
飲食店は一般的に利益率が低い傾向にあるため、節税は非常に重要です。
飲食店だからこそできる節税テクニックも存在します。
今回は飲食店におすすめの節税対策や、飲食店で節税を行う際の注意点を紹介します。
個人事業主の節税対策・中小企業の節税対策について以下の記事でも紹介していますので、ぜひご覧ください。
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CONTENTS
飲食店経営にかかる税金とは

適切な節税対策を行うためには、そもそもどのような税金が発生するのか正しい理解が欠かせません。
はじめに、飲食店の経営に際して発生する税金の種類を紹介します。
個人事業主の場合
個人事業主として飲食店を経営する場合に発生する税金として、主に以下の4種類が挙げられます。
- 所得税
- 事業による利益(所得)にかかる税金です。
- 住民税
- 市区町村に納付する税金です。
- 個人事業税
- 290万円以上の事業所得にかかる税金です。
- 業種ごとに税率が定められており、飲食業の場合は所得の5%となります。
- 消費税
- 原則として、売上に係る消費税から支払った消費税(仕入れにかかった消費税)を差し引いた額を納付します。
- 印紙税
- 領収書の額が5万円以上の場合に発生する税金です。
- 領収書に必要額分の収入印紙を貼り付けることで納付となります。
- 固定資産税
- 土地・家屋・固定資産にかかる税金です。
このうち、税額のインパクトが特に大きいのは所得税と消費税です。
この2つの節税対策が非常に重要となります。
法人の場合
法人として飲食店を経営する場合、個人事業主とは異なる税金が発生します。
法人ならではの税金として以下の4つが挙げられます。
- 法人税
- 法人の所得にかかる税金です。
- 地方法人税
- 法人税の10.3%が課せられます。
- 法人住民税
- 法人税額や資本金額・従業員数といった規模の2つを基に税額が決まります。
- 法人事業税
- 事業所得に対して課せられる地方税です。
- 税率は都道府県によって異なります。
また、個人事業主と同様に以下の税金も発生します。
- ・消費税
- ・印紙税
- ・固定資産税
軽減税率制度を正しく理解する
2019年10月から導入された軽減税率制度は、飲食店経営において非常に重要です。
具体的には、顧客が店内で飲食する「外食」の場合は標準税率の10%が適用されますが、弁当の持ち帰り(テイクアウト)や宅配(デリバリー)のように飲食料品を提供する場合は軽減税率の8%が適用されます。
この区別を明確にし、レジシステムや会計処理を正しく設定しなければなりません。例えば、テイクアウトと店内飲食の両方を行っている場合、売上を税率ごとに正確に区分して経理処理する必要があります。これを怠ると、税務調査で指摘されたり、追徴課税が発生したりするリスクがあるため、注意が必要です。
飲食店におすすめの節税テクニック8選

個人事業主と法人で発生する税金が異なるため、効果的な節税対策にも若干の違いがあります。
今回は個人事業主が経営する飲食店におすすめの節税テクニックを8つ取り上げました。
それぞれ節税になる理由や具体的なやり方を詳しく解説します。
青色申告にする
確定申告には白色申告と青色申告の2種類がありますが、節税のために必ず青色申告にしましょう。
青色申告の大きなメリットとして、以下の3つが挙げられます。
- ・青色申告特別控除を受けられる
青色申告では最大65万円の所得控除を受けられます。 - ・赤字を繰り越せる
青色申告では事業で生じた赤字について、最大3年間の繰り越しが可能です。 - ・家族や親族に支払った給与を経費にできる
青色申告の場合、事業を手伝う家族や親族に支払った給与全額の経費計上が可能です。
白色申告は経費ではなく所得控除の扱いになる上、上限額が設定されています。
なお、青色申告を利用するためには所得税の青色申告承認申請書の提出が必要です。
青色申告は白色申告と比べて以下の違いがあります。
- ・複式簿記での記帳が必要
- ・仕訳帳、総勘定元帳などの保管が必要
- ・確定申告書に加え、青色申告決算書(損益計算書と貸借対照表)の提出が必要
このように青色申告の方が手間はかかるものの、得られる節税効果はそれ以上といえるでしょう。
青色申告については、以下の記事でも詳しく解説しています。
共済に加入する
個人事業主向け共済への加入も節税に効果的な方法です。
共済の掛金は所得控除の対象になるため、直接的な節税につながります。
また将来への備えという意味でも共済に加入するメリットは大きいといえるでしょう。
個人事業主におすすめの共済制度を3つ紹介します。
