繰り上げ返済とは、返済計画表に記載された返済期日よりも前に借入金の返済を行うことです。
繰り上げ返済には、返済総額を抑えられる・完済までの期間が短くなるといったメリットがあります。
しかし、すべての金融機関が繰り上げ返済を認めているわけではありません。
繰り上げ返済が可能な場合でも、無視できないデメリットが存在します。
創業融資の繰り上げ返済をしたいと考える場合、まずは繰り上げ返済の可否を確認し、メリット・デメリットを比較した上で実施するかの判断が必要です。
今回は創業融資の繰り上げ返済について詳しく解説します。
創業融資の返済期間の決め方については以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひこちらもご覧ください。
CONTENTS
創業融資の繰り上げ返済の可否
結論として、創業融資の繰り上げ返済の可否は機関によって異なります。
この章では、機関別に創業融資の繰り上げ返済の可否を紹介します。
日本政策金融公庫の制度の場合
日本政策金融公庫の融資制度は、原則として繰り上げ返済が可能です。
そもそも日本政策金融公庫は、一般の金融機関が行う金融の補完を目的に運営しています。
「株式会社日本政策金融公庫」という名前ではありますが、政府系金融機関であり、一般的な株式会社とは違って利益の追求を第一としていません。
細かなルールや厳しい面も存在しますが、基本的には利用者の状況や要望に合わせて柔軟な対応を行います。
繰り上げ返済が可能であるのも、利用者の要望に応えるためといえます。
また、後述する民間金融機関のように、繰り上げ返済によるペナルティもありません。
ただし、返済計画表と異なるスケジュールで返済を行うためには、公庫の担当者に相談し承認を受ける必要があります。
申込者が好きなタイミングで自由に繰り上げ返済ができるわけではない点にご注意ください。
民間金融機関の制度の場合
前提として、銀行のような民間金融機関の創業融資を受けることは難しいです。
民間金融機関の多くは、融資審査の際に過去の事業実績や現在の財務状況といった情報を用います。
創業直後ではこれらの情報がないため、民間金融機関の融資に申し込めるケースがほとんどありません。
そのため、民間金融機関における繰り上げ返済の可否は、創業融資に限らず融資制度全般について解説します。
民間金融機関の場合、融資の繰り上げ返済は難しいケースが多いです。
民間金融機関の主な収入源は、融資利用者から徴収する利息です。
繰り上げ返済されると、当初の計画よりも借入残高の減りが早くなります。
結果として受け取れる利息の総額が減ってしまうため、繰り上げ返済を認めていないケースが多くみられます。
繰り上げ返済が可能な場合でも、手数料が発生したり、返済後しばらくは追加融資を受けられないといった可能性があります。
民間金融機関において、繰り上げ返済はペナルティ対象になる行為といえます。
創業融資で繰り上げ返済を行うメリット
前章で紹介したように、民間金融機関の融資制度で繰り上げ返済を行うのは難しいのが現状です。
そのため、今回は日本政策金融公庫の制度に絞って、創業融資で繰り上げ返済を行うメリットを紹介します。
返済総額を抑えられる
繰り上げ返済を行う大きなメリットの1つが、返済総額を抑えられる点です。
日本政策金融公庫は、原則として元金均等返済を採用しています。
元金均等返済とは、元金部分の返済額が毎月一定で残高に応じた利息を合計した額を返済する方式です。
返済を開始したばかりの頃は利息額が高いため毎月の返済額が高く、返済が進み借入残高が減るにつれて毎月の返済額が安くなります。
繰り上げ返済は、返済計画表に記載された返済予定よりも元金を早く返済する行為です。
つまり、繰り上げ返済を行えば予定よりも元金の減りが早くなります。そして元金が減ればその分利息額が安くなります。
繰り上げ返済を行うと、借入金の額そのものは同じであっても利息額が大幅に減るために、返済総額を抑えられるのです。
