消費税は事業活動に際して発生する税金の中でも、金額のインパクトが大きいものの1つです。
事業活動における負担を最小限に抑えるためには、消費税の節税も重要となります。
しかし、消費税は仕組みがやや複雑なため、テクニックだけを知っていても効果的な節税ができるとは限りません。
納付義務の発生有無や納付額の計算方法といった基本事項の正しい理解も必要です。
今回は消費税の基本事項を解説した上で、個人事業主におすすめの消費税節税テクニックを紹介します。
所得税の節税テクニックは以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひこちらもご覧ください。
CONTENTS
節税の前に|個人事業主が知っておくべき消費税の基本事項
節税テクニックを紹介する間に、まずは個人事業主が知っておくべき消費税の基本事項を解説します。
消費税の納付義務が生じる条件
すべての事業者に消費税の納付義務があるわけではありません。
消費税の納付義務は、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合に発生します。
消費税の課税期間とは、前々事業年度のことです。
個人事業主の場合は2年前の課税売上高が1,000万円を超えるか否かで消費税の納付義務の発生有無を判断します。
つまり、消費税の課税対象となる売上が1,000万円を超えると、その2年後に消費税の課税事業者になる仕組みです。
課税売上高が1,000万円以下であれば消費税の納付義務は発生せず、免税事業者となります。
なお、特定期間の課税売上高が1,000万円超の場合も消費税の納付義務が発生します。
特定期間とは前事業年度の開始の日から6ヶ月間です。個人事業主の特定期間は前年の1月1日~6月30日となります。
前年の1~6月までの課税売上高が1,000万円超だった場合は、翌年から課税事業者になるということです。
ただし、特定期間における1,000万円超の判定は、課税売上高ではなく給与支払額を用いることも可能です。
つまり、特定期間の課税売上高が1,000万円超でも給与支払額が1,000万円以下であれば消費税の免税要件を満たすため、翌年は免税事業者のままでいられます。
なお、基準期間における1,000万円超の判断は必ず課税売上高で行います。給与支払額を用いることはできません。
先ほど例に出した、特定期間の課税売上高が1,000万円超で給与支払額が1,000万円以下の場合、翌年は免税事業者のままです。
一方で、基準期間の要件は満たしているため、2年後には消費税の課税事業者になります。
消費税納付額の計算方法
納付税額の計算方法には、原則課税と簡易課税の2種類があります。
原則課税とは、売上げに係る消費税額から仕入れにかかる消費税を引いた額を納付税額とする方法です。
名前の通り原則的な計算方法であり、特に手続きをしなければ消費税の計算方法として自動的に原則課税が適用されます。
簡易課税は、売上げに係る消費税額にみなし仕入率を乗じた額を、仕入れに係る消費税額とみなして納付税額を計算する方法です。
みなし仕入率は事業区分に応じて設定されています。
簡易課税の場合、仕入れに係る消費税額が実際にいくらであったかは納付税額を計算する上で関係ありません。
簡易課税は以下2つの要件を満たした場合に利用できます。
- ・基準期間における課税売上高が5,000万円以下
- ・期日までに消費税簡易課税制度選択届出書を提出する
個人事業主の消費税節税テクニック
消費税の納付額は、売上に係る消費税から仕入に係る消費税を引いた額となります。
そのため、消費税の納付額を抑えるためには、仕入れに係る消費税額をなるべく増やすのが効果的です。
原則課税と簡易課税のうち有利な方を選ぶ
基準期間における課税売上高が5,000万円以下の場合、期日までに消費税簡易課税制度選択届出書を提出すれば簡易課税制度の適用を受けられます。
簡易課税の方が消費税額を抑えられる場合、簡易課税制度の適用を受けるべきです。
原則課税の場合、仕入れに係る消費税額が大きいほど売上に係る消費税額から控除する額が大きくなるため、納付税額が安くなります。
すなわち、仕入・経費が小さい場合は納付税額が高額になると言い換えられます。
簡易課税の場合、仕入れに係る消費税額が実際にいくらであったかは計算に関係ありません。
そのため仕入・経費が小さい場合は簡易課税の方が納付税額を抑えられる可能性が高くなります。
事業内容や売上・仕入等の額が同じでも、消費税の計算方法をどちらにするかによって消費税の納付額が変わるケースがほとんどです。
具体例を用いて解説します。
- ・業種:飲食店に該当しないサービス業
- ・売上に係る消費税額:50万円