・小規模企業共済
個人事業主の退職金のような制度です。掛金は月々1,000円から70,000円までの範囲で自由に設定できます。
・経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)
取引先の倒産による経営難に備える制度です。掛金は月々5,000円から20万円の範囲となります。
・中小企業退職金共済
独自の退職金制度の運営が困難な中小企業を支援するための制度です。掛金は月々5,000円から3万円の範囲です。
共済については、以下の記事でも詳しく解説しています。
所得を分散する
所得税は高所得者ほど税率が上がり、負担が重くなります。これを軽減する効果的な方法が所得の分散です。
主な所得分散の手法は次の2つです。
- ・家族従業員への給与支払い
- ・関連会社の設立
家族への給与支払いは「青色申告にする」でも解説しました。
適切な所得分散によって合法的に税負担を軽減できる手法ですが、給与は適正額かつ実労働の対価であることが重要です。
不適切な分散は税務調査の対象となる可能性があるため注意しましょう。
家族への給与支払いについては、下記の記事でも詳しく解説しています。
経費に出来るものを漏れなく計上する
所得が少なければそれに応じて課税額も減少するため、経費は漏れなく計上することが重要です。
特に飲食店の場合、ほかの事業よりも広い範囲で外食費を経費として計上できます。
通常、経費として計上できる外食費は、取引先や関係者の接待・親睦を目的とした外食のみ(接待交際費)のみです。
一人の場合や事業に関係ない人との食事は対象外となります。
カフェで作業をした場合はカフェ代を経費として計上できますが、飲み物代のみで食事代は経費になりません。
一方で飲食店の場合、接待交際費だけでなく、研究開発費という名目でも外食費を経費にできます。
飲食店を運営している場合、新メニューの開発やライバル店の研究などを目的に外食をするのは珍しくありません。
研究開発目的であれば、一人の場合や仕事に関係ない人と一緒の外食も経費計上が可能です。
人と一緒に外食をした場合、経費にできるのは原則として自身の飲食分のみとなります。
ただし一人で食べきれないため協力してもらった・注文できるのが2人分以上であったなど明確な理由があれば、他者の分も経費にできる可能性があります。
事業における必要性および関連性を説明できる支出であれば、経費計上が可能です。
このように、一見すると飲食店経営と直接関係がないように思える出費でも経費として認められるケースがあります。判断に迷う場合は、税理士に相談することをお勧めします。
飲食店で経費にできる費用の具体例
飲食店経営では、多岐にわたる費用を経費として計上できます。最も大きな割合を占めるのが、食材や飲料の仕入れ費用である「売上原価」です。その他、従業員に支払う給料や賞与などの「人件費」、店舗の「家賃」、厨房で使うガスや電気、水道などの「水道光熱費」も主要な経費です。
さらに、メニューブックやチラシの印刷代、グルメサイトへの掲載料といった「広告宣宣伝費」、割り箸やおしぼりなどの「消耗品費」、事業関係者との打ち合わせや接待にかかる「接待交際費」も経費に含まれます。これらの費用を証明する領収書やレシートは必ず保管し、一つひとつ正確に記帳することが節税の第一歩となります。
所得額によっては法人化も検討する
所得額が大きい場合は、法人化した方が節税できる可能性があります。
所得税は所得額が大きくなるにつれて税率が高くなる累進課税制度を採用しています。
一方で法人税は利益に関係なく税率が一定です。
そのため所得額が大きい場合、法人の方が支払う税額が低くなります。
個人事業主と法人、どちらの方が税額を抑えられるかはケースによりますが、所得が600万円を超えたタイミングで一度法人化を検討するのがおすすめです。
また、法人化によって以下のようなメリットもあります。
- ・事業主本人の給与を役員報酬として経費計上できる
- ・退職金を損金として算入できる
ただし損金算入のためには、いずれも一定の要件を満たす必要があります。
簡易課税制度を活用する
所得にかかる税金だけでなく、消費税の節税も大切です。
ケースによりますが、簡易課税制度を活用することで消費税を抑えられる可能性があります。
簡易課税制度とは、預かり消費税額(売上にかかる消費税額)にみなし仕入率を乗じた金額を仕入税額にできる制度です。
簡易課税制度は消費税の計算が容易になるだけでなく、消費税を低く抑えられる可能性が高いというメリットもあります。
たとえば売上にかかる消費税額が合計100万円、仕入・経費にかかる消費税額が40万円の場合、通常であれば納付額は以下のようになります。