完済までの期間が短くなる
これまで紹介したように、繰り上げ返済は予定よりも早く元金を返済する行為です。
前倒しで返済を進めるため、完済までの期間が短くなります。
前提として、融資は決してマイナスなものではなく、上手く活用すれば大きな恩恵を受けられる制度です。
そして事業規模を問わず、融資制度を利用する事業者は非常に多く存在します。
融資制度を利用している事実をマイナスにとらえる必要はありません。
たとえ借入残高が多くても、十分な利益が出ておりキャッシュフローに問題がなければ事業が好調といえるでしょう。
とはいえ、借入残高が多い状態にプレッシャーを感じる人も少なくありません。
なるべく早く借入金を完済して負債に対する懸念をなくしたいと考える人もいるでしょう。
融資の繰り上げ返済を行えば、完済までにかかる期間を短縮できます。
当初の予定よりも完済が早く済むことで、心理的な余裕が生まれるケースも有ります。
借入残高を早く減らしたい・債務の存在がストレスという人にとって、繰り上げ返済は非常に効果的な手段です。
創業融資で繰り上げ返済を行うデメリット・注意点
続いて、創業融資で繰り上げ返済を行うデメリット・注意点を2つ紹介します。
自由にできる現預金が減ってしまう
繰り上げ返済による大きなデメリットが、自由にできる現預金が減ってしまうことです。
融資の繰り上げ返済を行えば、返済計画表の通りに返済した場合よりも現預金の減りが早くなります。
そのため、当初の予定通りに返済を進めた場合よりも、キャッシュフロー悪化につながる恐れが大きいです。
繰り上げ返済をすれば利息が減り返済総額も抑えられるため、長期的にみればキャッシュに余裕が生まれます。
そのため、現預金に余裕がある状態であればなるべく繰り上げ返済を行った方が良いと考えるかもしれません。
しかし、事業活動ではいつ何が起きるかわかりません。
想定外の事態により、急に多額の支出を必要とする場面も起こり得ます。
そのような場面においてキャッシュが足りなければ、急いで資金調達をする・支払いを遅らせるといった対処が必要です。
いずれもリスクが高い上に大きな労力を要するため、常に現預金が十分な状態を保つのが理想といえます。
繰り上げ返済はキャッシュフロー悪化につながる恐れがあるため、よほど現預金に余裕がある場合以外は十分な検討が必要です。
担当者への連絡等手間がかかる
すでに紹介したように、繰り上げ返済を行うためには公庫の担当者から承認を受ける必要があります。
通常の返済であれば、毎月所定の日に返済額が自動で引き落とされます。
返済計画表の予定通りに返済するだけであれば、返済に際して特別な手続きは必要ないのです。
しかし、繰り上げ返済を行うためには担当者への連絡や指示通りの手続きが必要であり、通常の返済では発生し得ない手間がかかります。
繰り上げ返済によって将来的に節約できる利息と、繰り上げ返済のために要する手間を比較した時、後者の方が大きい可能性があります。
繰り上げ返済によって抑えられる利息額だけでなく、発生する手間というコストへの意識も必要です。
まとめ
創業融資の繰り上げ返済ができるか否かは、どこの創業融資を利用しているかによって異なります。
日本政策金融公庫の融資制度であれば、原則として繰り上げ返済が可能です。
一方、民間金融機関は繰り上げ返済が認められていないケースが多く、仮に繰り上げ返済をする場合はペナルティが課される恐れがあります。
繰り上げ返済を行うことで、返済総額を抑えられる・返済期間を短くできるといったメリットを得られます。
一方、自由にできる現預金が少なくなる・手間がかかる点に注意が必要です。
繰り上げ返済のメリット・デメリットそれぞれを十分に比較した上で、実施するか否か決めましょう。
経営判断を迅速にサポート
創業融資・補助金申請はBIZARQにお任せください。
全国オンライン対応・ご相談は無料です。
記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士