく行う必要があります。

 

免税事業者が適格請求書発行事業者になるためにやるべき手続きとして、適格請求書発行事業者の登録申請書の提出が挙げられます。

原則として、免税事業者が消費税の課税事業者になるためには所定の届出が必要です。

ただし2023年10月1日から2029年9月30日までの日が属する課税期間中であれば、届出書の提出は免除されます。

適格請求書発行事業に登録希望日を記載すれば、記載した登録希望日から消費税の課税事業者になったとみなされるためです。

 

また、消費税の計算方法には原則課税と簡易課税の2種類があります。

簡易課税とは、売上げに係る消費税額にみなし仕入率を乗じた額を仕入れに係る消費税額とみなす制度です。

簡易課税は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者が選択できます。

つまり、消費税の免税要件を満たす個人事業主・フリーランスは、同時に簡易課税の要件を満たしているのです。

 

原則課税と簡易課税のどちらで計算するかによって消費税の納付税額が変わります。

簡易課税の方が有利なケースも多いため、簡易課税・原則課税どちらを選ぶか検討しましょう。

簡易課税を選択する場合、消費税簡易課税制度選択届出書を提出する必要があります。

まとめ

インボイス制度は、消費税の課税事業者だけでなく免税事業者にも大きな影響を与える恐れのある制度です。

 

個人事業主やフリーランスは売上規模が比較的小さく、消費税の免税要件を満たすケースが多くみられますが、免税事業者のままでいると取引獲得で不利になったり値下げ交渉を受ける可能性があります。

その一方で、インボイスを発行するために課税事業者になると消費税納付の負担が生じます。

免税事業者のままでいる、課税事業者になる、どちらを選んでもインボイス制度による影響を避けるのは難しいでしょう。

いずれにせよ、どのような方法をとるべきか検討する必要があります。

 

免税事業者のままでいるか課税事業者になるかの判断に悩んでいる・インボイス制度について疑問や不安がある方は、是非専門家である税理士へご相談ください。


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吉岡 伸晃

記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士

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