100万円-40万円=60万円
仕入および経費の額が小さいほど、納付する消費税の額は大きくなるのです。
一方で簡易課税制度の場合、実際の仕入・経費にかかった消費税ではなく、預かり消費税額にみなし仕入率を乗じた額が仕入税額となります。
みなし仕入率は事業区分ごとに定められており、飲食店の場合は60%です。
本則課税と同様の数字を用いて、簡易課税の場合に発生する消費税額を計算すると以下のようになります。
100万円-(100万円×60%)=40万円
今回の場合、本則課税よりも簡易課税の方が納付税額を抑えられます。
すなわち仕入・経費の額によっては、簡易課税を利用した方が節税につながるケースがあるのです。
簡易課税の注意点として以下の3つが挙げられます。
- ・簡易課税を選択できるのは、基準期間(個人事業者は前々年・法人は前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下の場合のみ
- ・簡易課税制度の適用を受けるためには、適用を受けようとする課税期間がはじまる前日までに消費税簡易課税制度選択届出書の提出が必要
- ・仕入および経費の額によっては、簡易課税よりも本則課税の方が有利になるケースがある。事前のシミュレーションが必須
事業に投資する
節税の基本は所得を抑えることにあります。
所得とは、売上から経費を引いた金額を指します。適切な経費計上は、費用を増やして所得を減らせるだけでなく、将来の売上や成長を促進させる効果があります。
運転資金に余裕がある場合、所得確定前に以下のような投資を行い経費を計上する方法が効果的です。
・広告宣伝
・備品購入や設備投資
・メニュー開発や新店舗などの新事業展開
税金は多く支払っても直接的なリターンはありませんが、事業への投資は節税効果だけでなく将来的な売上規模の拡大というリターンも期待できます。
賃上げ促進税制を活用する
人手不足が深刻化する飲食業界において、「賃上げ促進税制」の活用は節税と人材確保の両面で有効な手段です。
この制度は、前年度より従業員の給与総額を一定割合以上引き上げた場合に、その増加額の一部を法人税(個人事業主の場合は所得税)から控除できるというものです。給与の引き上げは人件費という経費(損金)を増やすため、それ自体が課税所得を圧縮する節税策となります。
それに加えて税額控除まで受けられるため、税負担を大きく軽減できる可能性があります。従業員のモチベーション向上や離職率の低下にも繋がり、結果として店舗のサービス品質向上や安定的な経営に貢献するでしょう。
個人事業主と法人、節税しやすいのはどっち?

飲食店経営において、個人事業主と法人のどちらを選択するかは重要な決断です。この選択を左右する要因はいくつか存在します。
まず、年間の所得額が重要な指標となります。個人の所得税と法人税率を比較すると、所得が330万円までは個人の所得税率が有利で、それを超えると法人の税率が優位になります。
法人の場合、所得が低くても最低15%の税率が適用され、法人住民税の均等割も発生します。事業拡大の予定がない状態で法人化すると、税負担が重くなる可能性があります。加えて、法人では会計処理や税務がより複雑になり、手間がかかることもデメリットとして挙げられます。
一方、事業拡大を見込む場合は法人形態が有利になります。法人税は利益の増加に関わらず税率が一定ですが、個人の所得税は5~45%の間で変動するため、個人事業主のまま高所得になると法人税よりも納税額が大きくなる傾向があります。
このような状況を踏まえ、所得が少ない初期段階は個人事業主として始め、事業規模が拡大した時点で法人化を検討するという段階的なアプローチがよく採用されています。これを一般的に「法人成り」と呼びます。
法人成りは、事業の成長に合わせて最適な税務戦略を取ることができる柔軟な方法といえます。
飲食店で節税を行う際の2つの注意点

飲食店で効果的な節税を行うために押さえておきたい注意点を2つ紹介します。
過度な節税行為はかえってデメリットとなる恐れがある
節税のためにはなるべく多くの経費を計上することが大切ですが、過度な節税行為はかえってデメリットとなる恐れがあります。
飲食店の場合、外食費を接待交際費や研究開発費として経費計上できます。
ほかの事業に比べると、外食費が経費として認められやすいといえるでしょう。
新商品の開発や試作に要した食材費など、店舗で提供する料理の食材以外も経費計上が可能です。
このように、飲食店は事業の性質上、食に関する幅広い支出を経費として計上できます。
しかし、経費にできるのはあくまでも事業と関連性があり、事業に必要な支出のみです。