- ・仕入にかかる消費税額:20万円
まずは原則課税の場合です。
原則課税では単純に売上に係る消費税額から仕入れに係る消費税額を控除した額が納付税額となります。
今回の例において原則課税を適用した場合、納付税額は以下の通りです。
- 50万円-20万円=30万円
続いて、簡易課税で計算する場合の例を紹介します。
前章で紹介したように、簡易課税では売上げに係る消費税額にみなし仕入率を乗じた額を仕入れに係る消費税額とみなして計算します。
飲食店に該当しないサービス業は第5種事業に該当し、みなし仕入率は50%です。
したがって、納付税額は以下のようになります。
- 50万円-(50万円×50%)=25万円
原則課税と簡易課税を比べると、簡易課税で計算した場合の方が納付税額が安くなりました。
したがって今回の場合、簡易課税を選ぶ方が有利となります。
今回の例では簡易課税の方が納付額を抑えられて有利でしたが、すべてのケースで簡易課税の方になるわけではありません。
消費税の負担を抑えるためには、事前にシミュレーションをした上で有利な計算方法を選ぶ必要があります。
収入印紙を金券ショップで購入する
原則課税の場合に実施できる方法です。
消費税はすべての取引に課せられるわけではなく、税の性質になじまないものは非課税取引となります。
非課税取引には複数の種類があり、そのうちの1つに「日本郵便株式会社などが行う郵便切手類の譲渡、印紙の売渡し場所における印紙の譲渡及び地方公共団体などが行う証紙の譲渡」があります。
すなわち郵便局で収入印紙を購入した場合は非課税取引となるため、仕入に係る消費税が発生しません。
一方、収入印紙を金券ショップで購入した場合は課税取引となり、消費税が発生します。
仕入れに係る消費税額が増える=売上に係る消費税額から引ける額が増えるため、消費税の節税につながります。
節税効果としては低いものの、消費税の代表的な節税テクニックの1つです。
設備投資や高額の支出を伴う取引をして消費税の還付を受ける
前項で紹介したテクニックと同様に、原則課税の場合に実施できる方法です。
売上に係る消費税額から仕入に係る消費税額を引いた額がマイナスの場合、消費税の還付を受けられます。
設備投資は高額であり、設備投資をした年は仕入に係る消費税額が売上に係る消費税額を上回る可能性が高いです。
還付とまではいかなくても、納付税額を大幅に抑える効果が期待できます。
簡易課税を選択している事業者でも、設備投資のように高額の支出が発生するとわかっているなら、そのタイミングで原則課税に切り替えるのも1つの手段です。
ただし、一度簡易課税を選択すると2年間は原則課税への切り替えができません。
そのため、簡易課税を選択した時期によっては原則課税への切り替えができず、このテクニックによる節税が不可能となります。
なお、簡易課税から原則課税に切り替えるには、対象の課税期間の前日までに、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」の提出が必要です。
法人成りをする
法人成りにも消費税の節税効果があります。
消費税の免税要件は、個人事業主・法人ともに同じです。
会社設立1期目は基準期間が存在しないため、必ず免税事業者となります。
設立2期目も、特定期間の課税売上高または給与支払額が1,000万円以下であれば納付義務が発生しません。
つまり、個人事業主として消費税の課税事業者になる前に法人成りをすれば、消費税の免税期間を延長できるのです。
ただし資本金の額が1,000万円以上の場合、設立1期目であっても消費税の課税事業者になります。
消費税の免税を受けるには設立時の資本金を1,000万円未満に抑える必要がある点にご注意ください。
まとめ
消費税の納付義務は、基準期間における課税売上高が1,000万円を超えた場合に発生します。
個人事業主の場合、課税売上高が1,000万円を超えた年の2年後から消費税の課税事業者になるイメージです。
消費税はインパクトが大きい上に仕組みが複雑なため、基本事項を理解した上で節税対策を行う必要があります。
今回、個人事業主が実施できる消費税の節税テクニックを4つ紹介しました。
それぞれやり方や適用できるケースが異なるため、自分にとって効果的なテクニックを選ぶ必要があります。
とはいえ、節税対策には専門知識が求められる場面も多いため、事業者自身だけで行うのは容易ではありません。
消費税の節税対策について疑問や不安があれば、ぜひ専門家である税理士にご相談ください。
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記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士