セールアンドリースバックとは、所有する資産をいったん売却した後、対象の資産についてリース契約を結んで利用を継続する方法です。
資金調達手段の1つとして注目を集めていますが、キャッシュを得られる以外にも様々なメリットがあります。
一方で無視できないデメリットも存在し、すべての企業にセールアンドリースバックが適しているとは限りません。
メリット・デメリットの両方を把握した上で、セールアンドリースバックを行うか検討する必要があります。
今回はセールアンドリースバックについて詳しく解説します。
なお、セールアンドリースバックは短期間で確実に資金調達できる方法ではありますが、必要な手続きが多く手間がかかる方法です。
スピーディーかつ手間を抑えた資金調達を希望する場合、ファクタリングという手段もあります。ファクタリングについては以下の記事をご覧ください。
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CONTENTS
セールアンドリースバックの概要
はじめにセールアンドリースバックの概要を解説します。
セールアンドリースバックとは
セールアンドリースバックは、所有する資産をいったん売却した後、対象の資産についてリース契約(賃貸借契約)を結んで利用を継続する方法です。
通常の資産売却では、売却後に伴い所有権と同時に資産を使用する権利を失います。
一方セールアンドリースバックの場合、売却後も賃料を払い続けることで対象の資産を使用できます。
セールアンドリースバックは不動産会社やリースバック業者が買主になるのが一般的です。
建物のような不動産のほか、事業用機械や車両、飛行機等の幅広い資産が対象になり得ます。
セールアンドリースバックを行う目的
セールアンドリースバックを行う目的として主に以下の3つが挙げられます。
資金調達
セールアンドリースバックでは資産の売却によりまとまった資金を得られます。
自由度の高い資金を短期間で確実に調達できる方法です。
資産の効率的な活用
近年はリモートワークやフレックス制の普及により、自社ビルや設備に余剰部分があるケースも増えています。
セールアンドリースバックで資産を売却後、必要な部分についてのみ賃貸借契約を結べば、余剰部分を保有し続けるという無駄をなくせます。
※ただし、必要な部分に限定した賃貸借契約を結べるかは業者との交渉次第のため一概にはいえません。
資産保有によるリスクや手間の抑制
セールアンドリースバックにより所有権は買主に移るため、資産の管理・修繕の手間やコストの負担が軽くなります。
セールアンドリースバックの会計処理
セールアンドリースバックの会計処理は、売却後のリース契約がファイナンスリース取引とオペレーティングリース取引のどちらに該当するかによって異なります。
※今回紹介するのはセールアンドリースバックで資産を売却する側の会計処理です。
ファイナンスリース取引
ファイナンスリース取引とは、以下2つの要件を満たすリース取引です。
- ・期間中にリース契約を解除できない、およびそれに準ずるリース取引
- ※「それに準ずる」の例として、期間中の解約には違約金がかかるケースが挙げられます
- ・借り手側がリース物件の取得価格および物件にかかる諸経費の概ね全額をリース料として払う(フルペイアウト)
借り手が支払うべき資産の購入費用を貸し手が立て替え、借り手は資産の購入費および利息相当分をリース料という形で返済するイメージです。ローンに近いイメージといえます。
賃貸借契約がファイナンスリース取引に該当する場合の仕訳を紹介します。
まずは資産売却時の仕訳です。
例:取得価格6,000万円、減価償却累計額4,500万円の不動産をセールアンドリースバックで売却し、売却価格2,500万円が振り込まれた
- 普通預金 25,000,000 / 建物 60,000,000
- 減価償却累計額 35,000,000
- 固定資産売却損 10,000,000
- 長期前払費用 10,000,000 / 固定資産売却損 10,000,000
売却損を長期前払費用として計上する点が特徴です。売却益が発生した場合は長期前受収益の計上となります。
続いてリース契約に関する仕訳を紹介します。
例:売却した資産のリースを開始した。リース料総額の割引現在価値は2,700万円、支払総額3,000万円、リース契約の期間は5年である。月のリース料50万円は前払いで、普通預金口座から引き落とされる。
- リース契約締結時
- リース資産 27,000,000 / リース債務 27,000,000