運営する飲食店とジャンルがまったく違う店での外食であったり、費用の割合が大きすぎる場合は、経費性が認められない恐れがあります。
食材についても経費にできる範囲が広いとはいえ、プライベートとの線引きは必要不可欠です。
経費性が認められなければ、その分税額が増えるだけでなく、延滞税や加算税も発生します。
また、経費を多く計上しようとした結果赤字となるケースも有り得ます。
赤字であれば法人税が発生しないため、税負担がなく一見メリットが大きく感じるかもしれません。
しかし、赤字が続いたり赤字の額が大きい場合、金融機関からの印象が悪くなり、融資審査で不利になる恐れがあります。
その他にも、休業補償の保険金受取額が減少するといったデメリットもあります。
保険金は平均月間所得金額を基準に算定されるため、節税目的で所得を抑えていると受け取れる保険金額に影響を及ぼすためです。
節税は確かに大切ですが、過度な節税によるデメリットを避けるため、バランスをとることが大切です。
青色申告は大きな労力がかかる
最初に紹介したように、節税のためには青色申告が必須です。
しかし、青色申告は手続きに手間がかかるため、事業をしながら正しい処理を行うのは容易ではありません。
処理に手続きや漏れがあると追徴課税の対象となり、かえって税負担が重くなってしまう可能性があります。節税対策のつもりが、かえって逆効果になってしまうのです。
負担を最小限にしつつも確実に節税を行うため、税理士など専門家のサポートを受けるのがおすすめです。
飲食店の節税についてよくある質問

ここでは、飲食店の経営者が節税対策を進める上で抱きがちな疑問について、Q&A形式で解説します。多くの方が気になるポイントをまとめましたので、ぜひ参考にしてください。
節税対策はいつから始めるべきですか?
節税対策は、飲食店の開業準備段階から始めるのが最も効果的です。例えば、個人事業主として開業する際に「青色申告承認申請書」を提出するだけで、最大65万円の特別控除を受けられるなど、大きなメリットがあります。
また、売上高が1,000万円を超えると消費税の納税義務が発生するため、そのタイミングを見越して法人化を検討するなど、長期的な視点での計画が重要です。節税は後から慌てて行うものではなく、日々の経理業務や事業計画の中に組み込んでいくべきものです。
専門家である税理士に早期から相談し、自身の状況に合った最適な対策を講じることが、健全なキャッシュフローを維持する鍵となります。
赤字でもやるべき節税対策はありますか?
はい、赤字の場合でも重要な節税対策があります。特に「青色申告」を選択している場合、その年の赤字(純損失)を翌年以降3年間にわたって繰り越し、将来発生する黒字と相殺することができます(欠損金の繰越控除)。これにより、利益が出た年の税負担を大幅に軽減することが可能です。
例えば、開業1年目が100万円の赤字で、2年目に300万円の黒字が出た場合、2年目の課税所得を200万円に圧縮できます。この制度を活用するためにも、たとえ赤字であっても、日々の取引を正確に記帳し、期限内に確定申告を行うことが非常に重要になります。
税理士に相談するメリットは何ですか?
税理士に相談する最大のメリットは、専門的な知識に基づいて、自身の経営状況に最も適した節税対策を提案してもらえることです。節税には多くの方法がありますが、どの対策が最も効果的かは、売上規模、利益額、個人か法人かといった状況によって大きく異なります。
税理士は、会計帳簿の作成代行やチェックだけでなく、最新の税制改正にも詳しいため、賃上げ促進税制のような新しい制度の活用もサポートしてくれます。また、税務調査が入った際の対応を任せられるという安心感も大きな利点です。
費用はかかりますが、専門家のアドバイスによってそれ以上の節税効果や、経営に集中できるという時間的価値を得られるでしょう。
まとめ
節税対策を十分に行うためには、事業に合った節税テクニックを知ることも大切です。
今回紹介したテクニックのうち、外食費を研究開発費とする方法は飲食店ならではの方法ですので、是非活用しましょう。
なお、専門知識のない人が節税対策を効果的かつ正確に行うのは簡単なことではありません。
節税のために行った施策のつもりが、かえって逆効果になってしまう恐れもあります。
負担を最小限にしつつも確実に節税を行うためには、ぜひ税理士など専門家にご相談ください。
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記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士