- 1回目のリース料支払い時
- リース債務 500,000 / 普通預金 500,000
2回目以降のリース料支払い時は1回目の仕訳に加え、支払額とリース債務の差額部分について支払利息の計上も必要です。
リース料の支払いが後払いの場合は1回目から支払利息を計上することになります。
元本部分をリース負債、差額部分を支払利息で計上するイメージです。支払回ごとのリース債務と利息の内訳は支払内訳書等の書類に記載されています。
オペレーティングリース取引
ファイナンスリース取引以外のリース取引はオペレーティングリース取引に該当します。
オペレーティングリース取引は単純な賃貸借契約であり、単に借りているだけの状態です。ファイナンスリース取引と違い、リース資産を計上する必要はありません。
資産売却時の仕訳は、通常の資産売却における仕訳と同じです。
前述したファイナンスリース取引に該当する場合の仕訳と違い、固定資産売却損を長期前払費用として計上する必要もありません。
続いてリース料支払い時の仕訳を紹介します。リース料を費用として計上するだけのシンプルな仕訳です。
例:毎月のリース料は30万円で普通預金から引き落とされる。
- リース料 300,000 / 普通預金 300,000
セールアンドリースバックのメリット
セールアンドリースバックのメリットを3つ紹介します。
短期間で確実に資金調達ができる
セールアンドリースバックの大きなメリットは、短期間で確実に資金調達ができる点です。
資産売却によってまとまった資金を得られるため、キャッシュフローの改善につながります。
融資と違い、調達した資金の使途に制限がない点もメリットです。
売却した資産の使用を継続できる
セールアンドリースバックでは対象の資産について賃貸借契約を結ぶため、売却した資産の使用を継続できます。
資金調達をしつつも資産を使用する権利が失われない点が大きなメリットです。
ただし、所有権は賃貸借契約における貸し手側に移るため、売却前に比べて自由度は下がります。
資産にかかるランニングコストを削減できる
セールアンドリースバックによる資産の売却後、固定資産税や修繕費、その他物件に係るコストを負担するのは買い手側(貸し手側)に移ります。
そのため、ランニングコストの負担なく資産の使用が可能です。
ランニングコストを削減できるのはもちろん、管理事務の手間を抑えられる点もメリットです。
セールアンドリースバックの注意点
セールアンドリースバックの注意点を3つ紹介します。
リース取引の種類によって必要な会計処理が変わる
「セールアンドリースバックの会計処理」で紹介したように、リース取引の種類によって必要な会計処理が変わります。
誤った会計処理をしてしまうと税額がズレる原因となり、税務調査で指摘を受ける恐れがあるため注意しましょう。
セールアンドリースバックの会計処理について疑問や不安がある場合、専門家である税理士に相談するのが安心です。
売却価格が割安になりやすい
通常の方法で資産売却をする場合に比べ、セールアンドリースバックは売却価格が割安になりやすいです。
資金調達のみが目的で資産を使用し続ける必要がない場合、セールアンドリースバックを用いるメリットは少ないといえます。
改修や建て替えの自由度が下がる
セールアンドリースバックによる売却後は所有権が買い手(賃貸借契約の貸し手)に移るため、自由な改修や建て替えができなくなります。
資産を使い続けることができるとはいえ、あくまで借りている状態であり、売却前に比べて自由度が下がってしまう点に注意が必要です。
まとめ
セールアンドリースバックでは、資産の売却後も賃貸借契約によって対象の資産を使い続けることができます。
資金調達・資産の効率的な活用・資産にかかる手間やリスクの抑制等、様々な目的で用いられる方法です。
セールアンドリースバックの大きなメリットとして、短期間で確実に資金調達ができる点が挙げられます。
ほかにも売却後も資産を使用できる、資産にかかるコストや手間は削減できる等、セールアンドリースバックならではのメリットが複数あります。
一方で売却価格が割安になりやすい、資産に対する自由度が下がる等の点に注意が必要です。
セールアンドリースバックのメリット・デメリットの両方を把握した上で、実施するか否かを検討しましょう。
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記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士